次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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似ている人

ふと、声が聞こえた気がして、千沙は薄っすらと目を開いた。

覚醒しきっていない頭でなんとか聞こえてくる会話を拾おうとして、自分が眠っているのが自室であり、誰も入ることは許可していないことを思い出した瞬間、飛び起きて会話している人物たちを睨んだ。

 

「あ、おはよー、ししし」

「おはよう、昨日の格好のままだけれど、風邪なんて引いてないよね?」

 

病気にでもなって門外顧問の戦いが出来ませんなんて馬鹿な話にならないでほしいというのを理解した千沙は、無断で他人の部屋にてくつろぐヴァリアー幹部の二人に質問をした。

 

「……おはようございます、何か御用で?」

「まぁ、そう警戒しなくてもいいじゃん、敵の敵は仲間っていうだろ?」

「ボスが君を呼んでいるんだ、僕らはその迎えだよ」

 

軽薄そうな雰囲気の前髪が長い金髪少年が片手を振りながら千沙が彼らに手を貸している一つの理由を出してきて、帽子で顔の半分が隠れ体を文字通り浮かせている赤ん坊が用件を告げた。

千沙は自身の武器の確認を目だけでしながら、目の前の仲間らしい人物たちに向かって口を開く。

 

「……着替えるから、外で待っていてくれ」

 

ため息交じりに出てきた言葉に、千沙の前にいる人物たちは顔をあわせてそれもそうかと素直に外に出てくれた。

 

(意外に素直?)

 

朝っぱらから嫌な目覚めだと思った千沙はほんの少しだけ彼らへの認識を改めながら、生乾きの服を脱ぐのだった。

 

 

 

 

**

 

 

 

 

「遅い」

「申し訳ありません」

 

開口一番の不満に千沙は頭を下げて丁寧に謝罪した。

威圧感たっぷりに千沙を見ていたザンザスは机に足を置いて、太ももあたりで手を組むと改めて千沙の方に視線を向けて告げる。

 

「頼まれていた武器だ、受け取れ」

「ありがとうございます」

 

ザンザスの隣に控えていたレビィが千沙の前にやってきて黒い袋を渡し、またザンザスの傍に控える。

それを受け取った千沙が礼を言うと、もう用はないと手で払うジェスチャーをされたので千沙はもう一度お辞儀をして部屋を出る。

 

「あ、終わった?」

「……なんだ?」

 

部屋を出て正面の壁に腕を組んで千沙を待っていたらしい前髪の長い少年…ベルフェゴールがニヤニヤしながら千沙に近づく。

それに気味の悪さを感じた千沙は返事をしてしまった数秒前の自分を呪った。

 

「いや、実はさ、日本に来るのって滅多になかったんだよね、だから案内してくんない?」

 

この時千沙はマフィアの娘としては有ってはならないほどわかりやすく顔をしかめただろう。

それを見たベルフェゴールがあの独特の笑い声をあげながら、千沙の腕を掴んで歩き出した。

 

「あの、了承した覚えはないのだが」

「ししし、別に減るものは何もないし、いいじゃん」

「今明らかに嫌な表情をしてたのわかるよな?」

「だから、俺にとって減るものは何もないからいーの!」

 

なんとも自分勝手すぎる意見で千沙と外に出ようとするベルフェゴールの手をなんとかほどこうと千沙は腕を思い切り振ろうとしたが、そこで気づいた。

こんな場所に来るのだから準備はしっかりとしてきたし、持ち物の忘れ物はないと思っていたが千沙にしては珍しくいつも使っていた得物を家に置いてきてしまったのだ。

 

(これ貰うからって持ってこなかったんだっけ)

 

肩にかけている黒い袋をちらりと見て、千沙はため息を吐いた。

本来ならば、今日はこの後、この袋の中にある武器に慣れる作業をする予定だったのだが、これではそれもできないだろう。

 

(……ん?いや、待てよ?むしろこれを理由に出来ないか?)

 

千沙はひらめいた、この武器と自分が彼らにとっての敵にとっての敵である仲間だということを混ぜ合わせて理由にすれば少なくとも予定していたことはできるのではないか、と。

すでに建物の外に出てしまったことに今気づいた千沙は慌てて今計画したことを実行に移すことにした。

 

「あ、あの、ベルフ、ベルフェゴール殿、私には大事な戦いがあるんだ」

「ああ、あの弱そうなやつね」

「そ、そうだ!その弱そうなやつを完膚なきまでに叩きのめすための武器を今日、君のボスから受け取ったんだ」

「あ、ボスの用事ってそれだったんだ、ボスの気まぐれもよくわかんねぇなー」

「それなんだが、何分初めての武器でまだ慣れていないんだ、よければ今日は私の用事に付き合ってもらえないか?どうせベルフェゴール殿のことだから今日の戦いで大した怪我なんてしないだろう?明日こそベルフェゴール殿の観光案内を引き受けようと思うがどうだろう?」

 

そこでようやくベルフェゴールの動きが止まった。

しばらく正面を向いたままだったかと思うと、急に千沙の方に振り返ってその顔を半分覆う前髪越しに千沙を見つめる。

 

「……ど、どうだろうか、ベルフェゴール殿」

 

念押しに千沙が言うと、何を機嫌悪くしたのかわからないが舌打ちをしたので千沙は次の言い訳を考えるために思考を回転させ始める。

 

「そのさ」

 

しかし、ベルフェゴールの声に思考が一瞬止まり、彼の言葉を聞き漏らすまいと千沙は身構えた。

 

「ベルフェゴール殿っていうの、やめない?長ったらしいし、さっき噛みそうになってたじゃん」

「そ、それは……しかし、それならどう呼んだら……」

 

彼が何に対して怒っているのかイマイチ察することの出来ない千沙は首をかしげるばかりだ。

そんな千沙をしばらく見ていたベルフェゴールは何かを理解したのか一つため息を吐く。

 

「……ベルって呼べよ」

「は?」

「俺もあんたのこと、チサって呼ぶから」

「いや、そういう問題では」

「それじゃあ、行くよ、チサ」

 

また千沙の腕を掴んだまま歩き出してしまったので千沙はそれに従いつつ、困惑するしかなかった。

 

 

 

**

 

 

 

ベルが千沙を連れてやってきたのは並盛町の裏山。

 

(確かここは、恭弥が特訓をしていた場所だったような…)

 

「ここなら、邪魔は入んないでしょ」

 

ベルの言葉に千沙は思わずベルの背中を見た。

千沙の腕を話し、両腕を頭の後ろで組んだ彼は千沙の方に振り返って、しししと笑う。

 

「ほら、出しなよ、それ」

 

ベルは自分の得物であるナイフを器用に投げてはキャッチする動作を片手で行いながら視線で千沙の肩にかかっている黒い袋を指した。

千沙はそこでようやく自分の要求が通っていたことを理解し、慌てて黒い袋から武器を取り出した。

 

「へぇ」

「希望通りの形で安心したよ」

 

ベルが興味深そうに千沙の持つ武器を見て、千沙も自身が希望したとおりの形状の武器が届いたことにホッと息を吐いた。

千沙の武器はボンゴレの技術による特殊加工でとても軽いのに頑丈、さらには緩やかなL字型で筒状になっており、多様な戦術が期待できる形だ。

しかし、難点が一つ。

 

「……鉄パイプ、だな」

「まぁ、元々鉄パイプが私の武器だったからな」

 

見た目は完全に工場などにある鉄パイプそのものであり、長さは千沙が立った状態で鉄パイプを地面に立てたら頭一つ分長いというもの。

色は銀色。

間違うことなく鉄パイプだ。

 

「それ、強いの?」

「棒術はそれなりに……だが、鉄パイプでこの長さは初めてだがな」

「だよなぁ」

 

ジロジロと千沙の鉄パイプを見るベルに、千沙はなんとなく得意な気持ちになってさらに武器の説明を始めた。

 

「しかし、この形状でこの長さにこそ意味はあるのだ!長年棒状のものは様々扱ってきたがやはり鉄パイプの凡庸性は高い!ただの棍棒を扱ってもいいが、鉄パイプの良さは使ったものにしかわからないのだが、あえて説明するならなぁ!」

「あーわかったわかった、とりあえずそれ、慣れてないんだろ?早く始めようぜ」

 

ベルがナイフを構えたので、千沙は慌てて口をつぐんで鉄パイプを構えた。

 

「そっちからどうぞ、お姫様」

「ほざくな」

 

ベルの言葉に苛つきながら千沙は地を蹴り、近くの茂みに飛び込んだ。

ニヤニヤとしながらベルは周囲の微かに感じる千沙の気配を探ろうと集中する。

千沙は木々の間を、音を立てずに走りながらベルの様子を伺い集中の途切れる瞬間を待つ。

フェイントばかりの千沙の動きにベルが先読みをしてナイフを投げる。

 

 

「譲ったくせに先手取るんだ、王子様」

「焦らしプレイってあんまり好きじゃないんだよね」

「お気がお短くていらっしゃるご様子で」

「ムカつく」

 

ベルの額に青筋が浮かぶ。

すぐ近くにいるはずなのに姿が見えず、先程のナイフも空振りになったことも相まってベルの苛立ち度はウナギ登りだ。

それでも千沙の動きが止まることはない。

できる限りベルの集中を切らすように、煽るように時々近くを通り過ぎてはまた離れるのを繰り返す。

 

「うろちょろと…!」

 

苛立ちが増していたベルのナイフが千沙のそばにある木に刺さったかと思えば、今度は後ろにあった木に刺さる。

 

「うざいんだよ!」

 

全方向にナイフを飛ばしたベルは視線を忙しく動かして千沙の姿を探す。

張り巡らせたワイヤーの音に耳を澄ませる。

しかし、音も姿もどこにも見当たらない、気配すら。

 

「たまには空を見上げる癖つけたほうがいいぞ」

 

一瞬、その声が耳元で聞こえたような錯覚を覚えたベルはすぐさま顔を上に向けようとした。

まるでスローモーションのようにゆっくりとベルの顔の動きに合わせて、ベルの真横に千沙が降り立つ。

その存在に気づいたベルが顎を少し引いたときには、既に千沙の得物がベルの首にくっつけられていた。

 

「案外、気分転換になるだろ?王子様」

「……しし、そうかも」

 

気づけば千沙を追い詰める予定だったワイヤーは千沙の得物に引っ掛けられており、その中心はベルの首の真横、少しでも千沙がその引っ掛けてある方向を変えればベルの首はすぐさま飛ぶだろう。

どうしようもないことを悟ったベルは、持っていたナイフを手から離すと、その場で両手を上げた。

 

「……参った、やるじゃん」

 

ベルの言葉を聞いた千沙はすぐさま隠し持っていたナイフで素早くワイヤーを切り、ベルの拘束を解除し、鉄パイプを地面に刺す。

それを見て袖に隠していたナイフで近くのワイヤーを切ったベルに千沙は片眉を上げたが、すぐに後方に飛んだ。

先程まで千沙のいた位置に一本のナイフが刺さる、軌道から察するに千沙の心臓をめがけていた。

他のワイヤーは全て切られているので、これで正真正銘ベルの攻撃手段はなくなって、ベルは今度こそ両手を上げて、その手を振った。

 

「伊達にマフィアのお姫様やってないってわけね」

 

上げていた両手を首の後に回してにししと笑ったベルに千沙は眉をひそめた。

 

「そのお姫様というのやめろ、あまり好きじゃない」

 

鉄パイプを地面から抜いて、ズボンに入れていたハンカチで汚れを軽く拭き、持ってきた時の袋に入れると、それを背負う千沙。

 

「いいじゃん、俺、王子だし」

 

何がいいのか千沙にはさっぱりだったが、おそらく千沙が本来所属しているファミリーの一人娘であることから似たような血筋と思ってのことだろうと当たりをつけ、ため息を吐く。

 

「……お前のそれと私は違う、私は二つ名、お前は本物だろう」

 

顔をそらし、そのまま背中も向けて千沙は歩き出す。

一方、ベルの方はキョトンと千沙の背中を見ていたが、すぐに笑ってその背を追った。

 

 

**

 

幹部だけが使用できるダイニングにて。

木造のテーブルを向かい合うようにして座っているベルと千沙は、ミートソースパスタを食べていた。

 

「姫って、マフィアの娘だよね?」

「急になんだ」

「いや、食べ方が綺麗だなって思って」

 

肘を立てて手に頭を載せながら千沙を見つめていたベルの言葉に思わず食べる手を止める千沙。

自分の手に持っているフォークとスプーンを交互に見て首をかしげる。

 

「そうか?普通だと思うが」

「そりゃ、いいところの人ならその食べ方が普通だし、俺だってその食べ方のほうがしっくりくるけど…俺達よりも下の暮らし、もしくは育ちが悪けりゃそんな食べ方しないって」

 

しししと笑いながら千沙と同じような食べ方でパスタを口に入れるベル。

それをジッと見ていた千沙だったが、昔唯と一緒にお昼ご飯を食べた時のことを思い出した。

 

(そういえば…)

 

意識から外れかけた眼の前のベルに、千沙は改めて意識も視線も向ける。

 

【ちーちゃんの食べ方、とっても綺麗!】

 

キラキラした表情で幼い千沙の食べ方を褒めてくれた幼い唯は、それから千沙の真似をして食事を続けていたけれど、やはり慣れていないせいか、いつもの食べ方より余計に汚くなってしまっていた。

まさか褒められるとは思っていなかった当時の千沙は、今ベルをジッと見ているのと同じように唯を見ていたけれど。

当時はなんとなくそれが恥ずかしく、唯と違う食べ方をしているのがなんとなく嫌だったので唯の食べ方を真似てみたが、結局お互いに慣れないことをしてテーブルを汚し、千沙の世話をよくしてくれた人に二人して怒られてしまった。

けれど、今、千沙の心には理由が不明な恥も嫌悪もない。

 

(……似てる?)

 

自分と同じ食べ方をしているベルは、やはり王子として食事のマナーを叩き込まれてはいたのだろう。

自然とできている所作がそれを物語っているし、なんら不思議な事はないはずだ。

けれど、何故か今、ベルと幼い唯の姿が重なった。

自然と口元が緩む。

 

「あれ、どうしたの?」

「ん?」

「いや、急に笑ったから……これそんなに美味しい?普通ってか、少し不味いくらいだと思うけど」

 

不思議そうに首をかしげるベルがまたもや幼い唯と重なる。

 

(そうだ、あの時もジッと見すぎてゆっちゃんは首を傾げていた、それに言葉も……)

 

何故か先程から重なりまくるベルと幼い唯に、千沙はとうとう吹き出してしまった。

それにぎょっと驚くベル。

 

「え、何、怖いんだけど」

「いや、何……少し、似ていたんだよ」

「誰に?」

「好きな人に」

「へ?」

 

間抜けな声を上げたベルに、千沙は今度こそ声を上げて笑ったのだった。

 

 

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