「団長様、お仕事ですよー!」
ナズナ勢いよくドアを開け、執務室に入ってくる。
「どんな任務なんだ?」
「警備任務です!」
そう言って依頼書をこちらに見せてくる。
それを受け取りまじまじと眺める。
「祭の警備任務か。場所はバナナオーシャンだな」
ナズナが言うには以前、助けた八百屋の知り合いがその祭りの企画運営に携わっているらしく俺たちのことを八百屋から聞いて依頼したんだとか。
「んじゃ、花騎士たちを招集して少し早いバカンスでもしゃれ込もうか」
「遊びじゃないですからね!?」
………
……
…
団長は警備に参加する騎士団の会議に参加し、担当を決めていく。
「――次、ブロッサムヒル所属、クロノ騎士団」
「あいよ」
返事をすると周りからの注目が集まる。
俺を呼んだ騎士団長がこちらを見てニコニコとする。
「うん、君聞いてた通り面白そうだね!」
「何の話だ?」
「あれ?運営の人の紹介で来たんじゃないの?」
「そうだな」
「だよね!君ならバナナオーシャンに面白い風を吹かせてくれそう!」
「光栄な評価だ。俺の名前はクロノだ。よろしくな」
「私はナオ!バナナオーシャン所属のナオ騎士団長だよ!よろしく!」
ぎゅっと握手をする両者。
「で、お仕事の話なんだけど君には混成部隊を担当してもらおうかな」
「混成部隊?」
「うん!バナナオーシャン所属以外の花騎士たちもねお手伝いしたいって来てたんだ。私たちの部隊に入れてもいいけど君の方がきっと手慣れてると思うから」
「あぁ、わかった。担当地区は?」
「ここと――」
そう言って任務について説明され、持ち場につくと一人の花騎士が待っていた。
こちらに気づいた花騎士は駆け寄ってくる。
「団長さん!初めまして!私ネリネっていいます!足手まといにならないよう、精一杯がんばっちゃいます!それでは、また会う日を楽しみにしてますね!」
「おう、よろしくなー」
「……また会う日って、警備任務これからよ?」
砂浜を離れようとしたネリネだったが、ナンテンの言葉にずっこけてしまう。
「あぅ……。ふぇええん」
ネリネの泣き声が燦燦と輝くバナナオーシャンの砂浜に響き渡ったのだった。
………
……
…
「……暇、だな」
大勢の人で賑わう会場で団長は呟いた。
その呟きを聞いたのかナデシコは言葉を返す。
「何も起きないことが一番なんですよ」
「それはそうなんだけどなぁ。ナデシコ熱くないのか?」
「心頭滅却すれば火もまた涼し、です」
ふふんと胸を張るナデシコ。
ドヤ顔も可愛いな。
「ふむ」
「あ、ちょっとなんで弄ってるんですかぁ!」
「んー?心頭滅却すれば火もまた涼し、なんだろ?それにナデシコいい匂いするしなー」
「こ、ここは恥ずかしいからダメです!」
「ここじゃなかったらいいのか?」
というか、恥ずかしくなかったらいいのか?
「い、いや、その……」
顔を真っ赤にし涙目になりながらこちらを睨んでくる。
相変わらず可愛いやつだなぁ。
「冗談だよ、そんな顔で睨むなって。……っとあれは」
「どうしたんですか、団長さん」
ネリネが誰かを追っている姿が視界に映る。
「追うぞ、ナデシコ。オトギリソウは全班員に連絡。ナンテンはサポートを頼むぞ」
「了解!」
………
……
…
「――止まってくださーい!」
「うるせえ!誰が止まるか!」
団長たちが気づく少し前のこと。
泥棒とネリネの追走劇が始まっていた。
「今なら謝れば許してくれます!それをお店の人に返してください!」
「くそ、邪魔だ!退けえ!」
手を大きく振り、祭の客を払いながら走っていく。
「悪いことしちゃダメー!」
氷の魔法により威嚇射撃を行うも泥棒は意にも介さない。
そして、ついに近くで投降を勧めていたネリネに腕が当たりネリネは転んでしまう。
それを見た泥棒は吐き捨てるように言った。
「は、生意気なガキがよ!」
それにも構わず泥棒は走り去っていく。
その時だった。
「――なんで悪いことするのー!?」
【氷術・ネレイスティアーズ】
巨大な氷塊が出現し、落下しようとしていた。
「……あいつすげーな」
ネリネたちを追いながら中空に浮かぶ巨大な氷塊を目にし、団長はぽつりとつぶやく。
「そんなこと言ってる場合ですか!?あのままじゃ屋台の人まで押しつぶされちゃいますよ!」
「いやぁ、気に入ったわあいつ。うちの団に入れよう」
「こんな時に言ってる場合ですか!?」
「ま、それはこの事態を処理してから話をするとしてナデシコ、あの氷細切れにできるか?」
「……あの大きさだと少し難しいですね」
「んじゃ、俺が砕くから。その後頼むわ。ナンテンはかき氷の準備よろしくな」
「……本気なの?」
「ま、手早く頼むぜ。そう長くはアレも持たないだろうしな」
ゆらゆらと中空に浮く氷塊を視線を向けそう言う団長。
「まったく、……無茶しないでね」
「おう!」
ナンテンと別れ、氷塊の近くにある高い建物の屋根へナデシコと共に登る。
さて、このまま氷塊が落ちたら被害甚大だ。
なら、やることは一つだ。
「オラァッ!!」
砕くための拳ではなく、空高く吹き飛ばすための拳。
ジリジリと落ち始めていた氷塊は上空へ弾き飛ばされ、そのまま自由落下となり、速度を増していた。
「ナンテン、準備は整ったか!?」
『えぇ、任せて!』
会場のあちこちに設置された拡声器からナンテンの声が聞こえた。
『お祭りに参加いただきありがとうございます。この度、警備担当の騎士団よりサプライズを行いたいと思います!どうぞ、団員が配っておりますカップを頭の上に持ち上げてください!!』
多くの人がカップを高く掲げる。
流石、祭好きのバナナオーシャンだ、ノリがいい。
さて、やるか。
右手に剛体術、左手に浸透頸。
後はタイミング良く殴るだけだ。
「せぇっの!!」
拳を食らった氷塊は音を立てて砕かれていく。
だが、まだこの大きさでは屋根に落ちたら家屋は壊れるだろう。
だから――
「ナデシコ!」
「はい!」
呼び声と共にナデシコの一振り一振りによって氷の粒へと切り刻まれていく。
『皆様、いかがでしょうか!世にも幻想的な氷のシャワー。お手元のカップが氷でいっぱいになりましたらそのカップを警備隊本部までお持ちください。様々な味のシロップをご用意してあります。お好きな味のシロップをかけてお楽しみください』
わぁ、と歓声が上がる。
見て楽しい、食べて楽しいとはこのことだろう。
「ネリネ、いつまで泣いてるんだ?」
「団、長さん…」
「ブルーハワイでいいか?出来立てだからうまいぞ」
泣いているネリネのところに戻る途中でモコウから受け取ったかき氷に涼しさを感じさせる青色の液体をかけ、スプーンですくう。
「……あ、ありがとうございます」
「ま、こいつにはお縄についてもらうとして――」
落ちてくる氷塊を見て気絶したと思われる泥棒を眺めながらそう言うと
「……動かないでもらえる?」
ひたりと首筋に剣の峰が当てられる。
眼だけ動かすと小麦色に日焼けした少女が背後に立っていた。
「……ん、わかったよそう怖い顔で見るなって。怖くて足が震えちゃうぜ」
軽口を叩きつつ両手を上げる団長。
それとは真逆にそんな団長を見ても毅然とした態度は変えず話を続ける少女だった。
「……そっちの泥棒は、こちらで捕縛する。君には、来てほしいところがある」
少女は視界の端に泣いているネリネを映しながらキッとこちらを睨みつける。
「俺が泣かせたわけじゃないんだけどな」
「そ、そうなの?ごめん、けど、来てほしいところがあるんだ」
「わかってるさ」
話していた少女についていこうとしたその時ネリネがひしと団長にしがみついた。
「んー、まぁいいか」
そう言ってネリネを抱き上げる団長。
「ネリネ、一口くれよ」
「はい!団長さん!」
ネリネからかき氷をもらいながらついていく。
それを横目で見ながら少女は
「……いいなぁ」
と小さな声で呟くのだった。
………
……
…
「……呼び出された理由、わかっているか?」
案内された部屋で第一声がそれだった。
まぁ、ネリネと和気藹々と入ってきたから当然か。
ブロンドの髪に常夏の国に似合わない透き通るような白い肌。
王族らしいが姿は踊り子のそれ。
可愛らしい見た目に反して口調は固く低い声音だった。
「なんとなくは」
ネリネを地面に降ろし、団長は端的にそう言った。
「そちらの花騎士、いくら悪事を働いたとはいえもう少し穏便に済ませられなかったのか?」
「……ごめんなさい」
団長の陰に隠れすっかり委縮しているネリネ。
お互いに思うところはあるだろうが――
「その件に関しては俺が悪い。監督不行き届きだ。済まなかったな」
そう言って頭を下げる団長。
それを見たネリネと王族の少女は驚いた表情を見せる。
「えっ、団長さん、それは、ちが……」
「……ふむ、」
泥棒一人にあの術はやり過ぎだ。
だけど、それでも、だ。
「ネリネは一生懸命なだけなんだよ。許してくれ。それによ――」
「何か?」
「魅せること。それがバナナオーシャンの誇りだろう?」
「……一本取られたな。来場者も満足している。今回は不問とする。が、次はないぞ」
「おう、さんきゅーな」
団長は感謝の言葉を口にすると部屋を後にする。
さながら査問会のような場を抜け、団長はへらっといつものように笑う。
「いやー、大してお咎めもなくてラッキーだったな」
「あの、団長さん」
ネリネはおずおずと団長に話しかけた。
「んー?」
「どうして、庇ってくれたんですか?私は、団長さんの花騎士でもないのに……」
自分が泣き虫であること、自分の魔法を完全に制御できないこと、他にも理由はあるだろうが、前に所属していた騎士団では煙たがられており、退団を余儀なくされた。
そんな過去がある彼女は心底不思議に思っていた。
「そりゃあ、簡単な理由だよ。俺がお前を気に入った。それだけだ」
「そ、そんな理由でですか!?」
騎士団に所属する花騎士のミスは騎士団長に直結する。
もしかしたらさっきの部屋での発言を咎められて騎士団長の職を追われるかもしれないのに。
「そんな理由も何もうちの団にいるのはみんなそんなやつばっかだぜ?」
ナンテンもアブラナもセントポーリアもギンランもワレモコウもナデシコもオトギリソウもみんなそうだ。
俺が気に入った、だけどそれ以上に花騎士が俺のことを気に入ってくれている。
主義も主張も生まれも理由も意思も何もかも違う。
それでもいたいと思ってくれている場所。
それがうちの騎士団だ。
だから――
「………」
「だからさ、ネリネ」
「はい」
「うち来いよ。俺はネリネが欲しい」
「え、あ、いいんですか!?」
まさかそんなことを言われると思っていなかったネリネはひどく取り乱す。
「おう、大歓迎だぜ」
「こ、こちらこそ、よ、よろしくおねがいしましゅ!!」
「あぁ、こちらこそよろしくだ」
涙ぐむネリネを抱き上げ団長は歩き出す。
ネリネの歓迎会をしなきゃなぁと思いつつ、団長は建物を出ると大勢の人に取り囲まれた。
「騎士団長さん!サプライズについて一言お願いします!」
「ん?……あぁ、ぶっつけ本番だったが上手くいってよかったよ。来場者の方々に楽しんでいただけて何よりだ。あとは、そうだな」
少し思案するように溜めて話を続ける。
「団員募集中だ。気になったら団長補佐のナズナに連絡してみてくれ」
………
……
…
ウィンターローズ。
とある屋敷にて
新聞の発行に伴って騎士団の知名度は上がり始めていた。
『お騒がせ騎士団サプライズで大成功!』
そんな見出しが書かれた新聞を片手に持ち、緑髪のメイドは廊下を歩く。
「あらあら、勇ましいことですね。これを女王様へ見せると少し刺激が強いでしょうか」
そう言ってくしゃりと新聞を丸めて掌にしまい込む。
「さて、どうなることでしょうか」
メイドは立ち止まり窓のから見える曇天の空を眺め呟いた。
ブロッサムヒル。
街道にて
「あはは、ハリエンジュ!この騎士団面白くない?」
ブロッサムヒルから他国へ延びる街路を歩きながら金髪の少女はそう尋ねる。
「どれどれ?ふむ、……なんというか奇想天外な感じがするな」
至極真っ当な意見がハリエンジュと呼ばれた銀髪の少女から出た。
「奇想天外いいじゃない。規則も大事だけどたまには型を破るのも大事よ」
「やれやれ、そうは言うがな、」
「それに、こういう団長だったら私のやりたいことをわかってくれたのかなー……」
少し遠い目をしながら少女はそう言った。
「アカシア……」
「なんてね!まぁ、いいわ。街に帰った時の楽しみが増えたね!」
「……そうだな」
枯れた世界花
英断の滝
「ふん、くだらん」
りりィウッドとコダイバナの境界周辺で害虫を狩るものがいた。
その者――黒髪の少女は新聞をグシャリと潰し放り投げる。
「ギ、ギィ……」
「チッ、殺し損ねたか」
そう言って少女は害虫の首を刎ねる。
「こういうやつがいるから、世界から害虫がいなくならないんだ……!」
まるで世界を呪うような声音と共にその場を立ち去る。
残されたのは見るも無残な害虫の死骸だけだった。