ルビを振り忘れてしました。
沢村繁和(さわむらしげかず)
もしも違う読み方をしていた方がいらっしゃれば、大変申し訳ありませんでした。
また、修正報告ありがとうございました!
それでは、物語をどうぞ。
綱吉は突然現れた眼の前の男に既視感を覚えた。
ヴァリアー襲来の次の日、学校が終わって一旦帰ろうとした綱吉が校門を見た時、そこにいた知らない男性が驚く綱吉を無視して綱吉に対して手を振ったのだ。
もちろん、知らない男性なので綱吉は一瞬自分に手を振られたのだとわからなかったが、相手が「沢田綱吉君…で合っているかな?」とゆっくり確認してきたので思わず頷くと、相手は安心したように息を吐いた。
「だ、誰ですか!?」
思わずそう叫ぶと、相手は安心させるためか綱吉の頭を撫でて「ごめんね」と穏やかに謝罪してきた。
「いきなり…知らないおじさんが話しかけてきて怖かったよね…私は沢村繁和、沢村唯の父親です」
自己紹介をされて綱吉は驚きの声を上げながら、既視感の正体を理解した。
彼女とは髪の色は違えど、目元がそっくりだと今ならわかる。
合点の言った綱吉は慌てて頭を下げた。
「い、いいつも娘さんにはお世話になっております!」
突然頭を下げられて驚いた繁和は目を見開いたが、しかしすぐに目尻を下げて口の端を上げる。
「こちらこそ、いつも、娘がお世話になっております…そして、今日はその、娘のことについて、君に話しておきたいことがあって、きました…」
「門外顧問のことか」
「り、リボーン!?」
ゆっくりと話す繁和にリボーンが突然現れて言うと、綱吉がそれに驚いて体を後ずらせた。
繁和も全く気配のなかったリボーンに驚いて眉を上げる。
「君が…リボーンさん、ですね」
「チャオッス、こうして会うのは初めてだな」
「そう、ですね」
「…随分ゆっくり話すんだな」
「元々、こうなんです」
思わずリボーンが想ったことを言うと、繁和は苦笑しながら応える。
唯も同年代の中ではゆっくりと話す方だが、父親譲りだったとは…とリボーンと綱吉は同時に思う。
繁和はふいに周りを見渡したかと思うと、綱吉の方に視線を戻す。
「ここでは目立ちますし、歩きながら、話しませんか?そこの、あなた達も」
「え?」
繁和の視線が突然綱吉の後ろに行ったのを見て綱吉が思わず後ろを振り返ると、そこには千沙や山本、獄寺の姿が。
「み、皆!なんで…」
「明らかに怪しいおっさんが十代目に話しかけていたんで、すぐにお助けせねばと俺が走り出しまして」
「それを俺がなだめて」
「その光景を偶然見かけて、沢田君のことも見つけて状況を理解し私も加勢しようとしたら」
「私が、皆さんを見つけた、という次第です」
獄寺、山本、千沙、繁和の順番で綱吉の質問に答え、綱吉は思わず苦笑した。
なんともいつも通りすぎる彼らに、安心したとも言う。
千沙なんて、敵であるはずなのに。
(…そうだ、寺田さんって敵だよ!?)
よくよく考えて敵であるはずの千沙が普通に学校に来ていることも驚きだし、ましてや綱吉達に普通に近づいてきたのにも、綱吉は大いに驚いた。
しかしそんな彼らの事情など無視して繁和が場所を移動するのを再度提案し、一行はその場から離れ、近くのファミレスに入った。
「好きなものを、頼みなさい」
繁和の言葉に全員控えめにドリンクバーを希望した。(ドリンクバーにしかコーヒーがなかったりしたから、という理由も存在する)。
全員が各々の飲み物を手にして席につくと、自然と繁和に視線が集まり、繁和も一つ咳払いをする。
「今日、綱吉くんに話したかったのは、私の娘のことだ」
「村さんに何かあったんですか!?」
半分予想できた話題だったがいざ言われると綱吉は思わず身を乗り出した。
隣で「落ち着け、ツナ」とリボーンの宥める声が聞こえ、渋々乗り出していた身を落ち着けたが。
その流れを見ていた繁和は頷く。
「沢田綱吉くん、話に聞いていたけど、君はやはり優しい子のようだね」
「え?」
「娘の心配をする人間は、少なくとも私の知っている限りでは唯の兄と千沙ちゃんくらいしかいない」
千沙以外が驚きの声を上げ、千沙は手元のコーヒーを啜る。
「それってどういうことだ?」
「君は山本くんだったね、君もいい子だねぇ」
「話をそらさないでくれおっさん!沢村のこと心配するやつが少ないってどういうことだ!」
力強く繁和を睨む山本に、繁和は嬉しく思いながら答えた。
「そこのところも含めて、君たちには聞いてほしいんだ、特に、綱吉くんと千沙ちゃんには、ね」
「私も、ですか?」
自分を指して驚く千沙に、繁和が頷く。
「唯は…幼い頃に母親を亡くしている、そのことは…恐らく君たちも気づいていたことだろう」
繁和が全員を見渡せば、各々が頷いたり驚いたりしていて反応は様々。
「そして、唯には、二つ上の兄がいる」
繁和が視線でキミは知っているねと千沙に問えば、千沙はゆっくり頷いた。
綱吉が控えめに手を挙げ、繁和が発言を許可すればおずおずと言った感じで綱吉は質問する。
「村さんのお兄さんって…」
「安心しなさい、生きているよ、私としても子どもたちには長生きしてほしいと、想っているからら、私にとっては元気でやってくれていれば、それでいいんだけどね」
「…村さんは、お兄さんのことどう思っているんですか?」
「…少なからず、良くない感情を向けては、いるだろうね」
中学卒業後すぐに海外で留学している唯の兄のことを思い浮かべながら、そして、そんな兄を見送った唯の表情を思い出しながら繁和は自身の予想を告げる。
穏やかに小さく笑い、そのほんの僅かに寂しさがにじみ出ている表情の兄を心配そうにしながらもどこか安心したように笑って見送る妹。
「…唯の兄は…とても、優秀だった」
親ばかと言われるかもしれないけれどね、と繁和は笑う。
「誰に対しても誠実で、真っ直ぐで優しい…それでいて、勉強ができて、運動が好きだった、だから…色々な人達から褒められていた。
時々抜けているところもあったし、母親譲りなのか、無表情が目立つが、それだって大した欠点にはなりはしない。
誰よりも人が好きで、誰よりも…妹のことを大切にしていた、とても、良い子だった」
無表情なところと天然で抜けているところ以外はほぼ完璧に近い唯の兄。
千沙も彼の存在は知っていたし、時たまできる人間としてお互いに比べられることもあった。
けれど、それだけだ、それくらいしか千沙は唯の兄については知らない。
繁和はゆっくりと、全員に向けていた視線を綱吉に向ける。
「綱吉くん、失礼だとか不快に思うかもしれないが、君ならわかるかもしれない…幼い頃から兄妹で出来の良さを比べられることの苦しみを…常に誰かと比べられ、どんなに努力しても褒めてもらえないことの悲しさを」
「…わかります」
人からさんざんバカにされてきた綱吉は、常に誰かしらとも比べられてバカにされてきた。
その時の悔しさは、今でも覚えている。
「…言い訳をするならば、私は少なくとも褒めていたつもりだった…唯はとても綺麗な絵を描き、リコーダーを吹くのが好きでよく美しい音色を聞かせてくれた、そのたびに…私は、あの子を褒めた」
しかし、と繁和は続ける。
繁和の言葉に最初は嬉しそうにしていた唯は、段々とその笑顔を消していった。
理由を探れば、唯は常に努力してきた勉強を褒めてもらえず、特に努力もしていない趣味を褒められるという、ちぐはぐな状況に立たされていたのだ。
努力をしても褒めてもらえず、努力しなかったら褒めてもらえた。
それを毎日のように繰り返されたら、ましてや、たまにしか会えない父親からもそんなふうに褒められてしまえば唯は何を頑張ればいいのかわからなくなった。
結果、唯はそれまでの趣味を全て捨てた。
リコーダーは学校の授業でしか吹かなくなったし、画材は全てゴミ箱に捨てた、それまで描いてきた絵も、全て。
それからたくさん勉強するようになった、あまり本を読むような子ではなかったのに読書が好きだと嘘を付くようになった。
元気で明るい子供だった唯は、典型的な大人しい子供に変わってしまったのだ。
「…私が、悪かったのだろうなぁ…」
「そんなこと」
綱吉が否定しようとしたが、繁和はすぐに首を横に振った。
「違わないさ…あの子の…あの子達の母親が死んで、私は…あの子達の母親にそっくりの女性と、再婚したのだから」
「え…」
驚く子どもたちに繁和は自嘲する。