双璧の事件簿   作:怪傑忍者猫

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忘れじの庭園  ~庭園の中で~

 捜査員の中にいた、民営管理人のメンバーによって板戸を外された東屋の中から、梁から下ろされたエリス・コーダの遺体が、白い布に覆われて運び出されて来た。

 その小さな遺体を見て一瞬の絶句の後、リーナ・ガーラントはそのまま泣き崩れてしまった。

 知人である管理人仲間達に気遣われながら、遺体と共に庭園の外に向かうリーナの後姿を見送りながら、二人はウルリッヒ・ケスラーに向き直った。

 

「災難でしたな、お二人とも」

 

 耳の上が白い、黒髪を手で撫で付けながらのケスラーの言葉に、サングラスを掛けたまま肩を竦めるオスカー・フォン・ロイエンタールがいる。

 

「見て歩くだけで終るとは、初めから思ってはいなかったがな」

 

 互いに、この後を考えてうんざりとした表情を浮かべる横で、ウォルフガング・ミッターマイヤーはじっと老婆が死んでいた東屋の中を見ていた。

 その顔に浮かぶ表情に、ロイエンタールの形の良い眉が顰められる。

 

「どうした、ミッターマイヤー」

「何か、気になる事でもありましたか?」

 

 自分の言葉に被せて質問したケスラーを、金銀妖瞳が不機嫌に睨む。

 親友の機嫌が急降下している事に気付かぬまま、ミッターマイヤーは蜂蜜色の金髪を掻き混ぜてうめくように呟いた。

 

「暗い部屋だった」

「え?」

「あの小屋の中は、こんなに日の高い時間帯なのに、上の方の細い隙間しか光の入る場所が無くて、ぼんやりとしか物が見えないような、暗い部屋だったんだ……」

 

 意味を計りかねるケスラーと、おおよその察しを付けたロイエンタールの前で、彼は唇を引き結んだ。

 

「あの御老体の死に顔、俺には、とても覚悟の死には見えなかった」

「ミッターマイヤー、今回はケスラーが直々に指揮を取るのだ、素人の出番は無かろうよ」

 

 そう言いながら、ロイエンタールは熱くなっている親友の肩を叩いた。

 だがその直後、庭園の出口の方の騒ぎに二人は顔を見合わせた。

 弾かれるように駆け出したケスラーに続いて、騒ぎの方に向かったミッターマイヤーが見たものは、捜査員達に引き留められているリーナと、薄ら笑いを浮かべた一八歳くらいの若い男の姿だった。

 ケスラーに何事か言い渡され、それにも薄ら笑いで答える赤っぽい茶色の髪の体格の良い少年に、ミッターマイヤーは見覚えがあるような気がして灰色の瞳を細めた。

 少年はいやらしく笑ったまま彼の方へと歩いて来るとその肩にぶつかった。

 驚くミッターマイヤーに向かって、さも邪魔だと言いたげに睨み付けた少年は、そのまま一言もなしに通り過ぎようとした。

 が、その彼の肩を、遅れて来たロイエンタールが掴んだ。

 

「失礼の一言も無しか」

「ふん」

 

 そのまま振り払おうとした少年だったが、相手の握力の強さに頬に赤味が差した。

 ロイエンタールも、この鼻持ちなら無い礼儀知らずをそのまま帰すつもりはなかった。だが、

 

「いいよ、ロイ。気にしてないから」

 

と言うミッターマイヤーの言葉で、ロイエンタールはごみでも捨てるように彼から手を離した。

もう一度鼻を鳴らして、少年は二人の横を通り過ぎると庭園の奥へと消えて行った。

その背中にサングラス越しに視線を投げ掛けていたロイエンタールが、思い出したように鼻先でせせら笑った。

 

「どうした?」

「何、あの男頭に蜘蛛の巣を付けていた。いい年をして、何処の隙間に収まっていたのやら」

 

 それに向かってミッターマイヤーが何か言う前に、制帽で首筋を扇ぎながらケスラーが戻って来た。

 『頭が痛い』と大書きされた彼の顔に、二人は顔を見合わせた。

 

「何があった? ケスラー」

「大した事ではないのですが」

 

 言葉面を裏切る口調で、ケスラーが語る。

 

「遺体を運んでいる最中に、あの少年が寄って来て、迷惑だの、当て付けがましいだの、付き添っていた少女や、被害者の遺体に向かって言ったそうで」

 

 ぽかんっと口を開けて聞いていたミッターマイヤーの頬に、見る見る怒気が上がって来る。

 そうでなくても、先程の老婆の哀れな姿にいい加減逆上していた彼の、細くなった堪忍袋の緒にはさみを入れた馬鹿を呪いつつ、ロイエンタールはかの馬鹿者の素性を問うた。

 その答えは、ロイエンタールの予想通りだった。

 

「名前はヘルムート・フォン・ツィーテン。ツィーテン行政官の一人息子だそうです」

「……なるほど、父親そっくりだな、あの男」

 

 苦々しく唸るミッターマイヤーに頷くと、ロイエンタールは制帽を直した年上の臨時憲兵長に向き直った。

 

「吾々は、これからどうすればいい? 視察は未だ半分しか進んでいないのだが」

「申し訳無いが、視察を切り上げて宿舎で待機していただく事になります。不本意でしょうが、卿らは第一発見者になりますので、捜査に協力していただきたいのです」

 

 ミッターマイヤーはその言葉に異存は無く、ロイエンタールも重々しく頷いた。

 そして幾つか打ち合わせを行い、二人は、共に宿舎へと戻る事となった。

 

 

 宿舎であるホテル・ハイデクラオト別館のラウンジで、ミッターマイヤーとロイエンタールは三次元チェスを行っていた。

 艦隊シュミレーションほど集中せずに、時間を潰せるものと言う事で、ホテルから借り出したのだ。

 宿舎に戻って、ラインハルトに事の次第を報告したところ、見た範囲内の報告書の製作と、事件捜査の協力とを殺気立った声で命じられた。

 どうやら、噴出する書類不備と業務怠慢とに、さほど太くない堪忍袋の緒が切れる寸前なのだろう。

 そこで報告書を作成して部下に運ばせた後、ケスラーを待つ事になった二人はチェスを始めたのである。

 

「しかし、これだけ酷いのなら、ツィーテンの奴はとっとと罷免してしまえるのではないか?」

 

 ポーンを動かしながらのミッターマイヤーの言葉に、ロイエンタールは軽く首を振って見せた。

 

「そうもいかぬさ。何しろ、可も無く不可も無くと言う事で、奴に継続を命じたのはローエングラム閣下だ。権門貴族の馬鹿息子どものように、ものの好き嫌いで首を切るのは、あの方の矜持が許さぬだろう」

 

 盤面を動く黒のクィーンを見ながら、ミッターマイヤーは蜂蜜色の金髪を大きく掻き混ぜた。

 

「だから、徹底的に改善しようとしていた矢先のこの事件、か。まさか、調査の邪魔の為に人を殺したなんて言わないだろうな」

「判らぬぞ。世の中、金の為なら人の一人二人殺しても、眉一つ動かないなどと言う化け物も、多々いるからな」

 

 世間ずれした親友の言葉に、『誠実な平民』は黙って投了のキーを押した。

 

 

 治安警察の本部からケスラーが戻って来たのは、夕日が落ち切った刻限だった。

 二勝二敗三引き分けでチェスを終らせた二人が、ラウンジでクリームコーヒーを啜っているところに、愛用の端末を抱えたケスラーが姿を見せたのだ。

 

「面倒な事になった」

 

 苦り切って、ソファーに腰を下ろしたケスラーのそのぼやきに、二人は顔を見合わせた。

 

「何事だ、ケスラー」

「何か、調査の上で行き詰まるような事でもあったのか?」

 

 ミッターマイヤーの問いに、少壮の弁護士を思わせる憲兵経験者は、「頭が痛い」と洩らしつつ携えていた端末を広げた。

 

「本日午前一〇時五〇分、『ローエングラム庭園』内の東屋で発見されたエリス・コーダ老婦人は、検死の結果他殺であると断定された。

 ただ、あの施錠された小さな小屋から、加害者がどうやって出て行ったのかが疑問だが」

 

 そう言いながらケスラーが開いたファイルには、老婆の詳しい死因と推定死亡時刻とが記されていた。

 死因は、予想通り頸部圧迫による窒息死。しかも実際の圧迫箇所の索縄痕と、吊り下げられる事で出来る索縄痕にずれがあり、絞め殺されてから首を括ったように偽装された事が確認された。

 死亡推定時刻は昨夜の午後九時四五分前後で、殺害後、一〇時間ばかり床に転がされて放置されていた事も検死で判明した。

 それらのデータを指して『杜撰に過ぎる』と、ケスラーは犯人を評した。

 

「この老婦人、気丈な方だったらしくてな、加害者に抵抗して相手の毛髪を引き抜いて手に握り込んでいたのだ」

「あ、じゃあもう容疑者は」

 

 ほっとしたミッターマイヤーの向こうで、足を組み直しながら金銀妖瞳の親友はこう言った。

 

「見付かったが、容疑を否認している。そうだな、ケスラー」

「ああ」

 

 憮然と、知人にしか使わない砕けた口調で肯定しながら、ケスラーは別のファイルを開いた。

 それは、長い銀髪と爬虫類を思わせる黄色い瞳の、白面の優男の立体画像だった。

 二人が行政府を出る時に見掛けた、クレバー行政次官の姿に違いなかった。

 

「こいつかっ!」

 

 思わず声の上がったミッターマイヤーを、ロイエンタールがたしなめる。

 慌てて口を押さえた年下の上官に苦笑しながら、ケスラーは制帽を脱いだ。

 

「毛髪の遺伝子チェックで、完全に奴と一致したのだがな」

「濡れ衣とでも言ったか、この蜥蜴男は」

 

 ロイエンタールの言葉に頷くと、疲労感も露に端末からクレバーの供述を引き出し、表示する。

 

「奴の言葉によると、老婦人の死亡推定時刻である午後九時四五分前後の時刻には、ローエングラム閣下とキルヒアイス提督と同席して、ツィーテン行政官主催の音楽ディスク鑑賞会に参加していたとの事だ」

 

 容疑者の思わぬ発言に、ミッターマイヤーとロイエンタールは唖然と顔を見合わせた。

 画面の中でも、嫌らしい笑みを浮かべた白面の優男が、何やら供述している映像データが再生される。

 

「閣下とキルヒアイスには、事実関係を問い合わせたのか?」

 

 ミッターマイヤーの問いに、ケスラーは苦々しげに頷いて見せた。

 

「ああ、キルヒアイス卿に問い合わせたところ、確かに奴は昨夜午後七時から一二時まで、鑑賞会に参加していたそうだ」

「奴は一度も中座しなかったのか?」

「それも確認した。時刻の確認は取れていないのが辛いのだが、ディスクの三枚目と四枚目を交換する時に、五分ほど席を立ったそうだ」

 

 ロイエンタールへのケスラーの答えに、蜂蜜色の金髪を掻き回しながらミッターマイヤーは聞き返した。

 

「五分あれば、奴が青瓢箪でもあの小柄な御老体を絞め殺せるだろう。大体あの小屋で殺したとは思えない」

 

 その言葉に、ケスラーは首を縦には振らなかった。

 

「それが、そうとも言えなくてな。これが、そのとき鑑賞会に出されたディスクの題名なのだが」

 

 端末に表示された音楽の題名に、ミッターマイヤーは首を傾げ、ロイエンタールは双色の瞳を眇めた。

 

「ええっと、『酒神の午睡』、『女神の庭にて』? 何だ、これ」

「ふむ、一〇〇年前の新古典主義の旗手、《長いだけの》マンフレート・ボッシュバーンの代表作か。『軍神の出陣』、『知識の泉に巨人は立ちぬ』、そして『大神に捧げる聖譚曲』……。なるほど、これでは三曲目と四曲目が九時四五分前後になるのはありえんな。オーディン・フィルの演奏ならば、長いのが当たり前だ」

 

 ロイエンタールの言葉に頷きながら、ケスラーは何度目かの大きな溜息を吐いた。

 

「とにかく奴のアリバイを崩せない事には、奴にもツィーテン行政官にも出頭させる事が出来ない」

「……そこで、何故行政官の名が出る?」

「行政官には、コーダ老婦人を殺害したい動機がある」

 

 ケスラーの言葉に、ミッターマイヤーの見開かれた瞳が鋼色に透き通る。

 

「被害者は、このトール星系内総ての庭園の造園に携わった、造園技師の最後の縁者で、庭園資料の類を総て保管していたそうだ。ツィーテンはその資料を買い上げようとして拒絶され、ローエングラム伯の命令書まで偽造して取り上げようとしたらしい。

 最も、それはさすがに公文書偽造で罰金を食らったそうだが、奴はその庭園資料をフェザーン商人に売り渡す約束をしていたらしい」

「まさか、そんな事で」

 

 拳を固めるミッターマイヤーに、ケスラーは目を伏せながら言葉を続けた。

 

「噂の域を出ないが、行政官を失脚させうるだけの情報を持っていて、領主であるローエングラム伯に直訴すると言う話もあったそうだ。

 ただ、本当に被害者の手元に、そんな情報があったのかは判らないのだがな」

「それで先手を取ったと言う訳か」

 

 渋い顔を作るロイエンタールに、臨時憲兵長も苦い顔で頷いて見せた。

 

「……そんな」

 

 搾り出すような親友の呟きに、ロイエンタールは何も口にしなかった。

 守銭奴や拝金主義者の物の考え方など、ミッターマイヤーには判って欲しくも無かったのだ。

 

 

 翌朝、自室で一人朝食を取っていたミッターマイヤーは、何気なく目を通していた電子新聞の、フィルム画面で踊っている老婆の名に目を剥いた。

 治安警察が調査中の為、マスコミに一切公表されていない筈の老婆の名に、慌てて画面に触れて記事を呼び出して見る。

 そこには、昨夜老婆の家が全焼したと言う事件が、妙に大きく載っていた。

 どうやら行政官寄りの新聞らしく、管理人を自称する痴呆症の老婆の家が不審火で焼失し、老婆自身で火を付けたのではないかとまで書かれていた。

 新聞記事の無責任さに、頬を引き攣らせながらフィルム端末を畳んだミッターマイヤーは、昨夜の話を思い出して唇を噛み締めると、昨日のニットを羽織って宿舎を抜け出した。

 昨日、ロイエンタールと二人で歩いたコースを足早に辿り、ミッターマイヤーは茶室のある広場にやって来た。

 午前七時になるかならないかの刻限だったが、茶室の雨戸を開けるリーナの姿があった。

 ミッターマイヤーが彼女に気付いたちょうど同じ位に、リーナも生成りのセーターを着た青年に気付いて手を振った。

 板戸の外れた大きな戸口には、ガラス戸の代わりに木と白い紙とで作られた、軽くて薄い引き戸が填められている。

 因みに、昨日ミッターマイヤーが蹴り抜いた小さな潜り戸の方は、急場しのぎに裏からベニヤ板で補修してあった。

「昨日はどうも」

 泣き腫らした赤い目だが、それでも気丈に笑顔で挨拶して来たリーナに、敷居の上に腰を下ろしたミッターマイヤーは、先程見た新聞の記事について、どう話すか迷った。

 それを見越してか、リーナは努めて明るくこう言った。

 

「夕べ、お婆ちゃん家燃えちゃったんです。きっと、家捜しして見付からなかったから、荒らした痕跡消す為に火を付けたんですね」

「……そう、思うのかい?」

「あの人達、お婆ちゃんに悪事の証拠掴まれてますから。お婆ちゃん、それらを総て新しいご領主様に渡すつもりだったから」

 

 そこまで言うと、リーナはそのまま黙ってしまった。

 居心地の悪い思いをしながら、話題の転換を図ったミッターマイヤーは、ふと目に入った茶室の床を指差した。

 

「この敷物、草を編んであるのかい?」

「これ? お婆ちゃんは『畳』って呼んでいたわ。この『障子』って言う名の引き戸と一緒に、東洋の湿度が高くて冬寒い地方で生まれた、とても優秀な床材だって言っていたわ。板敷きの床に敷き詰めて使うんですって」

 

 はたと、ミッターマイヤーは『畳』を見た。昨日、ロイエンタールが口にした言葉が、何かを引っ掻いている。

 

「リーナさん、この『畳』という床材、持ち上げられるのか?」

「え、ええ、厚みの割りに重いけど。年二回、外に運び出して埃を落としているし」

 

 そう言ったリーナに頼み込み、ミッターマイヤーは二人で畳を剥がして見る事にした。

 リーナが植物の移植用に使っているこてを使って、畳同士が接する場所から引き上げる。

 厚み五センチ、縦九〇センチ、横一八〇センチの植物製の床材は確かに予想より重たかったが、一人で動かせない程のものではなかった。

 一枚、二枚と剥がして三枚目。壁際の畳の下から、ぽっかりと人一人やっと潜れるだけ床板が剥がされているのを見付け出した。

 

「これは……」

(やっぱり。御老体は他の場所で殺され、ここに連れ込まれて吊り下げられたのか)

 

 息を飲む少女の隣で、ミッターマイヤーは奥歯を噛み締めた。

 老婆の遺体を吊るし、戸口も窓も締め切って密室を作った人間は、床板の穴から床下へと逃げたのだ。

 これだけ丈夫な床材なら、自重で元の位置に戻るだろうし、多少人が乗っても少々の事では床板の穴に気付かれはしない。

 

(奴だ)

 

 胸の中で、ミッターマイヤーは唸った。

 ヘルムート・フォン・ツィーテンの頭に付いた蜘蛛の巣を、ロイエンタールが見ている。

 つまり、奴は彼らがここに来たあの時、未だ床下で息を殺していた可能性もあるのだ。

 どれだけ床板の穴を睨んでいただろうか。

 横に居たリーナが、何かを見付けて身動ぎした。

 それに気付いて顔を上げたミッターマイヤーに向かって、軍服に身を包んだ金銀妖瞳の美丈夫が近付いて来る。

 胸に下がっている将官を示す飾り紐に、リーナの方はすっかり度を失っている。

 だが、軍人の方はおたつく少女には一瞥もくれず、金髪の青年に向かって声を掛けた。

 

「ここに居たのか、ミッターマイヤー」

 

 事情が飲み込めずにおたおたする少女の横から、ミッターマイヤーは鋼色の瞳を親友に向けた。

 

「ロイエンタール、密室のトリックを解いたぞ」

「そのようだな」

 

 東屋の床を見たロイエンタールは、形の良い眉を軽く顰めた。

 彼の合図で集まってきた部下達が、連絡したり証拠写真を撮ったりしている。

 その様子をぼんやりと見ているリーナの横で、どう見ても貴族階級出身の高級軍人と、彼女よりせいぜい三、四才しか変わらぬだろう青年とが話し合う。

 長身の美丈夫の方が、出入り口と変わらぬ大きな窓から室内を覗き込み、板敷きの床でぽっかりと口を開けた四〇センチ四方の穴に失笑を洩らした。

 

「なるほど、床下か。どうやら、蜥蜴男の相方はヤモリの大将らしいな」

「笑い事ではないぞ、ロイエンタール。この後は、死亡推定時刻の問題だ。元帥閣下と検死官、奴らが一体どちらをごまかしたのか」

 

 厳しくそう言ったミッターマイヤーに向かって、おずおずとリーナは声を掛けた。

 だっと気配の変わった周囲の軍人達に一瞬気圧されたが、必死に背筋を伸ばしたリーナに、ミッターマイヤーが振り返る。

 

「あ、ごめん。もう少し待っててくれるかな。治安警察が来て、正式に調査したら、必ず元に戻すから」

「い、いえ、いいんです、あ、あの、お兄さん、軍人さんだったんですね」

 

 へどもどしている少女に、ミッターマイヤーは薄く苦笑いしながら頷いた。

 

「ああ、ごめん。俺達は、ローエングラム元帥閣下から、この庭園の視察を行うようにと御命令を受けたんだ。その際、軍服では観光客に余計な心的圧迫を掛けてしまうと思ったから、私服で視察する事にしたんだけれど。……却って、迷惑を掛けたような気がする、本当にごめん」

「いえ、そんな……あの、お名前をお聞きして構いませんでしょうか?」

 

 明確に一歩引かれてしまったのを感じて、ミッターマイヤーは先ほどよりも明確に苦笑しながら、向こうに立つ親友に視線を向けた。

 

「俺はウォルフガング・ミッターマイヤー。階級は大将。あちらはオスカー・フォン・ロイエンタール、同じく階級は大将だ」

 

 一瞬、ロイエンタールの色違いの瞳が、非難がましく小柄な親友を見る。

 だがミッターマイヤーは、それに動じず少女に微笑みかける。

 

「ミッターマイヤー、提督なんですね……」

 

 リーナの方は暫く何かを考えていた。

 だが、それを口にする前に、彼女は茶室から離れなくてはならなくなった。

 ケスラーと捜査員の一団がそこに到着したからである。

 

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