「……え?」
「抽象的過ぎて分かりづらかったかな?言い方を変えよう、君たちに、唯の親友になってほしいんだ」
言い方を変えても突然のこと過ぎて綱吉は素っ頓狂な声を上げてから固まり、山本と雲雀はそれまでの警戒が少し薄れてしまうくらいには驚いていた。
そんな三人の反応も意に介さずに、真剣な表情のアラウディは先程までの穏やかな微笑みはどこにいったのか、容赦なく説明を始めた。
「デーチモと野球少年は知っていると思うけれど、幼少期の唯を取り巻く環境は酷いものだった、努力が認められることはなく、勘違いや自業自得な部分はあったものの孤独に過ごすことを余儀なくされていた」
「ああ、沢村の親父さんから聞いた」
当時のことを思い出したのか、目を伏せる山本と綱吉をじっと観察していた雲雀は、スッと視線をアラウディに戻して続きを促す。
それを受け取ったアラウディは1つ頷いた。
「そしてそれは、彼女の中で、人として当たり前であり、とても簡単で、そして大切なことを欠如させた」
「当たり前で、簡単で、大切なこと?」
「……人と素直に向き合って話し合うことだ」
「は?それは、できているだろ!」
一年前、屋上で自分と話をした唯は、しっかりと山本の目を見て話をしていた、そのおかげで山本の中で唯に対する勘違いが解消されたのだが。
それが、嘘だったのかと、考えて、そんなことはないと山本は首を振る。
だから、本人が思っているよりも大きな声で反論した。
雲雀も、自分の八つ当たりに真正面から話をしてきた唯を思い出して、山本の反論に同調して頷く。
あれを向き合って話し合うと言わずになんとするのか、と。
綱吉も、ダメツナと呼ばれてからも一緒にいてくれた唯のことを悪く言われた気分になってアラウディを睨む。
しかしアラウディは、しっかりと二人それぞれと目を合わせて言い切る。
「素直に、話をすることができていないんだ」
わざと区切ったところに三人は首をかしげる。
二人の経験から、あれが嘘の言葉とは思えない、素直な、唯の言葉であったはず。
綱吉としても、唯が必要時以外で自分に嘘をついたことは一度もないと信じている。
納得できていない三人にアラウディはもどかしい気持ちを感じながら質問をした。
「三人は最初、唯のことをどう思って話しかけた?」
「後ろの席で、少し怖い噂がある人」
「ツナの中学で最初にできた友達」
「……千沙の片思い相手」
「え、あいつそうだったのか!?」
「雲雀さん、知ってたの!?」
忌々しそうに答えた雲雀に違う意味でそれぞれ驚く山本と綱吉のことを無視して、アラウディは頷いた。
「それだよ」
「……なるほどね」
「え、何でわかったの!?」
一人納得した雲雀はアラウディを射抜くように見据える。
綱吉の問いも無視しているその表情は、よく観察すれば、なぜそんな面倒事を引き受けなければいけないのかと語っていた。
しかし、そんなことわからない綱吉にとってはただ雲雀に無視されただけであり、正解を求めるようにアラウディの方に視線を戻す。
続くように山本もアラウディに説明してほしいというように視線を投げる。
アラウディは山本と綱吉のことをまっすぐに見つめて、また問いかける。
「君達は最初、唯を見て、どう思った?そして、どう話しかけた?もう少し詳しく教えてもらえるかな」
「え?それは……」
「たしか……」
初対面時の唯のことを思い出しながら、山本はゆっくりと答えていく。
「大人しくて、噂に聞いているほど、悪そうなやつでもなさそう、とか……話しかけたのは、その、なんとなくだ」
「なんとなくでも、理由はあったはずだよ、ほんの些細なことでもいいから言って」
「ええ?そうだなぁ……ツナに似てて、危なっかしいなって……よくわかんねぇけど、そう思ったんだ」
だから話しかけたと締めくくる山本を見つめながら、アラウディは更に質問した。
「唯に関する噂って?」
「それは結構有名だったな、たしか……沢村唯ってやつはペテン師で、他人の純粋さにつけ込む悪人だって……沢村が小学生の時からの噂だったらしいから、なんか妙な信憑性があったんだよなぁ」
説明する山本の隣で大きく頷いている綱吉。
今度はそんな綱吉の方にアラウディは顔を向けて質問する。
「君はどうだった?」
「え?」
「君は話に聞くところ、とても臆病だろう?どうして、そんな怖い噂のある唯に話しかけたんだい?」
「それは……」
唯と初めて話をしたときのことを思い出しながら綱吉も山本同様にゆっくりと話した。
「その……体育のときに膝を怪我したって聞いたけど……誰も心配しているようには見えなくて……それで、話しかけたのが初めてだった、かも……?」
「どうしてそれで話しかけたのかな?怖い噂がある人間だったなら、そうなっていても話しかける必要はなかったはずだよ」
「え、でも保健室にも行った様子はなかったし、歩きづらそうにしていたから」
「それで、助けようとした、と?」
「はい」
真っ直ぐにブレることなく頷いた綱吉にアラウディは目を見開くが、隣にいる山本はどこか誇らしげに笑っており、雲雀は興味なさそうにそっぽを向いている。
そこに何も嘘はないと理解したアラウディは次の質問をした。
「それで、その時の唯に対する印象は?」
「えっと……ただの、俺と同じように友だちがいないだけの、ただの、女の子……って感じでした」
「ただの女の子、ね」
「はい、それで保健室まで一緒に行くと言ったら、なんでか泣き出して、不思議な子だなと思いました」
「……そうか」
目を伏せ、少し考えているらしいアラウディの沈黙に、綱吉は何か変なことでも言ってしまったのかと不安になって山本を見るが、山本の方もわからないので首を横に振られ二人でアラウディの言葉を待つ。
しばらく沈黙が続くと、やがてアラウディは顔をあげて、まっすぐに綱吉を見て告げる。
「デーチモ、あの子はね、そこの野球少年や雲雀恭弥のように噂や知人のことから何かしら構えて話しかけることをずっとされてきたんだ」
「構えて話しかける……?」
「悪い噂があるから、そうかもしれないと思って疑って話しかける、想い人の想い人であるから嫉妬の感情を持って最初から悪人と決めつけて話しかける、そのどれも構えた状態で話しかけているんだ、けれど、君は違う」
いまいちピンときていない綱吉に、アラウディはまるで眩しいものを見るかのように目を細めて続けた。
「君は、悪い噂はあったけれど、誰も心配もせず、本人は怪我で苦しんでいることから素直に話しかけて助けた、善意で話しかけられることが滅多にない人間にとって、それはとても眩しくて尊く、そして、安心感を覚えさせるんだ」
「……あ」
そこでようやく綱吉は理解した。
唯はずっと、それこそ綱吉と出会う前の小学校時代から悪人と噂され続けてきていた。
それによって、変な正義感を持った同級生や上級生などから、いじめにあうことだってあったかもしれない、いや、きっとそうだったのだろう。
そうでなくとも、基本的には誰からも相手にされずにいたのかもしれない。
そうされることが当たり前だった日常の中で、もしも善意だけで自分を心配してくれる人間が現れたなら、どう思うのか。
きっと、とてつもない感動と猜疑心によって複雑であっただろう。
だからこそ、その複雑な感情を処理しきれずに、思わず泣いてしまった。
それが、綱吉が初めて唯に話しかけたときの唯の行動の真相だったのだ。
綱吉は当時のことを、改めてしっかりと思い出した。
唯は、泣きながらしきりに【ありがとう、大丈夫です】【心配してくれて、ありがとう】と言っていたのだ。
必死に、一人で解決しようと、綱吉を近づけないようにしようと言葉にしていたのを綱吉は覚えている。
だから、綱吉は当時の唯にこう言った。
【怪我して無理しているのがわかっているのに、ほっとけないよ!】
【な、慣れているから、だ、大丈夫です!】
【こういうのは助け合いでしょ?えっと…沢村さん、俺の肩につかまっていいよ】
手を差し出した綱吉に、一度止めた涙をもう一度流しながら、ゆっくりとその手を掴んだ唯を当時は大げさな子だと思っていた綱吉だったが、アラウディの言葉であの反応は大げさなんかじゃなかったのだと理解した。
唯のほうが綱吉に対して構えた状態で話していたのも思い出した綱吉は、自分のしたことが彼女にとっては怪我の治療以上の助けになっていたのだと思って、口元が緩んだ。
そんな綱吉を微笑ましそうに見ていたアラウディは話を戻すために1つ咳払いをすると口を開いた。
「そんな君や、唯のこれまでの環境などから唯について気づいた二人にこそ、唯の親友になってほしいんだ」
真っ直ぐに三人を見据えて告げたアラウディに三人はデジャヴを感じた。