決闘学園。
そこは、デュエル界の重鎮を何人も輩出して来たマンモス校。
いくつもの分校があり、初等部から大学院に研究施設、果ては大企業のコネクトに至るまで、ありとあらゆる界隈に精通している。
中でも本校である高等部セントラル校は、エリート中のエリートの集まりとされ、主席で卒業すればプロ入りはもちろん、プロ引退後も成功が約束されると言われる程である。
基本的には初等部からのエスカレーター式だが、中等部、高等部、大学部と、いくつもの編入制度を導入している。
本日は、その編入試験当日。
セントラル校にも当然ながら枠があるが、その倍率は推して知るべし。
分校と比べれば枠が少ないというのはあるが、100倍ならば運が良く、今年も例年に漏れず、400倍という桁外れの倍率を叩き出している。
そんな人数の受験が一日で終わるはずもなく、筆記試験を通過した者たちが、本日の実技試験を受けに来ている、というわけだ。
「えっと、番号は……50番か…………遅いなぁ」
ここにいる
「確か噂だと、この番号順に何かの順番通りだったはず……」
今年の筆記試験の通過者は50人。
そして遊司は50番。
「つまり、僕が編入組で一番下ってことか……」
遊司としては、筆記試験の手応えはバッチリだっただけに少しショックである。
けれど、それで凹んでいても始まらない。
「試験時間まではまだあるし、デッキの調整でもしてようかな…」
他の受験生のデュエルも公開されているが、かと言って変に自分より上の人のプレイを見ても自信をなくすだけ。
もちろん勉強にはなるが、それで変に気合が入り、空回りしてプレイミスするよりかは、デッキの調整をしていた方がまだ幾分か平常心が保たれる。
「とりあえず、カードを広げられる場所は……と」
遊司が角を曲がろうとした時ーー
ゴツッ!
鈍い音が響いた。
「いっつつ……」
「あいった〜……」
「って、ご、ごめんなさい!」
「かまへん、かまへん。ウチもごめんやなぁ」
そう言って、セントラル校の制服を着た女子生徒とぶつかってしまった。
必死で謝る遊司に、余裕で返す女子生徒。
「それより君、編入希望?」
「はい、そうですけど?」
「番号は?」
「ご……」
「ご?」
「50番、です……」
何となく自分でビリです、と公言してるみたいで恥ずかしい。
「へぇ……」
が、それを伝えた途端に女子生徒の目が変わった。
普通の女の子のものから、相手を喰らってやろうという猛獣のような目のそれへ。
その目を、遊司は知っている。
それは、決闘者の目だったから。
「また後でな?楽しみにしとくわ」
そう言って、ひらひらと手を振って去っていった。
「何だったんだろう?」
遊司としては、首を傾げるしかなかった。
ーーーーー
「ダイレクトアタック!」
「ぐわぁあああ!」
ピー
決着の合図の音がデュエルディスクから鳴る。
「そこまで!49番の実技試験はこれにて終了する」
「ありがとうございました」
遊司の前の受験生の挑戦が終了した。
「では50番!壇上へ」
「はい」
49番の受験生と入れ替わりでデュエル場に立つ。
デュエルディスクを構える。
「では……」
「ああ、少し待ちなさい」
「?」
突然の待て、に首を傾げる遊司。
すると、今まで実技試験を担当していた教員がその場を後ろから来た女子生徒と入れ替わった。
「えと、あれ?」
「やほー、さっきはごめんな?」
しかも、先ほどぶつかった女子生徒だった。
「いえ、こちらこそすみません……」
「うん、じゃあこの話はこれでしまいや」
「はい…………えと、これは一体?」
何故実技試験が教員ではなく生徒相手なのか全く分からない遊司が、女子生徒に尋ねる。
「ああ、これは特別な証っちゅー奴や」
「?」
「毎年恒例なんやけどな、編入希望者の中で筆記試験一位の子の実技試験の相手は、同い年の主席っちゅー伝統があるんや」
「ほへぇ……って、僕が筆記試験一位!?」
「せやで?」
「じゃあ何で最後?」
「それはほら、周りをよく見てみ?」
「ん?」
ぐるっと見渡すと、ギャラリーが大勢。
その中には先に実技試験を終えた受験生だけでなく、セントラル校の生徒や教員も多数いる様だった。
「こういうことや。今年の編入希望者のレベルを測るんと、主席生徒の実力を見せる場なんよ」
「つまり、見世物ってわけですか……」
「すまんな」
「謝る必要はありませんよ」
そこまで言って、デュエルディスクを構え直す。
「では、そろそろ……」
「うん、ええよ」
それに応じて女子生徒も構える。
「ではこれより、編入希望者筆頭、鹿波遊司 対 決闘学園セントラル校中等部主席、
「両者、構え!」
「「
鹿波遊司 LP4000
綺蝶まゆ LP4000
先行は遊司。
「僕のターン、カードを5枚セットしターンエンド」
ざわ……ざわ……
「何や、モンスター引けなかったん?」
「そのようです」
「手札事故なんて残念やなぁ」
けれど、これも時の運だろう。
そうだとしても、まゆは手を緩める気は一切ない。
当たり前だ。
不運があったからと手を抜くのは、決闘者として失礼だからだ。
「行くで、ウチのターン!ドロー!」
引いたカードを見て頷くまゆ。
(うん、この手札なら多少妨害にあっても問題ないな)
モンスターが引けず、カードを5枚セットしたということは、確かに手札事故だろう。
だが、逆に言えばそれだけ多くの状況に対処できる場が整ったということでもある。
(まぁこのターンは素直に攻撃させてくれへんかもなぁ)
だがそれで止まるほど、まゆとて弱いつもりはない。
たかだか1ターンキルが難しくなっただけ。
別にそのためのデッキでもない以上、焦る必要もない。
(まずは……)
「ウチは『魔力倹約術』を発動や!」
魔力倹約術
永続魔法
魔法カードを発動するために払うライフポイントが必要なくなる。
「さらにウチは、『
まゆが宣言すると、少しセックスアピール感のある服を着て、コウモリのような羽を生やした女の子が場に現れた。
レベル4 悪魔族 水属性
ATK 1800 DEF 1400
1ターンに1度、自分の他の『偶像淫魔』モンスターがいる時に相手モンスターを対象に発動出来る。そのモンスターの表示形式を変更する。
「これは、綺蝶さんのコンボ!」
「さすがですねぇ、魔力倹約術と通常召喚、あのカードを使うつもりですね」
「モンスターも出せていない編入希望者なら1ショットキル狙えるんじゃないか?」
「さすがまゆさんだ!」
周囲の観客の期待に応えるかのように、自信満々にカードの発動を宣言する。
「速攻魔法『
「カウンター罠・オープン!」
「え?」
遊司の宣言に、会場の空気が固まった。
「『脱税犯、逮捕!』」
「脱税、犯……逮捕?」
初めて見るそのカードに戸惑うまゆ。
「このカードは、発動にコストや条件が必要になる効果が、何かしらのカードの効果や条件により払う必要がない状態で発動した場合、発動出来る!」
(なっ…)
(なっ……!)
((なんだその発動条件!?))
会場中の気持ちが1つになった瞬間である。
そんな会場を置き去りにして、遊司の説明は続く。
「必要なくなるや払わなくてよい、という効果のみを無効化し、さらに発動条件に『LPを1000ポイント支払う』を追加する!」
「な、待って!それじゃあ……」
「この場合、あなたはそのカードをLPの半分とさらに1000ポイント……しめて3000のLPを払って発動します」
「まさか……そんなやり方で……」
「発動までは無効にしませんから、効果処理を続けてください」
「くっ、ウチはセンター争いの効果で自分の場に偶像淫魔がいる時、別の名前の偶像淫魔をデッキから特殊召喚や!来たってや!『
綺蝶まゆ LP4000→1000
速攻魔法
自分の場に『偶像淫魔』モンスターがいる時、ライフを半分払って発動出来る。デッキから場にいる『偶像淫魔』とは別の『偶像淫魔』を自分の場に特殊召喚する。
脱税犯、逮捕!
カウンター罠
カードの発動にコストや条件が必要なカードがカードの効果又は条件により支払う必要がなくなった場合に発動出来る。必要がなくなる、払わなくてよい、という効果のみを無効にし、発動コストに『LPを1000払う』を追加する(カードの発動は無効化されない)。
レベル3 悪魔族 炎属性
ATK 1100 DEF 800
相手の攻撃宣言時、自分の他の『偶像淫魔』モンスターが攻撃対象になった時に発動出来る。自身をリリースして攻撃対象となった『偶像淫魔』モンスターの攻撃力を500上げる。
「なんとも恐ろしいカードでありますなぁ……」
「寺岡先生、そんなに言うほどですか?」
観客席で見ていた教師の1人が呟いた言葉に近くの生徒が反応する。
ぱっと見では、発動の条件がややこしい上、カード効果の発動そのものは止めないのでイマイチにしか見えない。
「いやいや、あれの恐ろしい点は2つあるのであります」
「2つ?1つはカウンター罠ってことだろうけど……」
「その通り、よほどの準備をしなければあれは止めづらい。そしてもう一つが、コスト踏み倒しの種類を選ばないという点であります」
「あ、そっか。強力な効果はコストを要求するのが当たり前だから……」
「好きな時に1000ポイントものダメージを与えているに等しいのですぞ」
「でも、コストの踏み倒しをしなくてもアドバンテージを稼げれば……」
「それもそう簡単ではなさそうでありますなぁ」
「?」
疑問符を浮かべる生徒に試合を見れば分かると、顎を動かした。
「ち、ちょっと予定外なもん食らってもうたけど、ここからはそうはいかへんよ!」
「それは楽しみです」
「このぉ〜、召喚指定は『フィールド場の『偶像淫魔』モンスター2体』!」
その文言に、観客が盛り上がる。
「ウチは『偶像淫魔-マリー』と『偶像淫魔-ルルミ』をゲームから除外!サクリファイス・レゾナンス !!」
2体のモンスターが、魂となって場から除外される。
「レゾナンス召喚!『
そして、黒い羽根をはためかせた悪魔が、艶めかしくも美しく舞い降りる。
「レゾナンス 召喚、ですか……」
「そや!ウチの反撃は、ここからや!」
レベル6 悪魔族 闇属性
ATK 2600 DEF 1600
召喚指定
自分フィールド場にいる『偶像淫魔』モンスター2体
このモンスターが攻撃する時、手札から『偶像淫魔』モンスターを一体墓地に送っても良い。そうした場合、そのバトル中このモンスターは攻撃力を1000上げる。
レゾナンス召喚。
それは新しく登場した召喚方法である。
フィールドや墓地など、指定された場所にある指定されたモンスターを2体以上除外することでエクストラデッキからモンスターを呼び出す召喚方法のことを指す。
2体以上のモンスターの魂が共鳴することでより強い力を呼び寄せる、というイメージを元に考案された召喚方法だ。
この方法で召喚されるモンスターを『レゾナンスモンスター』と呼び、カードの色は赤。効果モンスターのそれよりも濃い赤い色をしている。
「これがウチのフェイバリットや!行くで!サタナーデでダイレクトアタックや!」
「その瞬間、トラップ発動!」
「!?」
「『攻撃許可証法案』!」
「また、ウチの知らないカード……!」
攻撃許可証法案
永続罠
このカードが表側表示で存在する限り、全てのプレイヤーは攻撃宣言時にLPを300ポイントを支払わなければならない。
「うっ……けど、まだ3回は攻撃出来る!それなら……」
「さらにチェーンしてカウンター罠!」
「!?」
「『罰金要求』!」
罰金要求
カウンター罠
このカードが発動した次に相手がコストのために500ポイント以下のLPを支払う場合、その必要LPを倍にする。
「2枚の効果を合わせて、攻撃宣言をすれば、600ポイントのLPを支払う必要があります!」
「う、く、うぅう……!」
いきなりLPを3000も削られてからの更なるLPコストの追加要求。
まゆは、動揺と焦りを隠せない。
(攻撃をしなければ、いや!それやと次にダメージを受けた時に下手すれば負ける……そもそも壁モンスターで凌がれるだけでLPコストが払えんくなる……今はあの罠を割れるカードは持ってない……今なら1ショットキルいける、でもまだあと2枚の伏せカード……いや躊躇したら一瞬や……)
様々な考えが浮かんでは消える。
今は攻撃は巻き戻っているから、攻撃せずにターンを終えることも可能。
だが……
「ここは、攻めるで!!」
「ほぅ……」
(ヘタレたら、きっとすぐにトドメを刺される!なら攻めあるのみ!)
まゆの勇気が、その一歩を踏み出させた。
「サタナーデで攻撃や!」
「その瞬間、あなたは600ポイントのライフコストを払う!」
綺蝶まゆ LP1000→400
「そして、サタナーデの効果や!手札から『偶像淫魔』モンスターを捨てて、攻撃力を1000上げる!」
(捨てるのは『
レベル4 悪魔族 光属性
ATK 1200 DEF 1500
このカードが効果によって墓地に送られた時、自分の場の『偶像淫魔』モンスターを対象に発動出来る。このターン中、そのモンスターの攻撃力を800上げる。
(これで攻撃力は4400や!通れば、1ショットキル!届いて!)
最早攻撃が通ることを祈るまゆ。
「その効果が発動した時にチェーンして速攻魔法『下手くそ泥棒』を発動します!」
「っ!」
だが、決闘はそんなに甘くはない。
祈るのではなく、自ら切り開かない者に勝利は訪れないのである。
下手くそ泥棒
速攻魔法
発動のためにコストを支払う必要のある効果が発動した時に発動出来る。その支払うコストは不要とし、効果を発動する。その後、ターン終了時にコストを支払わなかったプレイヤーは400ポイントのダメージを受ける。
「これにより、手札コストを支払うことなくあなたのサタナーデは攻撃力を1000上げます!」
「う、うぅ…」
偶像淫魔-サタナーデ
ATK 2600→3600
「そして、伏せカード、ラストオープン!」
「ま、まだあるんか!?」
「最後はこれです!『ガード・ブロック』!」
ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする
遊司の強運に驚きを隠せないまゆ。
5枚のカードを伏せ、それが全て有効打になるというのもそうそうあるものではない。
モンスターが引かなくとも、今出来ることを考え最善手を打ち状況を打開する。
正しく、
「綺麗や……」
その姿に魅入られる。
ここまで戦術を見切られ、的確にカードを切られるデュエルがあっただろうか。
少なくともまゆの15年の人生では見たことがない。
サタナーデの攻撃がガード・ブロックに阻まれる。
「ウチはカードを1枚伏せてターンエンドや」
「そのターン終了時、下手くそ泥棒の効果によりあなたは400ポイントのダメージを受けます」
「あはははは……完敗やなぁ」
綺蝶まゆ LP400→0
ピー
決着がついた音がデュエルディスクから響き渡る。
その音に、会場は静まり返っていた。
「えっと……これで終わりで……いいんです、よね?」
何も言われないので、不安に駆られていく遊司。
つい先ほどまで見せていた凛とした表情とは打って変わった様子に、まゆには笑いが込み上げてくる。
「ふっ、ふふ!うん、もうええよ。大丈夫」
「そ、そうですか……ありがとうございます、いいデュエルでした」
「してやられただけやけどな」
「とんでもない!結果的に迂闊ではありましたが、あそこで攻撃を選択出来るのは大事だと思います」
「そ?ありがとうな」
静まり返った会場を置き去りに、朗らかな雰囲気でデュエル談義を始めてしまった2人。
傍目から見ると異様にも見える空気の中、本年度の決闘学園実技試験が終わった。
遊司「最初から変な効果ばっかりで申し訳ない」
まゆ「一番分かりにくいのはあれやな、『脱税犯、逮捕!』」
遊司「あれは「〜〜して発動する、出来る」という効果などで必要となるコスト、手札やLPなどですね。それを特定の条件で払わなかったり、別の効果で払う必要性がなくなった効果が発動した時に発動出来るんです」
まゆ「ほんま分かりにくいなぁ……」
遊司「恐らく今後も分かりにくいものが出るかもしれません」
まゆ「その時はなるべく堪忍したってや〜」