拙い文章ですが宜しくお願いします
雪が、降っていた
天から降り注ぐその白は、学校を、アパートを、一軒家を……人々が住む街を、白銀に染め上げていた
降り積もり、踏まれ、汚れ、汚れを塗り消すようにまた降り積もり……
真白に染まる住宅街――――――その一角
一本の路上に、倒れる影がひとつ……いや、ふたつ
ひとつは、青年だった
そしてもうひとつは……幼き少女だった
少女を抱きしめる、青年
青年の胸にうずくまる、少女
二つの影は、ぴくりとも動かない
ただただその身体の上に、雪が積もってゆく
彼らを真白に染め上げるように
彼らを世界から塗りつぶすように
そして
そして
そして――――――
影は、世界から忽然と姿を消した――――
風に吹かれ消える、蝋燭の灯火のように――――
忽然と姿を消した――――
○
「……」
男はうっすらと瞳を開けた
足には地を踏みしめる感触
自分は何処かに立っている――――ぼんやりとそう感じた
同時に……自らが置かれていた状況を、はっきりと認識する……
……俺は一体、何をしていた?
旅行。そうだ、旅行だ
旅行に行こうとしていたのだ
誰と?……では一体、誰と?
「〜〜〜ッッッ」
いっときの、混乱
そして叫んだのは――――彼女の名前
彼の愛しき、何を犠牲にしても守るべきものの名前――――
「汐ォォォッッッ!!!!!!!!!!!!」
叫びと言うよりもむしろ、その声は肉食動物の放つ咆哮に近かった
両目を見開き、腹の底から、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ――――そして
彼の瞳に飛び込んできたのは、理解し難い光景であった
彼の周囲、360度
己が踏んでいる地さえも――――――赤黒い『何か』で埋め尽くされていた
もごもごと蠢くその中に、ぎょろりと、『無数の目玉』が覗いている
数えきれぬそれらは皆、彼を『見ていた』
体全身を舐めまわすかのような、気味の悪い、常人では発狂しかねないほどの視線達
だが、彼はそんな視線など"気にも留めていなかった"
「……」
彼は、ただ一点を見据えていた
彼の意識は、五感は、己の周りのおびただしい数の目玉『よりも』
己の目然に『浮かぶ』、"女"に集中していた――――
「…………ッ」
それ程、女の存在は男にとって異質なものだった
西洋人形のような整った顔立ち、衣服
ほのかに光を放つ、金色の髪
手元でくるくると回る、大きな大きな傘
貼り付けられたような、胡散臭い、にやけ面
何処か常世離れした雰囲気を放つその女を、男は警戒していた
「何…だッ」
絞り出すように声を出す、男
「何だ……ッ…ここは……ッ」
「何処だッ……此処はッ……!」
「誰だ……ッ…お前は……ッ!!」
男は震える左手を女の方に向け、その瞳に疑惑と警戒の感情を込めて女を睨みつける――――だが
女は、笑っていた
相も変わらず、ニヤニヤと
「ッ……野郎……!」
周囲にうごめく眼球など気にも止めず、男は女の方へと歩を進めようとした
訳のわからない空間、訳のわからない状況
混乱に陥りかねない、その状況で彼を突き動かすのは彼自身の意志、たったひとつの意志……
「俺は、行くんだ、あの場所へ。……あの花畑へ!!」
ただそれのみが、男の体を動かしていた
疲弊した身体を、摩耗した精神を鞭打ち、無理矢理に動かしていた
そして自らの精神に突き動かされ、男が眼前の奇怪な女へと一歩を踏み出した時――――――ソレは起こった
「!!」
ズ
……と、裂けるようにして、あるいはジッパーのようにして、男のそばに突然出現し開かれた《空間》――辺りにうごめく眼とはまた違った――が、男の右腕を侵食し始めたのだ
「……ぁ……ッ……!?」
驚嘆の顔を浮かべる男――――だが、抵抗する間もなく……
ぞぶッ
……と、完全に男の身体は《空間》に呑まれ、消えていった
眼球うごめく異空間に残るのは、変わらず中空に浮かぶ女ひとり――――だがその女も、同じようにして出現した《空間》に吸い込まれた
奇妙な笑みを、浮かべながら――――
○
どさり、と
ひとりの少女の耳は、その音を捉えた
……和風家屋の縁側に座りくつろぐ彼女の耳が捉えたのは、何かが落下し、地へと落ちた音である
『紅白』の巫女服を纏うその少女は、すぐさま音の方向へ意識を向け――――地に倒れる人を目視した
「……」
まず、一呼吸
「……」
次に、手に持つ湯のみに意識を向け
「……ん」
ずずず、と中に注がれた茶をすすり
「……ふぅ」
そして、呟いた
あの隙間女、また厄介事を持ってきた
……と