次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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嵐の戦い 2

ベルの怒涛の攻撃に防戦一方の獄寺。

マーモンが嵐のような風の中、ナイフを確実に相手のいる場所に飛ばすことができているベルを称賛するが、千沙にはわずかに見えた照明による光で、ベルが獄寺にワイヤーを仕掛けたことに気づいた。

 

(このままならば、ベルの勝ちか…あっけないな)

 

おそらく他の幹部たちも気づいているであろうその仕掛けを、獄寺が気づかない限り、獄寺に勝算はないと判断した千沙は、試合開始前に言ったベルの言葉を考える。

 

(わざわざあの時約束する理由はなんだ…)

 

「動きが止まったぞ」

 

スクアーロが獄寺の映っている画面を眺めながら呟いた。

それで千沙は画面に改めて視線を戻し、何かを考え込む獄寺を見てすぐに先程の考えを改めた。

 

(…気づいた)

 

獄寺が人体模型を盾にし、ベルの仕掛けを見破り、さらには新技のロケットボムでベルへの反撃を成功させた。

これで勝算は五分五分かと、千沙は目を細めたが、幹部たちの言葉に首を傾げた。

 

「ベルのやつ、無傷ではないだろう」

「ということは、あれが始まるね」

「おぞましいぜ」

「…何が始まるんだ?」

 

一人だけ状況についていけない千沙が聞けば、マーモンは驚いたように千沙を見た。

 

「君、ベルと手合せしたんじゃないの?」

「その時は、お互いに無傷だった」

「…なるほどね、ベル、手加減したんだ」

「それは」

「じゃあ、見てれば分かるよ」

 

手加減をしたということろに反論しようとした千沙を無視して、画面に視線を戻したマーモン。

納得がいかないまま、爆発による煙が晴れてきた画面を千沙も見る。

現れたベルは大怪我とはいかないものの、ところどころ焼けており、頭からも少し血を流していて、無事とは言えなかった。

しかし、何よりも千沙を驚かせたのは、そんな中で不気味に笑っているベルの表情。

 

「あ゛あ゛~、流しちゃったよ、王族の血を~!」

 

まるで惜しむように、しかし、体全体で快感を味わうかのように体全体を動かすベルはまさしく狂気そのもののように見えた。

 

「始まるよ、プリンス・ザ・リッパーの本領が」

 

マーモンの先程の言葉と合わせて聞いて、千沙は理解した。

 

(…ああ、あの時…)

 

千沙と手合わせの際は、ベルは積極的に動くことはしなかった。

それは彼の戦闘スタイルではあるのだけれど、今回獄寺にしたような仕掛けは千沙にはされていなかった。

時間がなかったのではなく、ただの手合わせで殺す気はないからしなかったのだろう。

何にせよ、千沙の武器が鉄パイプであったことも関係していたかもしれない。

最後に怪我を覚悟で攻撃することも可能だったはずのベルがそれをしなかったのを、千沙はその後に控える獄寺との戦闘のためだと思っていたが。

 

(…私を戦闘不能にしないため、か)

 

血を流し、キレてしまったらただの手合わせどころではすまない。

先程獄寺が図書室に逃げ込んだ際にも、ベルは「またかくれんぼ?」と言ったことから記憶そのものはあるのだろう。

しかし、キレてしまったら制御ができないのかもしれない。

相手を殺すことしか考えられないことを。

策を巡らし、ナイフとワイヤーを先の展開を読んだ上で投げられてしまうのは、千沙の戦闘スタイルでは厳しい。

現に獄寺も、ワイヤーが張り巡らされた図書室での行動ができなくなっている。

獄寺の状況が、もしも自分だったらと考えた千沙は遠距離武器を持っていない自分では確実にこの勝負は負けだと判断した。

 

(それで手加減か…これで獄寺は…)

「まだ、終わってない」

 

凛とした声がその場に響き、千沙の耳にも入る。

その場にいた誰もが、その声の主に視線を向ける。

 

「ししし、おしまい!」

「……お前がな」

 

画面から聞こえてきた声を聞いて今度は誰もが画面の方を見たが、千沙だけは先程の声の主である、唯から視線が外せなかった。

この場にいる全員の視線を集めながらも、画面から一切視線をそらさなかった唯は、他のメンバーが獄寺の快進撃を見て驚く中、全く動揺した様子は見えない。

 

(なぜ、そこまで…)

「さしものベルも、落ちたね」

 

マーモンの言葉で、千沙の視線が画面に戻る。

千沙の頭の中に試合開始前の言葉がフラッシュバックした。

 

【俺、絶対勝つから、明日の昼、また一緒に食べよう】

 

画面に映るベルは、ボロボロで黒焦げだ。

もうここから逆転劇、というのは厳しいだろう。

幹部たちが諦めているのだから、本当に望みは薄い。

 

【また一緒に食べよう】

【食べ方が綺麗だなって思って】

【それじゃあ、行くよ、チサ】

 

ベルと会話をし、時間を共に過ごしたのは今日が初めてだった。

それなのに浮かんでくる言葉たちに、姿に。

 

「…まだだ」

「え?」

 

隣にいたマーモンが千沙を見て、口を少し開けた。

先程まで、唯に対して抱いた疑問や感情が今の千沙にはない。

ただ真っ直ぐ、思うことは一つ。

 

「まだ、終わってない」

 

これで終わってほしくはない、という願望のみ。

そんな千沙の言葉に答えるかのように、獄寺のリングを掴んだベル。

 

「勝つのは俺!」

「ベル…!」

 

そのままの勢いで獄寺に馬乗りになり、掴み合いになるベルと獄寺。

思わず名前を呟き、口をあんぐりと開けた千沙の横でレヴィとマーモンが予想する。

 

「ベルのやつ、まだやれたのか」

「いや、今彼を動かしているのは勝利への執念、負けを認めない王子の本能だ」

 

チェルベッロから改めて、時間経過による爆発の知らせが入ったことから、このままの状態が続けば両者爆発によりただでは済まない状況になることがわかった。

綱吉側から早めに勝負を終わらせることを急かす声が上がるが、そんなことは獄寺、そしてベルも理解している。

それでもお互いに消耗してしまった体力と勝利への執念により、チキンレースとなってしまった。

 

「ツナ、どうするんだ」

 

リボーンの言葉に唯と綱吉は戸惑ったようにリボーンを見る。

 

「え?どうするって…」

「やむを得んな、リングを敵に渡して引き上げろ、隼人!」

 

冷静なシャマルの言葉に、放送でシャマル達の声が聞こえている獄寺が「ふざけんな!」と反論する。

 

「こんなもんでやられんのは馬鹿げている」

「1勝3敗じゃもう後がねぇ!致命的敗北なんだ!」

「お前の相手はもう壊れちまっているんだ、もう勝負になっちゃいねぇ!戻るんだ!」

「手ぶらで戻れるかよ!!これで戻ったら、十代目の右腕の名が廃るんだよ!」

「獄寺君、そんなことを!」

 

綱吉が嘆くがそんな事を気にしている暇が今の獄寺にはない。

そんな様子を見つめていた千沙は先程からマーモンとシャマルの言葉が頭の中で響いて仕方がなかった。

ベルはもう壊れている。

先程シャマルが発したことは、事実であるし、マーモンの言った執念のみで動いているというのも本当だ。

それでも、千沙は考えずにはいられないのだ。

 

「…ベルが、リングを譲ることは、しないのだろうか…」

「ありえないね、今のベルに敗北という言葉は存在しない」

 

間髪入れずにマーモンが千沙の言葉を否定する。

画面に映るベルを千沙は瞳を揺らしながら見つめる。

 

「…だけど…あれでは…」

【また一緒に食べよう】

(たとえ勝てたとしても…)

 

この勝負をベルが勝ったとしても、次の日のベルはおそらく医務室から出ることも難しい重傷者として治療を受けることになるだろう。

ヴァリアーの幹部であるから回復そのものは早いだろうが、半日はベッドの上で過ごすことになるはず。

そうなれば、勝負前にベルが勝手に約束してきた昼食の話はなかったことになる。

 

(…また…無かったことになるのか…?)

 

千沙の脳内に、幼い唯が申し訳なさそうに背を向けて去っていく姿が浮かぶ。

あの時も、千沙は唯が特別な友人関係であったことを無かったことにされていたのだ。

それが今日に至るまでの千沙にとって、トラウマとなっていて。

だからこそ、千沙は誰かを特別に想うのは唯だけと決めていたのだ。

他に特別を作ってしまったら、もう千沙の心は完全に壊れてしまうとわかっていたから。

だが、それを無視して千沙の特別になりかけている男が一人、画面の中にいる。

会話をして共に過ごしたのは今日が初めてで、たった半日しか一緒に過ごしていない、そんな男だ。

けれど、どうしても千沙の中にある何かを刺激してやまないのだ。

狂気を帯びた笑みを浮かべては、この勝負の勝利にしか執着していない様に見えるあの男が。

千沙は、湧き上がってきた感情のままに叫んだ。

 

 

「「ふざけるな!!」」

 

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