「君の名は。キルヒアイス」方向性修正版   作:高尾のり子

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第13話

 

 

 キルヒアイスは三葉の身体で起き上がると、三葉の髪を女らしく結い、身なりを整え、一葉を手伝って朝食の用意をして、四葉を起こしにあがる。

「起きてください、四葉」

「ん~……お姉様、おはよう」

「おはようございます」

「あっちは、どういう状況でお姉ちゃんと入れ替わったの?」

「はい。……戦闘中でした。ですが、今の三葉さんなら大丈夫だと確信しています。兵力差も4倍で優位な状況でしたから、どうぞ、ご心配なく」

「そっか」

「………」

「あ、でも、心配そうな顔してるよ?」

「相手が……少し…」

「どんな相手なの?」

「敵将の中でも、魔術師と呼ばれるほど優れた者で正攻法において手堅く、奇策において天才と言ってよい男です」

「魔術師対お姉ちゃんか……」

「何より、せっかく三葉さんが考えてくださった作戦をもちいることができず……申し訳なくて……」

「まあ、それは気にしなくていいんじゃない。お姉ちゃんも頑張って考えたかもしれないけど、お姉様たちの方にも、それなりの事情ってものもあるでしょ」

「そう言ってくださると気持ちが楽になります。ありがとうございます」

「さ、もう夜12時までは考えても、どうにもできないことは忘れて学校いこう」

「はい」

 三人で朝食を摂り、通学路に出たけれど、いつもと状況が違った。

「テッシーとサヤチンがいらっしゃらない………」

 いつも合流するポイントで5分待ったけれど、克彦と早耶香が現れない。三葉のスマフォを見ると、事情がわかった。

「お二人で遊園地へ……お二人とも病欠ということに……」

 早耶香と三葉がやり取りしたメッセージが残っていて、早耶香が克彦を誘って混雑しない平日に長島スパーランドまで遊びに出ていることがわかった。

「テッシーとサヤチン……二人で……。三葉さん、こちらの戦況は大変な…」

「あれ? 今朝は一人なの?」

 以前は不仲だった女子が声をかけてくれる。

「あの二人は?」

「病欠のようです」

「サボってデートか、名取さん、やるじゃん」

「………」

「いよいよ盗られるとなると、そういう顔するんだ」

「私は…………」

「いつまで、そこに立ってても二人は来ないって。いっしょに学校いこ」

「はい……ありがとうございます」

 いつもと違うメンバーで登校して授業を受けるけれど、気持ちが落ち着かない。

「今頃は………」

 長島スパーランドという施設が、どこにあるのか、三葉のスマフォで調べてみると名古屋にあり、糸守からは相当な遠出となり、以前に克彦と行った地方都市のカフェより、はるかに遠い。日帰りが、ぎりぎり可能な遠さだった。

「……はぁぁ……」

 お昼休みになって、思わずタメ息をつくと、また声をかけられる。

「淋しそうね。いっしょに食べる?」

「……ありがとうございます」

 せっかく誘ってくれたので、いっしょに昼食をとったけれど、気持ちが憂鬱で、あまり会話に応じられなかった。

「宮水さん、そんなにつらいなら、いますぐ勅使河原くんにラブメール送ればいいじゃん」

「ラブメール……」

「やっぱ、付き合いたいって」

「………そうすべきでしょうか?」

「すべきか、どうかは宮水さんの気持ち次第だけど、名取さんとの友情は完全に破綻するかな」

「友情が……破綻……」

「せっかく勇気出して誘って、応じてくれてるデートの最中に今さらな横槍を入れたら、さすがにキレるよ。けど、たぶん勅使河原くんは取り戻せる」

「…………」

「どうする?」

「……私は……どうすれば、いいでしょう?」

「いやいや、それは宮水さんの気持ち次第だって」

「…………」

 ますます気持ちが混乱してしまう。そして、とても困ったことにも気づいた。午前中から身体がダルくて下腹部が痛かった。そして気分の憂鬱さは増すばかりで苛立ちさえ感じる。この感覚に身に覚えがあり、このまま学校で過ごしていると、三葉に女性として取り返しのつかない恥をかかせることになると、わかったので早退した。そして教えられていた小学校に出向くと、四葉に会った。

「四葉……あれが……また来てしまいました」

 ごく小さな声で四葉の耳元に囁いた。

「うん、わかった。女子トイレに来て」

「すみません……ごめんなさい…」

 申し訳ないのと恥ずかしいので涙がにじんだ。

「泣かなくていいから」

 四葉は女子トイレで姉の身体に必要な処置をしてから家に帰るよう言い、自分は午後の授業を受ける。授業は体育でプールの日だった。

「一番乗り!」

 四葉は学校指定のスクール水着を着て一番にプールサイドに立つと、すぐに飛び込んだ。

 ドボン!

 まだ教師が来ていないので本来は入水してはいけないけれど、飛び込んだ四葉は背泳ぎすると、全身を流体へ預けるように浮いて漂った。川の流れに浮かぶ、葉っぱのように身を任せて漂う。

「………あ…………今なら……飛べそう………飛べるかも……」

 赤ん坊に立つ日が来るように、雛に飛ぶ日が来るように、四葉はできなかったことができるようになる予感を覚え、目を閉じた。

 

 

 

 立花瀧の頭が居眠りでもしているように一瞬ふらりと揺れた。

「っ……」

 飛べた、と四葉は視界に入ってきた神宮高校の授業風景を見て感じた。授業は古文で明らかに小学校とは内容が違うし、周りの生徒も高校生に見える。

「少納言の乳母とぞ人言ふめるは、この子は後見なるべし。尼君、いで、あな」

 源氏物語の若紫が説明されているけれど、そんなことは、どうでもいい。四葉は瀧の制服やカバンを教師に気づかれないよう探ってスマフォを見つけた。

「………たった3年……」

 スマフォのカレンダーで日付を確認すると、やや落胆したけれど気を取り直す。

「一回目は、こんなものかな……」

 わずか3年未来の2016年に来ている状況を冷静に受け止め、さらにスマフォを操作して糸守町のことを調べてみた。なんとなく知っておいた方がいい気がして調べたのだけれど、すぐに大きなニュース記事が何個も検索結果にあがってきた。

「隕石落下……秋祭りの日……ティアマト彗星が……。そっか、この未来は避けないと……あ、もう無理かも。くっ、あと少し!」

 できる限り情報をえようと最後まで目を見張ったけれど、息を止めていられる時間に限りがあるように四葉は瀧の身体にいられなくなる予感を覚えた。

 

 

 

 立花瀧は糸守小学校のプールで浮かんでいた状態から驚いて溺れた。

「うごっ?! ぶはっ!!」

 手足をバタつかせるけれど、どうにも短くて小さい。それでも溺死せずに済んだのは水深が浅くて、足が着いたからだった。

「げはっ! ハァ…ゴホッ! ハァ…ハァ、死ぬかと思った!」

 とりあえず命の危険を脱して、周囲を見ると、なぜか見慣れない学校のプールだった。

「どうなってるんだ……授業は古文だったはず……」

「四葉ちゃーん! だいじょうぶー?!」

 四葉の同級生が心配しているけれど、瀧は手で顔の水を拭いて、その感触に違和感を覚えた。

「オレの手……」

 まるで10歳の女児のような手だった。

「オレの身体……ええっ?!」

 なぜか、女児のスクール水着を着用している。

「いったい、どうなってるんだ?!」

 思わず胸に触れてみると、まだ小さくて揉むほどはない。それでも感触を確かめていると、キラキラと陽光を反射するプールの水面がスーッと遠くなっていった。

 

 

 

 瀧は自席でスマフォを放り出して絶叫した。

「なんでオレは女子のスク水を着て、小学生女子になってるんだぁぁぁ?!!」

「「「「「……………」」」」」

 教師とクラスメートが外宇宙のように冷たい目で瀧を見ている。藤井司がタメ息をつきながら言う。

「お前、どんな夢を見てたんだよ」

「お? 戻ってる! 教室だ! 戻ってるぞ! オレに戻ってる!」

 教室には戻っていたけれど、教室での立場は戻りそうになかった。

 

 

 

 四葉は自分の手が、自分の胸を揉んでいる状況を認識して舌打ちした。

「ちっ……揉むなよ、ゲスが……」

 気持ち悪かった。

「……最悪……」

 知らない間に自分の手が勝手に動かされて、自分の胸を揉み、その感触を誰かが味わっていたかと思うと、気持ち悪くて反吐が出そうだった。まだ思春期は迎えていないけれど、それでも女性として実に不快で鳥肌が立つ。

「……ぺっ!」

 四葉は美しい水面に唾を吐くことを数瞬迷ったけれど、実行した。

「だいたい……あいつは毎回毎回、お姉ちゃんの胸を揉みまくって……え? ……この記憶……他の世界の記憶………多世界記憶……」

「宮水さん! まだプールへ入ってはいけませんよぉーぉ!!」

「はーい、すみませーん!」

「あとプールに唾を吐くのもダメですよ!!」

「ごめんなさーい!」

 教師に注意されてプールから揚がると、色々と考え込みながら放課後をむかえ、帰宅した。帰宅すると三葉の部屋を覗いていみる。姉の身体が布団の上で、苦しそうに、憂鬱そうに、横たわっている。

「気持ち悪い?」

「はい……ぅぅ…」

 三葉の目が涙ぐんでいる。色々と物思いに耽っていたようで悲しげだった。

「交換してあげる」

「……すみません……本当に、ごめんなさい……」

「………。いいよ、そんなに謝らなくて。いい人だね、………それに比べて、あいつは……あいつのとき月経は、どうしてたのかな……お姉ちゃん、死にたくなるような思いをしたんじゃ……だから、死んで……まさかね…」

「四葉?」

「ごめん、何でもない」

 再び姉の身体に必要な処置をして、四葉は横になっている三葉の身体に抱きついた。

「……四葉?」

「しばらく、こうさせて。キスも」

 いっしょに横になった四葉がキスをしてくる。

「………四葉……これは……いったい……」

 いくら姉妹とはいっても、布団の上で密着して抱きつかれ、キスまでされると困惑する。そのキスも深くて長く、四葉の小さな舌が何度も三葉の口内に入ってきて、唾液をからめるように踊る。

「……ハァ……ハァ……四葉……こ、…困ります…。これは、いったい……」

「これはね、お姉様が、どこから来てるのか、探ってるの」

「私が………」

「そう、ジークフリード・キルヒアイスが来た時脈をね。私も辿りたいから」

「………………」

「大事なことだから、受け入れて」

「……はい…」

 そう言われると、身を任せるしかなかった。日が暮れるまで四葉と三葉の身体は重なっていて、夕食前になって三葉のスマフォが鳴った。

「メッセージ……サヤチンから……っ?! ……外泊?! ……そんな……」

 送信されてきた内容は糸守へ戻るための終電に乗り遅れ、岐阜市までしか戻れなかったので、このままホテルに泊まるというもので、そのアリバイ作りのために三葉も含めて三人で出かけていて、ホテルに泊まるのはダブルに三葉と早耶香、シングルに克彦という状況なので、もしも親から電話があったら、そう答えてくれるよう頼むものだった。

「……まさか……テッシーと同室では……」

「気になるなら、訊けば?」

「でも……そんな、ぶしつけなこと……」

「じゃ、ほっておけば」

「四葉、男女が同室に外泊するというのは、とても大変な事態なのですよ。それが、わかっていますか?」

「だいたい」

「………」

「お婆ちゃんが、夕ご飯、できたって」

「…………喉を通りそうになくて……こんな顔を見せては……心配をかけそうで……。それに私は今、この町にいないはずの宮水三葉……」

「そうだね。一階にいて、誰か来て見られると、やっかいだし……まあ、学校に出席してるから、裏取りされると、すぐバレそうな嘘だけど」

「…………」

「私はご飯、食べてくるよ。お姉ちゃんの分、冷蔵庫に入れておくから12時過ぎたら食べてね」

 四葉は一階へ行ってしまった。

「………テッシー………」

 胸が締めつけられるように苦しい。気持ちが落ち着かず、叫びたいような焦燥感が湧いてくる。

「…………ぅぅ………ハァ……ハァ………これが……嫉妬………女性の気持ち……」

 布団の上で悶える。

「……三葉さん………こちらの戦況は……絶望的です………ラブメール……今すぐ……いえ……でも………いったい……どうすれば………この戦線を……維持すべきなのですか……守勢に………それとも攻勢に出るべき………ああ……サヤチン……ひどい………これでは停戦条約違反……せめて、それだけでも……」

 三葉のスマフォを操作して、早耶香にメッセージを送ったけれど、返ってきたのは一言だった。

「……義理は通したはず……」

 意味はわからなかったけれど、より戦況が悪いという感じは受けた。

「…………三葉さん……喪ってから気づく存在の大きさもあるのですよ………本当に、いいのですか……このままで……彼を………テッシーを……喪って……」

 三葉の生活と人生のために、三葉であろう、女子であろうと徹するあまり、もう自分が本来は男子であったことは12時まで思い出さなかった。

 

 

 

 三葉はヤン艦隊と砲火を交えているキルヒアイス艦隊の様子を見て、かなり憮然としていた。

「結局は同盟軍と戦って……」

 自分の作戦を無視されたということより、姉の救出を後回しにして自分の野望を推進している男と、その腹心に怒りを覚える。キルヒアイスからの手紙にはアンネローゼへの気遣いに対する感謝と、意に添わぬ結果となったことへの陳謝があったけれど、続いてヤン艦隊との戦闘は現状の4分轄した分艦隊による交代の攻撃を継続して、無理をせず着実に相手を撃ち減らし消耗させてほしい、大胆な攻撃は無用、とあった。

「………車懸かりの陣か……古い戦法を……」

 上杉謙信が愛用した戦術を飛騨地方が上杉武田戦争の影響を受けたこともあって三葉も軍事教育を受ける前から知ってはいた。メインモニターに映し出された4つの分艦隊がヤン艦隊へ回転しながら交代で攻撃をかけている。

「……4倍の戦力があって……いくら相手が魔術師でも、ちょっと消極的すぎ……。それとも、私に入れ替わる場合を見越したから慎重に……」

「はっ、何かおっしゃいましたか?」

 そばにいたベルゲングリューンが問うてきた。

「一人言です」

「現状を維持されますか?」

「……少し考える。……つまりは現状維持で様子見……」

 三葉は気持ちを切り替える。今は姉を後回しにした弟への怒りを忘れ、目前の敵が宇宙屈指の名将だという緊張感を受け入れる。

「現状なら負けることは、まずない……奇策に警戒しつつ、現状維持か……」

 考え込む三葉の様子に、ヒルダが気を遣って問う。

「なにか、お飲み物でも用意しましょうか?」

「うん、ありがとう、ヒルダ」

「……。何が、よろしいでしょう?」

「紅茶で」

「すぐに、お持ちいたしますわ」

「甘めにね」

「はい」

 ヒルダが多めに砂糖を入れた紅茶をもってきてくれた。

「ふーっ……」

 一息ついて考えが、まとまってくる。

「ヒルダ、補給線は万全?」

「はい、ノルデン中将のもと、各艦隊へ十分な物資が行き渡っております。とくに、キルヒアイス中将の艦隊へは優先的に回してくださっているようですわ」

「ノルデンさん、グッジョブ! よし。現状の攻撃を維持します! ただし、火力は多めに! ミサイルもレールキャノンも、たっぷり撃ち込んでやりなさい!! こっちは交替しながら戦える! 補給も万全、ケチケチしないでバンバン撃って!!」

 三葉の命令により、キルヒアイス艦隊の攻撃は、その火力を増した。

 一方で、この変化に気づいたヤンは艦橋の机に胡座をかいて座ったまま、タメ息をついた。

「つけ込む隙も、逃げ出す隙もないか……。できるだけ損害を防ぐよう防御力の高い艦を前へ!」

「じわりと攻撃が苛烈になりましたわ…」

 紅茶を持ってきたフレデリカが言った。

「ああ。向こうは4倍の戦力があって補給体勢も整っている。いっそ一気に勝負をつけに来てくれるなら、そこに活路もあるかもしれないが……このままではジリ貧だ……」

 ヤンは紅茶を飲み終わるまで考え、方針を決めた。艦隊をU字型に変形させる。

 一方で、三葉たちもヤン艦隊の動きに気づいた。ベルゲングリューンが確認するように言う。

「敵艦隊は後退しつつ見えますが、U字型に陣形を変化させつつあるようにも見えます。いかがいたしますか、閣下」

「…………」

「敵は魔術師と呼ばれる男です、何らかの思惑があると小官は愚考いたしますが」

「それは愚考じゃなくて、普通の考えだから」

 三葉は両手で頬をつつみ、考え込む。

「……この局面で………キルヒアイスなら……どうしたか……。相手の狙いを読む……相手は何を狙って……こちらの突出を誘って? ……それとも、アスターテみたいに後ろに回り込む……って、こっちには分艦隊が三つもあって、そんなことしても、包囲されるだけ………包囲………包囲か……よし」

 三葉が閃いた。

「こちらも艦隊をU字型に再編します! ただし、向こうの4倍の規模で!」

 三葉は交替での攻撃をやめさせ、全艦をもってU字型の陣形を造っていく。

 一方で、この変化に気づいたヤンは艦橋の机に胡座をかいて座ったまま、後頭部を掻いた。

「こいつは……また……」

「敵はこちらの陣形と同じに変化しておりますわ……どういう意図でしょう?」

 フレデリカが心配そうに問う。このような問いが、ヤンの思考を整理するのに役立つとわかっていての問いだった。

「こちらの意図を読んだのか、それとも、こちらの意図が読めないまでも今までと違う動きにすることで、新たな展開を狙うのか……いずれにせよ、相手は4倍の大きさでU字型になっていく。このまま対戦すれば、飲み込まれるのは、こちらだ」

「敵の司令官は、どういった人物なのでしょう……」

「日付が変わってから、かなり傾向も変わったねぇ。司令官と副司令官で交代して、副司令官に、かなり裁量があるのか………いずれにせよ、私は、また考えなくてはいけない。次の手を……」

 ヤンが後頭部から前頭部まで頭を掻いていると、フレデリカが通信文をもってきた。

「閣下。イゼルローンからの通信です」

「読み上げて」

「本月14日を期してアムリッツァ恒星系A宙点に集結すべく、即時、戦闘を中止して転進せよ、です」

「簡単に言ってくれるものだな」

 この状況からの撤退の難しさをわかっているヤンは、それでも撤退を命じて艦隊を後退させつつ防御する。

 一方の三葉は後退していくヤン艦隊を見て、考える。

「……これって逃げてると思う? ケンプ提督との戦闘と似たようなパターンかなぁ…」

「はい。ですが、あるいは反撃を前に距離を取っただけかもしれません。それもまたケンプ提督が警戒したのと同じことですが」

 ヒルダも考え警戒している。ベルゲングリューンが問う。

「どうされますか、閣下」

「………。再び4つの分艦隊で行動します。うち連続して戦っていて休憩できていない分艦隊2つは後方で休憩と補給を! 疲労度の少ない2つの分艦隊で敵を追います。これなら2対1、逃げようと反撃してこようと、どうとでもなる。魔術師ヤン、どう出ようと対応してあげるから」

 三葉が好戦的に唇を舐めた。ヤン艦隊はアムリッツァ星系へ向かうのに、大変な苦労と損害を強いられることになった。

「……そろそろ12時……」

 入れ替わってから短時間のタンクベッド睡眠を摂った以外は指揮を執り続けていた三葉が時刻を意識した。

「………。ヒルダ、この24時間、今日の戦死者の数とか、リスト出る?」

「はい、すぐに」

 ヒルダは情報をまとめ、三葉の前に表示した。

「戦死者は現時点で99822人です。リストは、こちらに」

「9万……そんなに……」

 三葉はメインモニターに映っているキルヒアイス艦隊を見上げる。ほとんど数は減っていない。

「………。ベルゲングリューンさん、今日の私の指揮、どこを改善していれば、もっと戦死者を減らせたと思いますか?」

「はっ。……そう言われましても、……振り返ってミスらしいミスはなく、損害も軽微です。数の優位を慎重に活かした良い指揮だと感服いたします」

「…………戦死者をゼロにする……方法ってあると思いますか?」

「それは………戦闘そのものを行わないか、相手が降伏でもしてくれれば、可能でしょうが……どれほど優位に戦っても数%の損害は出るでしょう」

「降伏………一応、降伏勧告をしてみるか……」

「艦隊戦の直前になされていますが、再びされますか?」

「してたんだ……。ええ! もう一度! 降伏勧告を! 捕虜として丁重にあつかう旨、通告して!」

 三葉の命令による通信は追撃戦の中で返信らしい返信はもらえなかった。

「やはり難しいようですな……敵も、まだ艦隊を維持している。ここで降伏することはないでしょう」

「……もう諦めればいいのに……4倍に、どうやって……」

「おそらく敵は、どこかの地点に集結し、最後の反撃を予定しているのでしょう」

「…………。もう一度、降伏勧告を! 捕虜になるのがイヤならシャトルと輸送艦、病院舟で逃げれば追わない、武装だけ置いていきなさい、艦が足りなければ単座式戦闘艇を捨てた空母も見逃す、と通告して!!」

「はっ! ………」

 ベルゲングリューンが通信を送り、今度は返信があった。

「………敵から返信がありました。……どうも……敵も、閣下と似たような人間かもしれません」

「読み上げて」

「はっ。三度の降伏勧告、痛み入る。そうしたいのは山々ですが、こちらも助けにいかねばならない味方がいる。できれば追撃の手をゆるめていただけると嬉しい」

「………同盟軍って、こんな風なメッセージを送ってくるのが、普通なの?」

「いえ、おそらくはヤンという男のみでしょう。こんな……正直な……」

「……………」

「どうされますか?」

「追撃の手はゆるめない。ここで逃がしても後日、敵になるなら、こちらの損害に……。けど、追撃の方法は変える。各艦に連絡! こちらの損害を出さないよう、必ず艦列を維持して突出しないよう!」

 命令を下した三葉は時刻を見る。

「あと3分………さっきのリスト……」

 三葉は戦死者のリストを見ていく。

「私の指揮で……今日……99822人が………君たちの名……ノベンタ、セプテム、ベンティ、ドーリアン、ワーカー、オットー、ブント………戦いのために犠牲になった人々……すべて覚えてあげることさえできない……きっと、両親が考えてくれた名前で……家族も、友人も……」

 キルヒアイスの瞳が涙ぐむと、ベルゲングリューンが進言してくる。

「閣下! 恐れながら、そのような感傷は戦闘終了後になさいませ! 閣下がお優しいのは素晴らしいことですが、今は戦闘中ですぞ!」

 階級の上下はあっても年長者が若者を叱るような気迫があり、三葉は謝る。

「……はい……ごめんなさい。……でも、あと1分……12時まで祈らせて……あとは、しゃんとするから」

 三葉は祈りを捧げながら12時を迎えた。

 

 

 

 キルヒアイスの目が戦死者へ祈りを捧げる巫女の目から、月経痛と嫉妬の焦燥感に苦しみ涙ぐむ少女の目に変わり、そして涙を零した。

「………」

 旗艦バルバロッサの艦橋が目に入り、気持ちが切り替わる。夢から覚めたように少し頭を振り、ヒルダに命じる。

「マリーンドルフ中尉、この24時間の戦闘経過を報告してください。考えをまとめます」

「…はっ。……」

 ヒルダがヤン艦隊との戦闘経過を表示して説明した。

「…という状況です」

「わかりました。……さすが…」

 キルヒアイスは三葉がヤン艦隊に取った対応に感心し、新たな命令を出す。

「追撃をやめ、敵の索敵範囲外となった後、移動し指向性ゼッフル粒子の準備をします」

 同盟軍の集結予想地点、恒星アムリッツァを迂回する段階に入った。

「敵の機雷原まで、あと少しです! 急ぎつつ慎重に!」

 少し矛盾のある命令だと自覚しつつ、麾下の艦隊を急がせる。ラインハルトの壮大な作戦に参加するためだった。

 しかし一方で、誤算も生じていた。ラインハルトはブリュンヒルトの艦橋で通信士官から不快な報告を受ける。

「閣下! ビッテンフェルト提督より通信、至急、援軍を請うとのことです」

「援軍?」

 ラインハルトは鋭く呻るように言い、通信士官はたじろいだけれど、律儀に答える。

「はい、至急、援軍を請うとのことです」

「私が艦隊の湧き出す魔法の壺でも持っていて、そこから援軍をさし向けるとでもヤツは思っているのか?!」

 怒鳴ったラインハルトは、それでも一瞬で怒りを抑制して冷静になった。

「ビッテンフェルトに伝えろ。余剰兵力は無い。……いや、ノルデンがいたな。ビッテンフェルトに伝えてやれ、ノルデン艦隊をさし向ける。それまで持ちこたえろ、と!」

「はっ」

 通信士官は命令を遂行するけれど、オーベルシュタインが確認するように問う。

「よろしいのですか。ノルデン中将の艦隊は補給部隊の護衛を主任務として、第1線への投入を予定しておりませんでしたが」

「それでも、窮地にあるビッテンフェルトへの助力くらいできよう。敵も疲弊している。一度も砲火を交えていないノルデン艦隊の使いどころとして悪くはあるまい」

「そのようにお考えであれば、何も言いますまい」

 戦局は帝国軍優位のまま進行するが、ヤン艦隊を中心として同盟軍も善戦している。ラインハルトは不意にオーベルシュタインを顧みた。

「キルヒアイスはまだ来ないか?」

「まだです」

「……」

 ラインハルトは自分の前髪を掻き上げた。

「ご心配ですか、閣下?」

「心配などしていない。確認しただけだ」

 その頃、ようやくキルヒアイスは予定の行動に出ていた。待っていた報告があがってくる。

「ゼッフル粒子、機雷原の向こう側まで達しました!」

「よし、点火!」

 キルヒアイスが命令すると、担当だった艦が発砲しゼッフル粒子を起爆させて機雷原に複数のトンネルを穿った。戦局は決定的になり、同盟軍は撤退し始める。その殿となったヤン艦隊を帝国軍で包囲しつつある。オーベルシュタインが戦況を見て具申する。

「キルヒアイス提督でも誰でもよろしいが、ビッテンフェルト、ノルデン両提督を援護させるべきです。敵は包囲のもっとも弱いところを狙って、一挙に突破をはかりますぞ」

「そうしよう。それにしてもビッテンフェルトめ、ヤツ一人の失敗に、いつまでも祟られるわっ!」

 ラインハルトからの命令を受けたキルヒアイスは援護のために艦隊を動かし始めた。

「全艦! ビッテンフェルト艦隊とノルデン艦隊の援護に向かいます!」

 命令しつつ、間に合わないかもしれない、と感じていた。すでにヤン艦隊も最後の力で包囲の突破をはかろうと、ビッテンフェルトとノルデンが守る宙域に突撃をかけ始めている。スクリーン上でヤン艦隊とノルデン艦隊が近接戦闘に入り、索敵士官が報告してくる。

「ノルデン艦隊がヤン艦隊と接触! ノルデン艦隊がジークフリード・ノルデンアタックを開始!」

「………」

 キルヒアイスは直立不動と無表情を維持したけれど、背中に汗が浮いた。恥ずかしい。まさか、二人の間で言い合うだけでなく帝国軍の戦術コンピューターに名称登録していたなんて、この状況だと他の提督たちの耳にも届いていると思われ、そのうち何人かには失笑された気がする、あの戦史に残るイゼルローン攻略をしたヤンでさえ、ヤン回廊などという妄言は吐いていないのに、とキルヒアイスの背中に羞恥心で汗が流れた。それでも、さながらアメーバのようなノルデン艦隊の艦隊運動はヤン艦隊を一時は混乱させた。

「……」

 いけるか、と期待させてくれたけれど、一時の混乱をエドウィン・フィッシャーによる艦隊運用で立て直したヤン艦隊へ、ビッテンフェルト艦隊が槍のように鋭い紡錘陣形で切り込み、さながらジークフリード・ノルデン・ビッテンフェルトアタックの様相を呈している。

「……それでも、ダメか…」

 ここを突破しなければ明日はないという覚悟で挑んでいるヤン艦隊の各艦長たちの働きと、ビッテンフェルト艦隊が量において少なく、ノルデン艦隊が質において劣り、本来のホーランドが目指した速度と躍動性にすぐれた動きができないことで、ヤン艦隊は突破しつつあり、キルヒアイス艦隊も間に合いそうにない。

「戦艦タンホイザー信号途絶! ノルデン提督、生死不明です」

 ノルデンの乗艦はビッテンフェルトの協力をえてフィッシャーの乗艦と相打つように衝突していた。

「敵艦隊が包囲を突破!」

「………。このまま追撃します」

 自分なら、ここで戦闘を終えていた、けれど、もしも三葉なら、きっと追ったに違いないと想い、命令していた。生死不明と報告され、シャトルの脱出が確認されなかった場合で生存していたことは、ほとんどない。三葉なら、きっとイゼルローン回廊まで追い続け、多少の反撃は受けるとしても、疲弊の度合いも、各艦の損傷も同盟軍の方がはるかに重い、追い続ければ、脱落艦や降伏も含めて、まだ2割は撃てる、とキルヒアイス艦隊は追撃戦に入った。

「閣下、深追いしすぎではないでしょうか」

 ベルゲングリューンが当然の進言をしてきた。すでに長時間の追撃によりキルヒアイス艦隊も艦列が伸びきっている。足の速い高速巡洋艦が先頭集団となり、足の遅い艦は見えなくなっている。

「そう思いますか」

「はい」

 執拗な追撃のおかげで、すでに数百隻の敵を討ち果たしてはいるし、降伏してきた艦もある。けれど、追撃しているのはキルヒアイス艦隊のみで、ラインハルトは何も言ってこないものの、キルヒアイスらしくない、と思われている気はする。まさか、このままイゼルローンまで追うのか、と自問自答した。

「……三葉さんなら……どうしたか……」

 三葉の気持ちを考えているうちに、前方に敵艦隊が現れた。逃走中ではなく、こちらを向いて陣形を敷いている。

「敵です! 多数! 1200隻はいます!」

 索敵士官からの報告で艦橋に緊張が走る。艦列が伸びきったキルヒアイス艦隊の先頭はバルバロッサを含め500隻ほどしかいない。

「閣下、どうされますか?」

「あれは敵の別働隊ではなく、追っていた艦隊の一部でしょう……追撃を振り切るため、味方を逃がすために最後の攻撃に……。突出してる艦は減速を! 敵射程距離外で艦列を整えます!」

 キルヒアイス艦隊の先頭が減速すると、前方の敵艦隊から通信が入ってきた。

「敵から通信です!」

「読み上げてください」

「はっ。使いたくなかったが最後の手段をもちいる。本当に使いたくない。ここで引き下がってくれないだろうか。自由惑星同盟軍中将、ヤン・ウェンリー」

「…………」

「閣下、我らが指向性ゼッフル粒子を開発したように何か新兵器があるとも思えますが、たんなるブラフとも感じられます」

 ベルゲングリューンの言葉にキルヒアイスも頷いた。

「そうですね。通信は本当に敵旗艦からのものですか?」

「敵旗艦、確認できません!」

「乱戦の中で乗艦を替えたか……あるいは……」

 キルヒアイスが迷っているうちにも敵艦隊は陣形を保ったまま低速で後退している。キルヒアイス艦隊は速度を落としたので、遅れていた艦が順次追いつき、彼我の戦力差は縮まってくる。半時間もすれば十分に戦える数が追いついてくれそうだった。

「敵の狙いは………」

「キルヒアイス中将」

 ヒルダが口を開いた。

「このさい、敵の狙いより、敵が考えている我々の狙いこそ、問題なのではないでしょうか?」

「というと?」

「すでに戦略的にみて、この追撃は無意味です。ただ一つ、ヤン・ウェンリーという戦果を狙う以外は」

「なるほど……たしかに……」

 まさか敵も仇討ちなどという目的で、こちらが追撃しているとは考えない、となると執拗な追撃の狙いは同盟の名将ということになるか、とキルヒアイスは得心した。ヒルダが付け加える。

「ヤン個人を捕らえるなり討つなりすれば、その戦果は巨大でしょう。反面、同盟にとっては、そのダメージは計り知れない。なんとしても守りたい。たとえ千隻の味方を犠牲にしても」

「だから、我々にヤンを討ったと錯誤させることで追撃を終わらせるわけですね?」

「はい」

「………島津豊久だったか…」

「「は?」」

 ヒルダとベルゲングリューンは聞き慣れない言葉に戸惑った。戸惑わせたままでは気の毒なのでキルヒアイスは親切に語る。

「今から2000年前にも、一国を二分するような大きな戦の敗戦で退却するおり、自軍の名将を守ろうと、その名をかたり討ち死にした勇者がいたのです。最後まで奮戦し、追撃していた隊の将に深傷を与え、その将は後に、その傷がもとで亡くなります。………亡くなった将が象徴にしていた色は赤………」

 キルヒアイスは赤毛をつまみ、バルバロッサの色も思い出した。

「……もう、いいか……三葉さんへの義理は通したつもりです……。全艦に通達! 追撃を終了する! 警戒しつつ本隊へ帰投せよ!」

 キルヒアイスは冷静なつもりで冷静でなかった自分を見つめ直し、追撃の終了を命じた。敵艦隊が遠ざかっていく。

「敵へ返信を送ってください。我、ジークフリード・キルヒアイス。名将を守る、貴君の名は? と」

「はっ」

 通信士官は命令を実行した。

 一方で、受け取ったアッテンボローはタメ息をつく。

「はぁぁ……バレてたか……」

「名乗られますか?」

「大昔の騎士じゃあるまいし、下手に名乗って次に狙われちゃたまらん。さっさと逃げよう」

 アッテンボローは決死の覚悟から解放されて、全速で逃げ出した。

 

 

 

 三葉の目が月経痛と嫉妬に悩む少女の目から、戦死者へ祈りを捧げる巫女の目になり、そして月経痛に苦しむ女子高生の目になった。

「ぅぅ……この痛み……このダルさ……始まったんだ……よりによってキルヒアイスの日に、あの日が……あいつ、まさか学校でスカート汚したりしてないよね……」

 起き上がってトイレに入り、必要な物資を交換してから眠らずに待っていてくれた四葉に問う。

「ちゃんと、処置してくれた? 学校で……失敗したりしてないよね……?」

「大丈夫だよ、慌てて早退してくれたみたいで。間に合ったからスカートは無事。パンツは洗ってる」

「よかった」

「お腹、減ってるでしょ。冷蔵庫に夕ご飯あるよ」

「ありがとう」

 夕食を食べてから部屋に戻って手紙を探すと、何枚も手紙が落ちていて、どれが清書なのかわからない。いつも必要事項を丁寧に連絡してくれるのに、今日は字も乱れていて文章も要領を得ないものが目立った。紙面に涙の痕さえある。

「テッシーとサヤチンが……ふーん……」

「外泊ってことは、なにかあるのかな?」

「あるかもしれないし、ないかもしれないね。っていうかさ、なんで二人が外泊することで、こんなに混乱して支離滅裂な文章を書いてるんだろう?」

「それは……テッシーくんのこと好きだからじゃない?」

「え……私、別に普通だよ。ただの友達だよ。テッシーとサヤチンが付き合うなら、祝福できるよ。ちょっと淋しいけど」

「お姉ちゃんじゃなくて、お姉様の方がテッシーを好きなんじゃ?」

「………あいつ、男だよ?」

「女の身体にいて、女のフリしてるうちに目覚めたんじゃない?」

「ええ~……キモい……あ、でも、私も女の子を好きになってるから……男の身体だと、そういう欲望もかわるし……食欲だってパンケーキよりステーキって気分に……」

「むこうで、あんまり勝手しちゃダメだよ。で、何したの?」

「うう……つい、あんまり、けなげで可愛いから……外泊したとき……」

「外泊って危険だね」

「………私の身体でテッシーに恋いこがれるの、やめてほしいなぁ……」

「むこうも、そう思ってるかもね。あ、話、かわるけど、お姉ちゃんは立花瀧って名前、どう感じる?」

「たちばな……たき? …………たちばな……たき……うーん……」

 三葉が悩み始めたので四葉は姉の肩を叩いた。

「もう遅いから寝よ」

「うん、おやすみ」

 いろいろと疲れていた三葉は痛み止め薬を飲んで眠った。そのせいなのか、変な夢を見た。夢の中で三葉は男になったり女に戻ったり、地球にいたり宇宙にいたり、いい歳のおばさんになったり、糸守にいたり東京にいたり、そして死んでしまったりした。

「っ……ハァ……ハァ……ぅう、二日目、……つらい……しかも、お風呂に入るの忘れるなんて……気持ち悪い……おかげで変な夢みるし……」

 まだ早い時刻だったのでシャワーを浴びて身体を洗った。

「すっきりしたけど、このダルさは……痛みも……」

 痛み止め薬を飲んで、朝食を軽く摂ると、登校した。克彦と早耶香は遅刻して2時間目から顔を出した。休み時間になって声をかける。

「おはよう、テッシー、サヤチン」

「ぉ、おう、おはよう」

「おはよう。……」

「サヤチン、長スパ、どうだった?」

「うん、楽しかったよ」

「そっか。私も四葉と行こうかなぁ……でも、四葉だと身長制限で乗れないアトラクションが……うっ…トイレ、行ってくる」

 そろそろ交換しなくてはいけない感覚があったので三葉は女子トイレに入った。

「女って、ホント面倒……ま、男も男で、ついつい女の子の身体に目線がいくって生理現象あるから面倒だけど」

 ボヤきながら交換して個室を出ると、早耶香がいた。

「夕べ、三人での外泊だったこと、忘れないでね」

「あ、うん。覚えてるよ。そんな念を押さなくても」

 実は忘れていたけれど、手紙やスマフォのメッセージ履歴は見ている。

「で、どんなホテルに泊まったの? ちゃんと口裏合わせしておこう」

「……普通のビジネスホテル……岐阜駅から300メートルくらいの」

 早耶香の目が嘘をついているように泳いでいるけれど、三葉は気にしない。実際には未成年だけで予約無しで泊まれたのはラブホテルだけだった。

「ふーん……テッシーと同じ部屋だったの?」

「……まあ……」

「エッチした?」

「………」

 黙って目をそらした早耶香が頷いた。

「うわぁ……おめでとう! やったじゃん!」

「……み…三葉ちゃん……怒らないの?」

「なんで私が怒るのよ?」

「だって……昨日の感じだと……」

 スマフォには停戦条約違反という言葉が入ったメッセージが残っているので早耶香は後ろめたさを感じていたけれど、三葉は屈託のない笑みで祝ってくれる。

「とうとう、やったね。テッシーを落としたね。おめでとう!」

「うん! ありがとう!」

 早耶香は嬉し涙を浮かべながら祝福に礼を言った。

 

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