次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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アラウディの提案

 

さわさわと涼しさをのせた穏やかな風の音が聞こえてくる。

誰かが焼いているのか、香ばしいクッキーの香りも鼻をくすぐり、ずっとここにいたいような気持ちになってきて。

もう一度寝てもよいのではないだろうかと思えるほどの温かさに、もう一度意識を手放そうとした山本に、突然鈍い音と共に強い衝撃が腹部を襲った。

 

「ぐふっ!?」

「ちょっと、雲雀さん!?」

 

驚いて思わず目を開けると、倒れている山本のすぐ横に雲雀恭弥と慌てている沢田綱吉の姿が。

 

「…ツナ、雲雀?」

「山本、大丈夫!?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 

ゆっくりと起き上がり、見渡すとすぐそばには先程唯と一緒に言った唯の祖母の家とその庭、それ以外は草原に囲まれており、大きな雲がゆったりと漂う青空が広がっているばかりだ。

建物に見覚えはあっても、直前までいたのは見晴らしの良い唯の祖母と祖父の眠る墓で…と考えたところで強い怒気を感じた山本はとっさにその場を飛んで雲雀から距離を取る。

すると、そこにはトンファーを振り下ろした状態の雲雀がいた。

 

「ひぇぇ!」

「あっぶねー…」

「さっさと僕を並盛町に帰して」

「いや、俺知らねーって!」

 

山本がなんとか落ち着きながら言うが、雲雀の戦闘態勢は崩れず、もう一打撃こようとしたところで、二人は自分たち以外の気配を感じ取り、同時に周囲を警戒する。

山本は立ち上がり、耳を澄ませ、雲雀は態勢をそのままに周囲に目を配った。

いきなり無言になった二人に綱吉だけが、「え?え?」と二人を交互に見て戸惑っている。

そんな二人に気づいているのか、わざとか、大きく草を踏む音が聞こえ、同時に三人はその方向に目を向ける。

 

「え、雲雀さん!?」

 

すると、そこには雲雀とそっくりな白髪の男性が立っていた。

綱吉の声も意に介さずに微笑んだ男性は口を開く。

 

「さすが、鍛えているだけはあるんだね」

「雲雀の親戚か?」

「知らない」

「どこかで血が混ざっている可能性はあるかもね」

 

クスクスと笑いながらそう言った男性は、改めて三人の顔を見て口を開く。

 

「初めまして、僕の名前はアラウディ、初代門外顧問だ」

「…あなたが」

 

綱吉と山本は唯のことを思い浮かべながら、目の前のアラウディをよく観察する。

雲雀も門外顧問と聞いて、すぐには出てこなかったものの、アラウディの瞳を見てピンとひらめいた。

 

「…君、沢村唯に似ているね」

「おや、初めて言われたよ、正解」

「…あ!確かに、髪の色と目が似てる!ん?正解って?」

 

アラウディの言葉に首を傾げた綱吉と山本、そんな彼にアラウディは微笑んで答える。

 

「あの子は僕の血を受け継いでいるのさ、それも、歴代で一番濃く、ね」

「それにしては、顔は全く似ていないみたいだけど」

「君は自分と同じ顔の女の子、気持ち悪くないかい?」

「……」

 

露骨に嫌そうな顔を見せた雲雀にアラウディはクスクスと、山本は口を抑えて方を揺らして笑った。

山本は女装した雲雀を想像したからだが、雲雀が想像したものと大差ない。

明らかに不機嫌になっている雲雀に怯えつつ、この状況で笑っていられる二人にも驚いているツナは声を発せずにいた。

二人が笑っているのを見てますます機嫌悪い顔になった雲雀は話を戻すためにトンファーを構えてアラウディを睨んだ。

 

「それで?早く僕を並盛町に帰しなよ」

「つか、ここどこだ?」

 

再び警戒心を高めた雲雀と、それに釣られる形で冷静にアラウディを観察する姿勢に戻した山本にアラウディは片腕を上げて、自分の背後にある家の方に招くように身体を少しだけ横にした。

 

「ここは、ざっくり言ってしまえば僕の精神世界、立ち話も疲れるだろうし、中に入りなよ」

 

詳しい話はそこで、と先に家の中に入ったアラウディを見送り、山本は思わず綱吉の方を見る。

綱吉も山本を見たが、意を決したように家の中に入った。

山本はそれに続くように歩き、雲雀の横を通り過ぎるときにちらりと雲雀を見たが、そのまま家の中に入る。

雲雀は二人を見送り、しばらく家の中をじっと見ていたが、このままでなんの変化もないと理解したのか、珍しく素直に家に入った。

 

 

 

*

 

 

靴を脱ぐような玄関は無く、すぐにリビングと思われる広い部屋であることに気づいた。

洋風の家ならば珍しくもない作り、アラウディも名前や見た目から日本人ではないことから、そういうことなのだと三人は納得し、庭につながる大きな窓の近くに、五人が座って食事するのに丁度良さそうな大きさのテーブルと椅子の1つに座っているアラウディが、三人が座れるように引いておいた椅子を手で指して、微笑んでいる。

 

「そこで立っているのも疲れるだろうし、座りなよ、クッキーもあるよ」

 

微笑んでいる、というよりもニコニコしているという方が正しいアラウディに、イライラしながらも座らない雲雀と、一応素直に従って椅子に隣同士で座った山本と綱吉。

 

「雲雀、多分だけど、話進まねぇから、座ってくれねぇか?」

 

な?と自分の隣の椅子を更に引いた山本もニッコリと笑い、しばらく考えていたらしい雲雀は深いため息をついていわゆる誕生日席となる方を引いて座った。

三人はアラウディが、こうなったことを話すのを待ち、それがわかっているのかクッキーを1つ齧ってそれを口の中から無くしてから、アラウディは口を開いた。

 

「……恐らく、予想はしているかもしれないけれど、君たちを呼んだのは、唯についてだ」

 

無言で続きを促す三人、特に驚きもしない雲雀と少しだけ目を見開いた山本と綱吉を見つめながらアラウディは続ける。

 

 

「単刀直入に言おう、どうか君たちには、唯の逃げ場所になってほしい」

 

 

 






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