夕方、雲雀からの宣言で衝撃を受けた唯はゆっくりと帰路についていた。
頭の中で繰り返されているものは当然千沙のこと。
正直雲雀から千沙に対して恋愛感情を持っていることは薄々感じ取っていた、なにせ、態度が違ったから。
通常の生徒が雲雀に挨拶しても、挨拶は返すが笑いもしなければ一瞬しか視線を渡さない。
しかし、千沙が挨拶すればふんわりと笑うのだ、これで気づかなければ木偶の坊か何かだろう。
だから雲雀の告白に驚きはしても、心に衝撃を与えるほどのものでもなかった。
しかし、千沙の方は違う、段違いだ、天と地ほどの差がある。
(千沙が私のこと、その、そういう意味で好きって…え、じゃあつまり、勉強会のときについてきたのって綱吉のことを見るため…いやいや、そんなそこまで自惚れるなよ私ぃ…)
一つため息を吐いて立ち止まる。
「…女、同士…なんだけどなぁ…」
ぽつりと溢れた言葉が否定する理由にすらなっていないことは唯自身わかっている。
しかし、言わずにはいられなかった。
小学校のときに迷惑をかけたと思って別れの言葉を送ってからは極力近づいていない。
なのに、なのに、だ。
まさか、想いを寄せられているなんて誰が想像できる。
唯だってどうしようもない恋心を持っているし、叶うことはないとすら思っているのだ。
(ちーちゃんも、同じ…なのかな…)
叶うことはないと確信していて尚、想い続ける辛さを唯は嫌でも理解できる。
だからこそ、悩むのだ。
(断る理由はある、だけど…諦めない、諦めきれないよね…)
自分が相手を想うことをやめないように、千沙だって唯のことを諦めたりはしないだろう。
夕日で伸びた影をぼんやり見つめながら、唯は考える。
自分の気持ち、千沙の気持ち、断ったあとのこと。
グルグルと思考が停滞してきた時、不意に唯の耳に「あ」と聞き覚えのある声が聞こえた。
それは、本日二回目の声。
「村さん!?こんなところで何してるの?」
ハッと唯が顔を上げれば、目の前には綱吉が息を切らしながらも心配そうに唯を見ていた。
その横の塀に立っているリボーンも少し眉が下がっている。
それらを見て慌てて唯はなんとか、口の端を上げて目尻を下げ、口を開く。
「なんでもない、ただ、少し考えごとしてただけ!それよりそんなに息切らしてどうしたの?」
「あ、そうだ!ねぇ、ランボ見なかった!?牛の格好した子供なんだけど!」
緊急事態であることを思い出したのか綱吉が慌てて聞く。
頭の中でランボの姿を思い浮かべた唯は今日一日見ていないので首を横に振る。
そこで、ようやく思考を切り替えられた唯はもしやと内心彼らのように焦った。
「その子、探すの?」
「うん!あ、えっと、迷子できっと泣いているだろうから」
「なら、私も探すの手伝うよ、どっちの方面は探した?商店街は?」
なんとなく、マフィア関係だと言えなかった綱吉の言葉を汲み取った唯は構わず提案した。
綱吉もそれで余計な心配をしている場合ではないと気持ちを切り替えたのか、真剣な表情になる。
「探したけど見つからないんだ、あとは山の方を」
「うあああ!たすけてー!!」
子供の悲鳴が聞こえてきて、その場に居た全員が声の方向に走る。
「あっちのほうだ!」
道なりに曲がるとそこには二人の赤ん坊を抱えて走る子供の姿が。
その後ろから子どもたちに武器を振りかぶっている男性の姿も見える。
「あぶない!後ろ!」
唯が思わず叫び綱吉が走る速度を速めるが間に合いそうにない。
カバンの中にある小瓶に唯が手を伸ばそうとした時、子供を攻撃しようとした男性が何者かに吹っ飛ばされた。
アッパーを決めた態勢で、拳から湯気を出したその男は驚く綱吉達に向かって口を開く。
「ボンゴレファミリー晴の守護者にして、コロネロの一番弟子!」
リボーンがニヤリと笑い、唯と綱吉はポカンと口を開ける。
「笹川了平!推参!!」
「お兄さん…」
「まだだぞ」
若干引き気味に綱吉が呟くとリボーンがニヤリと笑って、そう告げる。
思わずリボーンの方を見た綱吉と唯の耳に次の敵の音が聞こえてきて唯は身構えた。
しかし、それは無駄に終わった。
次に斬りかかってきた敵を山本が。
遠くから狙ってきた敵を獄寺が倒し、やってきた三人はランボを守るように立った。
「ったく、なんでアホ牛がリングを…!」
「もう大丈夫だぜ!」
「み、皆!」
綱吉が嬉しそうに駆け寄るのを見ながら、唯は状況についていけずに一人棒立ち。
「家光のやつ、なんとか間に合ったみてぇだな」
ランボともう一人赤ん坊を抱えていた子供が泣きながら綱吉に抱きつく。
もうひとりの赤ん坊、イーピンの怪我がわかり、ようやく現実に戻ってきた唯は鞄の中の絆創膏を慌てて取り出した。
「これ、絆創膏、よく頑張ったね」
「お姉さん、だれ?」
「そういえば、話したことなかったっけ」
唯は自己紹介をしながら、状況整理を改めて頭の中で行った。
(狙われたあの子がなんの守護者かわからないけど…小手調べにしては人数が…いや、暗殺集団なのだからもう一人くらいいてもおかしくないはず…)
「唯さん、顔、こわい」
「あ、ごめんね、ちょっと緊張してたみたい」
「大丈夫!また敵来たら、唯さん、イーピンが守る!」
「あはは、強いなぁ」
考え事しながら話していたら顔がこわばっていたらしくイーピンに怖がられ、唯はひとまず思考を眼の前の女の子に向けることにした。
唯とイーピンの横でランボが駄々をこね始め、綱吉がそれの対応をする。
その間に山本達も綱吉たちを囲むように近づいてきて、お互いの無事を確認して安心する。
「イーピンちゃんすごいね、怖くなかった?」
「平気!ランボ、フウ太、守れて嬉しい!」
「そっかぁ、でもあんまり無茶しないようにね、守ってもイーピンちゃんがボロボロじゃあ、皆心配すると思うから」
「謝謝、肝に銘じておきます!」
綱吉たちの会話を横で聞きつつイーピンとそんな会話をしていた唯の肌がちりっと焼けた感覚を覚える。
「くるぞっ!」
リボーンの声がやけに鮮明に聞こえて、思わずイーピンを背にかばうようにして周りを警戒する。
(やっぱり、もう一人いたか、それも…幹部が…!)
近くの森からやけに重装備に見える男が飛び出してくる。
その男は倒れている自分の部下を見てから綱吉達を見て、目を細める。
「お前たちがやったのか…雷の守護者は誰だ」
男の視線が綱吉達の間をさまよい、そしてすぐに見つける。
「そこのパーマのガキか」
ランボを真っ直ぐに見た男の視線と声にランボが綱吉の足に抱きつきながら体を固まらせる。
思わず綱吉とランボの前に唯が出て相手を睨む。
それで確信を得てしまったらしい男が背にある六本の武器の内の一つを手に取る。
「邪魔立てすれば…消す」
瞬間、やってきた殺気に唯は目を見開き、体を固まらせる。
(動けない…なにこれ、ピリピリする…!)
蛇に睨まれた蛙状態の唯の耳に、若い男性の声が聞こえた。
「待った、レヴィ」