「貴様は何をやっているんだああああああ!!!」
ある昼下がり執務室に怒声が響く。
怒声を発したのは上司のロッサ団長。
「何って警備任務だけど?」
対して悪びれもなくそう言う団長。
「警備する側が民衆を危険に晒してどうする!?」
「仕方ねーだろ。現場判断だ」
「貴様というやつはあああああ!!!」
「お、落ち着いてください」
「これが落ち着けるか!貴様私が上層部からネチネチネチネチ小言を言われているのを知らんだろう!!」
「あぁ、初耳だ。災難だな」
「貴様のことだぞ!?貴様を下に持ったばかり私は……、というか、貴様の尻拭いをどうして私がしなければならないのだ!」
「世話焼く性分なんじゃないか?後輩から姉御とかお姉さまとか呼ばれてるらしいな」
そんなことを話していると不意にドアがノックされる。
「取り込み中のようだが失礼するぞ」
そう言って入ってきたのはカサブランカとヤマユリだった。
「おぉ、よく来たな二人とも」
「うむ、貴公も息災で何よりだ」
「まーな。カサブランカ何か用か?」
そう言った瞬間ロッサ団長に頭を叩かれる。
「様をつけろ、馬鹿者!!」
「いってーな!別にカサブランカが気にしてねーんだからいいだろうが」
「あぁ、呼び方に関しては気にすることはない。それで貴公は何故怒られていたのだ?」
「あぁ、新聞載ったろ?それでな」
「ほう…。国民性というか文化の違いというやつか。なら、この話は受けてくれそうであるな」
そう言ってカサブランカは微笑む。
「団長、ブロッサムヒルではなくバナナオーシャン所属にならんか?」
「……正気ですか、カサブランカ様」
ロッサ団長の口から唖然とした声が漏れる。
「無論正気だとも。私もヤマユリも団長のことは認めている。ブロッサムヒル所属でありながらバナナオーシャンの文化にあった解決法で不測の事態を解決した手腕。その旗下の花騎士の実力。ブロッサムヒルで窮屈に活動するよりかは有意義だとは思うがな」
「高く買ってくれてるんだな」
へらっと笑いながら団長はそう言う。
「もちろんだとも。あの警備任務以来貴公への依頼が殺到していてな。バナナオーシャンの騎士団は皆奮起しているよ」
「それはいいことだ。…そうだな」
少し考え込む素振りを見せ、団長は続ける。
「とても光栄な話ではあるが断らせてもらおう」
「ふむ、理由を聞いても?」
「うちの理念は所属や地位、生まれとかに関係なく力を合わせて活動していこうっていうものだ。ブロッサムヒルより高待遇みたいだからバナナオーシャンに移ろうだなんてあんまりよくないだろ」
それに、と言葉を続ける。
「それに、別に所属国家を変えなくてもバナナオーシャンで活動するのは問題ないと思うがそこのところはどうなんだカサブランカ」
「貴公の負担を考えなければ、それは確かにそうであるな」
「だろ?だから俺から言えることは城に執務室を設けてくれってことだ。そうしたら活動しやすい」
「ふふ、貴公は面白いな。いいだろう、城に貴公の執務室を設ける。さらなる活躍を期待しているぞ!」
「あぁ、ありがとな。ついでと言っちゃなんだがカサブランカたちもうちの騎士団に入らないか?」
「ふふ、とても光栄な話だが断らせてもらおう」
「なんだよ、意趣返しか。理由は?」
「私は守られることが嫌いだ。王族が騎士団に所属したらその騎士団は王族を守るように動くようになってしまう。だから、その誘いには乗れないな」
「そりゃ残念だ。ノヴァーリスは騎士団に入ってくれたんだけどな」
「…今何と?」
「ん?ノヴァーリスがうちに入ったって言ったんだ」
「ノヴァーリスとはウィンターローズの女王陛下のことか?」
「あぁ」
「おい、初耳だぞ」
「聞かれなかったしなぁ」
「報告しろと言ってるんだ貴様は!」
胸倉をつかまれ残像が見える勢いで体を揺すられる。
「ふむ、ウィンターローズの女王陛下が……。何か訳があってのことか?」
少し考え込んだカサブランカが言葉を口にする。
「先ほど貴公の騎士団に所属することを否定したが考えさせてもらおう。私も貴公のことは気になるしな」
「そりゃよかった。ま、一つ訂正させてもらうならうちの騎士団は王族や地位の高い奴を守るためにあるわけじゃねえ。民を守り、世界を救うためにあるんだ」
「…うむ、貴公はそうであろうな。誤解をして済まなかった。最後になるが、貴公の騎士団に我がバナナオーシャンからの入団希望者だ。待たせたな」
「…ううん、大丈夫。私はレッドジンジャー。団長、私のこと覚えてる?ひどいことしちゃったけど…」
「もちろんだ。だが、あれくらい気にすることない。レッドジンジャーがしたことは当然のことだ」
「……よかった。それで、なんだけど……、私を団長の騎士団に入れてくれないかな」
「こちらこそ大歓迎だ。これからよろしくな。よし、じゃあ歓迎会するかー」
「待て、貴様はこれから説教だ」
「うげ、マジかよ。ナデシコ後で行くから準備頼むぞー」
「は、はい!わかりました!」
………
……
…
ロッサからの説教も終わり、遅れて歓迎会に参加したのだが、
「ひっく……ふぁ……」
「えっと、その……」
泣いているネリネとそれを見ておろおろとしているレッドジンジャーがいた。
「どうしたんだこれは」
「あ、団長遅いわよ!早くなんとかしてよ」
「なんとかってどうしろってんだ」
「団長さん……!ごめんなさい!私のせいで団長さんが辞めちゃうんですよね……」
「……どうしてそんな話になってるんだ?」
「えっと、歓迎会の準備を私も手伝ってたんだけど、その、ネリネにも悪いことしたから、ごめんって言ったらネリネが泣き始めちゃって」
「あぁ、なるほどな」
要するにレッドジンジャーを見て俺が処罰されるとネリネが勘違いしたというわけだ。
口下手と泣き虫、というか周りが言っても信じられなかったんだろう。
「ネリネ、こっちおいで」
「団長さん……」
こちらに駆け寄りぎゅっと抱き着くネリネ。
そんな彼女を安心させるように耳元で囁く。
「大丈夫だ。俺はどこにも行かない。来るのが遅かったのはまぁ、野暮用があったからだ」
「……本当ですか?」
「本当だ。それにレッドジンジャーはこれから頼もしい仲間になるんだぞ。泣いていたらもったいないぞ」
「うん、怖がらせてごめん……。私はネリネとも仲良くなりたい。……ダメ、かな」
ネリネと視線を合わせるようにしゃがんでそう言うレッドジンジャー。
「……私こそ勘違いしてごめんなさい。私もレッドジンジャーさんと仲良くなりたいです!」
レッドジンジャーに向き直り、ネリネはそう言った。
こっちは一件落着か。
「そういえば、団長さんはどうして遅かったんですかー?」
「ノヴァーリス保護した時の話をカサブランカたちとロッサにしたら報告書を提出しろと言われてな。ナズナがやってくれてると思ってた」
「それは、団長さんのお仕事だと思いますわ」
「……ご主人はデスクワークは得意じゃない?」
「まぁ、得意かどうか聞かれたら得意じゃないとは答えるかな」
「私も手伝うわよ」
「仕事のことは後で考えようぜ。とりあえず、乾杯だ。よろしくな、レッドジンジャー」
「うん、こちらこそよろしく。団長」
雨降って地固まる。
涙の雨から始まったささやかなパーティーだが、最後は笑顔で締めくくられることとなった。