世界を超えた哿と対哿   作:青色の閃光

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2弾 善後策の時間

 近隣住民が通報して警察が来る前に、あかりの部屋を後にした俺達──俺、ネモ、あかりの3人はネットカフェにいた。

 そこで俺はパソコンを使って武偵資格が無いのか調べてみたところ、本当に存在してなかった。しかもそれだけでは無く武装検事も武装弁護士も公安0課も存在してなかった(公安警察は存在していた)

 但し、米国中央情報局(CIA)英国情報局秘密情報部(MI6)など各国の諜報機関は存在していた。だが、MI6内の00(ダブルオー)セクションは存在してなかった。

 あくまでもネットで検索出来る範囲での事だが。

 そうしてネットで俺達が元いた世界との違いを検索していると、同じ個室ブース内にいたネモが口を開いた。

 ちなみにあかりはシャワーを浴びに行ってる。

 

「なぜ貴様がここにいるのだ」

「お前には関係無い。それにお前と離れたせいで元の世界に帰られても困るからな」

「心配するな。詳しくは言えんが今の私に陽位相跳躍(フェルミオンリープ)、貴様の言う瞬間移動は使えん。先程は黙っていたが陽位相跳躍で失錯した再出現場所の再設定をするために──私は超能力的(ステルシェル)な力を使い果たしたからな」

 

 超能力語はよく分からないが、俺的な解釈をすればドラクエなんかで魔法を使う時に消費するMPが0になったのだろう。

 そういやアリアも胸に埋まった色金から力を得ていたな。

 他にも思い付く限りの超能力者達は色んな方法で失った力を補充していた。

 

「使い果たしたのならまた貯めれば良いだろ。何から補充を……って、まさか色金じゃないよな?」

 

 少し前に考えた事を当てずっぽうで言ってみたところ……

 

「フッ、HSSが解けた貴様にしては随分頭が回るじゃないか」

 

 当たってしまった。

 

「ちょっと待て、この世界は俺達がいた世界とよく似た別世界だぞ! 色金があるのか⁉」

「そう慌てるな。確証は無いが当てはある」

「本当か⁉」

「うむ。それを答える前に私の事を話しておこう」

「お前の事を? それはまたどんな風の吹き回しだ」

「同然だろう。この世界にいる内は私と貴様は敵味方に分かれて争う事も無いだろうしな」

「そりゃそうだ。この世界にはイ・ウーもNも無いんだ。争う理由が無い」

「そうだ。そこで遠山キンジよ。この世界にいる内は……その……あれだ」

 

 そこまで言ったネモは何やら恥ずかしそうにモジモジし出した。

 一瞬「トイレか?」と聞きそうになったが、その直前にネモが言わんとしている事が分かった。

 

「協力しようって言いたいのか?」

「ま、まあな。私とて突然私の胸を触るような破廉恥者と協力するのはおぞましいが、状況が状況だからな。致し方無くだ。勘違いするなよ。一時休戦は元の世界に戻るまでだ。休戦したからと言って私にいかがわしい事をしてみろ。貴様の脳天に──」

 

 そこまで言ったネモは腰のホルスターから拳銃(レ・マット)を抜いて、アリアのお株を奪うあのセリフを口にした。

 

「──風穴をあけるぞ」

 

 その言葉に俺は頷くと、ネモも銃を収めると同時に頷き、自分の事を語りだした。

 

「貴様は先程、私が色金から力を得ると言ったな。それは正解だ。私は瑠瑠色金から力を──魔力を得る、と言っても私は神崎・H・アリアと違って胸の中に色金か埋まってるワケじゃない。私の場合『瑠色の研究』をしていた教授が私の祖先──ネモⅠ世の遺伝子にある施術をしたのだ。その効果は瑠瑠色金の力を一方的に吸収出来るようにするもの、その力は私にも遺伝している。つまり私は神崎・H・アリアのように色金と心理的、魔術的な同調(シンクロ)を行う必要が無い。一方的に色金と『通信』し、力を『受信』出来るのだ」

 

 そういうことか。

 シャーロックが緋緋色金で『緋色の研究』を行っていたように、モリアーティ教授も瑠瑠色金で『瑠色の研究』を行っていたのか。

 シャーロックとモリアーティ教授は終生のライバル同士、お互いアリアとネモを使っていたのだ。

 世界屈指の天才同士で対を為すように、そしてネモはアリアだけでは無く俺とも対を為している。超能力的にはアリアと、存在的には俺とな。

 さすがはシャーロック以上の推理力を持ったモリアーティ教授だ。将来シャーロック側にアリアと俺がいる事を推理してネモを用意したのだ。

 お互いの力関係で均衡を取れるように。

 

「それで当てとはなんだ?」

「うむ。あの怪物だ。ヤツの内側から瑠瑠色金の気配を感じた」

「本当か⁉ だったらアイツを見付ければ力を使えるのようになるのか⁉」

「いや、そうはいかない。ヤツを見て分かったが、どうやら何らか理由によって防護壁があり、力を『受信』出来ない。恐らくはあの触手が防護壁の代わりをしているのだろう。忌々しい」

「じゃあ、どうするんだよ」

「ヤツを殺して体内から瑠瑠色金を得る。それしか元の世界への帰還方法は無い」

「殺すって、それ以外に方法は無いのか?」

「なんだ、律儀にも武偵法を守ろうというのか? 人では無い存在まで殺さずどうにかしようというのか。成る程、いかにも遠山キンジらしい考え方だ。だが、現状ではこれが最善の策だ。理解しろ。それにあの女も……」

 

 ネモがそこまで言った時、シャワーを浴びに行っていたあかりが戻ってきた。

 シャワーを浴びた体は火照ってっており、ほんのり赤く色付いている。

 その光景を見た俺は赤くなって顔を逸らすと、ビタンッ! ハイタッチするみたいな独特のフォームで赤面顔のネモが俺の顔面を両手でビンタしてきた。

 

「貴様ッ! 未婚の淑女の風呂上がりを見るなッ!」

 

 さっきまで真面目な顔で会話していたのに、なんでいきなり赤面してビンタしてくるの。

 

 

 

 その後、ネモを落ち着かせて俺達は自己紹介する事にした。

 俺は2人共知っているが、この世界のあかりは俺達の事を知らないからな。

 

「それじゃあ私からね。私は雪村あかり。次はそっちの女の子ね」

「ネモだ」

 

 その名を聞いたあかりは首を傾げる。

 

Nemo(ネモ)──『誰でもない』っ意味だよね? それが名前なの?」

「うむ。都合上そう名乗っているだけだ」

「そっか。そっちの君は?」

「遠山キンジだ」

「分かった。それであの怪物について教えてよ。私は絶対アイツを殺すんだから」

 

 そう言ったあかりの眼には燃え盛る憎悪の炎を灯っている。

 その眼を見たネモは口を開いた。

 

「絶対殺すか……誰の復讐がしたい?」

「お姉ちゃん。アイツはお姉ちゃんを殺したんだ。私がこの手で絶対殺す」

「ほう、そこまで思うとはな。貴様は余程姉の事が大切なのだな」 

「うん。私のお母さんは私が小さい頃に亡くなったから、それ以来お姉ちゃんがお母さん代わりなの。そのお姉ちゃんは教師の仕事を頑張っていたのに今日突然命を奪われた。アイツに……ッ!」

 

 あかりに姉がいる事は知っていたが死んでいたのか。

 まあ、俺が知ってるあかりはこの世界とは別のあかりだからあんまり関係無いが、大切な姉の復讐か。

 その気持ちは俺にも分かる。俺も兄さんが死んだと聞かされた時は目の前が真っ暗になり絶望したからな。

 あの時は事故死として処理されたから行き場の無い怒りの矛先が無く、武偵を辞めるという選択を取ったが、後に事件だと知った時は武偵法9条──武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない──を破りそうになったからな。

 まあ、結局兄さんは死んだワケじゃなく、遠山家の義士として巨悪を討ち滅ぼそうと表世界から姿を消して、自らの死を装っただけだったけどな。

 つまり死では無く失踪だったのだ。

 それで考えれば元の世界で俺達は失踪扱いになってるんだろう。もしかしたら死んだと思ってるヤツもいるかも知れん。

 

「聞くが、その復讐はどんな事をしても果すつもりか?」

「うん。お姉ちゃんの仇が討てるなら死んだって構わない」

「ちょっ、それは……」

「部外者は黙ってて」

「そうだ。所詮私達とこの世界の人間は関係が無い。この女が自分の命を持ってして復讐を成し遂げようとしてるのだ。私達はこの女の意思を尊重はするが止める権利は無い。止める権利を持つ者はこの世界の人間だ。私達は部外者なのだ。それを理解しろ。遠山キンジ。それに先程説明したが私達もヤツに生きていて貰っては困ると話したばかりだろう」

「……くそッ!」

 

 ネモの言ってる事は正しいのだろう。

 言わばこれは自然の摂理だ。例えばここがサバンナだとして目の前でシマウマの子供がライオンに狙われてたとしても俺達人間にそれを止める権利は無い。

 もしそれを止めようものなら、エサにありつけなかったライオンは餓死するだろう。

 そんな事を何百と繰り返していれば自ずとライオンは全滅してしまう。それをさせないためには、ただ、黙って成り行きを見守るだけだ。

 だけたのだが……どうにも気に食わん。

 

「ああ、もう。分かったよ。復讐は止めない。だがな。もし直前で思い留まったら言ってくれ。絶対停めてやる。お前が後悔しないように」

 

 俺の言葉を聞いたあかりは呟く。

 

「うん。思い留まったら言うよ。それに止めようとしてくれてありがとう」

「死ぬと分かってる人間を見過ごせ無かっただけだ」

 

 その言葉を聞いたネモが呟く。

 

「お人好しめ」

「ウルセェ。で、命を懸けてまで仇討ちしようしてるがどうやって仇討ちさせるつもりだ。俺達が協力するのか?」

「もちろんそのつもりだが、ここに2つの容器がある」

 

 そう言ってネモはあかりの鞄から容器を取り出す。

 

「それが何?」

「詳しくは分からんが、この容器からそれぞれ色金の気配を感じる」

「なッ⁉ それは本当か⁉」

「うむ。1つは緋緋色金、もう1つは璃璃色金だ。瑠瑠色金なら良かったのだが、何事も上手くいかないものだな」

「……そうか」

 

 落ち込んだ俺達を見てあかりが呟く。

 

「あのさ。さっきから言ってる色金って何? 本当はパラレルワールドとかの話も聞きたいところだけど、それは説明してもらっても実証の仕様が無いからそれは聞かないよ。でも色金がなんなのかだけ教えてくれる?」

「そうだな。全て話しても理解されないだろうから簡単に教えてやろう。色金とは超常の力を秘めた意思を持つ金属の事だ」

「おう……ッ! 思った以上にオカルトだった。まあ、詳しくは聞かないよ。オーパーツ的な物だと思ってれば良い?」

「その認識で構わない」

 

 そう言ったネモは一旦容器から視線を外すと、鞄からノートパソコンを取り出した。

 

「これは容器と共に盗んできた物だな?」

「うん」

「ならばこの中にあの生物についてや容器の中身について何らかの情報があるだろう」

 

 ネモは呟きながらノートパソコンの電源を点けて、タッチパットやキーボードが反応する事を確かめた後、幾つかのファイルを開いていく。

 そうして暫くネモが調べていると不意に驚きの声をあげた。

 

「これは……驚いたな」

「何がだ?」

「うむ。どうやらあの生物は反物質をエネルギー利用するための研究過程で産み出された産物のようだ」

「反物質?」

「高校を中退した貴様にも分かりやすく説明してやろう。反物質とはたった0.1gで原子力爆弾1回分のエネルギー量があるのだ」

「つまり小さくてもその威力は絶大って認識で良いのか?」

「そうだ。そしてその反物質で産み出された産物は触手の怪物、その元となった触手の種は、この容器の中身は入っている」

 

 その言葉を聞いた俺は容器を手に取る。

 

「これの中身が触手の種か……要はこれを使えば触手が手に入るってワケか」

「そうだ。但し、副作用も幾つかある。触手細胞と人間の体組織は全く異なる。そのため触手の移植者はメンテナンスをしなければ地獄の苦痛を日常的に味わうそうだ。その痛みは尋常じゃなく、言わば脳ミソの中でトゲだらけのずっと虫が暴れてるような感じだとか」

 

 それはきつい。

 要は對卒──ヒステリアモードを使い続けた弊害──の発作の酷い状態がずっと続くワケである。

 そんな事を考えていた時、あかりが呟いた。

 

「地獄の痛みか……どうでも良いよ」

「ほう。私の説明を聞いてもそう答えるという事は、どうしても力を得て姉の復讐を成し遂げるつもりのようだな」

「うん」

「ならば受け取るが良い」

 

 そう言ってネモは机に置いていた触手の種が入った容器を1つ差し出した。それは緋緋色金が混入された容器だった。

 その様子を俺は苦々しく思いながらも黙って見ているしか出来ない。

 

「……そういや、なんでこの世界に色金があるんだ」

 

 俺は死に向かうあかりを見ていられなくなり話題を変えた。

 

「ファイルによると、この世界で2年ぐらい前、遺跡を発掘中に2000年ほど前の地質から、直径5㎜の大きさで色違いの金属が見付かったと書かれてある」

「2000年前……つまり元の世界に色金が墜ちてきた時と同じ年代か」

「そうだ。恐らく私達の世界で色金が地球へと墜落中に、塊から欠片の一部がこちらの世界に移動したのだろう。そしてそれは現代になるまで誰にも見付からなかった。ゆえに触手を構成する細胞に使われる事になったのだ」

 

 そう言ったネモはあかりに視線を向ける。

 

「それはそうと雪村あかり。貴様はあの怪物がどこに現れるのか知っているのか?」

「うん。椚ヶ丘中学校の3年E組ってクラスの担任をするって書き置きがあったよ」

「椚ヶ丘中学校? 知っているか遠山キンジ」

「いや、知らない。恐らく元の世界には無い学校だ」

「というわけだ。どんな学校だ」

「偏差値66の進学校だよ。で、3年E組っていうのはその偏差値が高い学校の中では成績の低い生徒や素行不良の生徒ばかりが集まるクラスだよ」

「成る程、ヤツを殺すにはヤツから最も近い場所にいかなければならないというワケか」

 

 ん? 今何か嫌な予感が……

 

「遠山キンジ。私達もその学校へ入るぞ」

「イヤだ! 俺は18歳だ。なんで今更中学校に通わなければいけないんだ!」

「そんな事を言ってる場合か! ヤツを殺さねば私達が元の世界へ帰る道は断たれるのだぞ。だから私達も椚ヶ丘中学の編入試験を受けて通うぞ」

「──イヤだイヤだイヤだ──ッ!」

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