世界を超えた哿と対哿   作:青色の閃光

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2019/06/22
今さらながらネモの姓を公式の物に変更


3弾 編入の時間

 散々駄々を捏ねてみたが、了承してくれるハズも無く、俺はネモやあかりと一緒に椚ヶ丘中の編入試験を受ける事になったが、困った事も起きた。

 金が無いのだ。

 サイフは持ってるが中身は2万ちょっと、ネモの方は2900ユーロ──今の為替相場だと日本円で約37万円だ。

 学費や制服代など様々な物を揃えてたら金が尽きて今後食べていけなくなる。ゆえにどこかから金を収入しなければならないのだ。

 そのために俺はこの世界に来た日の翌日、ネモと手分けして住民票の偽造や後に必要になりそうな物や諸々の書類を作っていく。

 そうして編入試験まであと1週間に迫った頃、ある事をするために必要な書類を全て揃えた俺はネモと共に法務局へと赴いていた。

 

「ここ数日、貴様が水面下で動いている事は知っていたが、まさか起業するための書類を作っていたとは思わなかったぞ」

「まあな。バイトするにしても俺は中学生って事になったからそれは無理だからな。でも起業なら15歳でも出来る」

「ならば社長は私だな」

「ハァッ! 発起人は俺だぞ。社長は俺だ!」

「フッ、分かってないようだな。この世界でいる内は協力関係にある私達だが、貴様がイ・ウーの三等兵みたいなものに対して私はNの提督だ。また、元の世界に還るための陽位相跳躍(フェルミオンリープ)を使えるのは私だけ、すなわち立場は私の方が上だという事だ」

「ぐぬぬ……はぁ、分かった。もう社長はお前に任せるよ」

「うむ。資金の遣り繰りは私に任せろ。貴様に任せると不安だからな」

 

 確かにその辺は中空知──元の世界にいた時、武偵高を退学になった俺が武偵企業を興す際、社員として雇っていた人間だ──に任せてたからな。

 それにネモは国家学位(バカロレア)を取得してるってこの前聞いたからな。任せても問題無いだろう。

 

「して、遠山キンジ。会社を興すのは良いが、探偵業でも始めるのか。それとも護衛業か?」

「いや、どっちでもない。それにその2つだと収入は少なくなるし、学費は払えなくなる」

「確かに、ではどうするのだ。以前聞いた事があるが製菓業でも始めるつもりか?」

「誰に聞いたか知らんがそのつもりだ。この世界には武偵が存在しないから単純に味だけで勝負する事になるが、その辺も問題無いだろう」

「そうか。ただ忘れてないだろうな。製菓業をするには食品衛生責任者の資格を持った人間がいなければならないし、そもそも都合良く製菓業を始めるための場所はあるのか?」

「ああ、問題無い。どっちも当てはある」

 

 前者の食品衛生責任者だが、これは17歳以上で高校生以外の人間なら誰でも受講可能との事、()()()は15歳として登録してるが、クロメーテルさん──俺の女装時の名称──は別だ。本当は嫌なのだか四の五の言ってられないのだ。

 そして後者の製菓業を始める場所は椚ヶ丘中学から約1㎞離れた場所に、2階建てで居抜きの製菓工場が売りに出されていた。

 しかも機械の方は元の世界の工場と同じもの、2階は自宅として使用出来る。

 いつまでもネカフェ難民を続けるワケにはいかないからな。会社が出来たら引っ越してこよう。家具付きだからお得だ。

 そんなワケで法務局でネモを社長にした会社の設立をしてから数日後、食品衛生責任者の資格もクロメーテルさんが無事取得した。

 ちなみに会社名は『ノーチラス』。

 ネモが所属する秘密結社『N』の正式名らしい。

 その製菓会社『ノーチラス』で売り出した製品は饅頭で、味は元の世界の武偵まんを更に進化させてある。

 最初は売れなかったが、少しずつ客が増えて来ている、これはオープン当初に買ってくれた人達が口コミで話を広めてくれているお陰だ。

 そうして、饅頭を作っては売る生活を続けること1週間が経過した。

 本日は編入試験当日である。

 饅頭は工場前に置いてある自販機に入れてきた。

 当分の間、平日の昼間の営業は自販機に入れるスタイルにしよう。

 まあ決めるのは社長のネモだけどな。

 

「2人共、受かる自信はある?」

「当然だ。私は国家学位を取得済みだぞ、唯一の不安材料だった日本語もここ数日の間、雪村あかりに享受願ったからそこも問題無い。まあ、全てを理解したわけでは無いが編入試験には大丈夫だろう」

「本来俺は高校生だぞ。中学の編入試験などで(つまず)けるか」

 

 何しろ俺は高認に受かり、大学受験を受けるつもりの人間だ。

 不合格になるワケにはいかない。

 

「それはそうとお前の姓って何だ? ネモ」

「ああ、そう言えば教えてなかったな。良い機会だし教えておこう。私の姓はリンカルン──ネモ・リンカルンが私のフルネームだ」

「へぇ、そうだったのか」

 

 などと頷いていると一緒に転入試験を受けるために、椚ヶ丘中学に向かっていたあかりが呟きが聞こえた。

 

「同じ屋根の下で暮らしてるのに何で相手のプロフィールを全部知らないの……?」

 

 そんな呟きを無視して俺は再び口を開く。

 

「それにしてもネモの軍服姿以外の恰好を見たのはこれで2度目だな」

 

 1度目は会社を設立する時に着ていた黒いレディスーツ、あの時は小さな子供が背伸びをしてる風があり、それはそれで可愛かったが、今日着ている服はあかりの中学の制服だ。

 

「フフッ、どうだ。似合うか?」

 

 そう言ってネモは年相応の無邪気な笑みを浮かべて、その場で、クルリ、とターンした。

 その動きに合わせてスカートの裾が、ふわり、と舞い上がってドキッとする。

 

「あ、ああ、カワイイよ」

 

 と、言ってやったところネモは軍人みたいな人生を送ってきたらしく、女の子として褒められた経験が無いのか、その白い顔は真っ赤に染まった。

 

「……か……カワイイ……?」

 

 俺が言った事を反芻し、言葉の意味を理解したネモの喉奥から、うきゅう、と擬音が鳴り。

 

「わ、私は似合うかどうか聞いたのだッ、このバカモノッ!」

 

 そう言ってハイタッチするような独特のフォームで、ぺち、両手でビンタしてきた。

 

 

 

 そうして受けた編入試験は中学レベルにしては少し難しかったが、無事全問埋める事が出来た。

 合否は後日との事なので、再び饅頭を作っては売る生活に戻った。

 それから合否まで数日の日々が過ぎ去った頃、本日分の饅頭を売り切った俺は風呂に入ろうかと思って、脱衣場の扉を開けると、そこには本日より一緒に暮らし始めたネモ社長がいた。

 お互い同じ屋根の下で暮らすのは嫌だったが、ネモはいつまでもあかりの部屋に厄介になるワケにはいかないという理由で、俺の方も新しく部屋を借りると金が掛かるという事で、互いに妥協して共に暮らし始めた次第である。

 そんなワケで一緒に暮らすことになったネモが脱衣場にいるよ。しかも俺同様に風呂に入ろうしてたのか、サクランボ柄のおパンツに手を掛けてらっしゃる。

 ネモは扉が開いた音に気付いて、振り向き俺と目が合った瞬間。

 ツインテールを解いてほんのりウェーブがかったデイドリーム・ブルーの長い髪を、ブワァ、と広げてビビっている。

 そのネモは小さいながらもぷっくりと凹凸のある体をしており、白人美少女特有の抜けるような白い肌を一瞬にしてピンクに染め上げ……

 

「き、貴様……ッ! 共に暮らし始めたのを良い事に、わ、私の裸を見る事が目的だったのかッ⁉」

「ち、違うッ⁉ 風呂に入ろうと思って来たらお前がいただけで、決してわざとじゃ……ッ⁉」

「言い訳するヒマがあったら早く閉めろ‼」

 

 言いながらネモは脱衣場のカゴに入っていたホルスターから拳銃を抜き、俺の方へ向けて発砲してきたため、俺は慌てて脱衣場の扉を閉めると自分の部屋へと入った。

 

 

 

 数日が経ち、饅頭の売り上げも黒字続きでネモ社長も喜んでる日の事だ。

 椚ヶ丘中学の合否結果で共に合格していた俺達は椚ヶ丘中学に来ていた。

 合格したのは俺とネモだけでは無かったらしく、校門には椚ヶ丘中学の制服を着て、髪型をツーサイドアップに変えたあかりが立っていた。

 

「髪型、変えたんだな」

「うん。似合う?」

 

 あかりは可愛らしく小首を傾げて聞いてきた。

 

「あ、ああ。カワッ……じゃなくて似合うよ」

「むぅ、そのままカワイイって言ってくれても良かったのに」

「気を付けろ雪村あかりよ。ソイツは人の裸を覗くような不埒者だぞ。現にこの前、私も覗かれたばかりだ」

「あれは事故だと言っただろ!」

「ノックという方々があるだろう! なぜそれを使わなかった。今朝だって私がトイレで用を足してるところを開けただろ!」

「それは全面的にすいませんでした! 次からは気を付けます!」

「その言葉忘れるなよ。次また不埒な行為をしてみろ。貴様の給料はカットだ」

 

 その言葉に俺は何度も頷いた。

 相手は社長、逆らったらダメなのだ。

 そうして俺達は校舎に入った後、受付で手続きをして理事長室に案内して貰った。

 ──コンコン、案内して貰った人が扉をノックすると中から入室を許可する声が聞こえてきた。

 了承を貰った入室した室内には、椅子に座して威厳のある男と七三分けの男の2人がいた。

 恐らく威厳のある男の方が理事長だ。気配で分かる。それを見抜いた時、七三分けの男が書類を見ながら口を開いた。

 

椚ヶ丘(うち)の転入試験を合格した子は君達が初めてだよ。えっと……茅野カエデさん、ネモ・ノーチラスさん、遠山金次君」   

 

 そう言った七三分けの男はあかり、ネモ、俺の順番に見る。

 ちなみに茅野カエデとはあかりの事だ。あかりの姉はE組の担任をしてたとの事で偽名を使い正体を隠す事にしたと先ほど聞いた。

 

「それで所属クラスの方だけど、遠山君がB組で茅野さんとノーチラスさんがA組になるよ」

 

 人当たり良さそうな顔で男がそう言った。

 え? ちょっと待ってネモには点数で負けると思っていたが、あかりにも負けたの? しかも俺だけB組だし。

 だが、俺達が入るべきクラスはAでもBでも無い。

 そのため、あかりは壁の棚に飾られてる盾やトロフィーの前まで歩いていく。

 

「……ところで先生方、この学校には素行不良の生徒が行く(ところ)があるんですよね?」

 

 そう言ったあかりは盾を3つ、手に持って2つを俺達に差し出してくる。

 

「私達が行く(クラス)はそこで良いですよ」

 

 言いながらあかりは盾を壁に叩き付けて壊し、俺は床に落として壊し、ネモはサディスティックな笑みを浮かべ理事長の顔面の横を掠めるように投げ付けて壊した。

 俺達の突然の行動に七三分けの男は唖然としている。

 そんな中、理事長が静かに口を開いた。

 

「君達の狙いはなんだ?」

 

 理事長の問いに対してネモが答える。

 

「貴公が知る権利は無い。では失礼する」

 

 そう言ってネモは理事長室を出ていこうとする。それを追って俺達も理事長室を出ていく。

 廊下を歩きながら理事長室の出来事に戦々恐々した俺は。

 

「大丈夫か? 例の組に落ちる前に停学とかになったりしないよな?」

「さあな。そうなればそうなった時だ」

「うん。退学にさえならなきゃ別に停学でも良いよ」

「なんて強靭な精神力を持った連中だ」

 

 そう呟きながら俺はネモの後ろをあかりと並んで、椚ヶ丘中学の廊下を歩くのだった。

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