デュララララin八幡 作:影狂
あれから1時間程名倉さんとチャットをした。
その間にマゼンダさんという人もチャットに参加してきた。チャット内で聞かれたことは、住んでる場所、本名、性別、歳、顔の特徴、身長等である。名前は偽名を、住んでる場所は、適当に言っておいた。
待ち合わせ場所は、池袋西口。
明日の夕方だった。
パソコンを閉じて荷物を纏める。
小町が失踪してから母親は鬱病にかかってしまい、現在の家計は父親一人で賄っている。
そんな中、転入なんて出来る訳もなく俺は高校を中退した。携帯を繋いでもらっているのは、父親にたまには、電話をしろと言われているからだ。
父親に本当の事は話していない。
表向きは、壊れてしまった家を離れて働きたいという内容だが本当は、小町を見つけ出して連れて帰ってくる事だった。
深夜0時を回ろうとしてる中俺は荷物を持って階段を降りる。
階段を降りると、リビングに電気が付いていた。普段母親の面倒を見たり仕事をしたりで多忙な父親は、疲れて眠ってしまう筈だが、と不思議に思いながらリビングを覗いた。
「八幡、少しそこに座りなさい。まだ時間はあるのだろう?」
緊迫した空気の中でリビングに入り父親の対面に座る。
「八幡、小町を探しに行くんだな?」
「っ!....それは」
誰にも話していなかった筈なのにどこか確信を抱いて聞いてくる。
「そうなんだな?」
「もう決めたことなんだ。止めたって行く」
「馬鹿者!」
体が震える。父親に怒鳴られたなんて何時ぶりだろうか、小町を誰より可愛がっていた父親は殆ど俺には怒らなかった。
「止められる筈がないだろう....」
「えっ...」
「すまない。俺は父親として失格だ。本来なら、そんな危険なこと止めなければならない...だが八幡、頼む。小町を探しだしてくれ」
俺は初めて父親に頭を下げられた。罪悪感が込み上げてくる、父親の努力は知っている。小町が失踪して辛い筈なのに、母親も鬱病になって、それでも家族を支えてくれている。
「...父さん、頭を上げてくれ。確かに危険なこともするかもしれない....でも、それは俺の為でもあるんだ。俺は、俺は...もう一度小町に会いたい!」
「八幡...」
「...今更だけど、行く前に父さんと話せて良かったよ。このまま行けばしこりが残った気がするし」
「.....なあ、八幡。もう少しだけ時間あるか?」
「ん?大丈夫だけど」
現時刻は、深夜1時。
池袋は、夕方までに着けばいいから急いではいない。ただ父さんが寝ている間に出発しようと思っていたからこんなに遅い時間になってしまっただけだ。
「それじゃあ、少し着いてきてくれ」
そう言われ何故か車に乗せられる。
車の中ではお互いに何も喋らずに沈黙が続く。
でも、今まで父親と母親と小町と過ごしてきた日々が少しずつ、記憶のページのように流れてくる。
家族には、常に笑顔があった。
その中心には、いつも小町がいた。
俺は覚悟を決める。絶対に小町を連れ戻すと。
「着いたぞ」
車から降りなくても何処にいるのか分かる。
俺は今二年間通ってきた総武校の門の前にいた。
「父さん、どうしてここに?」
「俺に、八幡と別れの機会を与えてくれた人達がお前を待ってる」
そう言われ学校を見ると本練からは、離れた別練の一番奥。奉仕部の部室だけ明かりが付いていた。
時刻は深夜2時になろうとしている。こんな時間に学校が開いている筈がない。
思い浮かぶのは、奉仕部二人と顧問である、平塚先生の顔。
「行ってこい」
父親に言われ俺はゆっくりと奉仕部の部室に向けて歩を進める。
何も言わずに奉仕部を去った俺に二人は怒っていると思っていた。学校に行っても二人を避けていた俺は、二人と最後に話した日も、もう覚えていない。
奉仕部の部室に近付くに連れて足は重くなり、心臓の鼓動も速くなる。
あいつらに会うのが怖い。
ゆっくり歩いてきた筈なのに覚悟が決まる前に奉仕部の部室の前に来ていた。震える手でドアに手をかけるが中々開けることが出来ない。
「はぁ、比企谷君。いつまで待たせるつもりかしら?早く入ってきなさい」
雪ノ下の声を久し振りに聞いて、扉を開ける。
「やっはろー、ヒッキー」
「せんぱーい、遅いですよぉ~」
「比企谷、久し振りだな」
「比企谷君、色々と言いたい事はあるけれど座ってくれるかしら?」
扉を開けると雪ノ下と由比ヶ浜、平塚先生、それに一色までいた。教室の真ん中には、変わらず長机が置かれている。変わった事は、全員が左に座っており対面に位置する場所に椅子が一つ置かれている事だ。
雪ノ下に促されるまま椅子に座る。
「さて、まずは何から聞こうかしらね」
「んーゆきのん、あたしからでも良い?いろはちゃんも平塚先生も」
「わたしは構いませんよ♪」
「私も後で構わないよ」
「それじゃ、ヒッキー。あたしから聞くね。どうして学校であたしやゆきのんを避けてたの?」
「それは....」
怖かったからだ。
小町がいなくなって、頭の中がおかしくなって、ぶちまけたくて、ぶちまけたくて仕方なかった。
そんな俺をこの二人には見せたくなかった。
「言いにくいなら、あたしが言うね。ヒッキー、ヒッキーは怖かったんだよね?小町ちゃんがいなくなって、心細くて、頭の中が分からなくなって...そんな姿を見せたくなかったんだよね?ヒッキーの気持ちが、分かるなんて簡単には言えないよ...でもさ、余計なお節介かもしれないけどさ!あたしを頼ってよ!頼りないかもしれないけどさ!あたしだけじゃ無くて、ゆきのんでも、いろはちゃんでも、平塚先生でも!皆、ヒッキーの事.....あれおかしいな...最後、まで泣かない...ってきめて、たのに.....ごめん、ゆきのん」
「由比ヶ浜さんの気持ちは、伝わったかしら?」
「ああ....」
「そう、それじゃあ次は」
「わたしですね」
一色は何故か椅子から立ち上がり椅子を持って俺の隣に座り直した。
由比ヶ浜を見ても、雪ノ下を見ても、平塚先生を見ても目を丸くしてることから、誰も知らなかったのだろう。
「先輩」
「お、おう」
あまりの勢いにたじろいでしまう。それだけ一色が真剣に言おうとしてることが伝わった。
「先輩は、わたしを生徒会長にしました。それも半ば無理矢理です」
「いや、あれは合意のうえだっただろ?」
「騙されたようなもんですよ。でも...感謝してるんです。なのに、わたしが、まだ生徒会長やってるのに学校辞めるとか!どういう...事なんですか!....せんぱ、いがいなきゃ....始まらないじゃ、ないですか....」
「お、おい....一色」
泣きながら俺の肩を掴んでそのまま顔を胸に埋めてくる。今までだったらこんなことはしなかっただろう。
俺は一色の頭を優しく撫でていた。自然と瞳から涙が溢れる。もう涙なんて枯れるほど泣いたはずなのに。
由比ヶ浜と一色の言葉が心に染み渡る。涙を流しているのに、辛くない。むしろ嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
「一色さん、寝てしまったわね...」
一色は暫くすると疲れたのかそのまま寝てしまった。俺が椅子に座らせようとすると、由比ヶ浜がそれを止めた。
「いろはちゃん、ヒッキーが学校辞めるって聞いてから不登校気味だったんだ。ショックが大きかったみたいで....だから暫くそうさせてあげて?」
暫くは会えないだろうから」そう言って由比ヶ浜は、微笑んだ。
「では、そのままの状態で。次は私ね」
雪ノ下雪乃。
この部活に入った時から数えれば一番長く一緒にいた人物だろう。
「その、聞きたい事ではないのだけれど....私と、友達になってくれないかしら?」
「は?」
あまりに予想の斜め上過ぎる質問に疑問で返してしまう。
「駄目、かしら?」
悲しそうな目で見てくるこいつは、本当に雪ノ下雪乃なのだろうか。少し押せば倒れてしまいそうな程弱々しく儚い。
「...駄目じゃ、ない」
「そ、そう」
え?これで終わり!?
「....あ、これで終わりなのか!?」
「ええ、そうですけど。次は平塚先生です」
「ああ、ごほん。私からは、そうだな。比企谷、人は一人では生きていけないよ。それが危険な場所なら尚更だ」
「では、自分を偽れって事ですか?」
「そうじゃないさ。偽らない君に付いていく、そんな人を見付けろと言っているんだ。こいつ等のようにな」
平塚先生は、両手を広げながら叫ぶ。
雪ノ下に由比ヶ浜、それに一色。
俺のままでも着いてきてくれる人。
「勿論、この私もだ。だから何かあったら頼れ、比企谷、君は一人じゃない」
「っ!....はい!」
本当に、どうしてこの人は、こんなにも泣かせてくるのだろう。
「雪ノ下、由比ヶ浜、それに寝ちまってるけど一色、サンキューな」
「平塚先生も、ありがとうございます」
「比企谷君、友達なのだからしっかり頼るのよ?」
「何時でもメールしてね!あ、こっちからもしていい?」
「頼らせてもらう、メールはしてくれると助かる」
「んにゃ....しぇんぱーい」
「いろはちゃん、嬉しそうだね」
「私も出来る限り力になることを約束するよ」
「ありがとうございます」
本当に心強い。あんなにもポッカリと穴が空いていた心が満たされていく感じがする。
「...すう、はあ。皆に依頼がしたい。頼ってもいいか?」
「勿論よ」
「うん!」
「むにゃ....」
「任せておきたまえ!」