長らくお待たせしました。
6月中に2話は投稿するつもりでしたがかなりの難産でした。
簡略的に書くことも出来たのですがそうすると薄っぺらくなるのが嫌だった…。
変なこだわりですが多目に見てください!
では!
24話 闇の一面
リサが出ていった後、三人に沈黙が落ちる。
しかしそれを振り払うように紗夜が千秋へと責めるように聞く。
「…千秋さん、そろそろ聞かせて下さい。慧は一体何処へ行っているんですか?」
「そうだな、慧は自分の家に帰っていたんだよ。」
「っ!自分の家に…なぜ!!」
「自分の家に帰ることの何が悪い?」
千秋は肩をすくめて紗夜を見る。
それを見た紗夜は憤りを露にした。
「ふざけるのもいい加減にしてください!!彼にとってあの家がどれだけ辛いのか貴方が一番知っているでしょう!!」
友希那は怒鳴り声に驚いて反射的に体を小さくした。
「!…すいません、湊さん。」
それに気付いた紗夜は申し訳なさそうにして椅子に座った。
「いえ…大丈夫よ。それより、私にも色々聞かせてください。」
「そうだな。まぁ取り敢えず纏めようか。えっと、湊さんで良いかな?」
「はい。」
「さっきも言った通り彼…慧は約5年前、君たちが居た家に家族4人で暮らしていた。しかしある夏の深夜、その家に暴漢3人が押し入った。」
「…」
一度言葉を切った千秋は目を閉じて少し黙る。
紗夜も友希那も急かすこともなく次の言葉を待った。
「…すまない…私が近所の連絡を受けて現場に着いた時には…慧意外の家族3人は息絶えていた。」
言葉を続けた千秋の顔は影を帯びていた。
友希那は息を飲み、紗夜は悔しそうに唇を噛んでいた。
「慧だけは息をしていた、両目から血を流してな。危険な状態だったため私が急いで病院へ連れていき、事なきを得た。」
千秋は目を閉じると顔を歪めた。
当時の事を思い出しているのだろう。
「…その押し入った暴漢達が…水瀬君の両目を…」
友希那の消え入りそうな声に千秋は頷いた。
「ならばわかるはずです!彼が自分の家に行くなんて!」
「それでも!…慧の家なんだよ。」
千秋さんの少し苛立った声に気圧され紗夜は怯む。
「…水瀬君はもう過去を乗り越えていると?」
「…いや、その逆だ。未だに囚われている。」
千秋は苦い顔をしながら答える。
しかし友希那は疑問を覚えた。
それは紗夜も一緒だったようだ。
「過去に囚われているのならあの家に帰らないのでは?」
あれだけの事件があったのだ。寧ろトラウマとなって自分の家に帰らなくなるのが普通では?と友希那は考えていた。
「慧にとってはそうじゃないんだよ。慧にとってあの家は亡くなった家族に会える場所なんだ。」
「亡くなった家族に会える?」
紗夜と友希那は困惑した顔で千秋を見る。
「そうだ。あの家なら家族のことを鮮明に思い出すことができる唯一の場所なんだ。慧は不安定な精神状態から持ち直しはしたが失ったものは戻らない。それが傷となって慧を蝕むんだよ。」
…
「…つまり慧は自分の作り上げた幻想で失ったものを一時的に埋めている…ということですか?」
紗夜の言葉に千秋は頷く。
「もちろん慧は自分でもそれが本物でないことぐらい分かっている。あの家に行くときは必ず私に連絡をするんだ…本物ではなくても自力で戻って来ることは出来ないと自覚しているから。」
「それだけ固執してしまっているのね。」
友希那は悲しみを浮かべた目を伏せる。
「家族を失った悲しみは私にはわかりません。幼なじみである私は確かに慧の家族とも付き合いが深くて本当の家族のように接していました…でも…家族ではないんです。」
紗夜は自分の家族が亡くなる出来事をまだ経験していないため、気安く気持ちで分かるなんて言えなかった。
「…でも…私は…慧を引き取った私だけは慧の家族でありたい。たとえ血が繋がっていなくても…名字が違っても…慧が生き残ったことを後悔なんてさせたくない、させない!」
千秋の決意に満ちた宣言は友希那や紗夜の胸に重く響くものだった。
「…だから…湊さん。慧の日常を壊さないよう強力してくれないか?学校に居る間だけで良い。」
千秋は頼むと頭を下げる。
「…顔を上げて下さい。付き合いは短いですが彼を友人と思っています。」
友希那は優しく、しかし芯のある声で答えた。
「ありがとう…」
千秋も安心した様で、顔を綻ばす。
「…千秋さん、慧をあの家に行くことを止めることは出来ないんですか?どう考えても良いことだとは思えません。」
紗夜は苦い顔をしたまま千秋へ言う。
「私もそうしたい所ではあるんだけどね。恐らくそうしたら慧の心は持たないだろう。言ってしまえば慧の心は何かに依存しなければ支えられない状況を無理やり立ち直らせてしまったようなものだからな。」
「…っ!」
紗夜は言われて日菜の事を思い出す。
「どういうことです?」
事情を知らない友希那は困惑する。
「…慧はこの家で引き取った後、何度か自殺しようとしたことがあるんだ。」
友希那は息を飲む、だが予想できることだった。
「それを実質止めたのは日菜…私の双子の妹なんです。」
「日菜…知っているわ。いつも一緒にお昼ご飯を食べてるもの。」
「そして慧には妹が居ると言ったな。なんでも慧が気を失う直前まで会話していたのが妹であった結希だったらしい。妹を守れなかったといつも悔いていたよ。その結希に最後に生きてと言われたと慧は話していた。そのせいかやけに結希に対しての執着が強いんだ。それを知った日菜は慧に対して結希の様に振る舞い始めたんだ。」
それを聞いた友希那は顔をしかめる。
「…妹になりきって慧を繋ぎ止めたのですね。」
「ああ…今は慧が自力で妹の執着を抜け出したようだが当時は完璧に日菜の事を結希と思い込んでいた。今でもたまに妹を重ねてしまうときはあるみたいだが。」
「慧は理性ではずっと日菜が結希ではないことを理解していた。このままでは駄目だと思ってもいた様で、感情が落ち着いてからは家族はもう何処にもいないと自分に言い聞かせて執着を引き剥がした様です。」
紗夜の話を聞いて友希那は納得した。
「…不安定なまま引き剥がしたせいで支えがないと崩れてしまう…と。」
「ああ、慧はきっと理性が強いのだろう。だけどもて余した感情はストレスを溜め込む。どこかで吐き出さないと理性の器は壊れてしまう。だから必要なんだよ。」
千秋は一息ついて紗夜と友希那を見る。
「慧が依存できるもの。人ではなく他の何かで支えを見つけてあげなければならない。本当は依存ではなく趣味みたいなもので慧の生きる支えになるものがあればいいんだがな。」
それは高望みだろうと千秋は呟きながら疲れたように椅子の背もたれに体を預ける。
「慧は理性が強い。なら日菜の時のように自分で完全に立ち直ることもできるだろう。それまでの支えがあの家なんだよ。」