「うーん…今日はものすごく天気がいいな!」
俺、衛宮士郎は外で洗濯物を干しながら空を見上げる。雲ひとつない快晴である。
「士郎、庭掃除終わりました」
セイバーに庭掃除を頼んでいたが流石だ、俺よりかなり早く終わる。
「セイバー、今日はすごく天気がいいから布団を干そうか」
「布団を干す…洗濯するのですか?」
あんな大きな物は洗濯機に入りません、と言いたそうな顔をしている。もしかしてセイバーは干した布団の気持ち良さを知らない…?
「あー、違うぞセイバー。洗濯機には入れないでそのまま天日干しにするんだ。個人的になんだが、布団がふわふわですごく気持ちよく寝れるんだ」
「ほう…天日干しするだけでよいのですか…」
どうやら本当に知らないらしい。いい機会だし、体験してもらおう。
「セイバー、布団を持ってくるのを手伝って貰えるか?その…なんだ女性の部屋に勝手に入るのは忍びないというか…」
単純に誤解されたくもないし…な。遠坂や桜に見られたらそれはもう…あぁ、想像するだけで寒気が…。
「分かりました、手伝います」
各部屋から布団を回収してきて日当たりの良い縁側に並べる。見ているだけで夜が楽しみになってくる。
「ところで士郎」
「ん?」
「布団を天日干しするだけでは汚れは取れませんが…これは気持ち良く眠れる以外に何かあるのですか?」
確かに、汚れは落ちないのだからする必要がないのでは、というのは当然の意見であると言える。
「そうだな、天日干ししてある程度時間が経ってから布団を叩くんだ。そしてダニやホコリを落とすんだよ、確かに外側の汚れは落ちないけど内側の汚れは洗濯しても取れないのがあるからな、こうして定期的に内側を清潔に保つんだよ」
上手く説明できているだろうか…セイバーはなるほど、と頷いている。
「それは良いですね、そしてふかふかで気持ち良く寝れるとは一石3丁ですね」
「ははっ、そうだな。よし少し俺は洗い物してくるからセイバーはゆっくりしていてくれ」
「分かりました」
洗い物をし終えてから布団を物干し竿にかけて叩くとしよう。時間的にも丁度いいだろうし。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…」
私、セイバーは葛藤しています。縁側で良く日向ぼっこをしていますが今日は横に布団があります。しかも干すと気持ち良くなると言うではありませんか。まだ干してそんなに時間は経っていませんが士郎は戻ってくる気配はありませんし…。
「す、少し触るだけなら…」
好奇心には勝てませんでした…手でそっと押してみると、太陽の光で適度に暖かくなっていて…ふかふかでした。
「おお…これは素晴らしいです…!」
キラキラと目を輝かせながら布団へ移動する。もう身体を止めることは出来ず布団に横になる。
「これは…太陽の匂いと…士郎の…」
スン、と匂いを嗅ぐ…というよりこれは士郎の布団なので士郎の匂いがして当たり前なのですが…
「ーーっ」
あゝ、今私はどんな顔しているんでしょう…少なくとも士郎には見られたくない顔をしているのは確かです。…恥ずかしさで死にたくなると思います。
「…士郎…■■■■ます…」
自分でも聞き取れないくらい小さな声でした。いつか、いつか士郎にもう一度伝えたいのですが…恥ずかしくて…。
「…気持ちが良いですね…これが布団の魔力と言うのでしょうか…」
さまざまな感情を胸にしたまま瞼を閉じる…そしてそのまま夢の世界へ…。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「〜♪」
鼻歌交じりに洗い物をする。人が増えて洗う量は増えたが賑やかで毎日が楽しくてこの程度、何も苦行にはならない。
「さて…っと、ぼちぼちかな」
キュッと蛇口をひねり水を止めてふと時計に目をやる。
「うん、良い時間だな…そろそろ布団叩きの時間かな」
布団叩きを手に取り窓辺へ向かう。向かった先ではーー
「セ、セイバー?!」
布団で横になるセイバーがいた。…というかその布団俺の…。いや今はそれどころではない。
「どうしたセイバー?!何かあったのか?!」
サーヴァントとはいえ、何かあってからでは遅い。セイバーを抱き上げ呼びかける。
「…ん、しろぉ…?」
…ん?普通に眠ってただけ…?いや、ならいいんだが…。セイバーさん、とりあえず布団から降りてくれませんかね、干して意味がない…。
「しろぉも…いっしょにぃ…ねよぉ…」
「おわぁっ?!」
セイバーに力強く引き摺り込まれる。もちろん抵抗できるわけがない。セイバーは布団に俺を布団に倒すと抱き枕のように腕と足を絡めてくる。
「せ、セイバー!まてまてまて!!!これはやばいって!!!」
俺だって思春期真っ只中の高校生だ。刺激が強いと言うかなんか色々次元を超えてる!
「しろぉはえらいねぇ…きょうはゆっくりやすみましょう…」
布団は太陽で心地よいくらいに暖かく、セイバーは俺の頭を撫でながらそのまま眠ってしまった。
「ーーっ!!!!ーーっ!!!!」
セイバーの抱き枕になった俺は声が出せない。初めは抵抗していたが抜け出せる気配がなかったので諦めて自然体になる。もうどうにでもなれ。と同時に睡魔が襲う…瞼が鉄板のように重い。
「セイバー…良い匂いがする…」
最後の最後に自分が思ったことを口に出して夢の世界に旅立つ…。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ただいま〜!」
「先輩、ただいま戻りました!」
お昼の買出しへ行っていた桜と凛が帰ってきた。
「おかえりなさい、桜、凛」
本を片手に2人を迎えるのは私、ライダーです。
「おや、セイバーと士郎は一緒ではなかったのですか?」
しばらく物音一つしなかったので、と付け加えて桜に問う。
「え?先輩とセイバーさんは家でやることがあると言ってたから残っているはずだけど…」
と、同時に凛や駆け足でこちらに来る。おやあれは小悪魔スマイル、何か面白いものでも見つけたのでしょうか
「あの仲良しさん、縁側で寝てるわ」
「これは…」
「先輩とセイバーさん…」
完全に寝ているようですね、ここまで近づいても起きないあたり。
「あの2人がこんな風になっているとは」
私は驚いていた。そもそも2人はこんな公にイチャイチャしてるのを出すタイプではないからです。
「どうやら布団の魔力に呑まれたようね!」
おほほ、と高笑いの凛。布団の魔力、といっても害のある魔力ではないのでしょう。しかし…
「2人とも幸せそうですね」
「えぇ…凛か桜、どちらかカメラは持っていないのですか?」
この記録は残しておいたほうがよさそう、と私の直感が告げている。いろんな意味で。
結局凛と桜、2人どちらも写真をきっちり抑えたのでした。起こすのは可哀想だったのでそのままそっとしておこうということで私たちはその場をそっと離れた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ん…っ」
しまった、ずいぶん寝てしまったようです。ん…?
「ふぇっ?!しっ、士郎?!」
自分の腕の中で士郎が眠っています。それはもうスヤスヤと。
「んー…あ?」
超至近距離でお互いに目が合う。3秒くらい見つめ合ってーー我に帰る。
「うわわっ、悪いセイバー!悪気があったわけじゃないんだ!」
「もっ、申し訳ありません士郎…その…」
お互いに耳まで真っ赤にして距離を取る。ー気まずいです…。
「あらお目覚め?」
この声は
「遠坂!」
「凛!」
…まさか。
「遠坂お前…見たのか…?」
恐る恐る士郎は聞く。
「んー?なんのことかしらねー?」
ニマニマと小悪魔スマイルを私たちに向ける。
「凛、何か隠してますね…?」
「せ、セイバー…?」
「あぁそれでしたら」
む、ライダー…何か知ってそうですね。
「続けてください、ライダー」
「ちょっ、ライダー?!裏切る気?!」
裏切る…?隠し事をしているのは間違いなさそうですね。
「
「ーーー」
私の記憶はここで途絶えている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俯き加減でもわかる、セイバーの顔が赤い。とこの一触即発の雰囲気の中冷静に判断してるあたり俺はこんな環境に慣れつつあるのかなーと一人で思ってたりした。とりあえずまずはセイバーを落ち着かせないと。
「せ、セイバー、まぁ後で消して貰えばいいからとりあえず落ち着け、な?」
こんなところでエクスカリバーなんて振られたら家が崩壊どころか冬木市が消えてしまいかねない。
「なぁ遠坂それで…あれ、遠坂…?」
先までいた遠坂の姿がない…逃げたな、あいつ。
「士郎」
「あぁ分かってる。他人に迷惑をかけない程度にあの悪魔を懲らしめてきなさい」
こうなった時のセイバーは止められない。だから一応念押しして迷惑はかけるな、とだけ付け加えておく。
「イエス、マイマスター…フフ、凛、お覚悟を…」
頑張れ遠坂、お前の罪は重い…。のちに遠坂は語る、あれはもう2度と体験したくない、とーー。
「先輩!これを」
ん?これは寝ているセイバーと俺…
「桜お前…!」
まさか桜も写真を撮っていたとはセイバーに見つかる前に…
「ごめんなさい、ついその…可愛くて記憶に残して起きたいと思って…」
どうやら桜は元から俺に見せるように撮っていたようだ。
「桜、その写真俺にもくれないか?思い出として撮っておきたい」
「はい、分かりました」
こうして俺の宝物に一つ追加された。セイバーにバレたら竹刀で半殺しにされそうだが…仕方がない、だって…
「セイバーは寝ていても可愛いし綺麗だからな…」
ボソッとつぶやいて布団を各部屋に戻す。またこんな日がないかな、と心のどこかで思っているのはここだけの話だ。
今日も我が家は平和である。