「千沙……?」
聞こえてきた男子の声に、その場にいた綱吉・唯・獄寺・山本の四人は顔を青ざめた。
「……きょうや?」
泣いているせいで舌っ足らずになってしまっている千沙にそれまでヴァリアー隊員を倒してここまでやってきた並盛馬鹿がバーサーカーに変化した。
「……泣かせたのは君?」
トンファーを構えてベルに近付こうとする雲雀に千沙は何をしようとしているのか理解して慌てて涙を拭いて雲雀の前に出た。
「ま、待て恭弥!これは私が勝手に泣いているだけだ!」
相棒である自分が泣かされて怒っていると判断した千沙はすぐさまベルを庇う。
何故雲雀がここにいるのかはわからないが、大方、並盛中が破壊されていることに気づいていて今日文句を言いに来たのだろうと予想した千沙は自分がここにいることをどう言い訳しようかと考える。
「千沙、どいて、そいつを噛み殺すから」
「大事な友達が噛み殺されるってわかっていてどく人間はいないなぁ」
「何……?」
“大事な友達”というワードを聞いてピクリと肩を震わす雲雀。
その様子をみて何かを察した千沙はニヤリと笑う。
「そうさ!恭弥、君は今自分がどんな状況にあるかわかっていないみたいだな」
「どういうこと?」
「君は物事を単純に見すぎるところがある、それは良いところではあるが悪いところでもある!いつも言っているだろう?物事はもっと複雑であると!」
首を傾げ不思議そうにトンファーを持つ手を下ろした雲雀は千沙に視線で続きをすすめる。
「今回君はここに、校舎を壊され文句を言いに来たのだろうがそれは早計というものだ、何せここでは君の望む戦いができるかもしれないのだからね!」
「彼らは侵入者だよ?噛み殺したっていいはずだ」
「わかっていないなぁ、さては君、戦ってくれたあのお兄さんから何一つ聞こうとしなかったな?今ここで行われている戦いがどういうものなのかってことをさ!」
両手を大きく広げ、演説をするかのように千沙は雲雀に語る。
「今回、私が参加しているこの戦いでは、2つのチームに分かれている、一つは君が嫌う小動物、沢田綱吉が率いるチーム、そしてもう一つは私が所属するマフィアチームだ」
正確にはどちらもマフィアチームであるし、決して千沙の家が中心のマフィアというわけでもないのだが、説明をする時間も惜しい今はこれが手っ取り早い表現だった。
「君は知ろうとしなかったからわかっていないかもしれないが、今、現在、私と君は敵同士にある」
「……僕があの小動物のチームってこと?入った覚えないけど」
「君は覚えがなくとも、君のその、服の中に隠れて見えないリングを受け取った時点で沢田チームに入ることを受け入れたということになっているんだ、相手はしっかりと説明してくれたはずだよ」
雲雀のポケットを指した千沙の言葉に、雲雀はポケットからハーフリングを取り出す。
グッとそれを握るとチェルベッロの方に体を向けようとしたので千沙がすかさず声を発する。
「待った!それを返したとしても君にとっては損にしかならない」
「……千沙と同じチームでない時点で損しかないよ」
真っ直ぐな雲雀の言葉に一瞬千沙は言葉を詰まらせたが、現状雲雀を説得できる適任は自分しかいないのでなんとか耐えて言葉を続ける。
「君の相棒として、大変嬉しい言葉ではあるがもう少し話を聞いてくれ、恭弥、お前は六道骸との再戦を望んでいただろう?」
雲雀の動きが止まり、期待した目で千沙を見た。
「できるの?」
「可能性は低いがゼロではない、お前の立ち回り次第になるが」
「……校舎の修繕は?」
「あそこの女性たちが責任を持って行ってくれるらしい、そうだろ?」
千沙に問われてすぐにチェルベッロは頷いた。
「はい、我々が責任を持って全て修繕し、元通りにします」
全く迷いのない答えに雲雀はしばらく考え、そして改めて千沙を真っ直ぐに見た。
「君と敵同士であることに意味は?」
「あまりないが……そうだな、味方であるよりも動きやすくなる、君もいつもいっているだろう?群れるのは嫌いだと、ならばそれを今回は尊重しようじゃないか」
真っ直ぐに千沙を見続け、言葉を聞いていた雲雀の目が見開き、口も少し開いたがグッと結ばれ三日月のように口の端を上げた。
「そう……なら、好きにするよ」
そう言って去っていった雲雀がいなくなったのを見て千沙はすぐさまベルの方に視線を向けると、力尽きたのか気絶していた。
よくよく考えれば当然であり、ベルは先程爆発に巻き込まれてあちこちを怪我しているのだ、早急な治療が必要だろう。
先程、明日の対戦が雨の守護者であることと集合時間も聞いたので千沙にとってここにはもう用はない。
「ちーちゃん!」
ベルを背負って立ち去ろうとした千沙を、唯が呼び止める。
今の千沙にとって最優先はベルであるため立ち止まる必要はないが、千沙の心が唯の言葉で咄嗟に足を止めた。
「あ……その……」
「……ゆっちゃん、私は、君と戦う日を楽しみにしている」
「え?」
言葉に迷っている唯を見て、千沙は努めて優しい声でそう告げた。
驚き聞き返す唯にクスクスと笑って千沙は続ける。
「不思議なんだ、君と戦うことそのものは嫌であったはずなのに、今は楽しみになっている」
目を伏せ、これまでのことを思い返し、穏やかに笑った千沙を唯は不安げに見つめる。
「まだ、答えは出せていない部分もある、君への気持ちや、その他に対する気持ち……けれど、このまま戦いが続けば決着がつきそうな気がするんだ、私も、君も」
千沙は唯の足元を見つめる。
「その日も近いとくれば、楽しみになるのも自分で頷ける……なぁ、ゆっちゃん、君はどうだ?どうか、その答えは私と戦うその日に教えてほしい」
だから今は、邪魔しないでくれ。
言外にそれを語る千沙は、すぐにベルを背負い直してその場を去った。
残された唯は千沙がいた場所を見つめ続け。
なんだか、不安になったのだった。