黒の騎士団長と花騎士たち   作:七篠シマ

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任命式から数日後の話です。


3話

騎士団長になってから数日が経過した頃。

執務室でだらだらしてる団員全員の姿があった。

 

「今日の仕事は――無しだ」

 

「今日もの間違いでしょ!?」

 

アブラナの声が部屋に響く。

 

「頻度が違うだけだ。問題ない」

 

「ないわけないでしょ!?国からもないってどういうことなの!?」

 

「さぁ?俺たちの実力が足らないように見えてるんじゃないか?」

 

「それはそれで問題じゃない…」

 

目に見えて落ち込むアブラナ。

 

「…むぅ、ご主人次の手まだです?」

 

「あぁ、悪い悪い。んー、こことかどうだ?」

 

「ご主人、意外と良い手を打つ?けど、モコウもやられるばかりじゃない?」

 

「呑気にボードゲームやってる場合じゃないでしょ!」

 

「そうツンツンするなよアブラナ。それだったら飯食ったら訓練しようぜ」

 

「わかったわ。すぐに場所とってくるから!」

 

そう言って飛び出すアブラナ。

そして場所が取れたと喜んで帰ってきた。

昼食を食べ終え、訓練場に向かうと多くの騎士団や花騎士たちが訓練をしていた。

 

「…は?どういうこと?」

 

「何がだ?」

 

「予約して確認した時は半分は空いてるはずだったのにかかしも全部埋まってるじゃない!」

 

「――どうかしましたか?」

 

訓練をしていた別の騎士団の花騎士が話しかけてくる。

 

「私たちの使うスペースがないんだけど」

 

「はぁ、見たところ少人数ですし隅の方でよければお貸ししましょうか?」

 

「隅の方…?アンタねえ!モゴモゴ…」

 

暴れだそうとするアブラナを取り押さえる。

 

「お、ありがとな。さ、みんな行くぞー。楽しい楽しい訓練の時間だー」

 

「ちょっと何すんのよ!離しなさい!」

 

「離したらどうするんだ?」

 

「もちろん文句を言いに行くのよ!」

 

「時間の無駄無駄。ああいうのを黙らせるのに一番簡単な方法知ってるか?」

 

「…何よ」

 

「実力を見せること。さ、やるぞー」

 

地面に円を書き中に入る団長。

 

「こんな訓練用のかかしもない場所で…って何これ」

 

「この円から出たら負けな。負けたら交代で」

 

そう言って手に持っていた木刀を腰に差す。

 

「誰からやる?アブラナか?」

 

「良いわよ。相手してあげる」

 

先の一戦で団長が戦える方だということは知っている。

けれど世界花の加護を持つ花騎士には及ばないと思っていた。

 

「…来なさい、吠え面をかかせてあげるわ」

 

「じゃ、遠慮なく」

 

瞬間訓練用のレイピアに強い衝撃が走り円の外に体が押し出されていた。

 

「はい、俺の勝ちー」

 

へらっと笑いながらいう団長。

 

「…っ、もう一回よもう一回!」

 

「負けたら交代って言ったろ?次はギンラン、行ってみるか?」

 

「わ、わかりました!」

 

ギンランとの勝負もあっという間に団長の勝ちでケリがついた。

 

「次、セントポーリア」

 

「はーい」

 

訓練用の短剣を持ち構えるセントポーリア。

だが、奮闘虚しくも外に出されてしまう。

 

「うーん。眼福眼福。モコウ、」

 

「この勝負モコウの負けです?だから、もっと観察したい?」

 

「そうか。ナンテンやるぞー」

 

「わかったわ」

 

そして訓練は順繰りに日没まで続いた。

 

「俺の全勝か。今日はこの辺りにしとくかな」

 

「勝ち逃げは許さないわよ!」

 

「勝ち逃げってお前なぁ…。害虫とは夜戦うこともあるだろうがそれはおいおいだろ。ま、それは置いといて、お前たちは十分強いことがわかった」

 

「はぁ!?なんでよ!ボロ負けじゃない」

 

「そこだ。強いのにボロ負けした。なんでだと思う?」

 

「はーい。団長さんが私たちより強いからでーす」

 

「いい線いってるぞセントポーリア。けど、それは答えじゃない」

 

「モコウたちに足りないのは実戦?つまり経験値がない?」

 

「モコウ大正解だ。多分学校にいる時に実戦訓練を経てこの前の害虫みたいなのは倒せるレベルなのは確かだ。多分それは世界花の加護によるものだと思う」

 

「それで?」

 

「力は強い。だけど、技術がない。だったら技術を補えばいい」

 

「やってやろうじゃない」

 

アブラナの言葉を皮切りにやる気に燃える花騎士たち。

 

「ま、世の中には極限までどちらかに能力割り振る奴とか両方とも極地にいる奴もいるんだがそれは例外だな」

 

………

……

 

それから数日。

団長と訓練をする日々が続いていた。

 

「あ、あの子たちじゃない?」

 

「噂の騎士団の?」

 

「そうそう。私見たんだけど新人の団長と手合わせして負けてるらしいのよ」

 

「世界花の加護もない人に?それはちょっと…」

 

「アブラナちゃん私たち噂になってますよー」

 

「ぐぬぬ、あいつらはやってないから知らないのよ。アイツ強いんだから…!」

 

歯噛みしているアブラナたちの元に団長がやってくる。

 

「あ、いたいた。最近訓練し続けてたし今日休みな」

 

「…わかったわ」

 

「それで気分転換っていうのもあれなんだが町案内してくれないか?」

 

「いいですよー団長さん」

 

街を花騎士たちと歩いているとなんだか困っているような八百屋のおっさんがいた。

 

「どうしたおっさん」

 

「え、あぁ。いつも荷馬車が来る時間に来なくてな」

 

「そりゃ心配だな。俺らが見てくるよ」

 

「見てくるって、」

 

「一応騎士団長と花騎士だ。あとで団長補佐が来るだろうからそいつから詳しく聞いてくれ」

 

花騎士たちに向き直りへらっと笑う。

 

「わりーな。勝手に引き受けた」

 

「いいわよ。アンタが受けなくても勝手に私たちが受けてたわ」

 

街を出て街道沿いを探索していると横転した馬車とその陰に隠れる御者と商人が見えた。

害虫が狙いを定めその鎌を振り下ろそうとしていた。

 

「アブラナ!突っ込め!」

 

「わかってるわよ!」

 

世界花の加護により強化されたアブラナは一気に最高速度に到達し、害虫との間に割って入る。

それと同時に害虫の鎌がアブラナに迫る直前害虫の頭部に投げた刀が当たり、害虫は動きを止める。

 

「セントポーリアとギンランは側方から攻撃!ワレモコウは陽動だ!」

 

「了解!」

 

一人突出したアブラナはセントポーリアたちが仕掛けるまで一人で害虫と相対しなければならない。

だが、守らなければならないものがある。

後ろは馬車と人。

前は害虫。

一歩も退けない。

これどこかで既視感があるような…

はっとアブラナは思い出す。

訓練と同じだと。

 

「――ッ」

 

害虫の攻撃をスウェーで躱す。

反撃する。

攻撃をレイピアでいなす。

関節部分を攻撃する。

横薙ぎの攻撃を受け止める。

セントポーリアたちの攻撃に害虫がたまらず悲鳴を上げる。

 

「決めろアブラナ!」

 

「【エイミングスタンス】!」

 

目にも止まらぬスピードで無数の突きが害虫にヒットし、倒れた。

 

「はぁ…はぁ…、やったの…?」

 

「はいー、やりましたよアブラナちゃんー」

 

「よくやったな、アブラナ」

 

ぽんぽんと頭を撫でる団長。

 

「あ、当たり前でしょ。アンタに訓練つけられたんだから」

 

それから御者と馬車の無事を確認し、護衛しながら八百屋の前まで戻ってくる。

 

「ていうのがことの顛末だ。おっさんこれからは俺らに護衛を依頼してくれ。価格相談はナズナを通してくれればいいからな」

 

「あぁ、ありがとな。あんたらは命の恩人だよ!」

 

そんなことを話していると中年の男性と深い赤い色の髪をした女性がこちらに歩いてくる。

中年の男性は開口一番に

 

「任務がないにもかかわらず無断で騎士団を動かすなど…!」

 

と言った。

 

「なんか文句でも?つーか、誰だアンタ?」

 

どんどん顔が赤くなる中年の男性を制し、女性の方が話を進める。

 

「任命式の場でも顔合わせをしたのだが、できれば顔くらいは覚えておけ。こちらは私の上司だ。そして私の名前はロッサ。貴様の上司に当たる」

 

「あぁ、そう。よろしくな。それで?」

 

「騎士団を動かすには基本的に国を通してからが基本となる。貴様らが勝手に契約を結んで依頼を受けるのであれば傭兵と変わらん。今後このような行動は慎むように」

 

「んなこと言ってもそもそも国からの依頼が来なかったわけだが。ま、これで俺たちが任務を遂行できることを証明できたな」

 

「ぐ、ぬ…」

 

歯噛みする中年の騎士団長。

それを尻目にロッサは言葉を口にする。

 

「その件に関してだが、少し手違いがあったようだ。次週よりしっかりと任務が割り振られる。最初は哨戒からだ。しっかりと励むようにな」

 

「おう、了解了解。ちゃんとした任務がこっちにも回ってくるといいな、なぁナズナ」

 

「はい、団長さま!」

 

………

……

 

「くそ、半人前の分際で!」

 

中年の騎士団長は部屋で一人毒づく。

 

「こうなったのもロッサ君、君がしっかりと監督していないからじゃないかね!?」

 

「…は、申し訳ございません」

 

「今後はこういうことがないようにしっかり監督してくれたまえよ!」

 

「肝に銘じておきます」

 

ロッサは部屋を出て深く息を吐くのだった。

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