次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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決意

部屋全体に穏やかな空気が流れていた時だった。

突然、部屋の窓から銀色の鳥が入ってくる。

全員思わずそちらを向くが唯が真っ先にその鳥の異常に気付く。

 

「え、鳥のロボット…?」

(ってことはまさか…)

 

唯は嫌な予感が当たっていることを予想し、服のポケットに入れて置いた小瓶に手をかける。

唯の予想は意外な方法で当たってしまった。

さすがに鳥のロボットなんてそういるわけもないのですぐに誰の仕業かを予想したリボーンが容赦なくピストルでロボットを打ち抜いて爆発させた。

その爆風にもともと備えていた唯やピストルを構えたリボーンを見て次の出来事を予想していた綱吉はともかく、咄嗟に立ち上がった千沙は耐えきれずそのまま近くの壁に打ち付けられて頭を打ち気絶してしまう。

そんな千沙に気付いて、爆風が治まったのを確認した唯はすぐさま千沙に駆け寄って名前を呼ぶ。

 

「千沙!千沙!?」

「気絶しているだけだ、安心しろ」

 

リボーンの言葉になんとなく安心した唯はホッと息を吐くと部屋の中央にある鳥のロボットだったものを見る。

 

「これは一体…」

 

出所は知っているがさすがにここで知っているような雰囲気を出すわけにもいかず、さりとてこのロボットに触れないわけにもいかず、ロボットにどんな恐ろしい機能がついていたのかも気になったのでリボーンに質問したらリボーンは突然の爆発などで驚き怯えていると判断したらしくリボーンにしては珍しく優しい声で答えた。

 

「お前は気にしなくていいぞ、こいつは俺の知り合いの悪戯だ」

(悪戯で千沙は気絶させられ、下手したら危険な実験が開始された可能性があったんですね、すごいですねリボーン君の知り合いの科学者さん)

 

心の中で泣きそうになりながらリボーンの言葉にとりあえず大丈夫だろうと唯は判断し綱吉も同時に安心したのか一緒のタイミングでため息。

リボーンはロボットの残骸に近づき、その破片を見るが何か危険な薬物が散乱していないかも周囲を確認したが特にそう言ったものは確認されないので戦闘力が高かったのかもしれないと予想するが。

 

(ヴェルデの野郎が用意したものがこんなもんで終わるわけがねぇ…絶対ぇ何かあるはずだ…まさかフェイクか?)

 

そこまでリボーンが考えた時、アラームのような音がロボットから発せられ部屋に響き、リボーンはすぐに足元の残骸から離れた。

すると、破片は徐々に元の鳥の姿に戻っていき、すぐに飛び立つと唯めがけてスピードを上げた。

それはまるでロケットのようで…。

 

「ひっ!」

 

唯は咄嗟に横に避けたが鳥は唯の横を通り過ぎるとuターンしてきてまた唯を狙う。

 

「なんで!?ひゃあああああああああああああああ!!!」

 

唯は一旦窓の近くに行くと、鳥めがけて走り出し直前でしゃがんでやり過ごし、すぐさま部屋の扉から出ていき、玄関で急いで靴を履いて「お邪魔しましたああああああああ!!」と言って出ていくと、その後をロボットがついていき、綱吉とリボーンも「行ってきます!」と一言残して追いかける。

残されお菓子を用意していた綱吉の母だけはのんびりと「あらあら、またきてねー」と声をかけていた。

 

 

**

 

 

「ついてこないでよ!」

 

思わず叫んだ唯だが、それに大人しく従ってくれるヴェルデ作のロボットではない。

 

(多分不死鳥をイメージされてるやつだから、起動ボタンがあるはずだけどそれを押すには…)

 

顔だけ振り返って鳥を見る唯、ロボットはそんな唯に向かって体を燃やした。

 

(あれをよけつつ、火に耐えなきゃいけないんなんて!)

 

あんまりだ!心の中で嘆きながら唯はなんとか人気のない場所に入っていく。

さすがに山の中は危険だが、かといって商店街も危険だ。

一か八かで住宅街の空き地を探す。

しかし元々体力のなかった唯はここ最近の特訓があっても限界が近く、周りに人がいないのを確認して覚悟を決めた。

ポケットの中の小瓶の栓を抜き、一気にそれを飲む。

喉を液体が通り、体から力が抜ける。

 

(あのロボットを…壊したい…)

 

思考することはただ一つ、それだけを願う。

意識がぼんやりとしてくる、次第にそれは闇に包まれ次の瞬間別の景色が見える。

死ぬ気水を飲むといつもやってくる場所。

前にこのことをヴェルデに話したら、幻術を使うものがたまに入り込むことができる精神世界というやつかもしれないと聞いた唯はここが自分の精神世界なのだと理解して目が覚めるまでの間のんびり過ごしている。

そう、唯は死ぬ気水を飲み、死ぬ気モードになっている間の自分の行動を把握していないのだ。

だからこそ唯は死ぬ気水を飲みたがらない、自分が何をやらかしているのか、目を覚ました時の衝撃を味わいたくないのだ。

最初と二回目はよかった、目が覚めたらベッドの上で何もなかったんだと安心できるから。

けれど、三回目で人型ロボットを倒すように言われた時、目が覚めたら目の前でバラバラになって燃えているロボットが視界に入ってきて思わず悲鳴を上げた。

その時想像してしまったのだ、もしもこれがロボットじゃなかったら…と。

その日から唯はできる限り外で死ぬ気水を飲むことを拒否してきたが、そんなことなど無視するのがヴェルデだ。

容赦ないヴェルデの実験の数々に唯は半分諦め始めていた。

そんなときの鳥ロボットの実験。

もしかしたらリボーンや綱吉が来てしまうかもしれないが、もはやこうなってしまっては来ないことを祈るだけ。

念のため手を合わせて祈っておく唯だったがそれが終わると改めて自分の精神世界を見渡す。

空は轟轟と雷が鳴っており、暗い雲で覆われているが雨や風もない不思議な空間。

もちろん太陽なんて見えるわけもない。

近くには立派なカエデがあり、見事に赤く染まっていてこんな場所じゃなければ素直に美しいと言えるだろう。

しかし、不思議と落ちつくのも確かで、唯はカエデの木に近づき大きい幹に腰掛けると空を見上げた。

相も変わらず黒い雲にパチパチと緑色の雷が見えて唯は顔を顰める。

唯は正直、雷が苦手だった。

幼いころから大きな音が苦手だったのは今でも治ってはおらず、例えばホラー番組で突然大きな声を出してくるお化けの存在だとか、不規則にやってくる雷の音や、予測はできても想像よりいつも大きい音を出す花火とか。

他にも出せばきりがないがとにかく大きい音が苦手な唯は何故か自分の精神世界に存在している雷にうんざりしていた。

 

(まぁ…理由なんて分りきっているけど…)

 

どうして雷がそこにあるのか、その理由を唯はもう理解していたし、受け入れもしていた。

だからこの世界で雷が苦手であることを克服してやろうと、ただ、ボーっと雷の鳴る空を見続ける。

遠くの方で、誰かの泣き声が聞こえたような気がして、唯は申し訳なくなった。

 

 

***

 

 

 

唯が死ぬ気水を飲み精神世界に飛んでいる間、現実ではリボーンと綱吉がその光景に唖然としていた。

そこには頭にパチパチと音の鳴る緑色の炎を灯した唯が素手で粉々になった鳥のロボだったものを殴り続ける光景があり、綱吉は思考が現実に帰ってくるとすぐさま唯に近づいた。

 

「何やってんだよ、村さん!」

 

唯を羽交い締めにして止めた綱吉の言葉に唯はただ「あれ、壊さなきゃ」としか答えない。

 

「あれ、壊さなきゃいけないの、お願い、放してよ、綱吉」

 

壊れた機械のようにそれしか言わない唯の手を見た綱吉は悲鳴を上げそうになり、それを飲み込む。

唯の手は鉄とコンクリートの地面を思い切り殴っていたせいでボロボロだった、当然だ、中学生女子の手は柔い。

血の滴るその手に綱吉は泣きそうになる、どうして唯がこんなことしなきゃいけない、唯は関係ないじゃないか、と叫びたかった。

リボーンも同じ気持ちだったのかピストルをロボットだったものに向けると何発も打ち込みそれを完全な塵にして、唯を見る。

唯は塵となったロボットのいた場所をただ一点見ていたがやがてもう復活しないことを理解すると力を抜いて綱吉の拘束もなくなったこともありその場にへたりこんでしまった。

綱吉はそんな唯の正面に回り込んでしゃがみ、同じ目線になる。

 

「村さん、さっきの、どういうこと?」

 

綱吉から驚くほど低い声が出てくる。

周囲の音が止み、まるでその場だけ綱吉の声や行動を邪魔しないようにあらゆる自然のものが息をひそめているようだった。

リボーンはそんな綱吉の変化に驚くがすぐに思い出し納得する。

唯にとって綱吉が大事だったように、綱吉にとっても唯は特別な友人だった。

ダメツナと言われていた頃から他と変わらず接してくれて、何かと助けてくれた唯に綱吉は救われていたのだ、身も、心も。

そんな唯がまるで機械のようになってしまった姿を見て怒りが沸かないわけがない。

唯はしばらく綱吉をぼんやりと見ていたが、やがて、ゆっくりと口を開いた。

 

「…仕方、ないの」

「どうして、仕方ないの?」

「…強く、ならなきゃいけなかったの」

 

唯の言葉にリボーンは確信した、確信してしまった。

 

(こいつが…門外顧問か)

 

先ほどのロボットがヴェルデの物で、唯を狙う理由。

綱吉を試すためなら綱吉を狙えばいいだけの話だ、けれどそれをしないのは何か理由があるのかとリボーンは観察していたがそうではなかった。

本当に狙いは唯だけだったのだ。

そして、先ほどの唯の発言。

それから考えていけば、答えなんて、簡単だった。

 

(ヴェルデが家庭教師で沢村が次期門外顧問…)

 

リボーンは心の中で舌打ちをした、よりにもよって家庭教師の人選が最悪だ。

実力は認めるが考え方が合わないヴェルデが家庭教師となるとリボーンは唯のこれからの受難を黙ってみていることしかできないのだ。

それがボンゴレとの約束だから。

けれどそれはヴェルデも同じで、ヴェルデの方も綱吉へのリボーンの教育に口出しはできない。

しかし、だからといって。

 

(なんであんなサイコ野郎を沢村にあてたんだ…!)

 

頭では理解している、門外顧問がどれだけ精神をすり減らすような立場だってこと、リボーンはよく理解している、だからヴェルデの実験などに耐えられれば門外顧問についても難なく様々な任務をこなすことができるだろう。

それでも、心が追い付くことを拒んでいる。

 

(まだ、中学生だぞ…!)

 

そんなリボーンの心と同じ気持ちだったのか、ヴェルデのことを知らない綱吉も、さすがにこれがボンゴレの教育であることを理解し、静かに怒った。

 

「…強くなって、どうするの?」

 

綱吉の質問に唯はぼんやりと視線をさまよわせたが、先ほどよりもぼんやりとした話し方で答える。

 

「…ただ…ほめて…ほしい…」

 

その言葉に綱吉は手を拳にして力んだが、やめて唯の両手を自身の両手で包んだ。

 

「なら、俺じゃあ、だめ?」

 

唯は綱吉の言葉を聞いて一瞬目を見開いたが、やがてゆっくりと首を横に振って困ったように笑う。

 

「ごめんね…わたし…あのひとが…」

 

その言葉の先を言わずに唯の頭の炎は消えて唯は気を失ってしまい、倒れそうになった唯を綱吉は慌てて抱き留める。

しかし綱吉も、リボーンも聞かずともその先の言葉なんて予測できてしまった。

綱吉は顔も知らない唯の傍にいるマフィア関係者に怒鳴りつけてやりたくなる。

リボーンは誰よりも人の心を理解しようとしない科学者を殺したくなった。

 

この場にいる誰よりも弱く平凡だった少女はお前のことが好きなんだぞ!と。

 

しかしそれができず、どうしようもなく。

綱吉は唯を抱きしめる力を強くし、唯の肩に顔を埋めると、静かに泣いた。

 

(泣くことしかできないなんて…俺…かっこ悪い…)

 

そんな綱吉の心を読んだリボーンは帽子を深くかぶった。

その場に静かな時間が流れる。

まるで唯だけを置いていくかのように、唯だけが止まっているその空間を綱吉は睨みつけていたが、やがて目を伏せ、そしてゆっくりと口を開いた。

 

「俺…強く、なるよ」

 

リボーンは顔を上げて、言葉を発した綱吉を見る。

綱吉の声は震えていて、けれど、強く、固い決意のこもった眼をしていて。

リボーンはニヤリと笑うと「よくいったぞ、ツナ」と褒めた。

きっとこの先唯はもっともっと自分の体を傷つけて、それでいいと笑うだろう。

そうならないように強くなろう、必ず。

だって。

 

(俺は…村さんにまだ、恩を返しきれてない…)

 

この日、未来のボンゴレ十代目が確かに一歩大人になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綱吉が唯を背負って唯の家に向かって歩き、その後をついていくリボーンを遠くから眺める人物が一人。

綱吉たちの方に手を伸ばしたかと思えば、力なくそれを下して唇をかむ。

その眼には確かに憎しみの色がこもっていて…。

その人物は携帯を取り出すと、どこかに電話を掛ける。

 

「…もしもし、私だ…ああ、そういうのいいから…それでさ、ちょっと頼みたいことがあるのだが、いいか」

 

相手の返事を聞いたその人物は花が咲いたように笑った。

 

「よかった!あのさ…殺したい相手が、いるんだ」

 

そう呟いた彼女の声をすぐそばで、初代門外顧問だけが聞いていた。

 

 

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