「さて、今日の晩飯は何にしようか」
台所に立つのは俺、衛宮士郎だ。桜と交代でやっているが桜が部活で忙しい時は代わりに俺がやることになっている。今ではセイバーがテレビを、ライダーは雑誌を読んでいる。…仲が悪いのに同じ部屋にいるのは珍しいな。
「2人とも、今日の晩飯は何が食べたい?」
特にいいメニューがパッと思い浮かばなかったのですぐ近くにいた2人に聞いてみる。
「士郎、ハンバーグがいいです」
「焼き魚がいいですね」
おおう…2人とも全く違うもんを提案したな…。両者睨み合う、今にも火花が散りそうなくらいだ。
「セイバー、申し訳ありませんが今日は私の要望を通して欲しいのですが」
今日みたいに晩飯のおかずで喧嘩…まではいかないが言い合いになることは多々あることだ。できれば平和に、譲り合って欲しいなと思う俺と桜だがどうもセイバーとライダーは馬が合わないようだ。
「ライダー、食べ物の以外でしたら譲りますが…ここは譲ることはできない」
セイバーは食べ物が絡むとものすごく真剣になる。というかもうほんと王様って感じだ。悪い意味でも良い意味でも…。
「おいおい2人とも落ち着いてくれ、どっちも作るから喧嘩する必要ないだろ?」
こんなところでセイバーとライダーが喧嘩を始めたら俺の家どころか冬木市まで壊滅しそうだからな…話題を変えて話を振ってみるか。
「そういえばライダーの好きな食べ物って聞いたことなかったな、何かないのか?」
ライダーは基本的に出てきたものはなんでも食べてくれる。ただ、これまでその中でもこれが良かったなどは聞いたことがない。
「特にこれと言って好きというものはありませんね、士郎の料理は全て美味しいので。まぁでも…そうですね、嫌いと言うわけではありませんが蛇が…食べれないですね」
「蛇か…うちで出ることは滅多にないだろうけど気をつけるよ」
そういえば、と思い出したようにセイバーが続く。
「ではこの前大河が持ってきて置いていった蛇酒は持ち帰らせた方が良いのではないでしょうか?」
何ぃ?!いつのまにかそんなものを持ち込んでいたんだ藤ねえは…。
「そうだな、今度持ち帰られるとしよう。ライダーあと馬も…ダメなんじゃないか?」
思い当たる節があるので聞いてみる。
「そうですね、馬もダメですね」
「了解、馬には気をつけるよ」
少し離れたところでセイバーが不満そうな顔でこちらを見てくる。
「随分ライダーに良くしますね、士郎」
怒ってると言うより嫉妬…なのか?
「何を言うんだセイバー、料理を作る身としては美味しか食べてもらうためにそういう情報は大事なんだぞ。第一、セイバーにも聞いただろ?」
「む、たしかに…記憶はあります」
思い出したように言うセイバー。けど好きなものは聞いたことあるけど嫌いなものは聞いたことがない。
「だけどセイバーの好みは聞いたことはあるけど苦手なものは聞いたことなかったな、何かないのか?」
セイバーも基本出したものは美味しく食べてくれる。だからこれと言って嫌いそうなのはなさそうなんだけど…。
「私に特に嫌いなものだったり苦手なものはありませんので安心してください、士郎」
フフン、と胸を張るセイバー。好き嫌いがないことにライダーに勝る、と自慢していると思うのだが、ライダーの場合は嫌いではなく食べれない、だからな。…というとセイバーが止まらなくなるので心の中で押さえておく。
「そういえば士郎、今朝大河がこれを置いていきまして」
冷蔵庫から発泡スチロールから取り出され、俺に手渡される。
「藤ねえから?どれどれ…」
ガムテープを剥がして中身を確認する。ライダーとセイバーは興味津々で覗いている。
「中身は…タコか」
しかもかなり元気で発泡スチロールを離してくれない。
「くっ…こいつ…なかなか活きが…いいな…っ!」
「士郎、夕飯でタコを使うのはどうでしょうか?鮮度が下がる前に頂いた方がよろしいかと」
「ん、そうだな。鮮度がいいやつは鮮度が下がる前に美味しく頂かないとな」
時間が経って素材の鮮度が落ちるのは料理を作る者として見逃せないからな。今日何かしらの料理で使ってみるか…ってセイバー…?
「ど、どうしたんだセイバー…そんなに距離を取って」
さっきまでのワクワクしてたような雰囲気が一変、セイバーだけまるで宿敵に出会ったような…敵意を剥き出しにしている。
「ば、バカな…
えぇ…セイバー…?もしかしてだけどーー
「いけません士郎!早く
「セイバー…?タコが…苦手なのか?」
セイバーが剣を構える。ちょちょ、待て待て!!!こんなところで暴れられたら困る!!!
「嘘だろセイバー…?この前たこ焼き買ってあげたらすごく美味しいって言いながら食べてたじゃないか!」
あまりにも美味しかったのか俺の分まで食べてしまう食いっぷりを見たのに本体を見たらこの反応とは…
「なんと言うことだ…私はあの切っても切っても斬り伏せることができなかったあの魔魚を口にしていたと言うのか…!」
セイバーが膝から崩れ落ちる。
「どうするのですか士郎…」
うーん、このまま処分するのももったいないからな。
「セイバー以外のみんなに振る舞うようにするよ、処分するのはもったいからな」
このままなのもアレなので下処理を開始する。その後ろでセイバーが立ち上がりライダーに訴えかける。
「ライダーはあの魔魚を食べると言うのですか?!」
「わたしは海の幸であれば分別なくいただきますので」
そんなことを目にもくれず、俺はタコと格闘している。…ここで気付いていれば止めれたかもしれない。
「くっ…しかしライダー、あなたはオリーブオイルをかけ過ぎなのではないのですか?アレではおかずの風味が崩れてしまう!」
「食事は個人の自由でしょ、セイバー」
俺が下処理が終わる頃には2人は言い争いになっていた…こうなると俺には止めることが出来ない。
「いいでしょう、あなたとは今ここで決着をつけましょう」
「こちらも…そうさせていただきます」
2人とも戦闘態勢に入る。…ってうぉい!!まてまてまてまて!!!早まるなって!!!…だけど俺じゃ止められない…どうすれば…。
「先輩、お夕飯ですか?何か手伝えることがあればお手伝いしますけど…」
ナイスタイミング、桜。これで我が家…いや、冬木市が救われる。
「さ、桜…!いやこっちは問題ないんだが、あの2人を止めてもらえるか?」
「え?…あぁわかりました」
なんとなく察したのか桜は2人の元は向かう。
「何をしているんですか、セイバーさんにライダー?まさかこの前のように何かを破壊するような喧嘩をするのではないですよね?」
あ、桜がお怒りモードだ。あぁなると桜はお説教が終わるまで解放してくれない。2人にはいいお灸だろう。
「さ、桜…?!い、いえわたし達はただ…そろそろ日本の珍味に挑戦してみるべきではと話しておりまして…。そ、そうですよね、セイバー?」
「そ、そうです。その通りです。そういうわけなのです桜」
「そうですか…?私にはそのようには見えなかったんだけど?ライダー…?」
後ろでお説教がはさまってる中、タコを調理する。シンプルに酢の物で頂こう。
「さて次は…」
メインのおかずに取り掛かる。下準備をしながら後で嫌いなものをメモに書いとかないとなと思う俺であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
〜1時間後〜
「出来たぞ〜飯にしよう」
この声と同時に手を開いている人が取り皿を出したり、お箸を置いたりと手伝いをするのが我が家のルールだ。
「それじゃ、いただきます」
本日のメニュは小ぶりなハンバーグと焼き魚、それと食べれる人用に酢の物がある。
「セイバーさんは酢の物いらないんですか?」
桜が気遣って良かったらと差し出す。
「ありがとうございます、桜。ですが今日はなんだか酢の物の気分ではなかったので大丈夫です」
やんわりと断るセイバー。ちょっと前の慌てふためく姿を見て、食べないのかとは俺とライダーは言えない。しかしセイバーがタコが嫌いだったとは…後でこれもメモしておかないとな。
食事を終え、皿洗いをする。横でセイバーが手伝ってくれているお陰でいつもより早く済まそうだ。
「セイバー、明日の食事なんだけど…」
「?明日は何か特別な日でしたか?」
「いや、そう言うわけじゃないけど…今日のお詫びと言ってはなんだがセイバーが食べたいものを作ろうかなと思ってさ」
お財布に大ダメージを与えるようなものは買えないが多少なら問題ない。今日の食事中のセイバーはいつもよりテンション低めな感じだったしな。
「ほう、少し考えさせてください」
うーんと考え込むセイバー。アレでもないからでもないと考えている。
「決まりました、士郎。明日の料理のメニューはーー」
顔を輝かせて話すセイバー。うん、やっぱりセイバーはこうでないとな。
色々あったが今日も我が家は平和です。