初投稿ゆえに駄文になりますがどうぞ、最後まで読んでもらえればと思います。
「ふぅ……。落ち着け落ち着け…………って、これが落ち着いてられるなら僕は今頃もっと強く生きてるよねっ!」
冬、某日。九時五分前。
先程から落ち着きを取り戻せずそわそわし続けているこの少年は、名を望月蒼太という。今日は自分の想い人である早坂あかりを家に招き入れることになっている。
(どうしよう……服これで引かれないよね?髪も整えたし部屋も綺麗にしたし、なるべくよく見せられるように頑張ったけど……。
はぁぁぁぁやっぱり緊張しかしないよー……まさかあかりんを家に誘っちゃうなんて…まあ僕が緊張で口を滑らせただけなんだけどさぁ…)
秋のあの日、蒼太は同じ学校の早坂あかりに告白をした。
卒業の映画制作にあたって、美術部の三人に劇中で用いる絵のイメージを描いて もらった際、春輝とあかりのイメージが完全に一致したことにより、その二人は何かと話す機会が多くなっていった。
それを見た蒼太は、これでは春輝があかりと恋仲になってしまう、これではダメだと焦り、その焦りのままあかりを呼び出し告白してしまった。
そのかわいらしい容姿と人当たりの良い笑顔から、あかりは学校のマドンナ的存在になっている。もちろん告白だって、今まで数え切れないくらい受けている。本人はその悉くを断っているが。
何せあかりに告白してくるのは、決まってあかりとは何の関わりも持たない完全な赤の他人なのだ。あかりにしてみれば、自分のよく知らない人から付き合ってくれと言われても素直に首を降ることはかなり難しいだろう。
だが蒼太はそうではない。映画制作がきっかけで、あかりにとっては「知り合いの男の子」になったのだ。そのような人から告白されたのだから、あかりは蒼太を意識してしまった。
そのときあかりは答えを曖昧にした。どういう気持ちが恋なのか、それを見極めるために蒼太に返事を先延ばしにしてもらっているみたいだ。
それからなんやかんやあり、あかりと蒼太は(事実上ほとんど付き合っているようなものだが)未だに恋仲ではない。その状況を幼馴染み組はやきもきしながら見守っている(特に夏樹や優は度々二人をけしかけることがある)。
それから約三ヶ月。そろそろ改めて気持ちを伝えようと思った蒼太は、口実としてあかりに一緒に映画を見ようと誘った……のだが、あまりの緊張で、「今度どこか映画を見に行きませんか」と言うはずのところを「今度うちで映画見ませんか」とあかりに提案してしまった(もちろん、後者が蒼太の本音だったことは言うまでもない)。
蒼太はそのとき、内心断られるものだとばかり思っていたが、蒼太の懸念に反してあかりは顔を赤らめながら「……はい、見ましょう」と上目遣いで返事した。そのとき蒼太はあまりの可愛さと感動に、鼻血を出して泣いたとか。
回想は終わり、現在。
「…大丈夫かなぁ。あかりん幻滅しないかなぁ」
「…大丈夫だよね?いろんなジャンルの映画を借りたけど……」
「いくら僕の家が駅から徒歩五分とはいえ、本当にここまで一人で来させて良かったのかな………あぁ心配だ!頼むから無事でいてくださいあかりん……!!」
この有り様である。
蒼太の言うとおり、蒼太の家は駅から徒歩五分のところにある。
最初、あかりが蒼太の家に赴くにあたって、蒼太は駅まで迎えにいこうと思っていた。それは最もだ、いくら近いとはいえ、今のご時世、道端で痴漢に合わない可能性はないのだから。
しかしあかりにそのことを伝えると、
「大丈夫です。蒼太くんはおうちで待っていてください」
とあっさりと断られてしまったのだ。
理由を聞いても「……秘密です」としか答えてくれないあかりに、蒼太は渋々了承するしかなかった。
………ちなみに、蒼太の住む辺りは県でもトップクラスに犯罪率が低い、とっても安全安心な町なのだが……そのことを蒼太は知るよしもない。
「……はぁぁ、あかりんが襲われたりしたら僕生きていけないよ……あかりーん…!」
*
「へぇ~、これが蒼太くんの住んでる町かぁ……のどかで落ち着くなぁ」
蒼太があかりの安否やら緊張やらでどたばたしている頃。
あかりは、蒼太の家までてくてくと歩みを進めていた。
あかりは異性の家に行くのが初めてである。というより今まで異性の友だちすらいなかったのだ。
あかりはその人当たりの良さに反してとても人見知りである。こうして蒼太としゃべったり一緒に外に出たりするのが奇跡に近いだろう。
あかりは足を家へと向かわせながら、こんなことを思った。
(クリスマスイヴのあの日。私は蒼太くんのことが好きだと気付いた。あのときは、途中でなっちゃん達にばったり会っちゃって有耶無耶になっちゃったけど今日は、せっかく蒼太くんがくれた特大チャンスなんだ。今日好きだって伝えない手はないよね…)
恋愛がどんなものかは知っていたが実際にしたことはなかったあかりだが、今のあかりは端から見てもその変化がわかる。
早坂あかりは、知ったのだ。
「このまままっすぐ道を進んで、赤い屋根の家の角を左に曲がって突き当たり………あっ、見えた!」
(赤い屋根のおうちが見えた。えっと、時間は……わ、もう五分くらい経ってる。蒼太くん、きっと緊張してるだろうなぁ。かくいう私も、今かなりドキドキしてる。ああ、早く会いたいなぁ……)
途端にあかりの顔が赤らむ。それは、立派な恋する乙女の表情だった。
*
「……そろそろ五分経つ……あかりんが……うちに来る……緊張と不安と期待で胃が潰れそうだよ…」
同刻。
蒼太は間もなくやってくる至福であり運命でもある時を目の前にしてドキドキが最高潮に達していた。
(落ち着け僕。ここでやらかしたらあかりんに嫌われるぞ。なるべく粗相のないように、いつも通りに。大丈夫、ラブコメとSFと時代劇と警察ものとミステリーと………あとこっそり官能ものも用意した。最後のは流石に見ないつもりでいるけど)
(料理も少し頑張ってみた。まさかあかりんに作らせるわけにもいかないからね。ただ、あかりんの口に合わなかったらどうなるだろう……その不安はどうしても拭えないなぁ……)
ちなみに蒼太も異性を家に招くのは生まれて初めてである。映画に没頭しいつも優や春輝、夏樹とのんべんぐだぐだしていたのでろくに異性との接点もなかったのだ。
「それが、まさかのこんな事態になるなんて………。二年前はあかりんがうちに来るなんて夢にも思わなかったのに」
(二年前に寝癖のことで話しかけて、あかりんに惚れたのはいいけど、そこから三年になるまで全く話す機会もなかったからね。むしろこうやって友達やってることが奇跡に近いような_____)
ピンポーン「はぁい!?」
蒼太が今までを振り返っていると唐突に家のチャイムが鳴った。蒼太は慌ててインターホンの親機に駆け寄る。
「あ、あかりん!」
『え、えと……来ちゃいました』
「っ!え、あ、はい!今玄関あ、開けますね!」
好きな人が、自分の家に来る。その事実を、インターホンのカメラ越しに会話したことで初めて実感した蒼太は思わず声が裏返ってしまったが、あかりを家にいれるために玄関へと向かう。
ガチャ
「いらっしゃい!あかり___ …!?」
「こ、こんにちは……蒼太くん」
ピンクのダッフルコートに、ちょっと高めの黒のヒール。肩には白のトートバッグと、いかにもな服装をしたあかり(天使)が、そこにはいた。
「………かわいすぎる……あっ」
「!?あ、ありがとうございます…」
「っ………その笑顔ずるい……」
蒼太の口から思わず本音がこぼれるくらいには、あかりの姿は蒼太にとってインパクトの強いものになっていた。それに対してあかりも満更ではないどころか赤面しつつも心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。もうお前らヤっちまえ。
(しまった、ついついあかりんに見惚れてしまっていた。まったく、あかりんはかわいいなぁ……はっ!いかんいかん、しっかりしろ望月蒼太。例え家だとしてもちゃんとエスコートしないと…)
「と、とにかく!ささ、家に入って!」
「…そ、そうですね。では、お邪魔します」
*
(わあ……私、初めて男の人の家に入るんだ……。どうしよう、ただ入るだけならともかく、あの蒼太くんの家なんて………顔から何か出そうだよ…)
あかりの緊張は、蒼太の家に向かう道中のときとは比べ物にならないほど高まっていた。
そんな緊張を抱えたまま、望月家の門を通り抜けて、玄関へと。
(今日の蒼太くんの服かっこいいなぁ……。青色のVネックセーターに白色のシャツ、黒色の細身のジーンズかぁ…なんというか、いかにも蒼太くんって感じ。落ち着いた色調で、見ていてこっちまで落ち着く。あっ、でも意外と派手な感じでも似合うかも。秋葉原とかにいそうな、帽子被って、破けたジーンズで、シルバーアクセサリーも身に付けていて__)
「あ、あかり……なんでそんなに僕の方見つめてるんです?恥ずかしいんですけど…」
「…………へ?」
蒼太は玄関の扉を開けてあかりを家にいれようとしたのだが、あかりは蒼太に見惚れることはおろか妄想までしてしまっていたので、その場に立ち尽くしていた。
「いや、さっきから呼び掛けても呼び掛けても反応がないので…もしかして体調悪いんですか?」
「いやいや、そんなんじゃないですよ?むしろこの日のために先日モールに服を………あっ」
「えっ……」
(やっちゃった。これじゃ蒼太くんに今日どれだけ楽しみで気合いが入っているかバレちゃう……いやむしろバレていいんだ。でも間違っても「蒼太くんの私服が余りにも似合いすぎて見惚れてた」なんて言えないよぉ…いや、ここは思いきって言いましょう!)
あかりは更に顔を赤くした蒼太に追い討ちをかける。
「…蒼太くんの私服が、蒼太くんにすごく似合ってて思わず見惚れちゃいました」
「え…………っ!?いや、あかりん今それ言われたら僕恥ずかしいやら嬉しいやらでもう死にそうです…」
なんだこの状況。まだ続いてたのか。さっさとヤっち(ry
「と、とにかく!家に入れてもらえませんか?結構寒いので……」
「あっ、そ、そうだね!ごめん!」
あかりが蒼太の家に着いてから数分。ようやくあかりは蒼太のプライベートスペースに入ることになった。
*
「これが、蒼太くんのおうち………」
「モノはそんなにないけれど、映画の多さには自信がありますよ」
蒼太の家は一軒家で、大きさはそこそこ。リビングダイニングで、いかにも典型的なデザインだ。他の人が見れば面白くなく感じるかもしれないが、蒼太にとっては長年住み慣れたホームであり、あかりにとってもまた、初めての男の家ということでフィルターがかかっているせいか新鮮な感じだ。
あのあと、蒼太はあまりのテンパりから自分の家の廊下で何もないのにコケるという珍事を引き起こした。あかりには笑われてしまったが、そのおかげで二人ともリラックスしたのか、お互いに幾分か緊張がほぐれたみたいだ。
「あ、コートは脱いだあとこのハンガーに掛けてください。そこに掛けますから」
「ありがとう蒼太くん~」
あかりがコートをかけて蒼太に渡す。
(やばい、あかりんの匂いがコートからも香ってくる……良い匂いだなぁ…って、これじゃ僕がまるで変態みたいじゃないか!いかんいかん、あかりんをそんな目で見ちゃダメだ!)
蒼太はあかりの匂いに思わず当てられそうになるが、必死にこらえてハンガーを壁に掛ける。
「それじゃ、そこに座っててください。コーヒーを持ってき____天使だ……」
「へっ!?こ、今度はどんな天使なんですか!?」
「今度って何?!」
無理もない。今のあかりは、白のタートルネックのセーターに、青のキュロットスカート、黒のタイツと控えめながらも「早坂あかり・ザ・ウィンターバージョン」を醸し出しているのだ。蒼太が天使というのも頷ける。
「あ、あのっ!その服、とっても可愛いです…」
「えへへ…蒼太くんにそんな風に言われたくてチョイスしたんです」
ああダメだこっちまでにやけるからいいぞもっとやれ。でも蒼太はやばくなるぞ。
「がはっ……」
ほら撃沈した。
「だ、大丈夫ですか?一瞬血が見えたような…」
「大丈夫です……それより、コーヒーを持ってきますね」
そう言って蒼太はよろよろとしながらもキッチンへと向かった。
*
(か、可愛いって言われちゃった………えへへ。言われるところを想像したことは何回かあるけど、いざ実際に目の前で言われるとこんなに嬉しいんだ……)
蒼太に誉められて熱に浮かされたような顔をしていたあかりは、ふとしたことに気づいた。
(そういえば今日はご家族はいらっしゃらないのかな。もしかして蒼太くんだけを家に残して旅行にでも行かれたのかも。持ってきてくれたら聞いてみよう)
とりあえずリビングのソファにちょこんと座ってみるあかり。テレビとローテーブルを挟んだ向かい側にあるこのソファは、焦茶色の装いでソファ自体もそこそこ低めなのだ。
ちらり、と蒼太のいるキッチンに目をやる。
(蒼太くんは今コーヒーを作るためのお湯を沸かしてくれている。こうして見ると、キッチンに立って作業をしている蒼太くんもかっこいいなぁ………今コーヒー淹れて…こっちを見た。あ、顔赤くしながらも笑いかけてくれた!ふふっ、かわいい)
*
蒼太は淹れたてのコーヒーをリビングへと持っていき、ローテーブルにカチャリと置いた。
「これ、どうぞ。砂糖は2つで合ってますよね?」
「え!?なんでそれを蒼太くんが?」
あかりは驚いた様子で蒼太へ問いかける。
そんなあかりの質問に対して、蒼太は少し照れ臭そうに答えた。
「そりゃ、今までたくさん、あかりと喫茶店やケーキ屋に寄りましたから………あっ、いや決してあかりんの方をついつい見たくなって割とがっつり見てるわけじゃないですよ!?」
「そ、そうなんだ……」
(蒼太くんにそんなに見られてたの?私。恥ずかしい。恥ずかしいけど、それ以上に嬉しいな………)
しばらく互いの顔が熟れたリンゴのように真っ赤になっていたが、あかりが唐突にさっき疑問に感じたことを蒼太に聞く。
「そういえば、ご家族はどうなされたんですか?土曜の朝におうちにいらっしゃらないので少し気になってたんですけど」
「へあっ!?そ、そうだよね!普通はそこ気になるよね!」
蒼太は何やら慌てた様子だ。何か言いにくいことでもあるのだろうか。
「?」
あかりはキョトンとした顔を蒼太に向ける。
すると蒼太は気まずそうに、事の真実を語った。
「いや、その………親と姉妹は夜まで帰って来ないんです」
「…………え?」
「その、今日友達を呼びたいって姉に言ったところ、『え?まじ?女?これは家空けるしかないっしょ!え、あのプレゼント渡した相手?そーかそーか、蒼太にもついに春がやって来たか!あと二、三ヶ月先だけどな!あっはっは!』『よし決めた!その日はお前だけ家な。私とおとんとおかんと妹でどっか行ってくるわ。おかんー!』と…」
「はわわ……」
(ご家族に気を遣わせてしまったみたい。え、てことは……)
「今日、一日中二人きり………?」
「……………そう、なりますね」
「……………」
(き、気まずい……。てっきりいらっしゃるものだと思っていたからまさかそうじゃないなんて……)
「す、すみません、姉を説得できなくて。やっぱり嫌ですよね」
蒼太が申し訳なさそうな、しかしどこか諦めも混じっている声音であかりに尋ねる。
するとあかりは、意外な返答をした。
「そ、そんなことないです。むしろ都合がいいというか………」
「え?都合って、何のですか?」
蒼太はあかりの反応に安堵したが、その後に漏らされた言葉が気になって聞き返してしまう。
するとあかりは誤魔化すように話を変える。
「ま、まあとにかく、早く映画見始めませんか?今日一日あるといっても、映画一本に時間かかると思うんですけど……」
あかりのその言葉に、蒼太は突然夢から覚めたような反応を見せた。
「え、あ……そうですね、見ましょうか。とりあえず、最初はラブコメからで良いですか?」
「全然構いませんよ?私もてっきり、ラブコメを見るものと思っていましたから」
「僕別に偏食家じゃありませんよ!?確かにラブコメは好きだけど……今日はちゃんといろんなもの用意してます!」
蒼太がラブコメ好きだと誤解されそうになった(実際にそうなのだが)のを必死に弁解しようとすると、あかりは口に手を当てて控えめに笑った。
「冗談ですよ……ふふっ。蒼太くんがラブコメに限らず映画好きなのはなっちゃんや他の人からも聞いていますし」
「はぁ………本当にラブコメだけが好きなわけじゃないですからね?それより、映画はこのリビングの大きいテレビで見ることにしますね。僕の部屋のは少し小さいので」
「わかりました。ふふっ、どんな映画を見られるのか、楽しみです」
………ちなみに。
蒼太がコーヒーを持ってきてからの一連の流れで、蒼太とあかりはリビングのソファに座って向かい合いながらしゃべっていたのだ。なんだそれ近いなもっと近づけ。
かくして、ようやく二人は映画を見始めた。
*
それから二人は楽しく映画を鑑賞していた。
昼御飯の時間に差し掛かると、蒼太は昼ごはんを作るためにキッチンへ向かおうとしたが、あかりがそれを引き留めた。なんとお弁当を作ってきたらしい。それを聞いた蒼太は、嬉しかったり残念だったりと複雑な表情だったとか。
そして現在、午後五時。
四本目の映画を鑑賞し、毎回のごとく感想を言い合って。
「もう、良い時間ですね。あかりにも門限があるでしょう?そろそろお開きにしましょうか」
「そうですね、映画がどれも楽しくて、もうこんな時間になってたなんて気づきませんでした…」
このとき、あかりは確かに笑ってはいたのだが、一瞬だけ焦りの表情がちらついたのを蒼太は見逃さなかった。
「あかり、どうしました?」
「……………」
「あれ……?え、大丈夫ですか!?」
何も言葉を返さず俯いたままのあかりを見て、蒼太の不安や心配はどんどん大きくなっていく。
あかりはしばらくそうした後、驚きの行動に出た。
「……………えいっ!」
「へっ……ってうわああああああ!」
顔を上げたと思えば、あかりはなんと真っ正面から蒼太に抱きついたのだ!
蒼太は一瞬すっとんきょうな声を出したが、自身があかりに抱きつかれたのだと認識した瞬間、今日一番の衝撃をもって叫んでいた。
「蒼太くん、少し話を聞いてくれませんか!」
「は、はいっ!」
普段の彼女からは想像もつかないような大きな声に、思わず敬語になって従う蒼太。
蒼太が落ち着いたのを感じ取ったあかりは、少し深呼吸をしてから、俯いたまま、訥々と話し始めた。
*
「私、今まで恋をしたことがありませんでした。物心ついたときには既に手には筆があって、毎日のように絵を描いていたので………。もちろん、絵を描くのは好きです、そうやって好きで好きで描いたものが、周りから褒められるのも悪い気はしなかったんです。周りのお友達が色恋の話に華を咲かせているのを、私は一歩引いて聞いていました。何せ、自分が恋愛するだなんて考えもしませんでしたし」
そう語るあかりの体は震えている。
蒼太はそれを見守るように、あかりの独白になにも言わず耳を傾けている。
「そんな私は、高校に上がると突然告白される回数が増えました。でも、いつも知らない人から突然『付き合ってください』と、たったそれだけの言葉だったので、恋愛とかよくわかっていなかった私はいつも断っていました。なにも見えないまま付き合うのも、相手に迷惑をかけそうだったので」
「いつかは折り合いをつけて誰かと結婚するんだろうなぁと、それまではずっと絵を描いていようとなんとなく思っていました。でも、あの日から私の心には大きな変化がありました」
「蒼太くんだけなんです。明確に私のことが…………その、好きだって言ってくれた人が」
好きという言葉があかりの口から発せられたとき、蒼太は思わず緊張で体に力が入った。
「そのとき、見知った顔の人から好きだって言われて、私はすごく戸惑ってしまいました。相手に迷惑をかけたくなくて、でもどうやって答えたらいいのかもわからなくて。あの後のケーキ屋のときも、緊張してました」
「それから、時々お出かけすることがありましたよね。蒼太くんに映画誘われたり、私がいろんなケーキ屋さんに誘ったりばっかりでしたけど。そうやって過ごす時間が、告白の返事を考えさせてくれる猶予期間なんじゃないかって、勝手ながら思っていました」
「あかり……」
蒼太は無論、猶予を与えたつもりもないし寧ろ自分がへたれて何も出来なかった期間だったとばかり思って落ち込んでいた。そのために今日は、元々想いをもう一度伝えようとしていたわけだが。
「クリスマスの日、マフラーをお互いにプレゼントしたのは今でも頭にはっきりと思い出せます。どれだけ探しても学校には蒼太くんはもう学校にはいなくて、芹沢くんやなっちゃんにも聞いてやっと、帰り道で見つけました。そうしたら、蒼太くんも手にプレゼント包装されたものを持ってたじゃないですか。マフラーをくれたとき、私本当に嬉しかったんですよ?」
あれは、もうマフラーを渡すのは諦めようと思って……という言葉が喉から出そうになった蒼太だが、今は飲み込む。
「…………そして、今日。私は、蒼太くんに伝えたいことがあります。聞いてくれますか?」
「…はい」
蒼太はえもいわれぬ緊張を感じた。
するとあかりは、伏せていた目をあげ、まっすぐと蒼太の目を見据えた。その顔は赤く染まりながらも、確かな決意がにじみ出ていた。
「望月蒼太くん。私、早坂あかりは貴方のことが好きです。毎日考えちゃうくらい、好きなんです。ときどき、辛いことも起こるかもしれません。ですが、これからも一緒にいてください」
「………あかりーーん!!」
「わぷっ!?」
蒼太は、喜びのあまりあかりを思いっきり抱きしめた。
「こちらこそよろしくお願いします、あかり!」
「…………はいっ!!」
その蒼太の言葉に、あかりは満面の笑みを浮かべて、蒼太を抱きしめ返した。
二人の想いは、今ようやく結ばれた。
「僕が名前を呼ぶ日」「私が恋を知る日」のクリスマス の後日談というか。
あのあとではなく、別の日に告白したというシチュエーションです。
この話、次話に続きます。急展開です。
感想などお待ちしています。
追記
寝癖の話、告白からちょっと前の、さらに半月前だったんですね………すみません読み込み不足です。
…が、どうせこことあと一つの話なので気にせず行っちゃいましょう。
お騒がせしました。