世界を超えた哿と対哿   作:青色の閃光

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1弾 判明の時間

 今、俺の視線の先には2人の少女が走っている。

 1人は身長143㎝で緩くウェーブが掛かった長い黒髪の少女、俺が高校に入学した時からの友人、雪村あかり。

 もう1人は身長140㎝でデイドリーム・ブルーの長い髪をツインテールに結い上げた少女、秘密犯罪組織Nの提督、ネモ。

 俺は走る2人の少女を追っている。

 正確には学生鞄を持ったあかりをネモが追い、そのネモを俺が追っているワケである。

 追われている事に気付いた様子の無いあかりは路地裏を駆ける、そのあかりを追うネモも路地裏に入る。当然それに俺も続く。

 しばらくあかり、ネモ、俺の順番で路地裏や大通りを駆けていると、あかりはアパートに飛び込んでいった。

 その様子をネモと同じように俺も路地から盗み見る。

 

「ネモ、なんでいきなりあかりを追った? 説明しろ」

「敵である貴様には関係の無い話だ」

 

 そう言ってネモはアパートに向けて歩き出した。

 恐らく行き先はあかりが入っていった部屋だろう。

 

「待て、何しに行くつもりだ?」

「関係無いと言ったハズだ」

 

 ああ、そうかい。

 だったら俺もお前の思惑が分かるまで離れるつもりは無いからな。

 ネモを先頭にあかりが入っていった部屋の前に辿り着くと、不意にネモが振り返った。

 

「貴様、なぜ私に付いてくる」

「フンッ、お前には関係無いハズだ。何しろ俺とお前は敵同士だからな」

「私の言葉を取るな」

「ウルセェ」

 

 言いながら俺はインターホンを押す。

 ピンポーン、部屋の中からインターホンの音が聞こえて、しばらく部屋の前で待っているとチェーンをしたドアが少し開いて、そこから「はい」とあかりが顔を覗かせてくれた。

 そのあかりは先程まで泣いていたのか目を真っ赤に充血させていたが、今は泣き止んでいる。

 だが、表情は悲しそうだ。

 その表情に俺は「何かあったのか?」と聞こうとした時。

 

「おい、先程の生物について教えろ」

 

 と、俺の隣にいたネモがそんな事を言った。

 先程の生物ってあの触手の生物の事だよな。つまりネモはあの生物の事を知らないんだ。

 ネモの言葉を聞いたあかりは僅かに目を見開いた。

 

「あれについて何か知ってるの?」

「チェーンを外してくれたら教えてやろう」

 

 そう言ったネモの顔をあかりはじっと見詰める。

 それを見ながら俺は違和感を感じていた。

 あかりの身長が縮んでいる事もあるが、先程ドアを開けて俺の顔を見た時、あかりの表情には『誰?』と浮かんでいた。

 俺とあかりが初めて出会ったのは武偵高の入試の時、今俺の目の前にいるあかりは俺の事を知らない様子だ。

 まさかとは思うが、もしかするとあの失敗した瞬間移動で、俺達は過去にでも戻ったのだろうか?

 あり得ない。と、一笑に伏す事が俺には出来ない。

 なぜなら過去に戻れる可能性に心当たりがあるからだ。

 神崎・(ホームズ)・アリア。かの有名な名探偵シャーロック・ホームズの曾孫で俺が所属していたチーム・バスカービルの副リーダーだ──そのアリアの胸には緋緋神が宿る緋緋色金が埋まってるのだが、その緋緋神の能力の1つには緋天・緋陽門という技があり、それを使えば過去に戻れるんだ。

 つまり緋緋神の姉妹である、瑠瑠神と璃璃神が同様の技を使ってもおかしくはない。そしてネモは緋緋色金を有するアリアと同じ超々能力者(ハイパーステルス)、ネモも恐らく色金を保有してるハズだ。髪や瞳の色から類推すれば瑠瑠色金だろう。

 そんな事を考えながらネモとあかりを見ていると、あかりは1度ドアを閉めた後、部屋の中からカチャカチャとチェーンを外す音が聞こえてきた。

 そして再びあかりがドアを開けた瞬間、ネモはそのドアを大きく開け放ち、いつの間にか腰のホルスターから抜いていたレ・マット・リボルバーをあかりの額に押し付けた。

 

「テメェッ……!」

「黙ってろ遠山キンジ。下手な真似をすればこの娘の命は無いぞ」

「くっ……!」

 

 そう言われてしまえば何も出来ない。

 あかりの方は拳銃を額に押し付けられているのに、どういうワケか至って冷静に見える。

 

「モデルガンなんか押し付けられても怖く無いよ」

「ほう。なぜそう思う?」

「だってここは日本だよ。そりゃ裏ルートを使えば手に入れる方法はいくつもあるけど、貴女みたいな小さな女の子が手に入れれるワケ無いでしょ」

 

 ん? 言ってる事がおかしい。

 現代の日本では簡単に銃ぐらい手に入るぞ。

 武偵制度が導入されたと同時に銃刀法を改正してるからな。

 拳銃ショップなんかもある。

 

「1つ質問だが、武偵という言葉に聞き覚えはあるか?」

「武偵? 何それ?」

「武装探偵の事だ。金を払えば犯罪者の逮捕から迷子の猫探しまでやってくれる『便利屋』だ。知らないか?」

「犯罪者の逮捕って、そんな事を出来るのは警察だけでしょ? それに探偵が武装しちゃダメ。銃刀法違反で警察に捕まるよ」

 

 あかりの言葉に俺は混乱する。

 良くも悪くも有名な武偵を知らないワケがない。

 あかりにどういう事か問い質そうとした時、ネモが呟いた。

 

「成る程、有益な情報だ」

「有益な情報だと? どういう事だ。ネモ!」

「ふむ。その勘の悪さ。先程までのHSSは解けたみたいだな」

 

 その言葉に俺は目を見開く。

 

「驚く事は無い。敵である貴様の特異体質ぐらい調査済みだ。貴様も私についていくつか調査してるのだろう? ゆえにお互い様だ」

 

 ああ、その通りだよ。

 多くは知らないが、ネモが着ている軍服は19世紀後半のフランス海軍の様式、四階級あるNは下から黒色の鉄・燻し銀・プラチナ・金の順番でネモは金指輪。

 そしてNにはまだ『教授』と呼ばれる存在がいて、ネモはどこか『教授』を尊敬してるっぽい。ゆえにネモはNに於ける階級はナンバー2だろう。

 

「どうやらピンと来ないようだな。仕方無い、説明してやろう。良いか。この女は拳銃を見てもモデルガンだと言ってのけ、武偵の事も知らないと言った。つまりこの世界には武偵という国際資格は存在しない」

「存在しないって、まさか……」

「ああ、そのまさかだ。どうやら私達は時間跳躍をしたワケじゃない。別世界──所謂(いわゆる)パラレルワールドに来てしまったようだ。貴様の不埒な行動のせいでな」

 

 そう言ってネモはあかりの額に拳銃を突き付けたまま、瑠璃紺(ガーターブルー)の瞳で睨み付けてくる。

 

「パラレルワールドって、マジで言ってるのか……?」

「うむ、それを今確信を変える。おい、シャーロック・ホームズを知ってるか?」

「シャーロック・ホームズ? それってイギリスの作家、アーサー・コナン・ドイルが生み出した推理小説に出てくる架空の主人公だよね」

 

 あかりの言葉に俺は後頭部を殴られたような衝撃を感じる。

 あのシャーロックが架空の人物だと!

 ウソ吐けと言いたいが、目の前のあかりからはウソを言ってる感じがしない。

 マジかよ。道理で武偵が存在しないハズだ。

 武偵の原型は名探偵のシャーロック・ホームズだ。ソイツが存在しない世界なら武偵という資格が出来ないのも納得である。

 ん? 待てよ。確かホームズ家の宿敵はモリアーティ教授だ。そしてそのモリアーティ教授はNのトップ。つまりその2人が存在しないとなると『イ・ウー』も『N』も存在しない事になる。

 ネモもその事に気付いたのか、何とも言えない表情をしている。

 

「それより別世界とかパラレルワールドとか意味の分からない事を言わずに、早くあの怪物の事を教えてよ!」

 

 一向に触手の怪物について話さないネモに、痺れを切らしたあかりが声を荒げた瞬間──パァンッ!

 ネモがあかりの額から逸らした拳銃(レ・マット)であかりの足下を撃って、玄関の床のコンクリートを少し穿った。

 明らかにモデルガンとは違う音と衝撃でネモが持つ拳銃が、実銃だと気付いたあかりは先程の落ち着いた雰囲気から一変して一気に青ざめた。

 それを見たネモはサディスティックな笑みを浮かべると、改めて拳銃をチャキとあかりの額に突き付けた。

 

「おい! いきなり撃つなよ。ネモッ!」

 

 そう言ってみたがネモは聞く耳を持ってない様子だ。

 

「退け」

 

 ネモは青ざめたあかりにそう言うと、あかりは慌てて両手を上に挙げて、部屋の前から退いて壁際に移動する。

 部屋に入ったネモはあかりに拳銃を突き付けたまま、部屋の中をキョロキョロと見渡してあかりが持っていた学生鞄を見付けると中を漁る。

 中にはノートパソコンと何かの容器が2つ入っていた。

 それを見付けたネモは鞄を持ち上げてあかりに言った。

 

「これは貰うぞ」

「待って、それを持っていかれたら困る」

「ほう、何が困るんだ?」

「お姉ちゃんの仇が討てない。それだけがあの怪物に唯一対抗する手段だと思うから」

 

 その言葉を聞いたネモはあかりの瞳を見詰める。

 

「復讐を誓った良い眼だ。良いだろう。ついてこい」

「ついてこいって、ここじゃダメなのか?」

「当たり前だ。この平和な島国で銃声(オト)が鳴ったら警察に通報されるのは当然だ。それにここは私達がいた世界とは違う。貴様もベレッタとDE(デザートイーグル)を持ってるがゆえに銃刀法違反で捕まるぞ。それでも構わないと言うならここに居れば良いだろう」

 

 コイツの言う通りだ。

 敵だが頭の回転が早い。俺は憎々しげに視線を逸らすと壁に掛けてあったカレンダーが目に入った。

 そこには2015年のカレンダーが3月まで捲れていた。

 ハハッ、未来の別世界だ。俺達が来てしまった世界はな。

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