今回は結構慧一人の話が半分くらい占めます。
では!21話 過去という名の檻
どうぞ!!
『やっぱり落ち着くな。』
慧はソファーに座ってぼんやりしていた。
頭の中に蘇るのは過去の記憶。
(おにぃーちゃん!結希と遊んでよ!!)
(結希、あまりお兄ちゃんを困らせないの。)
(まぁ母さん、良いじゃないか。仲が良いことは喜ぶべきことだ。なぁ?結希。)
(うん!だって結希はお兄ちゃんのお嫁さんになるんだもん!!これくらい当たり前だよ!!)
この家で過ごした記憶がまるで昨日のことかの様に
見えないはずの目は過去の景色を映し出していて、ソファーに座っている慧の膝に掴まりながら見上げて笑顔を浮かべている結希の顔。
そんな姿を隣で優しい顔で見守ってくれるお父さん。
そして困り顔を浮かべながらも口元が緩んでいるお母さん。
幸せだったあの日が今ここにある。
会いたいと焦がれた両親がいて、離したくないと願った妹とその温もりすら感じることができる。
(ねぇ!おにぃーちゃん!また歌を歌ってよ!!)
いつも結希には歌をせがまれていた。
自分の歌の何が良いのかわからなかったが、結希が望むのだったら断る理由もなくて、お父さんやお母さんに誉められるのが嬉しくて。
『ああ、歌おう。結希が望むなら…』
慧は歌い始める。
ただ歌い続ける。
望まれたから。
誉めてくれるから。
もっと歌ってとせがまれるから。
ここは檻。
慧専用の檻。
彼岸に囲まれた檻。
偽りの幸せが満ちる檻。
そして慧にとってはこの世とあの世の境界。
ここに来れば今は亡き家族に会える場所。
例えそれが偽りだとしても。
その幸せが空虚でも。
慧は歌う、その幸せに求められるまま。
時を忘れて何分でも、何時間でも。
そしていつか歌い疲れて睡魔に身を委ねる。
(おにーちゃん?疲れちゃったの?)
『ああ、疲れたよ。』
(そうか、ならゆっくりと休むと良い。)
『父さん…俺を置いて何処にも行かない?』
(行くわけないでしょ。ここは私たちの家なんだから。私たちは
お母さんの言葉に安心して慧は微睡みに沈む。
幸せに包まれて。
そしてその幸せは毒でもある。
彼岸花に毒が有るようにその捕らえようとする過去はこの場所に縛り付けようとする。
そしてそれを受け入れる慧はここから出ようとしないだろう。
次に目を覚ませばまた歌い、疲れはてて眠り、また目を覚ませば歌い続ける。
空腹すら忘れて永遠に過去に囚われる。
その先に待つのは…
今の彼には過去の幸せは毒でしかない。
毒が薬になることもある。
それは彼の精神の薬にもなるだろう。
しかしまた、多すぎる薬はやはり毒になるのだ。
だから誰かが止めなければならない。
誰かが扉を開いて入ってくる。
「慧…帰ろう。私たちの家に。」
それはもともと慧がここに来ることを知っていた千秋だった。
時間は夜の8時前。
Roseliaの練習を終え帰宅途中のリサと友希那だった。
「すっかり遅くなっちゃったね~」
「そうね、でも良い練習が出来たわ。」
二人は帰り道を歩きながら喋っていた。
「いや~、やっぱりこんなに暗いと怖いな~」
「昔から暗いところは駄目だったものね。」
「アハハ…もう高校生なのに恥ずかしい限り…」
苦笑いしていたリサがピタリと止まる。
「どうしたのリサ?」
そんなリサを不思議に思い、リサが凝視している場所を見る。
そこには薄暗い中、ある家を玄関の前から見つめる髪の長い女性がいた。
その女性の横顔は笑みを浮かべているのだが、物凄く不気味だった。
「ゆ、ゆきぃなぁ~」
少し涙目になりながら震えるリサが弱々しく友希那を呼ぶ。
「ハァ、なに怖がっているのよ。ただの女性の人じゃない。」
「だってぇ~」
それでもリサの震えは止まらないようだ。
その女性がゆっくりとリサ達を見た。
「ひぃ!」
リサは思わず友希那の腕に抱きつく。
友希那も思わず身構える。
その女性の目に浮かぶのは明らかに普通じゃない何かだった。
その目を向けられた友希那は怖気が走る。
しかしそれでも友希那は睨み返した。
その女性はそれをみると尚笑みを浮かべ去っていった。
女性が見えなくなると友希那は体の力を抜いてリサに女性はいなくなったと伝える。
リサは確認すると安心するも友希那のうでを離さなかった。
友希那は諦め、女性が見ていた家の前まで行く。
その家は庭等に彼岸花が植えられ、まるで家を彼岸花で囲っているような家だった。
「この家は?」
「私知ってる。」
不思議そうに呟いた友希那にリサは答えた。
「ここ、何年か前に一家の殺人事件があった家だよ。なんでも四人家族で長男の男の子だけが生き残ったとか。」
リサは震えながら話していた。
「ということはその男の子が住んでいるのかしら?」
「ううん、なんでもその男の子は別の人が引き取って別の場所に住んでるみたい。でも家の所有権はまだ男の子にあって手放さないからそのままあるみたいだよ。」
「そう…」
悲惨な事件があったことに少し心を痛めつつも過去の終わったことだと思いリサに帰ろうと促すと、その家の扉が急に開く。
誰もいないと思っていた家から人が出てきたことに驚きリサに関しては悲鳴を上げる。
しかし出てきた人物を見て二人は驚いた。
「水瀬…君?」
そこには大人の男性に担がれた慧と大人の女性が出てきた。