次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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あとのまつり

顔立ちも妻にそっくりのその人に、繁和が思わず話しかけたのは仕方のないことだった。

それからよく話をするようになり、家にも呼んだりして子どもたちと遊ばせたりして、相手が自分に対して特別な感情を向ける頃には、繁和の中で一つの考えが生まれていた。

 

(もしも彼女と結婚すれば、子どもたちに寂しい思いをさせなくて済むかもしれない)

 

子どもたちはその女性に懐いていた、女性も子どもたちのことを大事にしてくれている。

これなら、うまくいくかもしれない。

そう考えた繁和は女性に対してプロポーズをした。

結果、再婚。

それから繁和は、育児のことは女性に任せて、仕事に没頭した。

元々家にあまり帰らない自分よりも、よく遊んでくれるその人と一緒にいるほうが、子どもたちも安心するだろうと、繁和は考えていた。

しかし、それが間違いだったのだと気づいたのは、つい最近、その人が離婚届を見せてきたときだった。

繁和が慌てて何故と問えば、曰く、育児に疲れたのだという。

 

息子は昔のまま慕ってくれたが、娘の方は段々と話さなくなったのだと。

理由がわからず、相手も何も言ってくれないから、嫌になった、もう疲れた。

だから離婚したい、その方が、きっとお互いのためになるはずだ、と。

 

そこまで言われてしまったら、繁和には頷く以外の選択肢はなかった。

元々新しい妻に対しては特別な感情は何一つなく、ただ子どもたちのことしか考えていない再婚だったから、罪悪感もあったのだ。

最後に見た新しい妻は、どこか傷ついたような、諦めたような顔をしていた。

そして、離婚したことは貴方が言ってくださいと頼まれて、頷き、息子に電話をかけたときにふと気になって、息子に聞いたことですべてを知ったのだ。

それは、繁和にとっては何気ない質問だった。

 

「新しい人は、どうだった」

 

今更すぎる質問ではあったが、忙しすぎてゆっくりと話をするときなんてその時間しかなかったのだから、仕方のないことではあった。

そして息子から返ってきたのは、これまでの新しい妻の酷い育児の様子。

なんてことはない、新しい妻は若すぎたのだ。

だからこそ、自分より一回り、二回りくらい年上の男性からプロポーズを受けた時、育児に関しても楽観視していたのだ、わからないことがあれば彼に聞けばいい、と。

しかし、彼女の予想に反して繁和は仕事にばかりいって、あまりゆっくり話をすることが出来なかった。

新しい妻は、家にある育児本を読みながら、子どもたちと接するようになり、本に書いていない行動をしたら泣きそうな顔で、どうしてと子どもたちに問うたのだ。

家事の仕方もわかっていなかった彼女は洗濯もまともにできず、息子たちがまだ幼い頃は新しい服を何着も買って着回していたし、そんな新しい母を見て子どもたちのほうが家事を覚えたほどだ。

その様子を見て、何を勘違いしたのか新しい妻は自分が育てたからこんなにも家事ができるのだと胸を張るようになっていき、子どもたちのことも比べるようになった。

息子よりも年下の娘のほうが出来ないことが多いのは当たり前なのに、息子と同じレベルを娘に要求し出し、それが出来なかったら「なんでこんなこともできないの?」と娘を責める始末。

そんな二人を見ていた息子は、自身の妹を守るために必死に勉強をし、自分の方に新しい母親の目を向けるように努力をしたが、それらは全て無駄に終わり、妹に求められる要求のレベルが上がっていくだけ、むしろ妹をもっと苦しめる結果となってしまった。

明るかった娘は暗い表情をするようになり、人が好きだった息子が妹以外を嫌うようになった。

そして、こんな結末になり、息子は最後に。

 

「こんな状況になっても助けに来てくれなかった貴方を、僕は一生許さない、守れなかった僕が言えることじゃないけど、それでも、唯がどれだけ貴方の帰りを待っていたか…!」

 

そう言って電話を切られた繁和は、目の前が真っ暗になった気持ちだった。

頭がボーッとしてしまい、早めに仕事を切り上げて帰った自宅の前で、嗚咽している唯を見つけたときは、過去に九代目に言葉で頭を殴られた時以上の衝撃を全身に浴びた。

あそこでうずくまり小さくなっている女の子は、自分の娘なのか、そうだ、あの子はあんなに小さかったのだ。

赤ん坊の唯と、成長した唯が重なって見える。

守ると、決めたはずだった。

しかし、また自分の選択で、今度は取り返しの付かないほどに息子と娘を傷つけた。

関係のなかったはずの女性までも巻き込んで。

確かに、新しい妻は悪い育児を行ったのかもしれない、けれどそれは、彼女の不安の表れでもあったはずだと繁和は理解していた。

はじめての環境で、頼りになるはずの自身の夫は一向に相手にしてくれず、いきなり守らなくてはいけない命を二つ渡された彼女はどれだけ悩み、育児に向き合ったのだろう。

彼女が初めて作った料理は焦げの目立つ卵焼きだったと語った、泣きながら彼女は息子たちに謝っていたらしい、美味しいものを食べさせられなくてごめん、と。

新しい妻は悪い人間ではない、ただ、不運だっただけ。

それら全てを引き起こしたのは、繁和だ。

唯と話をして、門外顧問の試験があること知って、繁和は今度こそ間違わないように、そして唯のことを大切にしてくれたらしい唯の幼馴染と、十代目候補の少年にお礼を言うために。

初めて仕事を休んで、中学校の校門前で待ち続け、そして、こうして話をするに至った。

 

 

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