次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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勉強会

ヴェルデが家庭教師にやってきて一週間がたった。

あれからヴェルデの実験が本格的に開始して、初めての休日を迎えた唯は自宅のキッチンでコーヒーを淹れていた。

緑色の小さいカップと薄茶色の普通サイズのカップを用意して、そこにコーヒーを注ぐ。

薄茶色のカップにはミルクとガムシロップを二個ずつ入れて、緑色のカップには何も入れず、二つのカップをトレーにのせてリビングを出て、階段を上る。

すると、カタカタとパソコンを打つ音が聞こえてきて、なんとなく唯の口元が緩む。

 

(…朝からずっと作業しっぱなしだし、さすがにそろそろ休んだ方がいいよね)

 

ぼさぼさの緑頭を思い浮かべてクスクス笑うと唯は自室のドアを開けて、中にいる人物に声をかけた。

 

「先生、そろそろ休憩してはいかがですか?」

 

ヴェルデはパソコンから目を離さず答えた。

 

「休憩している時間があるなら作業を続けていた方が有意義だ、コーヒーもいらない」

 

香りでわかったのだろう、コーヒーを拒否された唯は少し寂しそうに笑うがすぐに気を取り直して「それじゃあここに置いておくので気が向いたら飲んでくださいね」とヴェルデ用に用意された小さいテーブルの上に緑色のカップを置いて、薄茶色のカップは自分の机に置いてトレーを箪笥の上に置く。

唯は自分の机の椅子に座ると、英語の勉強を始めた。

休日ではあるものの、この一週間で勉強の楽しさを知った唯は自主的に出された宿題をやるようになったのだ。

そんな唯の変化に唯を後ろから見ていた初代は微笑ましそうに見守っている。

部屋にはシャーペンの音とパソコンを打つ音が響く静かな時間が流れていく、一時間ほどたった頃だろうか、唯の携帯に電話が入った。

唯はかけてきた人間の名前を見ると首を傾げながら、通話ボタンを押す。

 

「もしもし、どうしたの、綱吉?」

『あ、師匠!今暇かな?明日の宿題やっているんだけどさ、わかんないところあって!』

「珍しいね、宿題を自主的にやるなんて…あ」

『…そうだよ、成績がやばいから宿題と同時に課題まで出されてそれやってるところだよ』

 

唯は心置きなく「バカだね」と笑うがそう言っている間に出かける準備を進める。

 

『笑わないでよ、自覚はしてるんだから』

「なら、前もって勉強しておけばこんなことにはならなかったって反論は受け入れるよね?」

『うぐぐ、まったくその通りです』

「それで、何の教科?」

『数学と理科』

「うわ、ザ・理系だね、綱吉の大嫌いな科目だ」

 

唯はリュックの中に理科と数学の教科書とノートを入れた。

 

『とにかくお願いします、師匠!』

「了解…そういえば、家庭教師が新しくついたらしいけどその人に聞けばいいんじゃないの?」

『それは…無理』

「ふーん、まぁ、詳しい話はそっちに行ってから聞くよ、それじゃあまたあとでね」

『ありがとう!』

 

電話を切って、上着を羽織った唯の背中に声がかかる。

 

「沢田綱吉か?」

「はい、勉強を教えてほしいと言われたので行ってきますね」

「なら、あれを飲め」

「え」

 

唯は思わずヴェルデを見る。

あれとは死ぬ気水のことである、あれを飲んで綱吉のところに行けというのだ。

 

(それなんて無茶ぶり…というか、まだろくにコントロールもできていないのに…!)

 

今まで使う機会は放課後などで人気のない場所でやったりだとか知り合いがいない場所でやったりなど死ぬ気水に慣れる特訓を行っていたというのにいきなり知り合いの、それもよりによって綱吉の前に出るなんて唯にとってはこれ以上にないほどの苦行である。

 

「そろそろ対人でも普通に会話ができるレベルになっておけ、これも訓練だ」

 

ヴェルデは何でもないように言うが唯はこの一週間の実験を忘れてはいない。

ある時は死ぬ気水を飲んでもいいから巨大ロボットを倒せと言われ死にそうになりながらもなんとか倒し。

ある時は死ぬ気水を飲まずに死なない程度の電流に耐えろと言われ。

他にも様々な実験という名の苦行をさせられてきた。

今日はそれがない休日だと思っていたというのに、まさかこんな形で苦行を言い渡されるなんて予想していなかった唯は泣きそうになる。

 

「なんだその顔は、早くいかなくては沢田綱吉が困るのではないか?友人を困らせてはいけないよなぁ?」

 

基本優しい性格の唯にその言葉は心にダメージを追わせるのに十分で、唯はグッと我慢して、けれどほんの少しの抵抗のつもりで死ぬ気水の入った小瓶をつかんでそれをリュックに入れるとそのまま「いってきます!」と言って自室を飛び出して、家を出ていく。

ヴェルデはそんな唯に慌てることもなく、ニヤリと笑って見送るだけだった。

 

 

**

 

 

綱吉の家に行く途中、唯は道の向こう側から千沙が歩いてくるのが見えたので、声をかけた。

 

「ちーちゃん、こんにちは」

「ゆっちゃん!こんなところで会うとは奇遇だな!何か出かける用事が?」

「綱吉…あーっと、同じクラスの沢田君と勉強会、今からその人の家に行くところ」

「沢田綱吉か?最近すごいって噂の絶えない?」

「そう、その彼」

 

千沙は何事か考え込んで何かを呟くと顔をあげた。

 

「その勉強会、私も参加していいか?」

「え?」

 

唯が思わず聞き返すと、千沙は少し寂しそうに「駄目、だろうか…」と言ったので唯は慌てて言った。

 

「そんなことないよ!でも、ちーちゃんって綱吉のこと知らないでしょ?気まずいかなと思って」

「そんなことはないぞ、私も前々から一度話をしてみたかったんだ、良い機会だと思ってな」

「良い機会?」

 

唯が首を傾げて千沙の言葉を繰り返すと千沙はにっこり笑って「気にしなくていい、こっちの話だ」と言ってから「それで、ついていってもいいか?」と続けた。

唯は少し考える。

綱吉としては恐らく千沙の来訪はあまり嬉しくないだろう、何せ知らない人だろうからだ。

けれど、唯としては初めて中学の友人の家に上がるのだから少し緊張もしているので千沙がいると何かと安心する。

綱吉の気持ちか自分の気持ちか、優先順位を考えた時、唯は即答した。

 

「わかったよ、それじゃあ行こっか」

「恩に着るぞ、ゆっちゃん!」

 

嬉しそうに笑う千沙を見て、唯は心の中で綱吉に謝罪しておいた。

 

 

**

 

「で、ついてきたと」

「ごめんね、綱吉」

「初めましてだな!私はゆっちゃんの幼馴染で寺田千沙だ!どう呼んでくれても構わないぞ」

 

綱吉は人見知りを発動させて少し居心地が悪そうだが、逆に千沙は輝かんばかりの笑顔で綱吉に握手を求めているのでなんだかシュールな光景だ。

一通りの説明を聞き終えた綱吉は唯をジト目で見たが唯はリュックから教科書などを取り出して視線から逃れようとしていた。

綱吉は少し迷った様子だが恐る恐る握手に応じて、千沙はそれを嬉しそうに握り返して振っている。

 

「さ、勉強の時間だよ」

「そうだったな、それで沢田君はゆっちゃんに何の教科を教えてもらうつもりだったんだ?」

「理数系、苦手なんだ」

 

千沙はその答えを聞いて「なるほど」と頷くが、すぐに首を傾げた。

 

「あれ?ゆっちゃんも理数系は苦手だったのでは?」

「そういえばちーちゃんには言ってなかったっけ、新しく家庭教師がうちに来てさ、その人の教え方が上手でね、今では理数系の勉強が楽しくって楽しくって!」

 

唯ははしゃぐようにそう言ったが、何故か綱吉は微妙な顔をし、千沙は少し笑顔を固まらせた。

そんな2人の様子に唯は首を傾げたが、後ろからかかった声に驚く。

 

「そいつは興味があるな」

 

振り返るとそこにはスーツ姿の赤ん坊がいた。

 

「リボーン!」

 

綱吉がそう叫んで何やら慌てているが唯はそんなリボーンの姿に既視感を覚える、というかつい先ほどまで一緒にいた存在とそっくりだ。

 

(この人が、先生が嫌っているリボーンさんか…)

 

唯は頭の中で数日前のヴェルデとの会話で、リボーンと出会った場合は絶対に自分の名前を出すんじゃないと言われたことを思い出す。

 

【どうして駄目なんですか?綱吉の家庭教師なんですよね?なら、同じ家庭教師仲間でもありますし…】

 

その時は言葉にしなかったがヴェルデのことを知っている自分以外の人間でヴェルデのことを聞けるチャンスとも考えていたがヴェルデがそれを有無を言わさずに拒否したのだ。

 

【私は彼が大嫌いでね、考え方がそもそも合わないんだよ、だから協力して何かをするなんて絶対に遠慮させてもらうよ】

 

ヴェルデの言葉の端々から感じる嫌悪感にヴェルデの本気度を理解した唯はそれ以上何かを言うのをやめた。

そんな記憶を思い出してから唯は改めて目の前の赤ん坊を見る。

そんなにヴェルデとは考え方が違うのだろうかとほんの少し興味がわいてきて、唯はしゃがみ自己紹介をした。

 

「初めまして、君はリボーン君っていうの?私の名前は沢村唯、よろしくね、リボーン君」

「おお、可愛いな!沢田君、この子は君の親戚か?」

「あー、そんな感じ」

「俺はツナの家庭教師だぞ」

 

リボーンの言葉に唯と千沙は目を見開き、それから千沙は楽しそうに笑い、唯はにっこり笑い、リボーンの頭を撫でた。

 

「そっかそっか、こんなに可愛い家庭教師がいるなんて綱吉が羨ましいなぁ、私のところは可愛いより怖いが先に来るんだよねー」

 

そう言った唯に綱吉は冷や汗をかきながら「そいつも同じようなもんだよ」と呟いていたが、聞こえたのはリボーンだけだった。

 

「つーか、出てくんなよ!」

 

綱吉は少し厳しめにリボーンを叱ったがどこ吹く風のリボーンは唯との会話を優先した。

 

「お前、ツナのファミリーに入れ」

「ファミリー?家族になれってこと?」

「ほう、面白いことを言う赤ん坊だな、沢田君」

 

千沙は笑顔で綱吉を見たが、唯は首を傾げつつ内心冷や汗をかいている。

 

(バレてない、バレてない)

 

自分を安心させる言葉を思い浮かべながら唯は優しく笑って言った。

 

「うーん、そういうのは本人から直接聞かない限りは冗談として受け取っとくことにしているから、ごめんねリボーン君」

「そういうファミリーじゃねぇ、マフィアのファミリーだ」

(ひぇぇ、ズバズバ言ってくるよこの赤ん坊怖い…)

 

唯は内心恐怖しながら笑顔を崩さずに答える。

 

「マフィア?うーん…面白そうだけど、そういう物騒なのは苦手だなぁ」

「そうだよね!というか冗談だから!本気にしなくていいよ、村さん!」

 

安心した表情の綱吉は自分の方を笑っていない目の千沙に冷や汗をかきながらなるべくそちらを見ないようにして、唯に話しかけた。

 

「とにかく、勉強しよう!勉強!」

「うん、わかった、ごめんねリボーン君、またあとで遊ぼうね」

 

唯もリュックから教科書とノート、筆記用具を取り出して、元々用意されていたテーブルにそれらを置く。

 

「どっち先にやる?」

「じゃあ…数学で」

「ん、了解」

 

唯は理科の教科書とノートは床に置いて数学の教科書を開く。

綱吉も慌てて課題のプリントをテーブルに広げてシャーペンをカチカチと鳴らす。

 

「どのあたりが分からないの?」

「この2の問3、言ってる意味すら分かんない」

「どれどれ」

 

唯はプリントを見せてもらい、言われた問題を読む。

 

「あー、これはね」

 

そこから唯の説明が入り、綱吉はそれを真剣に聞いている。

そんな2人を横目に千沙はリボーンに話しかけていた。

 

「それじゃあ君の相手は私がしよう!」

「おう」

 

リボーンは千沙を見る。

千沙はニコニコと笑っているが正直その表情から感情は読み取れずリボーンは内心千沙を睨む。

 

(何を考えているか分からねぇ…何者だ?)

 

一瞬マフィア関係者を疑うが綱吉の周りの人間を調査した時に、確かに千沙の名前は出てきたのだ。

唯の幼馴染として。

そのまま調べてみてもただの一般人としかわからず、結果唯もマフィア関係者ではないことが分かったのだが、リボーンは唯の演技力と千沙の閉心術の高さに舌を巻いていた。

唯は内心の焦りをリボーンでも一瞬見抜けないほどに隠して見せるだけの演技力をリボーンに披露してくれたし、千沙は現在その表情や目から考えていることを見事に隠している。

ただの中学生がやるには異常とも思えるレベル。

これはファミリーに欲しいと思うのも当然だった。

 

(問題は、どうやってファミリーに入れるかだが…)

 

綱吉と最も仲の良い女子生徒として最初は調査していたがとんだ金の卵でリボーンはワクワクした気持ちを表に出さないようにするが、一つ疑うことがあった。

それは九代目からリボーンにも知らされなかった次のチェデフのトップが綱吉と同じ歳であること。

それを見抜くことも綱吉に出された課題だが、もしものことを想定してリボーンにはその存在が並盛にいることを知らされはしていてもそれが誰なのかまでは知らされていない。

 

(…再調査だな)

 

恐らく門外顧問は千沙か唯だが、リボーンは千沙だと予想する。

唯はトップとなるのに必要なものがなく、千沙にはそれが存在していたからだ。

一応唯も再調査の内に入るが白と予想しているリボーンは純粋に唯を綱吉のファミリーの一人にしようと考える。

 

(物で釣る…は、まだ分からねぇな、性格を断定する材料が少なすぎる…今はまだ)

 

自分に「君はトランプは好きかな?神経衰弱やろう!」と言ってくる千沙にリボーンは頷き、ひとまずの考察をやめる。

千沙とリボーンの神経衰弱がリボーンの23勝目になりそうだった時、唯と綱吉の方がひと段落したらしくホッと一息ついていた。

 

「終わったか?」

「半分だけどな」

 

リボーンの質問に綱吉は遠い目をしながら答える、進捗は芳しくないのだろう。

けれど唯はそんな綱吉を励ました。

 

「でも、昨日までの綱吉とは多分違うよ、確実に頭は良くなってるはず!多分!」

「そこは断言してよ!」

 

唯と千沙が綱吉の言葉に思わず笑うと綱吉は少し赤くなるが同じように笑った。

 

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