次期門外顧問の私   作:ケロポケット

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襲撃と対峙

二度目の春

桜は満開でそこかしこに散った桜の花びらがはかなくそこに存在している。

今日も元気に実験体になる唯は顔をほぼ土気色にしているもののなんとか生きている。

中学二年生になり、ついこの間綱吉と花見に行ったりもしたがそれも終わって、穏やかな春の日常が流れている。

ヴェルデの実験には慣れてはきたものの精神的、体力的に負担は大きくやはりきついものはきつい。

時には電撃を食らわせられたり、毒を飲まされたり。

そのたびに苦しみにもがいたりもしたが今もこうして生きていることから乗り越えたことを察してほしい。

…死にそうではあるけれど。

 

「だらしがないぞ、まだ脳みそは冬眠中か?なんだったら診察してやろうか?」

 

ヴェルデがニヤニヤと笑いながらそう言ってくるのを聞きながら唯はなんとか口を開いた。

 

「そのまま脳みそが実験されそうなのでご遠慮させていただきます…」

「なんだ、つまらん」

 

一気に表情をいつもの無愛想に戻したヴェルデは手元の画面に目を落とす。

唯は円盤の機械に乗って空中に浮いているヴェルデを地面に倒れた状態で見上げる。

 

(改めてみると、やっぱり赤ん坊なんだなぁ…)

 

下から見てもわかる小ささに唯はぼんやりとそんなことを考える。

トクンと体の中から音が聞こえた気がするが、唯はその音にもう慣れてしまったので特に気持ちが揺らぐことはない。

自分の気持ちは自覚しているし、これが歪んでいたりするのは理解している唯だがそれでもやっぱり気になるものは気になるわけで。

 

(あれ?)

 

そこで、唯はヴェルデの変化に気付く。

 

(あれれ?)

 

見間違いかと思ってもう一度しっかりとヴェルデを見る。

しかし、それは確かにヴェルデの顔にあるのを確認して唯は勢いよく起き上がった。

突然起き上がった唯に少し驚いたのかヴェルデが顔を上げて、唯を見る。

 

「…もう休憩は終わりか?」

「いえ、本格的に休憩しましょう!」

「…は?」

 

唯は自分の体に鞭打って立ち上がると、ヴェルデの方に向いて近づく。

少し気迫のあるその姿に珍しいものを見たとヴェルデがまた驚いていると唯はヴェルデの乗っている円盤をつかんで歩き出す。

ヴェルデは声を上げた。

 

「いきなりなんだ!?どこへ行く!?」

「目の下のクマをさらにひどくした人は黙っていてください!見ているこっちが気になります!」

 

ヴェルデはまだ声を上げているが唯はそれらすべてを無視して自宅へ向けて歩き続ける。

次第に何を言っても無駄と判断したヴェルデは機械を操作して唯から離れようとしたが唯の額を見てそれも諦めた。

緑色に光りパチパチと音を鳴らす炎。

体への負担は随分と慣れてしまったがそれでも慣れただけで負担は今までと同じ。

それでも唯は恐らくためらいなく飲んだのだろう、死ぬ気水を。

 

(…随分と、成長が早いな…)

 

機械すら塵に変えてしまえる怪力を秘めているその腕にただの移動用ロボットが勝てるわけがないし、殺すわけにもいかないので備えている毒は使えない。

ヴェルデは自分をのせた機械をつかんで離さず前を歩く唯の背中をじっと見る。

一年の頃に比べれば随分と筋肉はついたし精神も落ち着き、大胆な行動にも臆せず移せるようになった。

そして段々とヴェルデに対しての小言が増えてきている、元々の性格なのかはまだわからないが随分と気安く話しかけてくるようにはなったとヴェルデは思う。

死ぬ気水を飲んだ人間には落ち着きだとかそう言った感情の変化が鈍い傾向がみられるが唯の場合はその逆で感情の豊かさが増す。

元々大人しい性格の唯が死ぬ気水を飲むと途端によく笑いよく泣きよく怒るようになって最初はその変化を面白いと思い実験を繰り返してきたが結果はなんてことはない、彼女の心の奥底にあった本性がむき出しになっているだけだったのだ。

だからこそ、ヴェルデは目の前の唯の変化にまた興味を持った。

一年の頃はよく泣き、まるで本当の赤ん坊のように感情の変化がはっきりしていったが現在の唯は元々のお節介な部分に行動力が備わり、さらには大人しい部分は鳴りを潜めて明るい性格になった、ただそれだけ。

ただの明るく優しい少女に変わってしまうだけの薬になってしまい、死ぬ気水が本当に効果を発揮しているのか疑いたくなるがこれでも成長した方なのだ。

段々と元々の性格に近づいて行っている、そこに行動力が加わってボスらしくなった。

後は経験をひたすら積ませるだけ。

ヴェルデの役目もそろそろ終わりか近づいて行っているのがヴェルデ自身感じている。

 

(…やっとガキの子守りから解放される)

 

ヴェルデは小さく息を吐いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

同日正午、並盛町道端にて。

 

「えっと…」

 

沢田綱吉は現状に理解が追い付かなかった。

どうして自分はフードを被って顔もよく見えない人物から十手を向けられているのだろうか。

綱吉は両手を顔の横まで上げて苦笑いするがそれで現状が変わるわけでもないので改めて綱吉は相手の顔を見るために目を細める。

瞬間、自分に向けられた十手が目にもとまらぬ速さで顔にぶつけられて道の端まで吹っ飛ばされる。

鼻血どころか頭から血を流した綱吉はしかし、突然のことに理解が追い付かなかった。

なんとか相手だけは見失わないようにしなくてはいけないと思い相手を見ようとするが、その瞬間には相手はすでに目の前にいて今度はこぶしを腹にめり込まされる。

 

「かはっ…っ!?」

 

腹にある息が口からいっきに吐き出され、胃液が口に広がりしびれる味がするがそんなことを気にしている暇は綱吉にはない。

まだ拳を振り上げている敵に綱吉はそれをよけきることができず顔に思いきり入ってしまい今度は近距離にあった壁に頭を思い切りぶつけたので脳が揺れて意識が遠のく。

白目をむいた綱吉にとどめを刺そうと十手を振り上げた敵にダイナマイトが飛んできて、敵は咄嗟にそれをよけて受け身をとる。

 

「十代目!!」

 

敵はその声に反応してどこかに走り去った。

間一髪でダイナマイトを飛ばすことに成功した獄寺はすぐさま敵を追いかけたかったがそれよりも綱吉の安否の確認だと判断し携帯を取り出して救急車を呼んでから綱吉に近づいた。

 

「十代目!十代目ぇ!!」

 

突然すぎる襲撃に離れた場所からそれを見ていたリボーンだけは敵の走り去った方向をじっと見つめていた。

 

 

 

***

 

 

 

「っ!?」

 

病院で目を覚ました綱吉は勢いで起き上がると頭の痛みに呻く。

 

「思い切りやられたな、ツナ」

「リボーン…っ」

 

綱吉はリボーンを恨めしそうに見るが決して「なんで助けてくれなかった」とは聞かない。

聞いても無駄だというのは一年間リボーンと過ごして理解しているからだ。

 

「…獄寺君は?」

「帰らせたぞ、夜も遅くなりそうだしな、ママンも同じ理由で帰らせた」

「…そっか、そりゃ…そうだよな、母さんも来るよな」

 

綱吉は自分の手を見つめる、新しい傷で包帯がまかれている手を握る。

 

「…入院?」

「一日もすりゃ治るが様子見で明日もここにいることになるだろうな」

「そっか」

 

綱吉はまだぼんやりする意識で周りを見る。

すぐそばの棚には果物が入ったカゴが置かれており、すぐ近くには食べやすい大きさに切り分けられた林檎の乗った皿とフォークが置かれていて、恐らく母がギリギリまで綱吉の傍にい続けたのだろう。

 

(帰ったら久しぶりに説教かも…)

 

苦笑する綱吉はゆっくりと意識がはっきりしてきたのが分かる。

そして、なんとなく予感していたのかもしれない。

病室のドアが軽やかな音を出す。

 

「はい、どうぞ!」

 

綱吉は突然の訪問者を不安な気持ちで迎え入れたが、その人物を見て心が落ち着いていくのを感じた。

 

「失礼します…まぁ、なんだ、代わりに来た」

 

外はオレンジ色をしていて、部屋の中はオレンジ色でいっぱいのはずなのに綱吉にはその人がどうしても青色に見えてしまったのはその人の来ているパーカーが青だったからだろうか。

ドアの前に立ってにっこり微笑んだ寺田千沙の手には花束が握られていた。

ほんの少ししおれた花が。

 

「…君、でしょ?」

 

綱吉は緊張しながらも千沙に聞いた。

 

「何のことだ?」

「なんとなくだけど…今日、俺と会ったよね?」

 

綱吉と千沙の目が合う、千沙はまるで芝居の終わった役者のようにすっきりした顔をした。

 

「なんだ、気づくの早いな!」

「まぁ、なんとなくだけど」

「その直感は大切にした方がいいぞ、君の助けになるからな」

 

綱吉の横にある机に花束を置くと近くにあった丸椅子に座り綱吉の顔を改めてみた千沙は吹き出した。

 

「そう不安そうな顔をするな、もう君を殴ったりはしないさ」

「…どうしてって聞いてもいい?」

「人を殴る理由なんて一つしかないだろう?」

「…俺、君に何かした?」

 

千沙は綱吉の目を見る、明らかに不安そうで、どうして自分が殴られたのか理解できていない。

それは当然だと千沙は理解できる。

何せ千沙が綱吉を病院で入院するほどまでに攻撃したのは完全に…。

 

「したといえばしたが、してないといえばしてない…そうだな、これはただの八つ当たりさ、とばっちりを受けて災難な君には…聞く権利があるんだろうな」

 

綱吉は無言で言葉の続きを促した、聞く体制に入っている綱吉に笑みをこぼした千沙はゆっくりと口を開いた。

 

「まぁまず最初に聞いてほしい大前提がある」

「うん」

「私はマフィアのボスの娘だ」

「うん…ええ!?」

 

綱吉は飛び上がらんばかりに驚き少しだけ千沙から距離をとる。

千沙はコロコロと笑うが綱吉の緊張度はさらに上がっている、リラックスして聞けていた状態が恋しくなった綱吉だがそこを何とか我慢して質問した。

 

「それで俺に攻撃を?」

「まぁ、それも一つあったがそもそも私の父のファミリーはボンゴレに力を貸している方でな…いや、貸してもらっていると言った方が正しいな、つまり私が君を襲ったのは君の教育の一つであったのだ!」

 

綱吉は思わずリボーンのいた場所を見るがそこに彼の姿はなく、恐らくどこかに隠れたのだろうと察して心の中で盛大に悲鳴を上げた。

 

(そんな話聞いてないぞリボーン!!)

 

そしてため息をついた綱吉は苦笑をして千沙に言った。

 

「そういう理由だったなら、まぁ、仕方ないよ」

(仕方なくはないけど、命あるだけまし)

「そう言ってくれるとこちらとしても気が楽だ」

 

安心したように息を吐いた千沙に彼女も大変なんだなぁと綱吉は同情し自分にした仕打ちを許してしまった。

 

(きっと彼女も人を傷つけるのは嫌なんだろうなぁ…マフィアの娘か…大変だなぁ)

 

綱吉自身も似たような立ち位置なので親近感がわいた。

しかしそこで先ほどの言葉で引っ掛かりを見つける。

 

「あれ?でもそれだったらどうして八つ当たり…?」

 

綱吉の言葉に千沙は申し訳なさそうに笑うが諦めたのか真剣な顔で問う。

 

「実は本題はこれからいうことの方で、驚かないで聞いてほしい」

「それもっと早くいってほしかったけど、マフィアの娘よりすごい情報はそうそうないだろうし大丈夫!もう驚いたりしないよ!」

「そうか!そう言ってもらえるとこちらも先ほどよりも気が楽になる、では単刀直入に言うぞ」

「うん!」

 

 

「私はレズなんだ」

 

 

瞬間、綱吉の時間が止まった。

 

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