黒の騎士団長と花騎士たち   作:七篠シマ

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初期組以外で初めて出会った花騎士が彼女だったので


1話

 

「…っ、やべーな。アレ」

 

夜の森を月明かりだけを頼りにひた走る。

襲い掛かる爪を牙を角を触腕を刀で弾き応戦していくうちにだんだんと追い詰められていく。

後ろは断崖絶壁。

そして前には、虫だ。

あんなでかいのは見たことないがアレは俺に敵意を持って襲いかかってくる。

 

「…このままじゃ死ぬな」

 

活路は見出せないがとりあえず――

俺は崖から飛び降りた。

 

………

……

 

「…ここ、は」

 

「あら?目が覚めたの?」

 

「アンタが助けてくれたのか?」

 

黒い髪に深い青色を基調とした和服姿の女性が濡れタオルを持って立っていた。

 

「えぇ、あんなところで倒れてるんだもの。薬草じゃなくて人を拾うなんて思ってなかったわ。私はナンテンよ、よろしくね。」

 

「はは、悪かったな。こちらこそよろしく」

 

「一応診察しておいたけど打撲と切り傷だけね。すぐに動けるようになると思うわ。若いようだし」

 

「さんきゅ。あー…悪い。今持ち合わせがないんだが」

 

「そんなことだろうと思ったわ。とりあえず家事手伝いでもしてもらおうかしら」

 

「さんきゅ。助かるぜ」

 

「ところでなんであんなところで倒れてたの?」

 

「それはーー」

 

言いかけた時ドアの向こうでナンテンを呼ぶ声がした。

 

「せんせー!転んだー…」

 

「ごめんなさい。また後で聞かせてもらってもいいかしら。はーい!」

 

………

……

 

それから半日。

手を握り開きしながら身体の状態を確かめる。

普段通り身体が動くことを確認し、ベッドから這い出る。

 

「ナンテン、なんか手伝うことあるか?」

 

「そうね、ってまだ動いちゃダメよ」

 

「もう治った。つーか、ずっと寝てたら身体がなまってしょうがねーぜ」

 

「そんなわけ…あら?本当に治ってるわ。なら、受付でもやってもらおうかしら」

 

「りょーかい」

 

………

……

それから数日、ナンテンの診療所で受付をする日々が続いていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「んー?なんだ?」

 

「あのね、」

 

「随分と仲良くなったのね」

 

女の子とばかり…、と思ったがナンテンは口には出さなかった。

 

「そりゃ受付だからな。人と話さなきゃ仕事にならないだろ」

 

「…そうだけど、そろそろお夕飯にしましょう?」

 

「もうそんな時間か。また明日な」

 

「またね、お兄ちゃん!」

 

診療所のドアに診療終了の掛札をかけて居住スペースに戻る。

ナンテンと二人でテーブルを囲み、手を合わせる。

 

『いただきます』

 

「ナンテンの料理は美味いな」

 

「貴方だってすごく手際よかったじゃない」

 

「まぁ、男の一人旅だからな。家事の類はできるようになるさ」

 

「そういうものかしら」

 

「そういうもん。ごちそーさま」

 

「はい、お粗末様でした」

 

流し場に使った食器を置き、洗っていく。

ナンテンが料理を作ったときは俺が皿洗い、俺が料理を作ったときはナンテンが皿洗いというのが習慣になっていた。

皿洗いも終え、庭に出て剣を振るう。

 

「ふっ…ふっ…ふっ…」

 

「今日も素振り?ここに来た初日もやってたわよね」

 

「鍛錬しとかねーとな。つえーやつもいることだし」

 

「誰のこと?」

 

「誰っていうか――」

 

そう言いかけた時診療所のドアが蹴破られるようにして人が入ってきた。

 

「ナンテン先生!」

 

「何かあったの?」

 

「町の近くに害虫が出現しました!」

 

「数や大きさは?あと特徴も教えて頂戴」

 

「数は一匹大きさは中型くらいでしょうか。甲殻に切り傷があって足が一本なくーー」

 

その話を聞いてるうちにピンとくるやつがいた。

 

「俺にも話を聞かせてくれ!」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「この人誰ですか?」

 

「ただの居候だ。そいつをどこで見たんだ?」

 

「無垢なる森区ですが…」

 

部屋にかけられている地図を見てそれに該当する場所を見つける。

 

「わかった。東だな」

 

「あなたどこ行くのよ!」

 

「ちょっと野暮用だ!世話になったな。ナンテン!」

 

「…っ、はぁ、他の花騎士にも話して警戒に当たって頂戴。私はあの人を追うわ」

 

「はい!」

 

………

……

 

月明かりが照らす夜。

凶暴そうな虫が一匹町に向かって進んでいた。

 

「シィィィィィ」

 

「見つ、けたぁっ!」

 

挨拶とばかりに刀を外殻に叩き付ける。

がそれを関係ないとばかりに吹き飛ばす虫。

 

「シィィィィィ!!!」

 

「よぉ、俺を探しに来たんだろ?お前と戦った時もこんな夜だったからなぁ!」

 

ナンテンの家から突っ走ってきたにもかかわらず目の前の虫と出くわした場所は町からほとんど離れていなかった。

目撃情報から鑑みても接近が速い。

このままじゃ街にも被害が及ぶかもしれねえ。

 

「…再戦、だな。今度こそお前を倒してやるぜ」

 

………

……

 

「まったくもう、どこに行ったのかしら。」

 

夜にこの地帯を一人で出歩くのは危険だ。

害虫が出現している。

早めに連れ戻さないとそう思っていると剣戟の音が聞こえた。

 

「っ!?まさか!」

 

私は音の聞こえた方向に走り出していた。

 

………

……

 

「クソ、かってえな…」

 

刃が通らない。

体術も効かない。

打つ手が、ない。

 

「何やったら倒れんだコイツ」

 

不気味に戦慄く目の前の虫から目を離さずに息を吐く。

このままじゃ前と同じ結果になる。

俺にできることはコイツを街から遠ざけることだけか。

そんなことを思っていると後ろから声がした。

 

「貴方!何してるの!?」

 

「ナンテン!?何しに来たんだよ!」

 

「何って貴方を探しに来たのよ!」

 

「なら、早く帰ったほうがいいぜ。コイツがここまで来たのは俺の責任だ」

 

「貴方なの?この害虫に傷を負わせたの」

 

「…そうだ。いきなり襲ってきたからやむなくな。生物無生物問わず動く時には兆候があるもんだ。例えば、魔法使いなら魔力。武道家なら気。ロボットなら電流。傀儡使いなら糸みたいにな。だが、こいつには何にも感じねえんだ。こいつは一体なんなんだ?」

 

「『害虫』、と呼ばれているモノね。昔話は後で話すわ。今は戦闘を終わらせることが先決よ」

「っておい、ナンテンが闘うのかよ。医者だろ?下がってろって」

 

「私は医者であると共に花騎士でもあるの」

 

「騎士だかなんだか知らねーけど気に入ったやつが傷つくのは見たくねーんだよ」

 

「…っ、もう、お世辞が上手いんだから。貴方が強い事はわかったけれど害虫退治は私たち花騎士に任せてちょうだい」

 

「……わかった。」

 

ナンテンは目を瞑り、精神統一していた。

 

標的を俺からナンテンに移したらしい害虫はナンテンに突撃していった。

 

「シイイイイィィ!!」

 

「…見せてあげるわ」

 

【難転流奥義・黒槌閃】

 

ナンテンが筆を振るうと夜闇よりも黒い黒が害虫を塗り潰していく。

害虫は身動きも取れずその黒に塗り潰されて動かなくなった。

 

「…ふふ、どうかしら?」

 

「すげーな!今のどうやったんだ!?」

 

「あとで教えてあげるから、今はここを離れましょう?今ので新たに害虫が表れても面倒だわ」

 

「…あぁ、そうだな」

 

………

……

昔々――

西の栄えた国に、とても美しい女王様がいました。

 

女王様は国中の人々から愛されていましたが、

誰にも叶えられない願いの為に、異世界の魔王と約束をしてしまいます。

それは、永遠の命を手に入れる代わりに、魔王をこの世に招待すること……。

 

女王様は、魔王の力でみるみるうちに若返りました。

ですが、魔王は悪い魔王だったので、約束なんて守りません。

女王様はすぐにまた老いて、すぐに死んでしまいました。

 

女王様を騙した魔王には、とても恐ろしい手下の怪物がいました。

ですが、そんな怪物たちも、勇者とその仲間たちにより、光り輝く太陽の剣で倒されます。

けれど、勇者たちがトドメを刺すことはありませんでした。

なぜなら、とても偉い賢者たちが、こう言ったからです。

 

『この怪物たちを殺してはいけない。

 なぜなら、この怪物たちは…………』

 

それを聞いた勇者たちは、賢者たちに教えてもらった方法で、

怪物たちを封印することにしました。

 

こうして、とても恐ろしい怪物たちはいなくなり、

勇者たちは魔王を倒しに西へと向かいました。

人々はその間、怪物たちの封印が溶けないよう、

十年、百年、何百年と賢者たちの教えを堅く守り、そして……。

 

―― そして、千年の時が経ちました ――

 

 

これが最初の花騎士であるフォスと、それを率いた伝説の勇者の話。

もっとも勇者は団長と名を変えているらしいが。

 

「こんなおとぎ話だけどあなたが戦った害虫もそれらの一種なのよ」

 

「…なるほどね。そういう過去があったわけか。で、これどこに向かってるんだ?」

 

「…元老院よ」

 

そして案内された建物の広間に入ると幾人もの人間が椅子に座って待っていた。

 

「本日はお時間を作っていただきありがとうございます」

 

「此度の害虫討伐見事であった。して、話とは」

 

「私、ナンテンは彼を騎士団長として推挙致します」

 

「そちらの方」

 

「あ、俺?」

 

「見ない顔だが騎士学校をしっかりと卒業しているのか?」

 

「いや?」

 

「では、駄目だ」

 

「彼は学校を卒業してはいませんが団長に足り得る資格は兼ね揃えています」

 

「ならぬものはならぬ。ここは儀礼としきたりを重んじるリリィウッドである。何処の馬の骨ともわからぬ者を団長に据えて問題を起こしたら誰が責任を取るというのか」

 

「全然話が見えねーんだけどさ、団長だとかってフォスとかの昔の話じゃねーの?」

 

「今なお続く名誉ある伝統的な仕事である 」

 

「へぇ、何でナンテンはそれを俺に推してるんだ?」

 

「…私が貴方と一緒にいたい、それじゃ駄目かしら?」

 

「いいや?悪くない。最高だ」

 

「では、正規の手順を踏んでから――」

 

「それってどれくらいかかるんだ?」

 

「お主次第である。訓練と教養を積みそれから――」

 

「それじゃ駄目だ」

 

「な、何?」

 

「俺もナンテンも今一緒にいたいんだよ。未来の話じゃねえ」

 

「…元老院は言を曲げないぞ」

 

「わーってるよ。別の道探すぜ。行くぞナンテン」

 

………

……

ナンテンの診療所に戻りお茶を飲みながら今後の展望を話す。

 

「…で、どうするの?」

 

「今から考える」

 

「もう…」

 

「でもよ、一つ決めてることがあるんだよな」

 

「何かしら?」

 

「俺が騎士団長になるなら国や生まれや所属なんてカンケーなくみんなで力を合わせるそんな騎士団にしようぜ」

 

「ふふ、そうね」

 

「そうと決まれば今から旅だな」

 

「今から!?」

 

「あったりまえだろ!仲間集めとまぁ、団長になる方法も探そうぜ」

 

「もう、強引なんだから」

 

それからリリィウッドから一人の花騎士と騎士団長を志す者が旅に出た。

彼らが向かう先はどこなのか。

それは彼らのみが知る。

 




団員No.1
name:ナンテン
【備考】
団長が初めて出会った花騎士。
無茶をする団長のよき理解者でもある。
団内での医療関係の全てが任されており、団長も全幅の信頼を置いているとか
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