次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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時には赤子のように

放課後、唯は綱吉のバレーの試合を観戦していた。

特に大きな声を出して応援することはなかったが前半のそのダメっぷりに思わず目をそむけたくなる。

 

「やっぱダメツナか」

 

誰かがそう言った。

 

「ふざけてんなら帰れよ!」

 

選手の一人がそう言った。

綱吉は顔を俯かせて、何やら難しい顔をしたかと思えば顔を上げて、まるで憑き物が落ちたような顔をしてチームに加わっていく姿を見て、唯はそんな綱吉の変化に驚く。

 

(綱吉って…あんな顔、できたっけ…)

 

その表情の勇ましさ、あれはまるで。

 

(まるで…これから、死に行くような…)

 

死ぬ気。

それを理解した瞬間、唯はゆっくりとだが、体育館の外に出た。

なんとなく、だが。

 

(綱吉なら、勝てる)

 

そう確信できたので、もう試合を見る必要はないし、明日また試合がどうなったかを聞けばいいだけの話。

唯は一つ大きく伸びをすると、教室に向けて歩き出した。

教室に向かっている間、唯はつい最近の綱吉の様子を思い出す。

 

(ここ最近の綱吉、変…というか、なんか、強くなった、かも)

 

最近それが一番顕著に表れたのは剣道部主将の持田先輩とした試合。

あの試合でツナは『ダメツナ』というあだ名で呼ばれなくなった。

そして今日のバレー部の試合。

昔の綱吉ならばきっと逃げ出して、そもそも試合には来なかっただろう。

けれど不安な顔をしながらも試合に出場をして、恥ずかしい思いをして言い訳までしたのにもかかわらず逃げずに最終的には死ぬ気で試合に取り組むようになるまでの精神力の強さを見せた。

今日の出来事で、もう周りは綱吉のことを馬鹿にすることはないだろう、するとすればそれは綱吉の強さを僻んだ者たちだけだ。

その成長の速さ、成長のきっかけはなんだったのだろうか。

そんなことを考えていればいつの間にか教室にたどり着いていた。

唯が教室のドアを開けようとすると、中から女子の話声が聞こえてくる。

 

「最近さ、沢田のやつ調子乗ってない?」

 

思わず、唯の手が止まった。

 

「あー、わかるー!なんか雰囲気変わったよね」

「京子ちゃんに気軽に話しかけすぎっていうかさー」

「山本君にも声かけられていたよね」

 

最初は好意的な意見かと思えばただの悪口。

唯はどうしようもない気持ちになりながら女子たちの気が済むのを待つことにした。

気持ちはなんとなく理解できるが賛同できるかと言われれば微妙である。

唯とて一人の人間。

突然変わってしまった友人に思うところがないわけではないし、むしろたくさんありすぎて複雑な気持ちなのだ。

それに、心配な気持ちもある。

昨晩ヴェルデから聞いたマフィアのボス候補の中に綱吉の名前が入っていた時は心臓が止まるかと思うくらい驚いた。

そして、現時点では綱吉が最有力候補だということを聞けば、唯は泣きたくなる。

 

【どうして…彼、なんですか】

【理由はとても簡単でシンプル、彼がボンゴレファミリーの正統な後継者であり、初代ボンゴレボスの血を受け継いでいるからだよ】

(なんで綱吉なの、別に綱吉じゃなくても他に候補者はいたじゃない…どうして…っ!)

 

ニヤニヤと笑うヴェルデの顔を思い出して、また泣きたくなる。

あの家庭教師は人をいじめる趣味はないが、興味対象がどういう状況でどんな言葉をかけられればどういう反応をするのかを見るのが楽しくて仕方ないのだ、そういう変態なのだ。

昨晩だけの付き合いだが間違ってはいないだろう。

だからこそ、ここぞというときに嘘をつくような人間ではないのだ、それがどうしようもなく唯を絶望させた。

 

「おや?こんなところでうずくまっているのは我が幼馴染、心の友であるゆっちゃんじゃないか!」

 

声を押し殺して泣きそうになった時、突然頭の上から声が降ってきた。

唯は慌てて膝を抱えている腕で涙をふくと、声の主を見る。

そこに立っていたのは唯の幼馴染で同学年別クラスの寺田千沙(てらだちさ)

腰まで長い黒髪を揺らし、かがんで唯の顔を覗き込んでいたので唯の予想よりも近かった距離に唯は思わず「ひっ」と声をこぼしてしまう。

 

「あはは!相も変わらずゆっちゃんは面白いな、うむ…それで、何かあったのか?教室には入らないのか?」

 

首を傾げて聞いてくる千沙に唯は思わず教室の方に目を向ける。

教室からの声はもう聞こえない、恐らく女子たちは皆、帰ってしまったのだろう。

それに何故か安心してホッと息を吐く。

千沙はそんな唯にまた首を傾げるが、すぐに溌溂とした笑顔を見せた。

 

「なんだかよくわからないが、今は動きたくないようだし、私がゆっちゃんのカバンをとってきてあげよう!」

 

そう言って教室に向かう千沙に唯は礼を言うとまたため息を吐いた。

決して千沙が苦手なわけではないのだが、あのはっきりとした物言いなどは唯自身が時々驚いてしまうのでもう少し声を抑えてほしいというのが唯の本音である。

気付けば先ほどの苦しさもなくなっているのでその点では千沙には毎回感謝している唯。

自分も教室に入ろうと、立ち上がった時だった。

 

「誰か助けてえええええええええ!!」

 

綱吉の叫び声が窓の外から聞こえた。

唯は慌てて廊下の窓に近づいて外を見る。

 

「今の声は!?」

 

教室にいた千沙にも聞こえたらしく、慌てて唯の隣に立ち唯の視線の先を追う。

 

「あれは…たしか最近話題の沢田綱吉と人気者の山本と転校生じゃないか!というかあの転校生の持っているのってダイナマイトか?」

 

千沙の言う通り、そこには火のついたダイナマイトを構える獄寺と怯える綱吉、そしてスーツを着た赤ん坊の姿。

またそんな2人に近づく山本の姿。

獄寺は明らかにそのダイナマイトを綱吉に向けて投げようとしている。

 

「まずい、先生を!お、おい、ゆっちゃん!」

 

千沙が隣で慌て、綱吉が危ない状況だということを理解しているのに唯はその場から動けないでいた。

唯の視線の先には銃を綱吉に向けて構える赤ん坊の姿。

見間違いでなければ赤ん坊の手にある銃は先ほどまでカメレオンの姿をしていたはず。

そんな非現実的な現象を目の当たりにして一瞬行動が遅れたのだ。

そしてその一瞬は世界最強のヒットマンには十分すぎる時間である。

銃声が響いた、綱吉の脳天を銃弾が貫く…こともなく銃弾から光が飛び出し、それが綱吉の頭にヒットする。

倒れる綱吉、唯は思わず手で口元を覆う。

隣で千沙が目を見開いている。

唯は涙が出そうになったが、次の瞬間には綱吉がパンツ一丁の状態で復活したので唯は目を見開く。

見間違いじゃない、綱吉の頭には確かにオレンジ色の炎がともっていて、口調もいつもの綱吉より荒っぽい。

 

「死ぬ気で消火活動をする!!」

 

そう言った綱吉は素早い身のこなしでダイナマイトの火をどんどん素手で消していった。

それを見た獄寺がさらに多くのダイナマイトに火をつけて綱吉に投げるが、綱吉も負けじと消火活動に励み、それを見て焦った獄寺がさらに多くのダイナマイトに火をつけて抱えたが、限界が来て一つが落ちれば残りのダイナマイトすべてが落ちていき、獄寺の足元にはもう少しで爆発するダイナマイトが。

獄寺はまるで死を覚悟したかのように目を閉じようとしたが、綱吉が獄寺の足元にある火も消したので驚き目を見開く。

全ての消火活動を終えた綱吉は頭の炎が消えて、いつもの口調と雰囲気に戻る。

そこから先のやり取りを見ていた唯はしばらく思考することができなかった。

けれど、また聞こえたダイナマイトの音に唯はずるずると床にへたりこんだ。

 

「お、おい、ゆっちゃん、大丈夫か?」

 

千沙の心配そうな顔を見て、今度は顔を隠すことも忘れてポロポロと泣き出す唯。

それを見た千沙はさらに慌て「大丈夫だ!沢田は無事だし、なんだかよくわからんが丸く収まっているみたいだから!泣かなくていいんだぞ、ゆっちゃん!」と言っている。

しかし、唯もそれは理解していて、ひとまず綱吉が死ぬという最悪の事態は避けることができたことへの安心感、そして言いようのない焦燥感。

床に涙が落ちる。

 

「…ちーちゃん」

「な、なんだ?」

「ちーちゃ、う、うああああああああん」

 

声に出して泣き出してしまった唯に千沙は声に出して驚きあたふたと頓珍漢な励ましの言葉をかけ始めるが、唯はその言葉を聞きながらも自分でもどうしたらいいのかわからない気持ちにただただ訳も分からず涙を流すだけだった。

そんな2人の様子をいつの間にか戻ってきていた初代は眺め、そして窓の外で獄寺を止めるために慌てている綱吉を見る。

それから小さく笑って、唯の傍に行き、触ることはできないけれど頭を優しくなでる動作をし続けた。

唯が泣き止むその瞬間まで、ずっと。

その姿はまるで泣いている赤子をあやす母親のようであった。

 

 

 

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