年の瀬も押し詰まったその日、ウォルフガング・ミッターマイヤーとオスカー・フォン・ロイエンタール、いわゆる双璧の二人は元帥府内の食堂で、慌しく食事を取っていた。
年末の休みに加え、艦隊編成と近々行われる大規模艦隊演習の準備で、ここ数日二人は満足に家にも戻っていなかった。
「おー、お前らも今食事か?」
食堂全体に響き渡る大声は、当然フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトのものである。
目を丸くするミッターマイヤーと、同期ゆえの慣れで無言でいなすロイエンタールの座るテーブルに、トレイを抱えてビッテンフェルトが腰を下ろす。
因みに、昼時を幾分過ぎているので席に余裕はあるのだが、何故かビッテンフェルトは二人のテーブルに陣取った。
「何か用か、ビッテンフェルト」
「おう、ミッターマイヤーにな。お前には何も無いぞ」
冷たいロイエンタールの言葉をばっさり切り捨てると、ビッテンフェルトはマッシュポテトとザワークラウトとボイルドソーセージをてんこ盛りにした皿を引き寄せながら、ちろりとミッターマイヤーを見た。
「何かあったのか?」
「いやあ、ケスラーから、お前がなぞなぞを解いてくれると聞いたものでな」
次期憲兵総監と囁かれる男の名に、ミッターマイヤーの灰色の瞳が見開かれた。
「あ、誤解するな、特に事件と言う訳ではない。ただ、なぞなぞを解いて欲しいだけだ」
ざかざかとポテトを掻き込むオレンジ色の髪の男は、金銀妖瞳の伊達男の凍り付くような視線には一切堪える様子が無い。
「どんな、なぞなぞだ?」
あまり時間無いぞ、と前置きしたミッターマイヤーに、止めておけとロイエンタールの視線が告げる。
だが、そんな視線には一切気に止めず、ミッターマイヤーはビッテンフェルトに向き直った。
「お、すまんな」
さらりとそう答え、ビッテンフェルトはこう話し始めた。
「いやもう、本当にちょっとしたなぞなぞなのだがな、もう三日も悩んでいるのだ」
「卿、確か次の演習に参加する筈では無かったか?」
ロイエンタールの突っ込みを綺麗にスルーすると、ビッテンフェルトは手近なナプキンに愛用のボールペンでがりがりと数字を書き込んだ。
『 D 1 7 2 4 3 1 7 』
「これは?」
「こいつ、ある法則のもと並んでいるらしいのだがな、俺にはトンと見当も付かぬのだ。この後来る数字があるのだがな」
ビッテンフェルトの言葉に、ミッターマイヤーは無意識に親友を見返していた。
ロイエンタールの方も、呆れた表情でビッテンフェルトに向き直る。
「おい、まさか本当にこれが判らないのか?」
「お、判るのか、ロイエンタール」
やはり大盛りのグリーンサラダを掻き込むビッテンフェルトに、ミッターマイヤーが指差しながら解説してやる。
「最後の7以外は、二つづつ見ればいい。つまりDの後は17、24、そして31だ」
「ほほう」
親友の説明に対して、興味深そうな同期の男に頭痛を覚えながら、ロイエンタールが言って寄越す。
「そこまで聞いて判らないのか、卿は? 要するにカレンダーを縦に見ればいいのだ」
「んあ?」
未だ要領を得ないビッテンフェルトに、根気良くミッターマイヤーは言葉を続けた。
「だから、七日の次は一四日、だから答えは一四だよ」
「察するところ、Dと言うのはDezember(12月)のDだろう。一月一四日なのではないか」
ロイエンタールの指摘に、ビッテンフェルトは突然椅子を蹴った。
「そうかっ! 一月一四日か! よおっし、オイゲンいるかっ!」
そう叫ぶなり、ビッテンフェルトはトレイを抱えて飛び出して行った。
後には、突然の事に絶句しているミッターマイヤーと、やれやれと言いたげなロイエンタールとが残された。
「何事だ、あれは」
「うちの幕僚が聞いたところによると、参謀長とビッテンフェルトの間で、なぞなぞのやり取りがあったそうだ」
「それがあれか? しかし、何もあれほどムキにならなくても」
ミッターマイヤーに向かって、ロイエンタールは食後のコーヒーを飲み干してこう言った。
「それがな、このなぞなぞが解けなかったら、奴は演習に参加しないと言う約束を、元帥の目の前でやらかしたらしいのだ」
一瞬、あまりにも子供じみた騒ぎに毒気を抜かれたミッターマイヤーは、ある事に気付いて表情を改めた。
「なあ、確かこの一月一四日と言うのは、演習の実行日ではないか?」
「……念を押されたと言う事か」
顔を見合わせた二人は、どちらからともなく嘆息すると、一斉にテーブルから立った。
それは、リップシュタット戦役前の話である。