盲目で灰色な日々~暗闇に響く歌声は~   作:清夜

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28話 距離は遠く

『…長嶋…裕…』

 

慧は少し考える様に呟く。

 

友希那はその声に何故か心のざわつきを覚えた。

 

別に声音は何ともない声音なのに何か冷たさを感じた。

 

『覚えがありませんね。人違いではないですか?』

 

慧は本当に覚えがないように返す。

 

しかし何故か友希那はそれが嘘だという確信のようなものがあった。

 

そんな友希那にも目もくれず慧へ何処か必死に声をかける少年がいた。

 

「そんな!覚えてるだろ、小学校で親友だった…」

 

『俺に親友なんていませんよ。』

 

裕が最後まで言いきらない内に被せるように慧が言う。

 

その声は隠しきれないナニかがあった。

 

その冷たい声に裕は凍りついた様に固まる。

 

そんな彼に見えてない筈なのに的確に裕に顔を向け嘲るように唇を歪める。

 

『まぁ…友達の皮を被った裏切り者は居ましたけどね。』

 

その言葉に込められた冷たさとナニかに友希那は背中が粟立ち、慧と繋いでいた手を振り払いそうになるが、気づけば逆に握り締めていた。

 

「ち、違うんだ…頼む、話を聞いてくれ…」

 

裕は顔は凍りついたままにそれでもか細い声で言葉を紡ぐ。

 

『聞く義理はありませんね。それに小さい頃に親から知らない人と話してはいけないと言い含められていたんです。行きましょう、湊さん。』

 

「え、ええ。」

 

友希那は急に名前を呼ばれ少し驚きながらも正気に戻りそのまま慧の手を引いて歩く。

 

何故か彼と慧をそのままにしておくのは駄目な気がしたから。

 

少し歩いて友希那が後ろへ視線を向けると、手のひらを此方へ伸ばしながらも固まったまま動かない彼の姿があった。

 

それから重い空気のまま慧の家の前へとたどり着く。

 

『送ってくださりありがとうございます。湊さん。』

 

「っ!ええ…」

 

友希那はまるで初対面のような対応を受けたような気がして言葉が詰まる。

 

『…変な面倒事に巻き込んで申し訳ありません。』

 

それだけ言うと慧は家の中に入っていってしまった。

 

友希那は声もかけられずそのまま見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

『…最後に覚えていた声より声変わりしていて気づくのに遅れたな。』

 

慧は無機質な声音で呟く。

 

それは先日夢でも見た元親友だったのだが、まるで古い過去を思い出す様な感覚だったことに自分で驚き、あれ程憎しみを持った相手に今ではまったくもの無関心であったことを自覚して更に驚いていた。

 

しかし彼との邂逅は誰かに心を許す事の愚かさを思い出させた。

 

『ああ…そうだったな。これほどまでに冷たいんだな…現実って。忘れていたよ。』

 

羽丘に通って出会った人たちに何処か多少なりとも心を許していた自分がいることに気付いた。

 

『(流石に紗夜や日菜と距離を取るのはもう無理だけどね…)』

 

慧は苦笑いしながら玄関を上がる。

 

家の中には誰もいなかった。

 

友希那と帰ることになって迎えを頼んでいた日菜に断りをいれていたので家にいるだろう。

 

そのままリビングに向かい、ソファーに座って今日の友希那とのスタジオの事を思い出していた。

 

『やっぱり湊さんの歌声は凄い。けれどあれでもまだ未熟だと言い張るんだから理解できない。』

 

友希那の歌の実力は誰もが舌を巻くだろう。

 

しかしそれで満足できないというのだから慧は尊敬を通り越して何か暗い感情が沸いていた。

 

『…嫉妬…か。』

 

自分の器量の狭さに自嘲が絶えない。

 

『…下らない。結局は未練がましいだけだ。あれだけ家族にしか歌わないと決めていたのに。まぁ、いいか。もう湊さんが誘うことは無いだろう。俺がただの素人だとわかっただろうし。』

 

今日のスタジオでの様子を思い出してそう結論付ける。

 

その頭の中には既に長嶋裕の事など消えていた。

 

 

 

慧が帰ってきてから1時間程すると日菜がやってきて食事を作り、二人で食べてから軽く二人で喋り、いい時間になると引っ付く日菜を引き剥がして家へ帰らせ、シャワーを浴び眠りにつく。

 

 

その夜は悪夢を見ること無く、日菜が起こしに来る前に目がさめたくらいだった。

 

「昨日スタジオに行ったんだよね!どうだった!?」

 

日菜に手を引かれながら登校していると日菜が楽しそうに聞いてきた。

 

『湊さんが凄くてなんか時間貰うのが勿体ないくらいだったよ。』

 

慧苦笑いしながら応えると、日菜はむくれる。

 

「慧の歌だって十分に価値があるのに。まぁいいや今日のお昼に友希那ちゃんに聞こうっと。」

 

『お昼に…ね、来るかな…』

 

最後の言葉は余りにも小さく日菜の耳には入らなかった。

 

 

しかし慧の心配は杞憂で、お昼に友希那とリサはいつものように訪れた。

 

その事に慧は肩透かしを食らうも気を取り直し食事を始めた。

 

しかしそんな慧に他の三人は困惑していた。

 

「ねぇ、慧。」

 

『?どうした、リサ?』

 

「ん…ごめん、やっぱなんでもないや。」

 

どこかリサは居心地悪そうにしていて、慧に声をかけるも表面上は変わり無いためなにも言えずに口をつぐんでしまう。

 

日菜と友希那もそれを感じていて日菜は訳が分からず少し曇った笑顔を浮かべながら他愛のない話題を切り出していた。

 

友希那は昨日の一件があったため何も言わなかった。

 

そんな友希那を見て日菜は雑談しながら目を細める。

 

そして食事を終え、友希那達と一緒に日菜は慧のいる教室を後にした。

 

そして教室に向かう時、日菜は友希那に切り出した。

 

「ねぇ、友希那ちゃん。昨日慧と何かあったよね?」

 

表情は柔らかいのにいつもの弾んだ声音とは遠い真剣さを含んだ声だった。

 

そんな日菜にリサは少し驚いていたが、友希那は予想していたのかすんなりと応えた。

 

「別に私と何か会ったわけではないわ。ただ、昨日の帰りに慧の知り合いと出会っただけよ。」

 

「知り合い?」

 

リサは首を傾げる。

 

対して日菜は友希那の言葉を聞くと顔から表情が消えた。

 

「…それって…誰?」

 

日菜の声にもはや感情は乗ってなかった。

 

友希那はそれに気付かない振りをして応える。

 

「確か…長嶋裕…とか言っていたわね。」

 

「長嶋裕?」

 

日菜の顔に一瞬訝しげな表情が浮かぶが、直ぐにハッとして今度は微かに怒りの表情を浮かべる。

 

「そっか…アレか。」

 

その声音はまるで氷の様な冷たさを秘めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々の投稿でした。

27話の前書き通り完結させることは諦めていませんのでどうか長い目で見守って頂けると嬉しいです。

コロナが世間を騒がせていますが皆さんも気をつけて下さい。

では、次のお話でお会いしましょう。
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