次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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精神世界にて

 

大きな雲が流れる青空と太陽の光を浴びてふんわりと優しい緑色に輝き揺れている草原の中、ぽつんと建っている家がひとつ。

柵で囲まれた木造の家は、玄関まで少し空間があり、そこが庭となっていた。

庭の右側には一本の楓の木があり、鮮やかな赤色の絨毯をその周りに作っており、木にもまだまだ紅色の葉がついている。

左側には木製のテーブル一つと椅子が2つあり、毎日使っているのか地面についている足以外に汚れは見当たらない。

そんな家の柵の前でボーッと唯はそれらを眺めていた。

 

「おや、これが貴方の世界ですか」

 

突然、後ろから声が聞こえてきたが唯は特に動揺することなくゆっくりと振り返る。

そこには、白いシャツに黒いズボン以外身につけているものがない、右目に六の文字を持つオッドアイが特徴的な青年が優しい笑顔で立っていた。

 

「あなたは……六道、骸さん、でしたっけ」

「はい、こうして出会うのは初めてでしたね、初めまして、六道骸といいます」

「沢村唯です、散歩ですか?」

「そんなところです」

 

綱吉からの話や自身で調べてはいたので目の前にいる人物がどういう人間なのか知っている唯は、自身でも驚くほど穏やかに会話をすることができていた。

警戒心を抱かせない天才なのか、それとも今の唯にとっては脅威ではないと無意識に思っているのか、その両方か。

今の唯にはわからないが、それを突き詰めて考えるのはなんとなく今は無粋な気がしたので、唯は深く考えることをやめて微笑み、家を指した。

 

「座るところもありますし、どうですか?」

「いいのですか?」

「不思議と今の貴方は平気な気がするんです、どうぞ」

 

柵の中に入り、その扉を開けて手招きする唯に拍子抜けしたように息を吐いた六道は呆れて微笑むが素直に受け入れて、柵の中に入り楓の木が見える方の椅子に座った。

残っている椅子に座った唯はサーッと穏やかに流れた風に揺れた髪が目に入らないようにと閉じる。

その様子を見ていた六道は「クフフ」と笑って楓を見た。

 

「とても立派なものですね」

「え?ああ、あれですか?あれ、祖母の家にあるやつなんですよ」

「ほう、お祖母様の?」

「私はおばあちゃんっ子だったので」

 

懐かしそうに目を細めて楓を見つめる唯をしばらく眺めていた六道だったが、フッと笑って頬杖をついた。

 

「不思議な御人ですね、あなたは」

「それは、どういう?」

「いえ、僕は貴方にとっては敵であるはずなのに、こんな場所まで招き入れて……奇妙な方だな、と」

 

大切なのでしょう?あの木も、この庭も、この家も。

 

一つ一つに視線を送りながらそう言った六道に、唯も同じ様に視線を向けて、六道に視線を戻す。

それからクスクスと笑ってしまったので六道が目を細めて首を傾げた。

その様子を見て、唯は笑いながら言う。

 

「すみません、ただ、今の私にとって本当に大切なものが何かを、貴方はわかっていない様子なので、つい」

「ほう?では、何かあるのですか?これらとは違う、別の大切なものが」

「ええ、ええ、ありますよ、けれど……それは、貴方が入ることのできない領域にあります」

「……なるほど」

 

六道は横目で家の中を観察し、木製の扉の向こうに広がる空間に不釣り合いな鉄の扉を見つける。

唯の言う六道の入ることができない領域とは、その鉄製の扉の向こうなのだろう。

こんなに穏やかで優しい世界が広がっているのに、さらに奥深くがある。

 

「随分と……厳重ですね」

「はい、大事な物ですから」

「どういうものかくらいは、教えてもらえますか?」

「いいえ?」

 

ニッコリと否定する唯をジッと微笑んで見ていた六道だったが、やがて「クフフ」と怪しく笑うと両手を組んで肘をテーブルに立てると、手の上に顎を乗せて、目を三日月のようにした。

 

「それは残念、けれど、安心しました」

「安心?」

「僕はこう見えて、寂しがり屋なのですよ、けれど、どうやら僕だけが知らない秘密というわけではないようで安心しました」

 

唯の表情から笑みが消え、困惑の色が浮かぶ。

それが愉快でたまらないというように口で弧を描く六道は続けた。

 

「入れていないのでしょう?その証拠に、あの鉄扉にはドアノブと思しきものがない……あれではただの鉄製の壁です」

 

息を呑み、固まってしまった唯に六道は「クフフフ」と笑う。

六道の言う通り、家の中にある鉄製の扉にはドアノブがなく、あるのは鍵穴のみ。

 

「そして、あなたのどこを見ても、ここから見える範囲でも、鍵はどこにも見当たらない……あなたもあの中を覚えていないのでしょう?」

 

なくしてしまったのでしょう?

 

まるで蜂蜜のように甘くとろけるような優しい声でそう問いかけてくる六道に唯は視線を外せずにいた。

まるで霧の中で迷子になったような気分になった唯は、なんとか目の前にいる六道を見逃さないように見つめ続ける。

 

「大丈夫、僕に任せてくれれば、あの扉を開けてみせましょう」

 

どこまでも怪しく、狂気を持った笑みのはずのそれが唯にはとても慈愛に満ちたものに思えて仕方がなかった。

六道のことは綱吉との一件があったので調べてはいた、だからこそ、きっと六道ならば言葉通りに壁となってしまったあの扉を開けることができてしまうだろう。

 

(このまま、任せてしまえば……)

 

カシャン、という音がその場に響いた。

 

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