甲高くぶつかり合う金属音が森の中に響く。音源を辿ればそれは見えてくる。
金属同士がぶつかり合い、大音量で響いて大量の火花が飛び散る。踏み込んだ足をわざと滑らせ、右から血を欲するかの如く接近してくるハンマーの軌道から頭部を保護する。
頭皮から数ミリ上を通過していくのを見送り、技後硬直に陥っている相手の懐に滑り込む。〈単発突技ソードスキル《リニアー》〉を〈現実世界〉では、人間の6つの急所のうちの1つにあたる水月に叩き込む。
すると襲撃直後に喰らわせた時より、鮮やかなエフェクトフラッシュが発生し、技がクリティカルヒットしたことを知らせる。だが所詮は初期から利用できる〈ソードスキル〉。クリティカルヒットしたところで、レベルの高い相手に大したダメージは通らない。
中層レベルではかなり上位クラスの武器とプレイヤーでも、自分より格下のプレイヤーを狙う犯罪者に通用するはずもない。この数分の戦闘で、全体の2割にも満たない絶望したくなるほどのダメージしか与えられていなかった。
{姉さんの言う通りに圏内から出ず、助けが来るまでずっと待っていればよかったのかな}
戦う意思を無くしてその場に崩れ落ちた少女を、舌舐めずりするかのように見守る5人の男たちの顔には、甘露を味わったとも言える表情が浮かんでいる。リーダー格らしきプレイヤーが、先ほどまで振り回していた両手斧を、少女のHPを消し去るかのように頭上に掲げる。
頂点に到達すると一言だけ発した。
「あばよ〈閃光〉の妹さんっ!」
振り下ろした斧が少女の頭に当たる瞬間、何処からともなく現れた人影が斧を真下から斬り上げる。上体を反らしているリーダー格の男の足元を、右足で少し強めに薙ぎ払って尻餅をつかせた。
その間に乱入してきた人影は、少女を抱えながらバックジャンプで10mほど距離を取る。少女を地面に下ろし、落ち着いた優しい声をかける。
「回復ポーションはあるか?」
突然の出来事に混乱しているのだろう。言葉ではなく首を振ることで持っていないことを知らせる。
「マジか…《ヒール》!」
少女を助けた少年は、腰のポーチからピンク色のクリスタルを取り出し、少女に向けながら一言叫んだ。すると危険域を示す赤色だったHPバーが一瞬にしてフル回復する。
助けた少年が使ったアイテムは回復クリスタルといい、いささか値が張るので緊急時以外は使いづらい。それを微塵の躊躇いもなく使ったとなると、その少年はよほどのお金持ちなのかお人好しなのか微妙なところだ。
「大勢の男が1人の少女を狙うのはかっこよくないな」
「なんだとこら!」
緊張感のない声で呟かれた言葉を、目ざとく耳にした学生のような雰囲気のプレイヤーからやや幼い声が聞こえる。フードを被った男の犯罪者を表すオレンジの色のプレイヤーカーソルが、本人の感情と同調したかのようにギラッと光った気がした。
「今すぐここから離れれば何も言わない。だから消え失せろ」
「てめぇカッコつけやがって!」
「…おい、やめとけ」
リーダー格とおぼしき人物がその男を抑えようとする。
「なんで止めるんすかヘッド!俺ら全員でかかればあんなやつ5秒もあれば十分すっよ!」
「俺たち5人でかかっても万のひとつも勝ち目はねぇよ。あいつは《双竜》の傍〈翡翠の竜〉だ」
「「「「っ!?」」」」
リーダー格の男が発した謎の言葉に、部下である4人の男たちは息を飲む。それと同時に助けられた少女も同じように驚愕していた。
〈翡翠の竜〉といえば、《この世界》における最強のプレイヤー3人のうちの1人。残り2人もこの少年と同等かそれ以上の実力を誇る。だが少女にとっての懸念事項はそのことではなかった。何故それほどの実力者が第35層にいるのか。今の最前線は74層であり、本来ならば訪れる必要がないはずである。
「この人数なら問題ないっすよヘッド!倒したらたんまり金とかアイテムが入りますよ。うひゃひゃひゃ!」
「やめとけ。死ぬのがオチだ」
「ヘッドも弱気になったもんすね。じゃあここは俺が行きます…え?」
ブン!と音がしたかと思うと、今まで話していた動物の頭蓋骨を面として使っている男の喉元に、翡翠色をしたコートをたなびかせた少年の右手に握られた片手用直剣の刃が添えられていた。男は何が起こったのか理解できないようで、何度も瞬きを繰り返している。
「言っとくがな。お前らなら全員を数秒で殺せるぞ。回廊結晶で黒鉄宮に飛ぶかここで死ぬかどっちがいい?」
先ほどとは打って変わって冷徹な声音に一同が動きを止め、呼吸音しか聞こえてこなくなる。全員が武器を締まったのを確認後、コートの左ポケットから濃紺の結晶体を取り出す。
「これはお前たちに殺されたギルドの生き残りが全財産をはたいて購入した回廊結晶だ。そこで自分達の罪と愚かな行動をクリアまで回想することだ。コリドー・オープン!」
すると結晶体は儚く散り、時空が歪んだ様な謎の入り口がその少年の前に現れる。まずリーダー格の男が無言で飛び込み、それに続いて4人が飛び込む。するとその入り口は空中に溶けるかの様に消えていった。
「大丈夫?」
年齢は分からないが、自分とさほど変わらないように見える少年は、優しく問いかけてきた。その言葉に安堵し、大きく息を吐く。
「うん、大丈夫。助けてくれてありがとう」
「無事でよかった。そろそろ主街区に戻ろうか。じゃないと日暮れまでに帰れなくなる」
少女が返事をする前に背を向け、35層の主催区である〈ミーシェ〉に向かう少年の背中を慌てて追いかけるのだった。
国語能力が低すぎる。未だにソードスキルのを発動させるための動作が書けない語彙力の不足が裏目に出た〜。