書けない男の走り書き   作:星村空理

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接触禁忌の魔王少女

夕暮れ時の公園。一人の少女が、ブランコの上に座って空を見上げていた。

青の瞳も持ち、栗色の髪を2つに結ったいわゆるツインテールの少女。彼女の名前は『高町なのは』。ここ海鳴市に店を構える高町夫婦の末っ子であり、この世界を舞台として語られる物語『魔法少女リリカルなのは』の主人公である。

()()()()()()現在、彼女の父であり喫茶店『翠屋』のマスター、『高町士郎』は病院で意識不明の重体で、他の家族は実家の切り盛りで忙しく、彼女に構うことがない。そのため、彼女は寂しい思いをしながら公園で一人、夕食の時間になるのを待ってるのだろう。

そんな彼女の元に、一人、少年が近づく。

 

「こんな時間に、一人でどうしたの?」

 

少年は、黒髪黒眼の、比較的整った顔立ちをしていた。背丈が彼女と同じであることから、同じような年齢であることがうかがえる。

 

「君は?」

 

「僕は伊織(いおり)悠希(ゆうき)。よろしくね」

 

「うん、よろしく」

 

「それで、どうしたの?」

 

自己紹介をして、再び少年が聞くと、なのはは少年の方を向き、少し考えてから答えた。

 

「んー、ちょっと悩み事、かなぁ……?」

 

悩み事、と言った彼女は確かに困ったような顔をしている。しかし少年は、訝しげな顔をしていた。

おかしい。彼女は()()()()であれば家族に構ってもらえない寂しさから、精神的な余裕があまりなかったはずだ。なのに話を聞けば、泣きたそうな声ではなく、余裕を持ち、落ち着いた声色で答えている。それになんというか、子供らしくない。

いや、たしかに彼女は子供の時から大人びた子ではあったけど、ここまでのものではなかったような気がする。もしかして、()()()()()()()()()()()()()()か?

と、全くもって子供らしくない思考をする彼、伊織悠希は、転生者である。

前世の記憶を持ち、新たな肉体を得てこの世界に生まれたのが彼である。前世の記憶を有しているが故に、彼は見た目にそぐわない精神と思考能力を有しているのである。

そして彼は、『リリカルなのは』の記憶をある程度持っている。そのため、物語の主要人物や、その未来について多少なりと把握できている。

彼は、自分が知っている原作と違う印象を彼女に感じた。()()()()()()彼女はここまで大人びておらず、また家族に構ってもらえない寂しさから今にも泣き出しそうな状態であるはずなのだ。だからこそ彼は彼女の悲しみを癒そうと考え、公園に来たのだから。しかし、彼女にそのような様子は一切見られない。

その原因はなにか、短い時間で一通り考えてみるが、浮かばない。最終的に彼はそれを自分という正史に関わらなかったはずの存在が原因であると考えて、彼女との話を続けることにした。

 

「悩み事か。僕でよかったら、相談に乗るけど、話してくれないかな?」

 

「ん?んー、そうだね。()()()お話できるかな」

 

今後、綺麗に成長する彼女と親しくできるかもしれないという下心が多少はあった彼は、彼女が悩み事を話してくれることに内心喜ぶ。彼女の言葉に含まれた僅かな違和感に気が付けないまま。

えっとね……彼女が話をしようとするその直前に、誰かが彼女たちの元にやって来た。

 

「む、そこにいるのは高町なのはではないか?」

 

そんな言葉とともにやって来たのは、金髪赤眼の、いっそ暴力的とまで行ける美しさを持った少年だった。

 

「ん?私のことを知ってるの?」

 

「もちろんだとも。(オレ)なのだからな」

 

なのはの問いに偉そうに答える少年を見て、悠希は顔をしかめた。

姿や話し方を見れば、どうにも踏み台転生者というやつにしか見えない。

原作知識とチート能力を持って自分の都合のいいように物語を改変していこうとする踏み台転生者。彼らはほとんどの場合その行為が空回りしてしまい、嫌われたり、やられ役になってしまうことが多い。

ここで出て来て彼女の気分を悪くさせてしまうのはよくないと悠希は思っているが、なのはの方は一方的に自分のことが知られているにもかかわらず、特に気にした様子はない。

 

「あなたの名前は」

 

「うむ、我は御門(みかど)正彦(まさひこ)だ!」

 

「そっか。よろしくね」

 

「よきにはからえ、我が嫁よ」

 

「ん?」

 

「ん?」

 

早速、踏み台もとい正彦が訳の変わらないことを言って来てなのはが首を傾げた。

 

「嫁?」

 

「うむ」

 

「誰が?」

 

「貴様がだ」

 

「……いきなり何を言ってるのさ君は……」

 

頭が痛い、という風に額に手を当てながら悠希は言う。当然だ。初対面の女の子に対して嫁などと言うのは頭のおかしい奴しかやらないのだから。

 

「む、なにかおかしいことを言ったか?我が見初めたのだから、嫁にするのは当然だろう」

 

「おかしいに決まってるだろ!そう言うのは本人の同意のもとで決めるものなんだから!」

 

「ふんっ。貴様のような雑種と一緒にするな。我は我なのだから許可を求めずとも問題ない」

 

この自分勝手は……!テンプレのような傍若無人振りにアホかと怒鳴り散らそうとした悠希だが、それを止めたのは正彦の言葉に悩むような素振りをしていたなのはだった。

 

「んー、別に()()()()()()()()()()()()()()()()結婚前提に付き合ってもいいけど……私、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……え?」

「……む?」

 

「そう言えば私が名乗ってなかったね。二人は名前を教えてくれたのに、ごめんね?」

 

なのはの言葉に、二人は同時になのはを見る。見られた彼女は、そう言えば、と手を打っていままで二人にしていなかった自己紹介を行う。

 

「高町なのは。君たちと同じ転生者です。よろしくね?」

 

「「……え?」」

 

本来であれば、『リリカルなのは』は少女、『高町なのは』が敵対する少女たちとぶつかり合い、理解していき、そして世界を救っていく物語である。

そこにイレギュラーが入ったとしても、大概が原作で起きた悲劇を回避していくものがほとんどだったろう。

 

だがしかし

 

彼女は違う。原作主人公とはかけ離れた彼女が織りなすのは、彼女の平穏のために、家族と友を守っていくだけ、ただそれだけの退屈な物語。

強大な敵に立ち向かうこともなければ、苦悩や葛藤も可能な限り避けていく、平坦な物語。

 

されど転生者達よ、安堵することなかれ。

彼女は善にあらず。彼女の性質は悪に近い中立である。

彼女は他者を進んで救済はしない。彼女は敵対者に容赦はしない。彼女は大切なものと世界を天秤にかけ、そして容易に世界を捨てるだろう。

彼女の平穏を乱す悪意持つ者がいれば、待つのは凄惨なる未来だけ。

彼女の大切なものが奪われてしまえば、世界は破滅へ向かうだろう。

故に転生者達よ。敵すら救いたいと言うのなら、世界を終わらせたくなくば、彼女の逆鱗に触れぬよう努力せよ。

 

我に触れるべからず(ノリ・メ・タンゲレ)

前世に置いて、彼女はその()()()()()()から、こう呼ばれていた。

 

接触禁忌の魔王(アンタッチャブル)、と。

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