ソードアート・オンライン〜魂の集い〜   作:ジーザス

2 / 7
2.

「ふっ!」

「グラァァァァ!」

 

息を勢いよく吐き出し、片手剣を右から左に向かって斬り払う。

 

人間の恐怖を身体の奥底から引きずり出すような咆哮とともに、敵が右手の片刃曲刀〈シミター〉を、ほぼ同時に同じ軌道で反対側から振り抜いてきた。互いの身体の中心で刀身の上から3分の2の刃を衝突させてその一点に力を込める。こすれる度に剣がきしむ音が聞こえて火花が飛び散る。

 

数秒間の拮抗後、俺は力負けして後ろへ体勢を崩すように見せかける。眼前の敵《リザードマンロード》は、深緑色のヌメヌメと光る鱗状の皮膚と長い腕、トカゲの頭と尻尾を持つ半人半獣だ。その巨体が前に体勢を崩してたたらを踏む。

 

その隙を見逃さず、バトルを終わらせるため俺はごり押しに出た。

 

「せあっ!」

 

かけ声とともに右手の剣を真横になぎ払い、左から右へ跳ね戻った剣が再度トカゲ男の胸を斬り裂く。1歩足を前に踏み出し、3撃目がいっそう深く敵の身体を捉える。

 

「ガァァァァ!」

 

大きなダメージを受けたことによる怒り故か。怒声とも聞こえる雄叫びを上げて強烈な技を繰り出そうとする。だが敵の攻撃が俺に届くより、こちらの連続技が相手を捉える方が早い。右に振り斬られた剣が見えない力に引っ張られるかのように左上へと跳ね上がり、敵の心臓つまりはクリティカルポイントを直撃した。

 

《この世界》で勝利する秘訣の1つであり、《この世界》をそうたらしめている《剣技》つまりは〈ソードスキル〉。通常ではありえない速度で動かすことができる優れた技術だ。ゲーム内ではそれを〈システムアシスト〉と言われ、プレイヤーを補助することで自分が強者になった気分に浸ることができる。

 

RPGではお馴染みの〈魔法〉という概念はほぼ皆無と言って等しい。僅かに残るクリスタルと呼ばれる物だけがRPGにおける魔法の名残だ。

 

《リザードマンロード》のHPは〈片手剣水平4連撃技《ホリゾンタル・スクエア》〉によって1ドット余さず削り取られた。《リザードマンロード》の頭上に表示されていたHPバーが消え、不自然な体勢で硬直したかと思えば、ポリゴンの欠片を撒き散らしながら消える。

 

これがこの世界における〈死〉だ。瞬時・簡潔それ故に存在した痕跡を何1つ残さず消えるため、2年間《この世界》で生き続けても〈死〉という現象を認識できていない。生身ではないため実感がないのだ。痛みを伴わずポリゴンの欠片となって消えるため〈死〉という言葉の意味が理解できない。

 

「いつまでこんな戦闘を続けるつもりなのかな俺は」

 

誰もいない答える声もない迷宮区で1人呟き、その声はデータでできた《世界》に吸い込まれて消えていく。

 

早めに迷宮区を出なければ日暮れまでに主催区に帰れない。自分のコートとは違い、深く蒼い片手剣を背中の鞘に戻す。重い腰を上げて家路につこうと迷宮区を見上げる。といっても暗くなったところで、自分のレベルであれば迷宮区以外なら死ぬようなことはないが。

 

ソロプレイヤーにとって最も危険な麻痺を喰らえば、話は大きく変わってくるので話は違ってくる。βテスト時とは違い敵の情報も変化し、さらにはβテストでは登っていない74層であれば、レベル3以上の麻痺毒が出てもおかしくはない。

 

ちなみにレベル1の麻痺毒は、痺れて行動に支障がでる。レベル2は行動不能つまりはスタン状態を意味する。レベル3になればどうなるかわかったものでは無い。今のところ分かっている情報でレベル2の麻痺毒を使ってくるモンスターは、50層以上の階層ボス・エリアボスぐらいだ。

 

そんなことを考えていたが、その心配は杞憂に終わったらしい。物思いにふけっている間に〈圏内〉に入り、無意識のうちにほっと息を吐く。物思いにふけっている間も〈索敵スキル〉を使用しながら警戒していたので、襲われることがなかったのは当然だが。

 

転移門に入り目的地を指定する。

 

「転移〈アルゲード〉!」

 

淡い光に包まれ視界が光に包まれ、瞬きする頃には指定した街に到着していた。

 

〈猥雑〉という言葉にぴったりなこの街には、怪しげな工房や一度入れば二度と出てこれなくなるのではないかと思われる脇道などが至る所に存在しており、そんな雰囲気が個人的にとても好きである。考えるよりも先に、足は友人が店主として開いている店に向かっている。今日の戦闘5時間ほどの戦利品を持ち込んで換金つもりだ。

 

「オッス、エギル。鑑定よろしく」

「お前な、少しぐらい息抜きする時間を与えようとは思わんのか?」

 

黒肌にがっしりとした体格に剃り上げた頭の風貌の男に、呆れ顔で小言を言われる。

 

「思ったさ」

「だったら…」

「暇すぎるより忙しいほうがいいだろ?」

「程度は考えろ。店を出ていく客の数を見ただろ?かなり忙しかったんだぜ?」

 

文句を言いながらも笑みを浮かべる歳の離れた友人に、単独戦闘での疲れが癒されるのを感じる。確かに店に入る前に何人かのプレイヤーとすれ違っていた。それほど大袈裟な人数ではなかったが、人数で換金アイテムの量は測れない。小規模ギルドの長が数名来ていれば、それなりに量が増えて時間もかかるだろう。

 

まあ、その程度で気を使うつもりもないけど。

 

「格安で売ってやるから勘弁してくれ」

 

そう言いながら右腕を振って、メニューウインドウを呼び出す。トレードウインドウを開き、送るアイテムを今日手に入れたアイテムとして必要なもの以外を全て選択する。送信相手を指定して送信すると、送り相手であるエギルの表情が崩れていく。

 

「どうした?」

「どんだけの量送ってくんだよ半端ねぇぞこの量。一体どれくらい潜っていたんだ?」

「どれくらいって言われてもな。ざっと5時間ぐらいじゃないか?」

「5時間って相当だぞ?」

 

単独で迷宮区に潜る事自体おかしい事なのだが、さらに5時間という長時間ともいれば、精神的なダメージが空恐ろしいことになる。エギルから見ればかなり疲労しているように見えるのだろう。俺的にははそれほど疲れているわけではない。商売する以上は、人の体調も気になるのだろう。どこまでも人当たりのいい人物である。

 

「これだけの量となると一旦店仕舞いしないとな」

 

ぼやきながら店の表札を〈open〉から〈準備中〉に裏返して鑑定を始めた。

 

「エギル、コーヒーを頼む」

「ここは喫茶店じゃないぞ」

「愛用の両手斧あげただろ?」

「…そらよ」

「あざっす」

 

不満そうな顔をしながらも、所狭しと並べられた戸棚からコーヒー豆を取り出し、慣れた手つきで豆を引く。そしてお湯を注いで俺に出してきた。

 

「…美味い。さすが元バーテンダー」

「そりゃどうも。言っとくが戻ってからもやるつもりだから元とは言わせねぇよ。ゲーム内だから味は安定して出せるが、システムのランダムで時々激マズが出るけどな。俺としちゃ自分の腕で味を安定させたいんだけどな」

「戻ればできるんだから今は気にしなくていいさ。それよりも鑑定頼むよ」

「あいよ。少し待っててくれ。この量は10分やそこらで終わるようなもんじゃないからな」

 

いかつい笑みを浮かべながら、カウンターの奥で鑑定し始める友人を見送る。本当であれば《この世界》で現実世界の話をするのはタブーなのだが、本人はむしろその話をしたがるので悪い気はしない。

 

時たまに歓声を上げているのは、ドロップしたアイテムの中にレアな物でも入っていたのだろうか。〈鑑定スキル〉をコンプリートしている彼なら問題なく解析できるので、ほぼ毎日この店に鑑定を依頼している。

 

友人であり話しやすいこともあるが、彼の商売方法を手助けしたいという気待ちが一番大きい。

 

15分後、全ての鑑定を終えたエギルが値段交渉を始めた。

 

〈リザードマンロードの皮〉 150枚

〈リザードマンロードの爪〉 80本

〈リザードマンロードの牙〉 100本

〈リザードマンロードの鱗〉 200枚

 

これが《リザードマンロード》50体分のドロップアイテムだ。どれも武器と防具の作成や強化に必要なものであり、中層プレイヤーにとっては豚に真珠のような高級装備である。

 

本来、このことわざはよく悪い意味で使われる。今回は武器や防具としての性能が40層辺りでは、最強と言ってもいいほどの攻撃力と防御力があるため、このような言い方になっただけだ。

 

「全部合わせて5万4000コルでどうかな?」

「…おいおい、そんなに安くていいのか?」

 

《リザードマンロード》のドロップアイテムは性能が高い。これだけの量だと軽く20万コルは超えるため、彼が掲示した値段は破格だ。

 

「金なら困ってないし、《リザードマンロード》を倒した金も入ってるしな。それにエギルの応援をしたいからな。これだけあれば20人分くらいにはなるだろう?」

「毎度毎度すまんな」

 

頭をかきながらエギルが頭を下げてくる。頭を下げるのは俺の方だ。彼のおかげで換金ができて、アイテムによるプレイヤーの装備拡充ができるのだ。その上最前線のプレイヤーとしての腕もあるときた。完璧超人とでも言える腕利きでしかない。

 

「気にしなくていいって。俺にとっては迷宮区をマッピングできるし、経験値も稼げてスキル熟練度も上がる。エギルは無理して危険なモンスター地帯に出なくて済むし、これをもらえる中層プレイヤー達が俺達に追いつけるようになれば、win win winだろ?」

「キリトには言ってねぇよな?」

「言われたくないんだろ?言ってないよ。じゃあ俺はこれで」

 

有無を言わせずトレードウインドウの〈イエス〉ボタンに触れて取引を終了する。

 

「また頼むぜカイト」

 

軽く右腕を振ってエギルの店を出て自分のねぐらに向かうのだった。

 

 

 

時刻は夜7時半。思った以上に鑑定に時間がかかったらしいが、別に気にすることもないのでコートや剣をアイテムイウンドウにしまい、簡素な服装に着替える。翡翠色のコートと同じ色のズボンから上下お揃いの灰色の服を見下ろし苦笑が浮かぶ。

 

{あのコートを着ていないと気分が全然違うな。あれを着ていると誰かバレるけど、着ていなかったらバレないというなんとも不思議な感じだが、色だけでバレるのは痛いな}

 

翡翠色の服など、この〈ソードアート・オンライン〉の世界には俺が着ているもの以外存在しないらしい。容姿がバレているわけではないので、着ていなければ気づかれないのは道理だ。攻略組には顔ばれしているので中層以下という注釈付きだが。

 

ベッドに寝転びながら考え事をしていると、友人からのメッセージが届いたので開いてみた。

 

『久しぶりだナ海坊(うみぼう)

『…一体なんのようだ?』

『俺っちのために少しだけ働いて欲しいんだナ』

『何が必要なんだ?』

『35層の〈甲虫の巣窟〉エリアに生える【ネンチャク草】を、多めに取ってきて欲しいんだナ』

『了解』

『…理由や対価を聞かないのカ?』

『ギブアンドテイクはそれなりの要求があるときにするものだ。それにあんたには世話になっているから明日行ってくるよ』

『すぐに行ってくれるのはありがたいんだガ。それよりも攻略はいいのカ?』

『1日ぐらいどうってことない。74層に来てからまだ3日だぞ。これだけの短期間で迷宮区まで行けているのはあまりにも運がいい。少し攻略の速度を落としても問題はないと思う』

『助かるヨ。ある程度取れたら取りに行くからよろしくナ』

 

メッセージを打ち終わった後、眠気に負けたのでそのまま眠ってしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。