「お、紫陽花が綺麗に咲いたな」
洗濯物を畳みながら庭に咲いている紫陽花をみる。今日は雨に濡れてなおのこと綺麗に見える。
「しかし士郎、こうずっと雨ばかりだとつまらない。外に洗濯物は干せないし、外に行こうなら濡れてしまいます」
うーんと頭を悩ませるセイバー。洋服を治すためにタンスを開けて服を直していくとあるものを目にする。
「これは…」
ハンカチで作ったてるてる坊主が出た。なぜこんなところに、というのと同時に懐かしい、と感じていた。確か爺さんと一緒にこの時期に作ってたっけ。
「士郎、それは…?」
いつのまにかセイバーが正面に来ていた。
「これはてるてる坊主って言うんだ。雨が早く止むようにっていうおまじないがあるんだ」
そっとセイバーに手渡す。マジマジとてるてる坊主を見ているセイバーの横で即席でてるてる坊主を作る、ティッシュペーパーを丸めてっと…マジックペンで顔を描く。
「セイバー、これ」
「なっ、そんな簡単にできてしまうのですか…?!」
驚きの声を上げるセイバー。まぁそうだよな、30秒足らずでまじないのものができてしまうんだもんな。
「士郎、これには別のものはあるのでしょうか…?その…獅子のようなものは…」
「ぶっ?!」
たまに見せるこういうセイバーの顔は反則だ、ギャップが凄すぎる。…まぁセイバーのいいところでもあるんだけど。
「士郎?」
「あ、あぁ悪い。ちょっと待ってくれ…」
工程はさっきと同じだが…顔のところをライオンにする。ま、簡易ではあるがそれっぽくは見えるだろう。
「いっちょ上がりっと…どうだ?」
「おぉ…」
セイバーは目を輝かせながらてるてる坊主獅子verを見つめる。とはいえ材質はティッシュペーパー、すぐに破れてしまう。セイバーが申し訳なさそうにするのもあれだから…
「セイバー、ちょっとてるてる坊主を貸してくれるか?」
「はい、士郎」
「よし…
魔術回路に火を入れる。
「構成材質、解明。…構成材質、補強…。」
聖杯戦争が終わった後でも毎日欠かさずやっていることと同じことをやる。前とは比べ物にならないくらい出来がいい。
「…
「士郎、何をしたのですか?」
「もともとはティッシュペーパーでできているから破れたりとかしやすいんだ。だから俺の魔術で補強したんだ。これで今の強度は布くらいになっているはずだ」
おぉ!と声を上げ、改めててるてる坊主を手に取り、ぎゅっと抱きしめる。
「セイバー、てるてる坊主にはこんな由来があるんだ。昔、降り続く雨に困っているところに、一人のお坊さんがやってきたんだ」
ほう、とセイバーは呟く。
「お坊さんというと柳洞寺にいるような人たちのことでしょうか?」
「そうだよ、で、その人にお経を唱えてもらいうと必ず晴れるんだと有名な人だった。そこで殿様の前でもお経を唱えたのだけど、雨は止まなかったそうだ」
セイバーはゴクリと生唾を飲む。セイバーは王様だったからよくわかっているはずだ、王の前で失態を晒すとそれ相応の罰が下ることを。
「それで…そのお坊さんはどうなってしまったのですか?」
「…雨が止まず、怒った殿様はそのお坊様を殺すように命令したんだ。で、白い布で包んで■■■ところ次の日は良く晴れたそうだ。これがてるてる坊主の由来の一つ…ってセイバー?」
言葉を少し濁すがセイバーには伝わったようだ。セイバーはてるてる坊主を握りしめ、わなわなと震えている。しまったやりすぎたかな…。
「しろお!」
「セッ、セイバー?!」
涙を浮かべたセイバーは俺に猛スピードで走ってきて…そのままの勢いで俺に飛びつく。
「…うぐっ…」
「どうしてそれを早く言ってくれなかったのですか?!ひどいです士郎!」
セイバーはこういうホラー系はダメだったのか、少し怖がらせたかっただけなんだが…。
「悪い、セイバー…少し怖がらせたかっただけだったんだけど…その、悪い」
セイバーは話してくれない。…この状況はまずいだろという気持ちともう少しこのままでいてほしいという気持ちが同時に現れる。
「ぴゃい?!」
…っと雷か、こりゃまた強くなりそうだな。
「セイバーもそんな声出るんだな…」
「何か言いましたか?士郎」
聞かれて恥ずかしかったのか、少し怒気がこもっている。
「いや、何も…」
それからしばらくはセイバーは俺を放してくれなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「悪かったよ、セイバー。あの話はあくまでそういう可能性があっただけであって」
「…」
セイバーは言葉すら返してくれない。
「明日天気になぁれ…っと」
てるてる坊主をつくって窓辺に置く、せっかく作ったのだから置いておく。
「セイバー、さっきはすまなかった。その…何かあったら呼んでくれ」
そっと部屋を出る。あぁなってしまったらセイバーは一言も言葉を交わしてくれない。謝罪の言葉を述べてそっと退散した方が良いだろう。しかし…
「あのセイバーが怖い話が苦手、かぁ…」
意外というか、女の子らしいところ見れてうれしいけど…
「毎度あの状態になられちゃなぁ…」
次からは気を付けよう。その一方でセイバーはというと…
「全く、士郎があんな話をするとは思ってませんでした」
拗ねていた、それはもう子供みたいに。
「…しかも我を忘れて士郎の胸に飛び込むとは…なんという失態…」
真っ赤になった顔を手で抑えながら、自室をゴロゴロと転がりまわる。
「…」
早く忘れてください、あれは本来の私ではないのです…士郎…。
「――っ」
士郎が置いていったてるてる坊主をそっと手に取る。片方は士郎の置いていったてるてる坊主、そしても片方には士郎の作ってくれた獅子の顔をしたてるてる坊主。
「…まるで私と士郎ですね」
机の上に2つのてるてる坊主を置く。肘をつき、手に顔を乗せ、2体のてるてる坊主をじっと見つめる。
「…フフッ」
私は小さく笑った後、いつの間にか眠りについていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
セイバーが部屋から全く出てこない。もうすぐ夕飯ができるのに、だ。
「いつもなら出てくるはずなんだが…さすがに心配だな」
エプロンを着たまま、セイバーの部屋の前に行く。
「おーい、セイバー。もうすぐ飯ができるぞー」
返事はない。何かあってからでは遅い。
「…入るぞ」
開けるとセイバーは机に突っ伏している。…寝ていたのか…。
「風邪ひいちまうぞ、セイバー」
そっとセイバーに掛布団を掛ける。しかしまぁ気持ちよさそうに…
「これは…てるてる坊主?」
2体のてるてる坊主が机に並んでいる。
「こうしてみると、俺とセイバー…に見えなくもないな」
自分で作っておきながら少し恥ずかしくなる。
「こうやってセイバー達と暮らせて俺は楽しいし、幸せだよ。まぁこういうのは寝てるときにしか言えないな。起きてるときは恥ずかしくていえないもんな」
寝ていることをいいことにいつも思っていることが口から滑り落ちる。起きてたり…なんてことはないよな…?
「…おやすみ、セイバー。いい夢を」
そっと部屋を出る。夕飯の仕上げはもう少し後でもよさそうだ。
「士郎…そういうのはずるいですよ」
士郎が出て行ったあと、そっと身を起こす。実は部屋に入る少し前から起きていたのだ。
「…私もあなたと楽しく暮らせて幸せですよ、士郎」
てるてる坊主を軽くつついて立ち上がる。
「ひと眠りしたら、お腹がすきましたね…今日のご飯は何でしょうか?」
部屋を出て居間へ向かう。梅雨が明けたら2人でまた出かけましょう。あのてるてる坊主は私の部屋の机の上に置いておきます。
「士郎、今日のご飯は何ですか?」
「あ、おはようセイバー。今日のご飯は――」
セイバーの部屋にある2つのてるてる坊主は身を寄せるように部屋の机の上に置いてある。いつか、いつかこんな関係になれるますように―。それが今のセイバーの願い、なのかもしれない。