双璧の事件簿   作:怪傑忍者猫

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忘れじの庭園  ~白い海~

 それから一時間後、二人は宿舎に戻っていた。

 戻った宿舎には、アイゼナッハ・ビッテンフェルト組より先に、メックリンガー・ミュラー組が到着したと言う知らせが届いていた。

 

「うーん、アイゼナッハにビッテンフェルトの相手は辛いものがあっただろうか?」

「そう言うものでもあるまいよ。それよりも、ここまで徹底して金の亡者に徹してくれると、いっそ天晴れだな」

 

 ロイエンタールが差しているのは、件の行政官の事である。

 今回の改めての調査で、庭園内に設置されていた監視カメラとそのシステム丸々総てが、撤去され売り払われてしまっている事が知れたのである。

 

「中古とは言え、あの広大な園内をフォローするだけの数のカメラを売れば、それなりの金額になるだろう」

「それだけじゃない、園内の希少植物を盗み出しても、記録が残らないから知らぬ存ぜぬが通る、か」

 

 そう言うと、ミッターマイヤーは蜂蜜色の金髪を掻き混ぜた。

 金色の毛先が跳ね回るのを見ながら、ロイエンタールも大きく嘆息する。

 と、その時、ラウンジに流れる曲が切り替わった。眠気を誘うその曲に、ロイエンタールが苦笑する。

 

「やれやれ、ボッシュバーンの『軍神の出陣』か」

「『軍神の出陣』? 随分と間延びした出陣だな」

 

 暫く、曲に耳を澄ましていたミッターマイヤーの頭がかくんっと落ちた。

 テーブルに額がぶつかる前に、ロイエンタールの大きな手が受け止める。

 

「わっ」

「大丈夫か? これで寝入ってしまっては、『酒神の午睡』、『大神に捧げる聖譚曲』など聴く事が出来ぬぞ?」

「うわあ、新古典主義って」

 

 頭を抱えたミッターマイヤーに、温厚な声が訂正を求めて来た。

 

「いや、ボッシュバーンが特殊だっただけで新古典主義が皆こうとは思わないで戴けませんか、ミッターマイヤー提督」

 

 振り向くと、エルネスト・メックリンガー、ナイトハルトミュラーの二人がラウンジに入ってきたところだった。

 ソファーに腰を下ろしているミッターマイヤーの側にミュラーが座った。

 

「キルヒアイス提督から聞きました、大変な事態になっておられるそうですね?」

「ああ、参った。戦場の略奪で殺された死体は山ほど見たが、こんな平和な市街地で、しかも首吊り死体なんて見るとは思わなかったからな。それも、あんな小さな御老体が、あんな死に方をしなくてはならないなんて」

 

 コーヒーを啜りながら肩を落とす小柄な先輩に、ミュラーは掛ける言葉を捜して視線を泳がせた。

 その向こうで、流れている曲に暫く耳を済ませていたメックリンガーが、軽く口髭を撫でてこう言った。

 

「ふむ、四六〇年にフェザーンフィルハーモニーが録音したものですな」

「え、フェザーン?」

 

 不思議そうに首を傾げたミッターマイヤーの横で、ああと言いつつ長身の親友が頷いた。

 

「確か、オーディンとフェザーンの交響楽団が、新古典主義の二強だったな」

「ええ、バルドル星系の方は最古典のみしか扱いませんし。フェザーンは最古典も新古典も扱いますから、楽団の技量としてはあそこが一番でしょう。

 ただ、あそこはアレンジが過ぎますからなあ」

 

 そう言いながら音楽談義に(一人で)入ってしまったメックリンガーの言葉に、ぱっとミッターマイヤーが顔を跳ね上げた。

 

「アレンジ? 何だ、それ」

「ええ、フェザーン・フィルは、特に新古典主義の曲にアレンジを加えるのです。

 例えば、単調なリッテンヘルムには、曲調を壊さぬ程度に強弱をつけてメリハリを与えるように。確か、ボッシュバーンの曲は必要以上に長いものが多いので、長いものでは一〇分前後の短縮を掛けておりますな。

 この『軍神の出陣』も、単調なリズムが一五分以上続く第三楽章を切り詰めて、元より五分は短くしてある筈です」

 

 その言葉に、ミッターマイヤーの瞳が鋼色に変わった。

 振り返った親友に頷くと、ロイエンタールは口髭の芸術家提督に向き直った。

 

「メックリンガー、ボッシュバーンの音楽ディスクを幾つ持っている?」

「持っては来ていませんが、ホテル・ハイデクラオトでしたら、オーディン・フィル盤もフェザーン・フィル盤も揃っているでしょう」

「悪い、ホテルからディスクを借りて、ローエングラム閣下とキルヒアイス卿に、ディスクの確認をして貰ってみてくれ。

 後、フェザーン・フィル盤とオーディン・フィル盤とで、『酒神の午睡』、『女神の庭にて』、『軍神の出陣』、『知識の泉に巨人は立ちぬ』、『大神に捧げる聖譚曲』の五枚を掛けた時に、三枚目と四枚目の境目が何分後に来るかを確かめて欲しい」

 

 不意の言葉に戸惑いつつも、戦場に立っている時並みに緊迫しているミッターマイヤーに、メックリンガーは頷いた。

 

「音楽ディスクで時間操作か。わざわざご苦労な事だ」

 

 出て行く年上の同僚を見送りながら、呆れ口調でそう言ったロイエンタールに砂色の瞳と頭髪を持つ、元帥府の事実上の最年少幕僚も頷く。

 

「元帥閣下は、あまり芸術などには興味をお持ちではないでしょうから、ごまかせると思っていたのでしょうか」

「ごまかせると思っていたから、こんな大それた事をやったのだ、奴らは」

 

 吐き出すようにこう言うと、ミッターマイヤーはミュラーに向き直った。

 

「ミュラー、ケスラーにツィーテン行政官が鑑賞会に使ったディスクを差し押さえるように伝えてくれ。もしかしたら、フェザーン・フィル盤とオーディン・フィル盤、両方残っているかもしれない」

「判りました」

 

 通信の為、ミュラーが出て行くのを見送ると、ミッターマイヤーとロイエンタールは顔を見合わせた。

 

「恐らく、元帥閣下の生家の窮状は、社交界でも充分過ぎるほど流布しているからな。こう言う教養的な知識は無いと踏んで、経過時間の錯覚に用いたな」

「つくづく見下げた奴らだ。クレバーもツィーテンも、そこまでやっても金が欲しいか?」

 

 吐き出すようにそう言ったミッターマイヤーに、彼の親友は答えなかった。

 彼の父親は、妻と金にしか愛情を示さない男だったので。

 短い沈黙は、ホテルのボーイが破った。

 

「ミッターマイヤー様、お客様です。本館ロビーのカフェラウンジにお越しください」

「客? 俺に?」

 

 己を指差す蜂蜜色の金髪の高級士官に、彼と余り歳の変わらない、落ち着いた物腰のボーイは笑顔で頷いた。

 

「はい、リーナ・ガーラントと仰るお嬢さんですよ」

 

 その言葉に、ロイエンタールは軽く眉を顰め、ミッターマイヤーはああと得心した。

 

 

 ホテル・ハイデクラオトは高級ホテルである。

 その内装は伯爵家当主であるオーナーの趣味で、アールデコ風で尚且つ機能的に纏められている。

 花を生けた花瓶の乗せられた、丸テーブル一つ取っても非常に機能美と高級感溢れる、そんなラウンジの片隅でサロペット姿のリーナは、殊更心細い思いをしていた。

 ここが桁外れに高級ホテルであるのは判っている。だが、どうしてもあの蜂蜜色の髪の人に会わなくてはならなかった。

 しかし、警備兵の建つ別館側に近付く事が出来なくて、うろうろしていた彼女を本館側のドアボーイが呼び止めた。

 彼女がミッターマイヤーに会いたがっていると、ドアボーイから知らせを受けた支配人の判断でリーナはカフェラウンジに通され、ミッターマイヤーに知らせが入ったのだ。

 無論、VIPであるミッターマイヤーに見も知らぬ娘を会わせるのだ、彼女には判らないように周囲に警備員を配置した上で彼女を待たせていた。

 

「こちらです。遠距離からのスキャニングでは、火器爆発物の反応はございません」

 

 ボーイの言葉に頷きつつ、ミッターマイヤーは観葉植物の陰でこじんまりと座る少女の方に向かって歩き出した。

 その後ろから、彼を何時でも庇える態勢を作りつつロイエンタールが続く。

 

「リーナさん?」

「あ、ええっと、その、ミッターマイヤー、提督様」

 

 立ち上がり、もじもじとそう問い掛けたリーナに、ミッターマイヤーは気恥ずかしげに微笑んでソファーに座るよう勧めると、自らもその正面に座った。

 当然のように、ロイエンタールがその隣に座る。

 

「様なんていらないよ。それで、俺に何か用かな?」

「は、はい、実は私、お婆ちゃんから貴方様宛てに伝言を預かっているです」

 

 リーナの言葉に、ミッターマイヤーは隣の金銀妖瞳の親友と顔を見合わせた。

 彼女が『お婆ちゃん』と呼ぶ人間は、死んだコーダ老婦人しかいない筈だ。彼らの不審に答えるように、リーナはサロペットの胸ポケットから使い込まれた手帳を取り出した。

 

「お婆ちゃん、不思議と勘がいい人で、今回新しいご領主様がいらした時に、行政官達に何かされるの察していたみたい。それでお婆ちゃん、私に伝言したんです。ご領主の部下の中に、ミッターマイヤーと言う方が必ずいらっしゃるから、この方に伝えてくれって」

 

 名指しされて、不可思議そうに己を指差すミッターマイヤーに頷くと、手帳を開いてそこに書き止めた数行の言葉を読み上げる。

 

「えっと、『わが道行きは、水辺に問え。主に向かいて左手に並ぶ、三つ子の長子が総て知る』……以上です」

 その言葉に、ミッターマイヤーは腕を組んだ。

 顎に触れながら、ロイエンタールがボーイを呼ぶ。

 

「すまないが、近郊の地図を出してもらえるか?」

「お待ちください」

 

 そう言ってボーイが下がった後、ロイエンタールは手帳をしまうリーナに向かって、事実確認の為に質問する。

 

「ガーラント嬢、コーダ夫人が良く出掛けた場所で、水の多い場所は何処になる?」

「さあ、私、お婆ちゃんが庭園以外に出掛けるの見た事無かったし、公園の中でも水のエリアはむしろ私達が受け持って、お婆ちゃんはお茶室の周辺の手入れの面倒な区域を受け持っていたし」

 

 その応えに、ミッターマイヤーは顔を上げた。

 

「そうか、なんだそこか」

 

 そう言うなり、ばっと立ち上がったミッターマイヤーに、リーナとロイエンタールも慌てて立ち上がる。

 

「どうした、何処に行く気だ、ミッターマイヤー!」

「庭園だ」

 

 それだけ答えて走り出したミッターマイヤーを、慌てて二人は追った。

 

 

 ホテル側の門から入って、見慣れた区画を走り抜けた二人が見たものは、『枯れ山水』の白砂利の前に立つミッターマイヤーだった。

 それを見て、ロイエンタールが得心したと大きく頷いた。

 

「そうか、『枯れ山水』は水に見立てた空間だ」

「ああ。そして主が座っているのは西だ」

「待て、根拠は何だ?」

 

 ミッターマイヤーは、東屋――茶室――を指差した。

「あの建物がヒントだ。確か主賓席と言うのは、出入り口から遠い筈だ」

 

 その言葉に、リーナが手を叩いた。

 

「そうだ、よく皆さん間違うけど、あの建物の南側はあくまで窓で、出入り口は東側の小さな潜り戸の方なんです」

 

 彼女の言葉に頷くと、ミッターマイヤーは『枯れ山水』の東側に立ち、南側の三つ岩が並んでいる場所に向き直った。

 

「御老体の言う、『主に向かって左手』とはつまり、『西に向かって左』、つまり南だ。そして『三つ子の長子』は、『三つの岩の中で、一番長い岩』、つまりこの岩」

「では、そこから書類を取り出して頂きましょう」

 

 その言葉にはっと振り向くと、薄刃のナイフがリーナの喉元に突き付けられている。

 そしてそのナイフを握っているのは、異様なほど白く細い男の手で、その先では白面の優男が邪悪に笑っていた。

 

「貴様はクレバー」

「やれやれ、あの婆ぁ。こんな目と鼻の先に隠しているとはね。近くの小島を虱潰しにしたのに、何処にも無いから参りましたよ」

 

 にんまりと、白い爬虫類が笑ったような顔に、ミッターマイヤーは露骨に顔を顰めた。

 

「やはり、貴様があの御老体を殺したんだな」

「まあ、そうなりますかね。仕方がないでしょう、すかしても脅しても、資料のありかを吐かないんですもの。まあ、腹立ち紛れに首を絞めてやったら、簡単に死んでしまって参りましたよ」

 

 くつくつと笑うクレバーの腕の中で、リーナが蒼白になる。

 目測で彼我の距離を測りながら、ミッターマイヤーは男に話し掛ける。

 

「はなから、御老体を殺すつもりだったろう? 自分のアリバイを作る為に、キルヒアイス卿と元帥閣下を巻き込んで」

 

 その言葉に、一瞬眉を上げたクレバーだったが、ちらりとロイエンタールを見ると大げさに嘆息して見せた。

 

「やれやれ、没落貴族と成金帝国騎士の間に生まれたのは、伊達ではありませんでしたか。同じ帝国騎士でも、『スカートの中の将官』閣下なら絶対判らないと思ったんですがねぇ」

 

 地雷二つを思いっ切り踏み込まれて、ロイエンタールの形の良い眉が吊り上がる。

 時間稼ぎから、思い切り私情に走りながらミッターマイヤーはクレバーを問い質す。

 

「狙いは、御老体が隠した庭園資料と、お前達の悪事の告発資料か?」

 

 その問いに、カーチス・ウィル・クレバーは喉の奥で笑った。

 

「告発資料? そんなものはどうでも良い。私が欲しいのは、旧ローエングラム伯から全権を託されて全庭園を手掛けた、ヨゼフ・コーダの庭園資料だけですよ。

 あれには学術資料としても価値がある。フェザーンでオークションに掛ければ、好事家や園芸関係者が大金を積むのは判っている」

「どういう意味だ?」

 

 クレバーの動きを伺いながら、ロイエンタールが低い声で訊く。

 それに向かって、クレバーはにたりと笑って胸を張った。

 

「私はね、お金が欲しいのですよ。ある崇高な活動の為に、ね」

「崇高な活動? 人殺しをしてまで金が欲しいかっ!?」

 

 ミッターマイヤーの叫びに、返って来たのは蜥蜴男の嘲笑だった。

 

「人殺し? これは異な事を。貴方が、その肩書きを得るために殺した人間の数に比べたら、お迎えの近い婆ぁ一人くらいがどうだと言うんです?」

 

 その言葉に、一瞬ミッターマイヤーは詰まった。

 だが、クレバーの嘲笑をロイエンタールの方が切り捨てる。

 

「軍人が人殺しなのは、貴様如きに言われずとも知っている。だが、あくまでも吾々は職業であり、貴様のような犯罪者に、こき下ろされるような事は一つもしてはいないと言う事だ」

 

 その言葉に、クレバーの黄色い瞳が見開かれる。

 

「黙れ、共食いするどぶ鼠に等しい軍人風情が! 大いなる母の下に戻る、我らの崇高な活動の邪魔はさせん……痛いっ!」

 

 喋り続けているうちに、興奮の余り突き付けていたナイフを振り回そうとしたクレバーの腕に、リーナがお返しとばかりに喰らい付く。

 痛みに慌てて、彼女を突き飛ばそうとしたクレバーに向かって、ミッターマイヤーは引っ掴んだ岩の一部を投げ付けた。

 見事に額にヒットし、よろめいた白面朗から少女をもぎ取ったロイエンタールは、リーチを良い事に思いっ切り蹴り付ける。

 軽く五メートルも地面を転がったクレバーがやっとの思いで起き上がると、その周囲をざっと兵士達が取り囲む。兵士達に、ロイエンタールが固い声で命じる。

 

「殺人容疑、公金横領容疑、及び恐喝と強盗の現行犯だ。ケスラーが来るまで押さえて置け」

 

 やや乱暴に引き起こされながら、クレバーはにやりと笑った。

 その爬虫類じみた顔に、兵士達が一瞬ひるむ。

 だが、ミッターマイヤーの強い声が彼らの背を叩く。

 

「決して逃がすな」

 

 威圧している訳ではない、だが凛とした声が兵士達を支える。

 程無く、治安警察が到着し、クレバーの手に手錠が掛けられた。

 捜査員達に連行されるクレバーの背中を見ていたミッターマイヤーを、ケスラーが気遣った。

 

「御無事でしたか」

「ああ、なんとかな。ロイエンタール、彼女は?」

 

 親友の問いに、ロイエンタールは双色の視線で指し示す。

 リーナの方は、何事も無かったとアピールする為に両の手を広げて見せた。

 その様子に頷くと、ミッターマイヤーは目の前の大岩に向き直った。

 あの時、咄嗟に掴んだ岩の欠片の下に、ぽっかりと人の握り拳ほどの穴が開いている。

 そこに手を突っ込み、ミッターマイヤーは二つの物を掴み出した。

 一つは、一〇数枚の情報ディスク、もう一つは軍用端末仕様の小型情報ディスク。

 エリス・コーダが隠していたもの、だった。

 小型ディスクをケスラーに渡すと、ミッターマイヤーは情報ディスクの束をリーナに渡した。

 

「え、これっ」

「御老体が亡くなった今、これは君達『民営管理人』にとって一番必要なものの筈だ。いや、たぶん庭園維持の為の予算が組まれる事になるから、君達だけに負担を掛ける事は無いと思う。

 だけど、今まで庭園を守って来てくれた君達に、ローエングラム閣下はこの庭園をお預けになると思う。その時、これが絶対必要だ。そう思わないか?」

 

 ミッターマイヤーの真面目な言葉に頷きつつも、リーナはクレバーの言葉を思い出した。

 

「でも、この資料は高く売れるって」

「閣下はそんな事はなさらない。心配しなくても良いよ」

「吾々は、そんなさもしい物の考え方をする人間に仕えたつもりは無いな」

 

 ロイエンタールの言葉に、リーナは手渡されたディスクの束をきゅっと抱き締めた。

 

 

 ミッターマイヤーの予想通り、音楽ディスクにはオーディン・フィル盤とフェザーン・フィル盤の両方があり、オーディン・フィル盤のケースにフェザーン・フィルのディスクを入れたまま放置すると言うお粗末な状態で発見された。

 メックリンガーの検証で、例の三枚目と四枚目の区切りが、ちょうど九時四五分頃に来る組み合わせも確証が取れ、行政官達のアリバイ工作は崩れる事となった。

 発見された資料とディスクの小細工、そしてクレバーが逮捕された事を突き付けられると、ツィーテンは萎んだ風船そのままに打ちひしがれ、総てを自白した。

 これによって、新興宗教団体に所属するクレバーにおだてられ、言いように操られて公金横領に走ったツィーテンの内実が明らかになった。

 又、ヘルムートの方はクレバーに弱みを握られており、そのためにコーダ老婦人を茶室に吊り下げる作業をしたと自白した。

 

 

「やれやれ、漸くオーディンに帰還かあ」

 

 予定から二日遅れて、ミッターマイヤー、ロイエンタールの二人の艦隊はトール星系を離れる事になった。

 あの騒ぎの後、視察や書類整理に走り回った二人は、遅刻したアイゼナッハ・ビッテンフェルト艦隊の分も動き回る事となったのだ。

 己の旗艦の私室で、通信機越しにミッターマイヤーは苦笑いを浮かべた。

 その蜂蜜色の金髪の親友に、ロイエンタールは呆れたようにこう切り返した。

 

『庭園管理者達の組合に、別に行かなくても良いのに何度も顔を出していたのは誰だ?』

「仕様が無いだろう、切っ掛けを作ったようなものだし」

 

 旧ローエングラム庭園は、これまでの活動を認められた民営管理人達に託される事になった。

 内実として、新当主のラインハルトが庭園に興味が無い事もあって、産業振興を民間に託すテスト・ケースも兼ねてでもあったが。

 

『しかし、あのクレバーと言う男、喰えん男だったな』

 

 その言葉に、ミッターマイヤーは黙り込む。

 あの男の言葉に、まだ傷ついているらしい親友に向かって、金銀妖瞳の美丈夫はあえて厳しくこう言った。

 

『ミッターマイヤー、吾々は奴に貶められる覚えは無い。軍人と言う道を選んだ以上、【人殺し】のそしりは覚悟の上の筈だ。だが、それでもこの道を進み、世界を変えると決めたのではないか?』

 その言葉に、暫く目を閉じてからミッターマイヤーは小さく頷いた。

「そうだった。悪い、ロイエンタール」

『判ればいい。さあ、又サルガッソー宙域が待つ旅だ、気を抜くなよ、ミッターマイヤー』

「ああ、せいぜい航行時間を縮める事とするか」

 

 笑い合い、軽く挨拶を交わして通信を切る。

 この艦隊を率いて戦う日が、もうすぐそこに近付いていた。

 

 

 

 

……あははははは、母なる星が復権するその日がもうすぐやって来る。その日の為に、せいぜい殺し合え、どぶ鼠共。総ては母なる地球の為に……。




 舞台になった旧ローエングラム伯爵領『トール星系』は、かなり御都合的に作ってしまいました。
 でも、原作には伯爵になったラインハルトの領地の事はこれっぽっちも書かれていなくて、だったらいいかと無茶な設定をつけてしまいました。
 でも、こう言う無法も無茶もまかり通るのが、末期症状を呈していたゴールデンバウム朝だったのではないかと私は思います。

 後、コーダ婆さんがミッタ―マイヤーを待っていた理由は、彼が平民出身の高級軍人であると官報で知っていた事、そしてとある彼に付けた設定によるものですが、これは私設定と言う奴なのでここでは書きません。
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