夜 並盛中学校 校舎内にて。
千沙は獄寺が来ないと周りが騒ぐ中、見慣れた廊下を無表情で眺めていた。
「どうやら対戦相手は来てないみたいだね」
マーモンが呆れたようにさっさと終わればいいと呟く。
「う゛ぉおおい!!怖気づいて逃げたか!」
ワクワクした表情で相手を罵倒し、今か今かと待ち構えるスクアーロ。
「逃げてどうすんだか…どうせリングの争奪戦に負けたら、みんな消されんのに」
ね?姫、とベルは千沙に顔を向けて同意を求めるが、千沙の状態は先程から一切変わっていない。
学校の時計が十一時を指したら獄寺を失格とし、ベルが不戦勝となることをチェルベッロが告げて綱吉たちが焦るがそれすらもどうでもいいのか千沙の目は足元からそらされることはない。
「綱吉…」
ふと聞こえてきた声に、千沙は咄嗟に視線を綱吉たちの方に向ける。
そこには不安そうに綱吉を見る唯の姿があった。
「…ゆっちゃん…」
自然と手が上がりそうになった自分に気づかずに千沙が唯に向かって手を伸ばそうとした時、その手を掴む人間がいた。
しかし、千沙の視線は唯から外されることはない。
「姫、どうしたの?」
首を傾げて千沙の視界を埋めるように千沙の手を掴みながら顔を覗き込んだベルに、尚も千沙の目がベルと合うことはない。
返事のない千沙をしばらく見つめていたベルだったが、千沙と同じ方向に顔を向けて、また沈黙する。
11時まで、あと少し。
唯が不安そうに時計と綱吉を交互に見ている。
「…私は、君だけを見ているのに…」
「え?」
ベルが振り返って千沙を改めて見ると、その目には涙が浮かんでいて思わず掴んでいる手を強く握ってしまった。
しかし千沙はそんなの気にもとめずに、相も変わらず唯だけを見ている。
一切交わることのない千沙と唯の視線に気づいたベルが、口を開いた時だった。
外から聞こえてきた爆音に、ベルの声がかき消される。
獄寺が到着し、綱吉側は喜びと安堵の声を上げて獄寺を囲んでいた。
「ん?ベル、何故私の手を…?」
先程の爆音で思考が現実に戻ってきたのか、自身の手を握るベルの手を見つめている千沙が首をかしげる。
それを見たベルはすぐに「ししし」と笑って手を離す。
「姫の手、姫らしくないなぁって珍しくなっちゃっただけ」
「らしくないとはなんだ、それよりも、ルール説明が始まるから静かにしろ」
「はーい」
ベルは独特の笑い声を発しながら、チェルベッロの方に体を向けた。
そんなベルを横目に、千沙は唯の方をちらりと視線をよこしたが、今度はベルと同じようにチェルベッロの方に顔を向ける。
チェルベッロのルール説明後、予期しなかった観戦者、シャマルの乱入もあったが、戦闘の準備が始まった。
円陣の提案を恥ずかしがって断った獄寺に「みんな繋がっているから」と綱吉の方から提案され、それに感動した獄寺がそれを受け入れる。
「ほら、村さんも!」
「え?」
「村さんだって、俺達の仲間だよ」
「そーら、入った入った!」
「わわ、お、押さないで…!」
自分は守護者ではないからと輪から外れようとした唯を綱吉が見つけて声をかけた。
仲間という単語に唯が驚いて固まったところをすかさず山本が円陣の中に入れたので、唯はそのまま流れに任せて山本と綱吉と肩を組む。
「獄寺ー!ファイ」
「「「「「おー!」」」」」
廊下に五人の声が響き、一連の流れを見ていた千沙の瞳が揺れたことに気づいたベルが、幹部たちの後ろに行こうとしている千沙の腕を掴んだ。
「どうした?」
目を見開き、ベルと視線が合う千沙に、ベルはニヤリとして手を握った。
「……ベル?」
握っている手と手を不思議そうに見つめていた千沙に、ベルは「よし」と言って握っていない方の手で千沙の頭をなでた。
「は?」
「俺、絶対勝つから、明日の昼、また一緒に食べよう」
それじゃ、とパッと手を離して指定された位置に歩いていったベルを千沙はぽかんと見つめていた。
「珍しいね、ベルが約束するなんて」
「なんだぁ?アイツ」
隣で眺めていたマーモンとスクアーロの言葉を聞きながら、ゆっくりと千沙は先程までベルと繋いでいた自分の手を見る。
何かを確かめるように握っている力の強弱をつけていたベルは、どこか安心したように笑っていた気がする。
千沙にはそう見えてしまって、けれど、彼が何に安心したのか理解できずに。
(この戦いで…わかるだろうか…)
画面越しに見るベルの背中が、何故か、大きく見えた。
お久しぶりです。
投稿がしばらく休んでしまい申し訳ありませんでした!
仕事の方が忙しくなってしまい、投稿するのが難しく、毎週するのができませんでした。
前にも投稿が途切れてしまったことがあり、その時も同様の理由でした。
今後も予告なく投稿が途切れることがありますので、読んでいる皆様にはご迷惑をおかけします、ごめんなさい。
次の投稿は来週の予定です。
では、では!