次の日。
唯は自室でヴェルデに昨日の出来事を報告していた。
「なるほど、もうそんな時期だったか…」
「…何か心当たりが?」
ヴェルデの呟きに唯が返すと、思案顔のままヴェルデは答える。
「ボンゴレの次期ボスへの継承方法は教えたな?」
「はい、然るべき式典を開き、その際に半分に割れているリングをそれぞれ現ボンゴレボスと門外顧問が次期ボスへ併せて贈るのですよね」
「そうだ、しかし今、次期ボス候補が二人いることも教えたな?」
「…ボンゴレ九代目に正式に認められている沢田綱吉、そしてボンゴレ九代目のご子息ザンザス様…ですよね?」
ヴェルデは頷きながらも今後の計画を脳内で立て始める。
(…予想は簡単にできたが随分と早いな…ご子息殿は我慢を知らないらしい)
さて、どうするかとその良い頭で考えながら唯との会話も続ける。
「では問題だ、次期ボス候補が二人も存在する場合継承式はどうなる?」
「…必ずボスは一人なので、その…リングを巡って争いが起こる?」
「正解だ、そしてお前なら相手を蹴落とすとして、どのタイミングで相手を襲う?」
「えっと…相手が幼いならば幼いうちに襲うのが得策…まさか」
「そのまさかだ」
ヴェルデはパソコンに何かを打ち込みながら続ける。
「見たまえ」
手元のパソコンを唯の方に向けるヴェルデ、唯はパソコンを覗き込むと、画面にはボンゴレリングの入った箱を片手に憤怒の色を宿らせた目を持つ男が写っていた。
「…彼は」
「ザンザスだ」
「彼が…綱吉の…」
唯は画面を冷めた目で見つめていたが、ヴェルデはそんな唯を興味深そうに見る。
(やはり沢田綱吉のことになると目の色を変えるな…お互いの置かれていた環境がそうさせたのだがこれは面白い、沢田の方も同じ現象が起こることは検証済み、これをうまく利用すれば、子守脱却の道は近いな)
頭の中でそう結論づけたヴェルデは今も画面を見つめる唯に言う。
「リング争奪戦、恐らく九代目直属の部隊と偽ってザンザスの息がかかった者が審判を務めるだろうな」
「リング争奪戦?」
「文字通りだ、それぐらい予想しろ」
「すみません」
画面から視線は外さず言葉では謝罪する唯にヴェルデは少し眉を動かしたが気にせず今後のことを話す。
「リング争奪戦の際に乗じて次の門外顧問を決める戦いもするだろう」
「え…」
唯はそこでようやく画面から視線を外してヴェルデの方に顔を向ける。
その顔には驚きの色がありありと存在しヴェルデは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべながら説明を続ける。
「当然だろう?例えばザンザスが十代目になったとしても組織で実質No.2の門外顧問である沢田家光がいるままなら真の意味で動くことはできない、息の掛かった者を門外顧問にしようとするのは自然な動きだ」
「けれど、ボンゴレに所属しているザンザスが普段はボンゴレに所属しない門外顧問を勝手に決めることは難しいはずです!」
唯が思わず声を上げると、ヴェルデは嘲笑する。
「リング争奪戦はボンゴレの今後を左右する重要案件だ、当然門外顧問はその瞬間だけはボンゴレでの権利を発動する、それはすなわちボンゴレに所属しているも同義…なんて子供じみたこじ付けをして門外顧問の座を巡っても争いを行うだろうさ」
まったく子供の駄々に付き合わされるこちらに身にもなってほしいものだね、そう言ってやれやれと首をゆるく振ったヴェルデに唯は声を発せないでいた。
まさしくヴェルデの言ったとおり子供の駄々のような理由で自分の今後を左右されてしまうのかと思うと、まさしく絶句するしかなかった。
「…ザンザスは馬鹿なんですか?」
「ただの悪ガキのまま育った悪ガキ大将だね」
ヴェルデの言葉に唯は大きく頷いて同意した、これはただの悪ガキだ。
もっと正当で誠実な理由であるなら唯とてここまでザンザスを冷めた目で見ることはなかった。
もちろんマフィアの世界において誠実な理由こそ少数派であるのは十分承知の上なのだがそれでもこんな子供じみた理由は納得できるわけがなかった。
「門外顧問の部下達がまず納得しないでしょう」
「幹部全員を殺して新たに自分好みの者を据えれば上からいくらでも声は押さえつけられる」
「それで収まるほどの数ではないはずです、そもそも権力が分散する目的で門外顧問が生まれたのに、これでは本末転倒もいいところです」
「…君の疑問や不満をここで全て解決してもいいがね、ザンザスは私が今言った理由で自分の息のかかった優秀な部下を君に対して勝負を申し込ませるだろうね」
唯は言葉を飲み込んだ。
ヴェルデの言っていることは流石に理解できる、単刀直入が好きなくせにこういう遠回しじみた言い回しも好むこの男と一年は一緒にいて勉強してきたのだから。
唯がここで不満や疑問などをヴェルデにぶつけ続けても唯の戦闘力が上がることはない、ただ時間だけが過ぎ、唯の心が満足するだけだ。
それでは意味がない。
「…ザンザスに偽のリングが渡って日本に来るのは早くて何日ですか」
「10日だな」
今こうして話している間も昨日唯や綱吉達を襲ったあの鮫のような男はイタリアに居る自分の主人の元へ急いでいるだろう、本物と思いこんでいる偽リングを届けるために。
時間はない、確実にザンザスは10日後に日本に来るだろう。
唯は昨日のことを思い出す。
鮫のような男が襲ってきた際、綱吉と一緒に戦ってあげることも、盾になることもできず、ただ、京子とハルを安全な場所に避難させることしかできなかったことを。
何も、できなかったことを。
唯は下唇を噛み、両手を思い切り握った。
悔しかった、ただ、ただ、悔しかった。
薬はあった、飲めばいいだけだった、そうすれば綱吉たちと戦うことができた。
けれど、できなかった、怖くなったのだ。
せっかく自分と友だちになってくれたハルや京子に自分のあの状態を見せることが、記憶のない時のことを、自分の知らないところでもしかしたら大事な人達を傷つける可能性があったことが。
怖くなって、薬に伸ばした手を引っ込めた。
情けない。
「…先生」
「なんだ?」
情けない、情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない。
情けないったら!!
「どんな実験でも耐えてみせます!だから、私を強くしてください!!」
バッと顔を上げてヴェルデに叫んだ唯の目はどこまでも真っ直ぐだった。
ヴェルデはそんな唯を静かに見つめ、一つため息を付いた。
そんな反応が来るとは思っていなかった唯は驚いて先程までの勢いを弱める。
「君は馬鹿かね?」
ヴェルデはどこまでも科学者らしい見下すような笑みを浮かべて言った。
「君が強くなれるかは君が決めるんじゃない」
「え」
唯の口から声が溢れる、ヴェルデはどこまでも唯を見下し指差して告げた。
「私が決める」
ヴェルデは唯に向けていたパソコンを自分に向き直して何かを打ち込み始める。
もう唯の方に顔なんて向けていなくて、意識も向けていないようだ。
ポカンとした顔でヴェルデを見ていた唯は、言葉の意味はゆっくりと理解して。
「はい!!」
泣きそうな笑顔で大きく返事したのだった。
「あ、そ、それじゃあ、コーヒー淹れてきます!」
「ああ」
パタパタと唯は部屋から出てキッチンに向かいながら上がってしまう口角を自覚していながら治すことができなかった。
ああ、やっぱり。
(先生は最高だなぁ!)
自室に二つのコーヒーを持って戻る頃にはこのだらしのない顔を直しておこうと決意しながら、唯はそう思ったのだった。
ようやくリング争奪戦の話が本格的になってきました。
一話一話の文字数が多くなってしまい読みにくくなってしまうかもしれません。
そこは、申し訳ないです。
また、これからどんどん主人公の問題の解決などの話になってくるので多少シリアスが重めになっているかもしれません。
やたらと暗くてシリアス強めの話が苦手な方はご注意ください。
また、誤字脱字などがありましたらご報告していただけると助かります。
これからも、よろしくお願いします。
ケロ