それがあたりに響いた瞬間、どこからか六人の大人と子供がレビィと呼ばれた男の後ろに降り立った。
そこにはついこの間綱吉たちを襲った白髪の男性の姿も。
「一人で狩っちゃだめよぉ!」
「獲物は皆で…ししし…」
派手な見た目の男性と金髪の少年が怪しく笑い、体の大きな顔の見えない人間が煙を吐く。
「事情が変わったよ、どうやら他のリングの所持者もそこに…」
フードで顔を隠した赤ん坊がリボーンをちらりと見て、リボーンと視線がかち合う。
「こ、こんなに…!」
綱吉が震えた声でそう呟く。
「う゛お゛お゛い!この前はよくもやってくれたなぁ!おい、雨のリングを持ってるやつはどいつだ!」
その場を切り裂かんばかりの大声が響く。
綱吉は動揺して体を震わし、子どもたちは固まり、それ以外のものは警戒心を強くする。
山本がゆっくりと、相手を睨みながら名乗りあげる。
「おお、てめぇか!3秒だ、3秒で切り身にしてやる!」
男の言葉に山本が身構える。
綱吉が頭を抱えて白髪の男性と山本を交互に見て焦る。
今、まさに攻撃しようと身を乗り出した男性の肩に手が置かれた。
「どけ」
たった一言を告げて男性を後ろに下げたその人物は一瞬にしてそれまでの殺気と比べ物にならない空気を持ってその場を支配する。
「でたな、まさかまたやつを見る日がくるとはな…」
ザンザス。
リボーンがどこか緊張した声でそう言うと、全員の警戒心が更に高くなる。
唯もそのうちの一人。
(ザンザス…ヴァリアーのボスにして、九代目の実の息子…)
周りがその殺気で動けない中、唯は一つ違和感を覚えた。
ヴェルデから聞いていた幹部の人数は本来ならば六人。
しかし、今この場にいる敵の数は八人。
(幹部の数が多い…いや、一人は部下…?話に聞いていたどの人物にも当てはまらないけれど…フードで顔は見えないけど随分と華奢…女性…?)
そこまで考えて、ザンザスの目の前の地面につるはしが刺さる音で唯は自然と下がっていた顔を上げた。
「そこまでだ、ここからは、俺が取り仕切らせてもらう」
「父さん!?」
「てめぇ、何しに!」
声のした方に目を向ければ、そこには随分前に写真で見せてもらった門外顧問の姿。
(…綱吉の、お父さん…沢田家光…!)
自分の目指すべき場所にいる人。
オレンジ色のつなぎを着た金髪のその人は自分に剣を向けた白髪の男性を見てからザンザスを見る。
「ザンザス、お前の部下は門外顧問である俺に剣を向けるのか」
ザンザスと家光の視線がぶつかりあう。
その凄まじい殺気に、唯は先程から動けないばかりだ。
「何を!逃げ回るばかりの腰抜けが!」
「なに!」
「待てバジル」
家光の隣にいたバジルが武器を構えるのを制して、自分が逃げ回っていたわけじゃないことを家光は説明する。
九代目の解答を待っていたこと。
近頃のヴァリアーのやり方とそれを黙認する九代目に疑問を持ち、九代目に対して異議申し立ての質問状を送っていたことを告げた。
そこまで来て唯もようやく理解する。
(そうだ、こんな勝手なことをされているのに九代目が何も言わないのはおかしい…!門外顧問はこういうときに声を上げるのか…)
家光はその回答がここにあると右手にある丸められた紙をかかげる。
そこで綱吉がどうして家光がそんなことをするのかと声を上げた。
リボーンがすかさずそれを説明する。
門外顧問が何なのか、そしてその権限がどういうものか。
ボンゴレリングのことも併せて説明をされて理解した綱吉にバジルから九代目の勅命が記された紙が手渡され、広げると九代目の死炎印が出てきて本物だということがわかった。
イタリア語が読めない綱吉のために家光が手紙の内容を要約する。
「今まで自分は、後継者にふさわしいのは家光の息子、沢田綱吉だと考えそのように仕向けてきた。だが、最近死期が近いせいか、私の直感は冴え渡り、他によりふさわしい後継者を見つけるに至った。我が息子ザンザスである。彼こそが真に十代目にふさわしい」
そこで綱吉が九代目の息子がザンザスであることを知って驚きの声を上げるが、家光は気にせず続きを言う。
「だが、この変更に不服な者もいるだろう、現に家光はザンザスへのリングの継承を拒んだ。だからと言って私はファミリー同士の無益な抗争は望まない、そこで、皆が納得する、ボンゴレ公認の決闘をここに開始する」
言い終わって、家光はもっとわかりやすく九代目の考えを告げる。
「つまりこういうこった、ボンゴレ後継者候補、沢田綱吉!同じく後継者候補、ザンザス!二人が正当な後継者となるために必要なボンゴレリング、その所有権を争って、ツナファミリー対ヴァリアーの決闘だ!!」
力強く宣言した家光に唯は心の中でヴェルデの予想通りになったと思った。
同じリングを持つ者同士のガチンコバトル。
しかし、この状況では唯が不安に思った通りで門外顧問の戦いはできそうにない。
(…さて、どう駄々をこねるんだか…)
すると、茂みからピンク色の髪をした二人の女性が出てきた。
「おまたせしました」
「だ、誰!?」
「我々は九代目直属のチェルベッロ機関の者です、リング争奪戦において、我々の決定は九代目の決定だと思ってください」
(チェルベッロ機関…?先生からも聞いたことない名前…これが、ザンザスの息のかかった者…?)
唯が疑問に思うと同時に家光から異議が出た。
しかし、それがすぐに否定される。
曰く、自分たちは九代目に従っているのであって、門外顧問の権力の及ぶ者ではない、と。
(なんて無茶苦茶な…!)
それからチェルベッロ達は勝負の説明を始めた。
場所は深夜の並盛中学校。
勝負の詳しいルールは明日の夜11時に説明される。
「また、ここで九代目と、そして家光氏によって話し合い、決められたことを追加で宣言させていただきます」
突然チェルベッロがそう言って唯とヴァリアー集団の一人を見た。
「次期門外顧問の座を決める争奪戦の開催をここに宣言します」
淡々としているはずなのに、唯の耳には強く入ってきたその宣言を、唯は目を見開くことでしか受け止められなかった。
「ここに九代目の署名と家光氏の署名がされたモノも用意されております、ご確認ください」
唯と幹部の一人の眼の前にチェルベッロが降り立ち、紙を差し出す。
周りは唯の方に手渡されるその事実に驚いていて、唯は信じられない気持ちでその紙を受取広げて見る。
ヴェルデから習わされていたイタリア語が今活きてしまい、唯は泣きたくなった。
要約するとこうだ。
“現門外顧問の家光はまだ現役で動くことができるが、それがいつまで続くかは分からない。
そこで話し合いに話し合いを重ねた結果、かねてより候補について分かれていた意見の決着をつけるため、そして無駄な抗争を避けるため。
ボンゴレ、門外顧問共に公認の試合の結果によって次期門外顧問の決定とする。”
最後にはそれぞれの名前がしっかりと記入されており、唯は思わず家光を見た。
家光は予想していたのか唯の方を真っ直ぐに射抜くように見ていて、唯は幹部の方に視線を投げた。
自分の対戦相手、ザンザスの意思に従ってしまう門外顧問として本来は不向きな者。
唯から視線をもらったその人物は、唯の視線に気づいてそのフードで隠れている顔からかろうじて分かる口元を三日月型にした。
「いや、まさかゆっちゃんが相手だとは思わなかったなぁ!」
わざとらしい声を張り上げたその人物の声は唯にとって、一番馴染みのある声。
女性らしくアルトで張りのあるその声の主を唯は今、全力で会いたくはないと願っていた。
しかし、相手は無情にも被っていたフードを剥いでその姿を見せる。
腰まである黒髪を風で揺らし、綺麗な白い肌を輝かせた彼女は溌剌とした笑顔で口を開く。
「お手柔らかに頼もう!ゆっちゃん!」
「なんで、ちーちゃん…!」
相手の正体が信じられない唯は涙目で千沙を見上げ、震えた声で名前を呼んだ。
ヴェルデから、次期門外顧問のもう一人はザンザスの息のかかった者と聞かされていたのでどんな殺人鬼が来るかと身構えてはいた。
しかし、それが唯にとって幼馴染に当たる彼女だとは微塵も考えていなかったのだ。
唯の言葉に千沙は少し考える素振りを見せてから、嬉しそうに口を開く。
「元々、次期門外顧問候補は私の方に周りは寄っていたんだ!しかし、ゆっちゃんのことや学校のことなどで乗り気はなかった…しかし!なんともう一人の候補はゆっちゃんだと言うじゃないか!これはゆっちゃんの友達として守る意味も込めて完膚なきまでに倒さなくてはと思ってなぁ!
君が相手ならば、俄然やる気が出る!何故って?君を倒せば君は一生こちらの世界にかかわらなくて済むだろう?」
唯が千沙に負ければ、確かに千沙の言う通り唯は敗者として指を指されるだけでマフィアの世界から消えることはできるだろう。
しかし唯にとってマフィアの世界に関わりが持てなくなることは、つまり、唯の想い人とは一生を費やしても再会することは叶わなくなるということ。
(それだけは、絶対に嫌だ!)
唯は思い切り拳を作って千沙に向けていた震える視線を鋭く真っ直ぐなものに変えた。
「確かにそうかもしれない、でも、私は絶対にこの世界に居続けるって決めたんだ」
叫ぶわけでもない、通常の声で発せられたはずのそれはとても底冷えするほど鋭く、そして力強かった。
そんな唯の変化に千沙は眉を少し動かす程度で、笑顔を消すことはしない。
「わからないなぁ…まぁ、話は勝負の日にゆっくりするとしよう!」
そこで話が終わったと判断したらしい、チェルベッロが口を開く。
「それでは皆様、明晩、並盛り中学校にてお待ちしております」
さようなら。
そう言い残して近くの茂みの中に消えていったチェルベッロを見送ったヴァリアーたちも帰っていく。
「そんな…!」
綱吉の悲痛な声だけがその場に響いていた。