商店街で買い物中、とあるポスターにふと目が止まる。
「冬木大橋花火大会…もうそんな時期か、早いもんだな」
冬木大橋花火大会ではあるが夏祭りのようなもので出店がたくさんある。昔、切嗣や藤ねえと一緒に行ったっけ、懐かしいなぁ。最近は家で花火が上がってる音だけ聞いてるな…ひさびさに行くのもまたありだよな。そんなことを考えながら買い物から帰宅。
「ただいまー」
「おかえりなさい、士郎」
居間のところからひょこっと顔出して笑顔で答えてくれるセイバー。
「飯は今から作るからちょっと待っててくれ」
食材を冷蔵庫に直しながらセイバーへ伝える。桜は部活で遅くなるって言ってたし、遠坂とイリヤは今日は来ない。藤ねえは来るのか分からないけど部活なら桜と一緒に来るよな、多分。
「分かりました」
セイバーはテレビを見ながら待つようだ。ふとテレビを見ると花火が映っていた。
「士郎、この花火というのはどこで見えるのですか?」
「花火は…あ、花火で思い出したんだけど明後日の夜は何か予定はあるか?」
「いえ、特に用事はありませんが…それと花火になんの関係が…?」
「その日花火が見えるからな、良かったら一緒に見に行かないかなーー」
と誘おうとした時、スパーン!と凄い勢いで襖が開く。
「なになに、士郎がセイバーちゃんと…?んん〜これは青春の香りがしますなぁ〜」
…なんというタイミング…。
「おかえりなさい大河。士郎が明後日花火を見せてくれると言ってましたので…」
ふーんと藤ねえが呟く。首を少し傾げてから閃いた!と言わんばかりに手を打つ。
「花火…?あぁ、もしかして士郎冬木大橋花火大会に行くの?」
「そうだよ、丁度テレビで花火が映っててさ。んで誘おうとしたら藤ねえが遮ったってわけ」
「なによ、私が悪者みたいないいかして〜。そうだ、セイバーちゃん!」
あれは何か閃いた、って感じだな…変なことしなきゃいいんだが。
「なんでしょうか、大河」
「せっかく花火を見に行くんだからそれなりの格好していかないとね〜、明後日の夕方くらいにうちに来れる?」
「大河の家ですか、分かりました」
うんうん、と頷く藤ねえ。
「士郎は持ってるでしょ、浴衣!」
「ん?あぁ、多分あると思うぞ…ってまさか」
ニヤリとする藤ねえ。
「
「んばっ…?!」
「大河…!」
2人しておどおどする。それを見て藤ねえはかーっと言って俺とセイバーを見る。
「いや〜いいね〜青春ね〜!うんうん、明後日は張り切っちゃおうかな〜」
ニコニコ笑顔で料理する俺に近づいてボソッと一言。
「セイバーちゃんは何も知らないんだから、ちゃーんと士郎がエスコートしてあげないとだめだからね?」
「分かってるよ…頑張る」
耳が熱い。それを見てか俺からそっと離れてセイバーの元へ。
「いいなー、私も青春したいなぁ〜」
「大河、その青春とは…なんなのですか?」
「それはね〜ーー」
藤ねえの青春語りが始まったところで料理を手早く進める。セイバーの浴衣姿か…。
「明後日のプラン、考えておくか」
ボソッと呟いてたからできた料理を盛り付ける。夕飯のあとから明後日のことでうんうんと頭を悩ませるのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「セイバーちゃん、お待たせ!浴衣持ってきたよ〜」
夕暮れ、自室で俺が浴衣を着ていると玄関の方から藤ねえの声が聞こえた。学校が終わってからすぐにバイクで来たのだろう。こういう時の藤ねえの行動の早さ、仕事をさっさと終わらせる早さは天下一品だ。
「士郎〜、セイバーちゃん着替えるから居間に入ってきちゃダメだからね!」
「了解、大人しく部屋で待ってる」
セイバーの部屋があるのだからそこで着替える必要はないのでは…?と思ったが別に居間に用があるわけでもないので部屋で大人しく待つことにした。にしても浴衣を着るのは何年振りだろうか、最後に来たのは中学生くらいの時か。あれから大きくなったとはいえ少し大きいサイズを買っていたおかげかすごく丁度いい。
「…ふぅ」
これから二人でお祭りデート…。こんなシュチュエーションはドラマくらいだとばかり思っていた。鼓動が速くなる。
「落ち着け…落ち着け…」
落ち着くために呟いてみるも逆効果でむしろ悪化した。横になって天井を眺める。
「大丈夫、今日のためにちゃんと計画も立てた。大丈夫だ」
自分に言い聞かせる。と、ドアをノックされる。
「士郎、着替えは終わりましたか?」
セイバーだ、どうやら着替えが終わったようだ。
「あぁ、終わっているぞ。何かあったのか?」
「いえ…その…げ、玄関で待っておりますので!」
そうセイバーは言うと走って行ってしまった。待たせるわけには行かない、起き上がって荷物を取る。
「お待たせセイバー」
玄関に行くとセイバーがぎこちない様子で下駄の感触を確かめていた。
「士郎、どうでしょうか?」
「うん、似合ってる。写真に収めたいくらい」
指でカメラのような四角形を作り、セイバーを見る。セイバーは嬉しそうだ。
「ありがとうございます、士郎も似合っていますよ」
「はは、サイズが少し心配だったけどぴったりで良かったよ」
などと話していると後ろから足音が。
「はーい、2人ともこっち向いて〜」
「「?」」
2人して声のある方へ向く。パシャっと音がなる。
「ふふーん、2人の青春の思い出なんだからちゃんと残さないとダメでしょ?士郎のお姉ちゃんとしてこれほど嬉しいことはありません!」
カメラで俺たちを撮ったのは藤ねえだった。セイバーはというと…
「それがカメラですか…」
カメラに興味津々だった。声こそ冷静だったが目が輝いている。
「そうよ〜これで思い出もパシャっと取ればずっと残せるってわけなのよー!これお古だけど貸してあげようか?」
「良いのですか?では大河の言葉に甘えて…」
トントン拍子で話が進んでいく。カメラはセイバーが持つことになった。
「いいのか藤ねえ?今年も花火を取るために使うんじゃ…」
あのカメラは毎年冬木大橋花火大会の写真を取るために藤ねえが使っていた。つまりカメラを貸すと言うことは藤ねえは写真を撮りには行けないということになる。
「いいのよ、今年は士郎とセイバーちゃんが行くんだから行く人に貸してあげないと!いい写真、期待してるからね〜」
ほら、行った行ったと俺たちの背中を押す。
「それじゃ、楽しんで来てね〜」
手をひらひらと振ると玄関を閉めてしまった。このまま玄関の前で突っ立ってても何もならない、冬木大橋の方まで行くとしよう。
「じゃあ行こうか、セイバー」
「はい、士郎」
カランカランと音を鳴らしながら冬木大橋の方へと向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おぉ…!」
「まだ始まっていないのに…やっぱり人は多いな」
冬木大橋の近くにある海浜公園に来た。冬木大橋花火大会とは言っているがメイン会場は海浜公園である。まだ花火は始まっていないがすでに多くの人がいる。出店もたくさん並んでいた。花火大会と言うよりはお祭りのような雰囲気だ。
「士郎、あれは何ですか?」
少し先の方をセイバーが指差す。あれは…
「ん?あぁ、あれはりんご飴だ。まぁこういうところでは定番かな」
「なるほど…」
食い入るようにりんご飴を見つめるセイバー。いつも通りのセイバーで安心する。せっかくだし買うとしよう。
「すいません、これ2つください」
「あいよ!」
お金を払ってりんご飴を2本受け取る。
「はい、セイバー」
「ありがとうございます、士郎」
目を輝かせながら受け取り、早速頬張るセイバー。うん、いつも通りのセイバーだ。もぐもぐと食べ進め…一瞬で食べ終わってしまった…。
「なかなか美味でした、甘くてシャリシャリで…」
と、言いながら俺のまだ一口も食べてないりんご飴を見ていた。そんなに美味かったのか…ん?待てよ…これはチャンスだな。
「もう一口、食べるか?」
「いっ、いえ!私は先程いただきましたので…!」
ハッとして顔を赤くし、顔をブンブンと横に振るセイバー。りんご飴を顔の近くに持っていく。
「はい」
「…いいのですか?」
「どーぞどーぞ」
「では、お言葉に甘えて一口失礼します…!」
セイバーは顔を明るくし、ぱくんと食べると同時に俺も食べる。
「?!?!?!?!?!」
セイバーの顔は真っ赤になる。うん、作戦成功だ。こういう時しか隙がないからな〜。ん、りんご飴美味いな…。
「な、な、なな何をするのです、士郎!」
「はは、悪い悪い。あまりにも隙があったもんで」
俺の脇をポカポカと叩くセイバー。よっぽど恥ずかしかったのか耳まで赤くして今にも頭から湯気が出そうだ。隣に入るがしばらく俯いたままだった。しくじったかな…。
「…絶対に仕返ししますからね、士郎」
「ん?何か言ったかセイバー?」
「い、いえ、何も言ってません!えぇ、何も!」
そ、そうか…なんだろう、小声で聞き取ることができなかったんだけど…大丈夫だよな…?そんなこんなしながら行く途中で焼きそばや焼きとうもろこしとか…それなりの量を買ってある場所へ向かう。
「か、買い過ぎでは…?」
「そうか?セイバーならこれくらい余裕だろ?」
「なっ…で、ですが士郎こんな大勢の前で食べるのは…」
恥ずかしい、と…。セイバーのこういうところを見るとやっぱり女の子なんだと改めて実感する。
「そういうことか。安心してくれ、今から行くところは特等席みたいなところだから人は居ないはずだ」
しばらく歩く。次第に人混みを抜け、冬木大橋を渡り反対の岸へと向かった。
「…懐かしいな、何も変わってない…」
冬木大橋から少し歩いたところの大きな木。その木下にひっそりと設置されている椅子。切嗣は特等席だと言っていたっけ。
「ここが特等席だ、セイバー」
「ここから見えるのですか?」
「あぁ、昔来た時もここで見ていた。穴場スポットなんだ」
セイバーに焼きそばと飲み物を渡す。ヒューと高い音が聞こえた。
「お、始まった」
大きなドーンとお腹に響く音が鳴ると同時に大きな
「これが…花火…」
セイバーは焼きそばを握りしめたまま花火を見つめていた。
「毎年家にも音は聞こえてくるんだが…こうやって見るとやっぱり綺麗だな」
ドーンドーンと花が咲く。夏の夜に咲く花、それは数秒で消えてしまうけどそれがいい。数秒という一瞬だからこそ、それがなおのこと綺麗で心に残る。パシャっとカメラの音がする。セイバーが写真を撮っていた。
「確かにこれは綺麗ですね…写真ちゃん取れてると良いのですが」
「問題ないさ、まだまだたくさん上がるからな」
「そうなのですか!それなら大河も驚くような写真を撮らなければいけませんね!」
セイバーはご飯のことなど忘れて花火を撮る。そんなセイバーを横目に花火を見ているとセイバーがオレを呼ぶ
「士郎」
「ん?」
振り向くと同時にパシャっとシャッター音が聞こえた。
「思い出に1枚、です」
「はは、不意を突かれて変な顔になってなかったか?」
「へんな顔にはなっていないと思います」
笑顔で答えるセイバー。そうだ、どうせなら…
「セイバー、カメラ貸してくれるか?」
「どうぞ、士郎」
タイマーにセットしてっと…。すこし高いところにカメラを置いて走って戻る。
「士郎、何を…」
「ほら、セイバー!カメラの方!」
セイバーの肩に腕を回して密着する。それに合わせてセイバーも腕を回す。二人して笑っていると後ろで花火が打ち上がり、炸裂した。炸裂と同時にシャッターが切られた。
「なんか豪華な写真になったな」
「そうですね、タイミングよく花火が上がるとは思いもしませんでした」
花火もフィナーレなのか、すごい数が打ち上げられる。もうすぐ花火の打ち上げが終わる。
「士郎」
不意にセイバーが呼ぶ。
「なんだ、セーー」
セイバーと言おうとした口が塞がれた。人肌の温もりと柔らかい感触。それと同タイミングで大きな花火が炸裂した。
「先程のお返しです、士郎」
突然のことで真っ白になる。えっと…俺はキスされた…よな?そのまま抱きつくセイバー。俺も自然とセイバーに手をまわす。
「…やられた」
「ふふ、士郎も隙だらけですね」
俺も人のことは言えないな…。
「士郎、今日はありがとうございます。花火はとても綺麗でしたし、何より士郎と思い出が作れた」
俺の胸の中でセイバーは話す。声は穏やかで表情を見なくとも笑顔だと分かった。
「俺もセイバーと来れて良かった」
「また来年も…連れていってくれますか?」
「もちろん、セイバーが行きたいなら」
そんな俺たちことを話している後ろで最後の一輪の花が夜空に咲く。最後の一輪は大きく、青と赤の色をした花だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テレビで見るのとは全然違いました、迫力がありながらとても綺麗でした」
「そうだな…家庭用のもあるんだけどこうはいかない」
「家庭用…!自宅でも花火が楽しめるのですか?」
「打ち上げるんじゃなくて手で持ってやるんだけどあれはあれでいい。気軽に楽しめるしな」
「なんと…是非今度やって見たいです!」
そんな話をしながら帰路についた。花火は終わったが出店はまだ出ていたためか帰りのバスもそんなに混雑しておらずすんなり帰ることができた。その日はお風呂だ洗濯だをしているうちに時間は過ぎ、すぐに寝た。後日、藤ねえから写真が渡された。最後に撮れたあの写真は額縁にいれ、俺の部屋に飾ってある。セイバーはあの写真と他に何枚か保管しているようだが…俺も詳しくは聞いてない。また来年も行くつもりだ、浴衣を来て二人で花火を見に。