黒の騎士団長と花騎士たち   作:七篠シマ

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初めて騎士団に来た虹花騎士が彼女だったので


4話

執務室で事務作業を行っているナズナに団長が話しかけた。

 

「ナズナ、メンバー増やしたいんだけど」

 

「構いませんけれど…、希望とかありますか?」

 

「強いやつ」

 

「アバウトですね…。とは言っても今回は割と制限がありますがかまいませんか?」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「国直属であったり著名な花騎士さんは難しいんですよ。まだ団長さまの騎士団は知名度が低いですしそれに特例ですからね」

 

「まぁ、目立った戦果はないしな。じゃあ傭兵やら自警団とか自ら動いてるようなとこのは大丈夫か?」

 

「それなら大丈夫だと思います」

 

「なら、それで一筆頼むぜ」

 

「わかりました」

 

それから一週間後。

騎士団一行の姿はベルガモットバレーにあった。

 

「……ここがベルガモットバレーです?」

 

「んー、馬借りてきて正解だったな」

 

急峻な渓谷地帯に根付く世界花を中心として栄える都市国家ベルガモットバレー。

国土の大半が険しい渓谷で高低差が激しくロッサから馬を借りてやってきたのだった。

 

「…それで、探してるのはなんて名前の人なの?」

 

「…ん?ナデシコって花騎士なんだけど自警団に所属してて強いらしい」

 

「その自警団って国の公認?」

 

「さぁ?」

 

「さぁ、って何よ!」

 

「や、まぁ、そんなの気にする意味ないじゃん?」

 

「あるわよ!?」

 

………

……

 

どの国家にも属さずに独立して存在する歓楽街。

それが桃源郷だ。

スプリングガーデンの理想郷とも呼ばれており、自警団の活躍のおかげか治安は良いようだ。

 

「…ご主人、本当にここです?」

 

「あぁ、」

 

「あ、アンタね、私たちを騙してないでしょうね!」

 

「まさか。ナズナの紹介状にはここの辺りって書いてあるぜ。ま、宿取ってのんびり探そうぜ」

 

「はぁ!?泊まるつもり!?」

 

「おう、自警団の評判とかそう言うのも聞いとかねえとな。そいつを引き抜いた場合こっちの治安が悪くなったじゃ後味悪いだろ」

 

「私帰るわ!」

 

「お客さん入り口でそんな事言わんといてーな。女性同伴なんて別に珍しくないでー?」

 

独特な方言に法被を着た呼び込みの橙色の髪をした少女がこちらに声をかけてくる。

 

「ほら、そうらしいぞ。アブラナ」

 

「…モコウは別に構わないです?」

 

「私も別に構わないわ。何より団長さんが何をするかわからないし」

 

「あ、ちょっ抱きよせるのやめなさいよ!自分で歩けるから!」

 

「お兄さん宿の方どないする?」

 

「一番良い宿を頼む」

 

「毎度ありー!」

 

旅館桃源郷。

女将であるハナショウブが切り盛りするこの旅館は桃源郷の名を冠するだけあって一番良い宿というのも肯けた。

部屋につき女将に話しかける。

 

「あぁ、そうだ女将」

 

「はい、なんでしょう」

 

「ゲッカビジンって花魁に会いたいんだが取り次ぎは可能か?」

 

「…構いませんが、お客様もそういったおあそびが好みですか?」

 

「最高の花魁に興味がないわけではないが話がしたいんだ」

 

「話、ですか」

 

女将は少し考え、言葉を続ける。

 

「わかりました。ハゼラン、ゲッカビジンの所にこの方をご案内して差し上げて。ハナショウブの紹介だと口添えも忘れずに」

 

「…わかった」

 

連れられてやってきたのは遊郭。

ハゼランに連れられて中に入り玄関で待つ。

受付と二、三会話をすると奥の座敷に案内される。

 

「…じゃあ、ここで」

 

「…ハゼランっていったか」

 

「何?」

 

「宿に帰るならこれ持ってってくれ」

 

腰に差していた刀を刀身が出ないようにして渡す。

 

「なんで?」

 

「そんなもん差して会うなんて無粋だろ?」

 

「…そう、わかった」

 

ハゼランは受け取り踵を返した。

それを見送り、襖を軽くノックする。

 

「どうぞ、お入りください」

 

嫋やかな女性の声を聞き中に入る。

 

「ようこそ、お越しくださいましてありがとうございます。ハナショウブの紹介と聞きました。次のお客様も控えております故、お時間は限られておりますがごゆるりとお楽しみいただければ幸いでありんす」

 

銀糸のような髪に着流した品のいい着物。

言葉遣いから視線、手先果ては息遣いまで男を魅了させるような存在。

なるほど、最高の花魁というのは本当らしい。

 

「こっちこそ、忙しい時に邪魔して悪いな。ゲッカビジンと過ごす時間はすごく魅力的だが俺は話をしにきただけだからな」

 

「話でありんすか?」

 

「腹芸は苦手なんでな、率直に言おう。自警団頭領、ゲッカビジン。自警団に所属するナデシコをうちの騎士団に迎えたい」

 

「………」

 

押し黙るゲッカビジン。

先ほどまでの雰囲気は何処へやら。

一人の強者としての佇まいだった。

 

「…騎士団の方でしたか」

 

「一応な、騎士団長やってる」

 

「なら、お引き取りくださいな。桃源郷は騎士団や花騎士と不可侵の契約を結んでおります故」

 

「そうなのか。それは知らなかったな」

 

「知らない、ですか。訳あって桃源郷の者は花騎士として活動出来ない者たちばかり。そんなこともベルガモットバレーの人間は忘れてしまったのですか?」

 

貶すようにこちらに言うゲッカビジン。

 

「ベルガモットバレー?悪いな、俺はブロッサムヒルの所属なんだ」

 

「…それは申し訳ありません。ですが、ブロッサムヒルは他国の、しかもこのようなところの者を招致しなければならないほど人手不足なのですか?」

 

「そういうわけじゃないが、俺の方針だな」

 

「方針、ですか?」

 

興味を持ったようにゲッカビジンが尋ねる。

 

「うちに所属するやつは生まれや育ち所属する国家に関係なく力を合わせるそんな騎士団にしようってな」

 

「は、はぁ…」

 

「だから、どこの国の任務でも引き受けてるしどこの花騎士でも受け入れてる。所属はブロッサムヒルってことになってるが実質は多国籍独立遊軍みたいなもんだな」

 

簡単に言うが目の前の男が言っていることがどんな夢物語なのかは誰が聞いてもそう思うだろう。

どんなに規律を順守する組織でも必ず綻びは出る。

ここ桃源郷の自警団であっても意見の食い違いは起こるのだから。

だけど、信じてみたくなる。

自分が出会ってきた男が凡百の者ばかりであるように思えた。

部屋についている伝声管の蓋を開け受付に連絡をする。

 

「大事な用ができました。次のお客様を少々待たせて。サービスに色をつけても構いません」

 

「…いいのか?」

 

「私は桃源郷最高の花魁。多少の我儘くらい、お客様もきっと許してくれるでありんす」

 

茶目っ気たっぷりにそう言った。

部屋に置いてあるお茶を入れるゲッカビジン。

その所作は完璧だった。

 

「ワタクシに何かありますか?」

 

「いや、見惚れてた」

 

「…そうでありんすか」

 

お香の漂うこの空間。

目の前の美女が甲斐甲斐しく世話をしてくれる

最高だな。

 

「ナデシコの件について、先程お断りさせていただきましたがナデシコ本人に委ねたいと思います」

 

「…ふむ、それでいいのか?」

 

「いくら自警団所属とはいえ本人の意思を無視して束縛するのはおかしいですから。それにあなたのその方針であればもし、ナデシコがそちらの騎士団に入っても大事にしてもらえるでしょう」

 

「ナデシコを引き抜いても自警団の戦力は問題ないのか?」

 

「ナデシコが抜けることは確かにこちらの戦力が落ちることではありますがそれで潰れるほど柔ではないでありんす」

 

「…わかった。それもこっちで検討しておく」

 

入れてもらったお茶を飲み干し、部屋を出ようとする。

 

「ナデシコにはこちらから伝えておきます。追ってハナショウブから連絡があるでしょう」

 

「ありがとな」

 

………

……

 

ゲッカビジンの所から帰る途中出会ったナンテンたちと散策がてら桃源郷を見て歩いていた時だった。

通りを歩く桃色の髪の少女に目を惹かれた。

腰に刀を差して道を歩く少女は一本芯の通ったような剣士らしい気配を漂わせていた。

そんな彼女に声をかけてみる。

 

「…強いな、お前」

 

「な、何ですかいきなり!」

 

「呼び込みの娘も宿の女将も花魁も強い気配を感じたがこれは掘り出し物かもしれん」

 

「一体なんの話ですか?」

 

「うちにはいらねーか?」

 

「…はい?」

 

「ちょっと、何言ってるの?」

 

「俺たちが探してるやつより強いかどうかはわからないがこいつは強い。それは確かだ」

 

「確かに私は世界花の加護を受けていますが何処の馬の骨ともわからないような人についていく道理はありません!それに、私はここを守る使命がありますから!」

 

ぷりぷりと怒る少女はその場を離れていく。

 

「……振られちゃったわね」

 

「そだなー。慰めてくれよナンテン」

 

「もう、調子がいいんだから」

 

それからその桃色の髪の少女はゲッカビジンの元へ訪れる。

 

「…はぁ、もう…」

 

「あら、ナデシコどうしたでありんすか?」

 

「あ、すみませんゲッカビジンさん。聞いてくださいよ!今日こういうことがありまして」

 

通りで会った青年のことを話していく。

 

「あら、そうでありんすか。ナデシコは大人気ね。それでこちらの要件はブロッサムヒルの団長さんからもご指名が来てるという話なのだけど」

 

「……聞いたことない騎士団ですね」

 

「何でも新設らしいでありんす。彼女(ナズナ)の紹介状もあるみたいだし話だけでも聞いてみたらどうかしら」

 

「…聞くだけなら」

 

「そう……。じゃあ、ナデシコの空いてる日取りを教えてもらおうかしら」

 

「えーっと――」

 

………

……

 

桃源郷の中心部にある広場でナデシコが待っているとこの前出会った黒髪の青年が歩いてくる。

 

「よう、また会ったな」

 

「私ここで待ち合わせしてるんです。…どこかに行ってもらえませんか?」

 

「へぇ、奇遇だな。俺もここで待ち合わせだ」

 

沈黙が続く。

ナデシコの方を見ず言葉を口にする。

 

「俺、まだ諦めてねーからな」

 

「なんでですか」

 

「気に入ったから」

 

「呆れて何も言えません。……この前の女性の方たちはどうしたんですか?」

 

「んー?宿に待機してるよ。人一人スカウトするのにぞろぞろ連れて歩く必要もないだろう。まぁ、お目付役が一人いるけどな」

 

「そうですか」

 

「なー、うち来いよ。割と待遇いいから」

 

「行きません!」

 

「つれねえなぁ」

 

「私は、ブロッサムヒルの正規騎士団の方からお話が来てるんです!貴方のように得体の知れない人について行くわけないじゃないですか」

 

「…へー」

 

「――お待たせー」

 

ナンテンとハナショウブがゲッカビジンを連れてこちらに向かってきた。

 

「おう、今来たとこだ」

 

「あら、ちょうど二人ともいるのね」

 

「……二人、とも……?」

 

ナデシコの頬がひくついた。

顔にはまさか、という言葉が張り付いていた。

 

「ん?あぁ、言い忘れてたな。俺がブロッサムヒルで新設された正規騎士団の騎士団長だ。よろしくな?ナデシコ」

 

「あ、貴方がゲッカビジンさんが言ってた騎士団長さん……?」

 

………

……

 

ナデシコの道場に案内され、出されたお茶で一息つく。

 

「――お断りします」

 

「えー、なんでだよ」

 

「信じられません!貴方みたいな人が騎士団長だなんて……」

 

「事実なんだけどなぁ。じゃあ、こうしようぜ。模擬戦して俺が勝ったらうちの騎士団に入る。そっちが勝ったら俺はきっぱり諦める。どうだ?」

 

「…それはやめておくべきだと思います」

 

「何でだよ」

 

「貴方が強そうに見えないからです」

 

「…へぇ、随分と下に見られたもんだ」

 

「怪我をして騎士団の業務が滞って私のせいにされても困りますし」

 

「……尚更、戦いたくなった。このままじゃ俺の性は慰められねえ」

 

「ちょ、ちょっと団長さん!?」

 

「いやぁ、ここまで言われんの久しぶりでなわくわくが止まらねえ。それに、害虫ならともかく対人戦で負ける気なんかさらさらねーからな」

 

立ち上がり、視線をナデシコに向ける。

団長の意志は固いようだった。

 

「……わかりました。その覚悟、受けて立ちます」

 

………

……

 

ゲッカビジンたちに審判を任せ、ナデシコと相対する。

木刀を構えるナデシコとは対照的に団長は片手で木刀を肩に置いた状態のままだった。

 

「…構えないんですか?」

 

「これが俺の構えだよ」

 

むっ、とするナデシコ。

こんな勝負はさっさと終わらせてしまおう、そう思い、名乗りを上げる。

 

「そうですか。愛染一刀流師範代、ナデシコです」

 

「流派無し。団長だ」

 

それから木刀で数合打ち合わせていく。

互いの力量を測るように。

剣戟と言うよりは舞のようだった。

 

「……貴方の太刀筋は概ねわかりました。これ以上は――」

 

「なんかお前の剣つまんねーな」

 

「は、はい?」

 

「仕方ねえ、真剣で来いよ。お互いウブなネンネじゃねーんだ」

 

腰に携えていた刀を慣れた手つきで抜き、庭の方に鞘を投げる。

そして、堂に入った動作で八相の構えになる。

 

「…先手は譲ってやる」

 

「私は了承――」

 

瞬間、殺気に身を震わせる。

この人は間違いなく本気だ。

私は愛刀を引き寄せる。

そして、踏み込み居合を放つ。

 

「やぁ!とお!」

 

目の前の相手はさも簡単そうに避け、武器を払おうと刀を振るう。

 

「……っ、」

 

速度が上がっていくにつれ、ナデシコの剣が後手に回っていき、ついに角に追い詰められた。

それを見た団長はくるりと踵を返し庭に投げた鞘を引き寄せ、刀をしまう。

 

「……やめだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「何をだ?」

 

「まだ勝負は着いてません!」

 

「まだ勝負はついてない、か。…お前がそんな風なうちは俺は負ける気がしない。お前をうちに入れるって話も忘れてくれていい」

 

「な、」

 

「お前の剣ほどつまらねえものは初めてだ。今はまだここを守れても俺たちの背中を守るには値しねえ」

 

「団長さん……」

 

「ナンテン帰るぞ。ゲッカビジンも世話になったな」

 

「……っ、はい」

 

「…待ってください」

 

「まだ何か?」

 

「この状態から挽回してみせます。それが出来たら貴方は私を認めてくれますか?」

 

「…いいだろう」

 

居合の型に戻る。

私の全てを込めて、勇敢なる愛の一撃を!

 

「愛染一刀流奥義!輝目五閃!!」

 

魔力を込めた居合剣を振り抜く。

 

「…ッ、だが!」

 

「まだです!」

 

輝目五閃は居合一振りで終わりではない!

二振り目で確実に相手を倒す技だ。

 

「……っはぁ、」

 

団長さんは倒れてない。

それどころかぴんぴんしてる。

刀をしまい、こちらに寄ってくる。

 

「やるじゃねーか!うりうり」

 

「わっぷ」

 

頭を撫でてきた。

 

「な、何するんですか団長さん!」

 

「ん?撫でてる。ナデシコの髪は触り心地いいな」

 

「もう!その、それで」

 

「勝負の話か?お前の勝ちでいいよ」

 

「え?」

 

「いやぁ、無理強いする気はねえし、あんな技何度も受けれねえしな」

 

「…なんで、挑発するような事をしたんですか?」

 

「お前の本気が見たかったから。結構直情型だな。剣がブレるから気をつけろよ?」

 

「う、反省します……」

 

「ま、打ち合ってた時のお前の剣は過去しか写してなかったからな。自信を持てよ。お前の剣は未来を切り開く剣だ」

 

「…っ、ありがとう、ございます」

 

「んじゃ、もう一泊してから帰るぞー」

 

その日の夜。

道場で正座をしているナデシコの元にゲッカビジンがやってきた。

ゲッカビジンは正面に座り、話しかける。

 

「ナデシコ」

 

「ゲッカビジンさん…」

 

「…私、ナデシコには世界を見てきて欲しいと思ってるでありんす」

 

「………」

 

「私たちを守るために居てくれてるのはわかるわ。すごく嬉しい。けれど、世界には色んな人がいるの」

 

「……はい」

 

「最終的にここに決めるのは構わないわ。けど、ナデシコには色んな世界を見てほしいの」

 

ゲッカビジンはそう言ってナデシコの前を去った。

 

………

……

 

翌日。

旅館桃源郷の前で騎士団一行はブロッサムヒルに帰る支度を整えていた。

 

「っし、帰るか」

 

「はいはい。ナズナさんから怒られそうだけどね」

 

「まぁ、もう一回書いて貰えばいいじゃん?」

 

「そんなにうまくいくかしら」

 

「ま、待ってください!」

 

ナデシコが息を切らせてこちらに走ってくる。

 

「ん?」

 

「私を、団長さんの騎士団に入れてください!」

 

「構わねえけど、いいのか?」

 

「桃源郷で働く人達は、皆、何か大きな悲しみを背負っています。私の剣で、いつか皆さんのその悲しみを斬り払うことができれば…、と思って精進してきました」

 

一拍置き、ナデシコが続ける。

 

「団長さんと一緒なら、それができるような気がしてるんです」

 

「…そうか、なら一緒にこの世界を変えるぞ」

 

「はい!」

 

この日騎士団に愛を力に変える剣士が加わったのだった。

 




団員No.6
name:ナデシコ
【備考】
当騎士団の現第一副団長。
剣の腕は騎士団トップクラスで努力家である。
団長の強さを認めており、愛染一刀流によく誘ってくる。
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