次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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山本武という男

「拙者の名前はバジルといいます、沢村殿は沢田殿とはどういったご関係で?」

「さっきも説明されたけど、同級生…同じ学校で同じクラスに通っている友達、かな」

「なるほど、学友でありましたか!」

 

ふわりと草の香りを運ぶちょうどよい温度の風がバジルの前髪を揺らす。

レモンのはちみつ漬けをかじりながら唯は先程のバジルの反応を思い出した。

あれは新しいものを見た、というよりも、ずっともっと、闇が深そうな…。

 

「あ」

「ん?どうされましたか?」

 

バジルが唯の方を見るが気づいた唯はポカンとこぼす。

 

「…毒の心配してたのか…」

「え?なんと言ったでござるか?よく聞こえませんでしたが」

 

バジルが自身の耳を唯の方に近づけようとしたが、それに気づいた唯が思わず両手で顔を隠したのでできなかった。

何気ないことであるが、彼がどんな世界で生きていたのかを知っていたためにその配慮に欠けていたことに気づいて恥ずかしくなったのだ。

ほんのり耳も赤くなっていることにバジルは気づいたが、唯が何をそんなに恥ずかしがっているのかわからず首をかしげる。

リボーンだけが唯の声も聞こえていて全て理解しているので一人口元を片手で抑えて笑いをこらえていた。

ちなみに綱吉は全て理解していないのでバジルと同じように首を傾げている。

一向に自分の方を見ない唯を見て、気にしないことにしたらしいバジルは呑気な空を見上げながら口を開く。

 

「それにしても、沢村殿のような方が沢田殿のご友人でよかったでござる」

 

突然褒められた唯は思わずゆっくりと両手を顔から外す。

 

「沢田殿は少々緊張感のある者と一緒にいるイメージがあったのでこのような気の抜けるような…リラックスできるご友人がいてよかったです」

 

唯はバジルの方に顔を向ける。

リボーンと綱吉もいきなり何事かとバジルの方に顔を向け、一斉に全員から視線を向けられたのにバジルは気づいていないのか動じていない。

 

「…緊張感、ないほうが多いイメージあるけど」

「山本殿のことを言っているでござるか?確かにまだ会って日は浅いが、しかし最初に拙者に対しても警戒していたのでやはり緊張感はありましたね」

「あー…」

 

唯は初めて会ったときの山本を思い出す。

綱吉経由で知り合ったが、こちらのほうが綱吉とは長い付き合いなのにどこか唯に対して警戒心を持って接しているように見えた。

あれかぁ、と思いつつ唯は確かにと頷いた。

 

「私に対してですら警戒していたみたいだし、相当綱吉のこと気にしていたんだろうなぁ」

「え!?山本が!?」

 

話を聞いていた綱吉が目を見開いて唯を見る。

なんとなくバジルに警戒する気持ちは理解できたが、唯の方が付き合いが長いことは前もって言ってから紹介したはずなのにそういうことをしていたのかと今度は眉を下げる。

綱吉の感情が見てわかったので唯は安心させるために慌てて笑う。

 

「今は普通に廊下ですれ違ったら笑って手を降ったり世間話したりするくらいには仲良くなったし、警戒もされてないみたいだから平気だよ!綱吉がどういう経由で山本君と仲良くなったかは知らないけど、きっと綱吉のこと心配していたんじゃない?ほら、当時はダメツナなんて言われていたわけだし」

 

納得したのか、綱吉がほっと息を吐く。

 

「なんだそういうことかぁ…でも、村さんには嫌な思いさせただろうし、ごめん」

「綱吉が謝ることはないよ、それに本人からももう謝罪済みだし」

「そうなの?」

 

そうだよ、と唯は当時の山本を思い出す。

 

 

***

 

 

一年前

 

 

唯は綱吉から紹介された同じクラスの山本のことで少し微妙な気持ちになっていた。

先日何やら屋上で綱吉と共に問題を起こしたらしい彼は、どうやら唯のことが気に入らないらしく綱吉と会話をしているとことあるごとに間に入ってくる。

しかもタチが悪いことに本人はどうやら自覚してやっているらしい。

山本を観察してわかったことは以上。

ただでさえ門外顧問の修行で毎日ヘトヘトなのに、学校で人間関係に悩まされてはたまらないというのが唯の意見。

しかし、相手にとってはそんなことは知る由もないことであるので容赦はない。

ある日のことだった。

それは、唯が綱吉の前で死ぬ気モードに入った日から何日かたった日。

綱吉の様子から、おそらく綱吉に見られたことを悟った唯はヴェルデにも言わなかったが落ち込んではいた。

当然といえば当然、学校で一番あの状態を見せたくなかった相手に見せた上、もしかしたら怪我をさせたかもしれないという不安が残っている。

お人好しが服を着たような人間である綱吉が唯のせいで怪我をしたとして、それを本人には絶対に言わないことは確実。

そして、唯に死ぬ気モードのことについて聞いてこないとくれば気を使われていることは誰の目から見ても明らかだった。

 

「…何やってんだ私は…」

 

仕方のなかった状況だったとは言え、いまだに綱吉に怪我の確認すらできていない自分に対して嫌悪感すら抱いていた唯は放課後、自宅にも帰らず屋上で膝を抱えていた。

今日はヴェルデから体を休めて免疫力を高める日だとかなんとか言われて、修行は休みだったためこれ幸いと思い切り一人で考える時間にしていたのだ。

 

「お?なんだ、沢村帰ってなかったのか」

 

ふと、屋上に最近悩みの種の主が入ってきた。

夕焼けに照らされ少しオレンジ色になっている肌が印象的だった気がする。

一瞬思考が止まったが唯はすぐに笑顔になった。

 

「山本君こそ、腕治ったはずじゃ…」

「部活は休み、大会はまだ遠いしな」

 

もうちょいあとだ!とにっこり告げられて、唯はなんだか居心地悪く感じる。

不自然に視線をそらした唯を山本はじっと見つめる。

肌寒く感じる春風が二人の肌を撫で、空はオレンジ色と藍色のグラデーションを映しだす。

決して長くはないはずなのに、永遠を感じていた唯に突然声が聞こえた。

 

「最近、ツナの様子がおかしいんだ、沢村は何か知らないか?」

 

世間話でもなく、核心を突くような質問。

唯はゆっくりと山本の方に顔を向けた。

まっすぐに唯を、唯の目を見つめる山本は先程から一回も視線を外していなかったことがわかって、なんて、と唯はため息を吐きたくなる。

 

 

なんて、静かな表情をするのか、この男は。

 

 

笑顔のはずだ、そのはずなのに、唯は何故か普段との差に戸惑う。

しかし、不思議とこれが彼なのだとすんなり受け入れている自分もいて、唯はそれにも戸惑った。

ヴェルデや綱吉、自分が今まで関わってきたどの人間もしたことのない表情。

悲しんでいるのだろうか。

不安なのだろうか。

 

(…当たり前だ…彼は、綱吉に救われた人間の一人だ、不安なはずだ)

 

浮かんできた疑問に唯は答えをぶつける。

本当のことは言えない、彼に対しても隠したいものがあるんだから。

なんと言ったらいいかわからず、自分の知りたい疑問が口から出てきた。

 

「…怪我を、していたの?」

 

山本は首を横に振る。

 

「…落ち込んでいた?」

 

また首を横に振る。

 

「…そう」

「…喧嘩したのか?」

 

そこに目に見えてわかる不安の色が表情や声にも見えて唯は思わず首を横に振った。

 

「…ツナは」

「うん」

「…少し、顔つきが、かっこよくなった気がするんだ」

「え?」

 

予想していなかった言葉に素っ頓狂な声が出てしまった。

山本は気にしていないのか、唯の声に頷くだけ。

唯は、山本の言葉を頭の中で繰り返し響かせる。

かっこよくなった?

あの綱吉が?

 

(…もしかして、私が、怪我をして尚目標を倒したから?)

 

唯は自身の手に巻かれている包帯を見る。

確かに綱吉は朝、唯に挨拶する前に唯の手を見て一瞬つらそうな顔をしていたことは知っていた。

しかし、まさか、それが原因だなんて。

 

(優しすぎるにも程がある!あれは私の自業自得で負った傷なんだ、だから綱吉が気に病む必要は…!)

 

そこまで考えて、気に病むようなやつだったと思い出す。

自分のせいでも他人のせいでもなく、人が傷つけば暗い表情をするのが唯の知っている綱吉だ。

 

(…強くなろうと、しているっていうの?私がきっかけ?嘘でしょ、そんなの…)

 

ヴェルデのために強くなろうとしているどうしようもない唯と綱吉が重なる。

 

「前よりも勉強頑張っているみたいだし、体力もついてきた、何より頼もしく思えるようになった!なんだかよくわかんねぇけど、お前が原因なんだろ?」

 

山本の声にごちゃごちゃと考えていた唯の思考が現実に戻る。

相手の顔をちゃんと見れば、今度は嬉しそうに笑っていた。

それを見て、ようやく彼が何を不安に思っていたのかを唯は理解した。

 

(…綱吉が、私の手を傷つけたと思ったのか…)

 

どこかぎこちない唯達を見て、そして変わった綱吉を見て、山本は綱吉が唯を傷つけてしまい、今度はそうならないように自身を鍛えていると考えたらしい。

結果的には良い方向に思考が行っているとは言え、綱吉が誰かを傷つけたかもしれないこと事態が信じられず、唯のことを探して真実を聞こうとした。

事の顛末はそういうことだろうと理解して、唯はゆっくりと頷く。

山本は一瞬傷ついた表情をしたがすぐに笑顔になって、唯に頭を下げようとする。

何をしようとしているのかわかって、唯は慌てて本当のことを伝えた。

 

「私が綱吉を守るために負った傷なんだ!だから、綱吉は何も悪くない!」

 

叫んでしまってから唯はハッと片手で口を抑える。

山本は少しかがんだ状態から体を起こしてぽかんとしてから、大笑いした。

そんな山本になんだか恥ずかしくなった唯は顔を真っ赤にしてまた叫ぶ。

 

「わ、笑うことないじゃん!」

「だ、だって!ひ、ひひ必死すぎて!はー、おっかしいな!!」

「そ、それは!だって、友達が怪我するかもしれない状況だったら助けるでしょ!普通!!」

 

そう叫んだ瞬間、山本の笑いがぴたりと止まって目を見開き、唯を見る。

いきなりそんな視線を食らった唯は、視線を外さずに「な、何」と気持ち後ずさる。

しばらくその状態が続いたかと思えば、突然山本が頭を下げた。

 

「すまん!」

「え、何が!?」

「俺、お前のことを勘違いしていたみたいだったから!」

 

だからごめん!!と先程の唯以上の声で叫んだ山本に唯はなんとなく、気が抜けてしまった。

綱吉のことで悩んでいたのは自分だけではなかった、と。

当然のことではあるのだが、いつの間にか付き合いが長いのと、当時のことを知っているのは自分と綱吉だけだから悩んでいるのはお互いだけだと錯覚してしまっていたのだ。

そんなことあるはずがないのに。

むしろ何も知らない周りの方が心配することもあるというのに。

唯はそのことまで思考が回っていなかった自分が馬鹿らしくなり、気持ちも不思議と大きくなって、向こうが何も言ってこないなら自分も何も言わないと結論をあっさりとつけられた。

悩みのほぼ全てが綺麗サッパリ水に流れた、という気持ち。

なんとなく、リボーンがどうして彼を綱吉の守護者の一人にしようとしているのか、わかった気がした。

 

「いいよ」

 

唯が一言そう告げると、山本は勢いよく顔を上げて。

そして、いつも綱吉に見せるような安心しきった間抜けな笑顔を見せてくれたのだった。

 

 

実は山本が唯と綱吉が真逆の人種であると思っていて、それが勘違いだと理解し、同じ人種だった唯に対して綱吉に対する気持ちとほぼ同じものを抱くようになったのは。

山本だけしか知らない事実。

 

 




唯にとっては山本と和解できて、普通に友達になれたと思っている思い出ですが、山本にとっては守るべき対象が増えたといった感じです。
決して恋愛的な感情が芽生えたわけではないし、誰かに言うほどのものではないけれど、山本の中ではツナに助けられたのと同じくらいの衝撃的な思い出です。

何気ない発言が誰かにとっては人生における重要な発言だったっていうのは、よくある話ですよね。
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