ーー今から貴方は死にますーー
そう告げられたら人はどんな事を思うだろうか。
今までの行いを後悔、懺悔し、挙げ句にはその現実を否定するのか?
受け入れ、前を向き、悔いなく死んでいくのか?
まぁ、分かるわけもない。
しかし、少なくとも自分は前者の方なのだろう。
その現実を否定し、受け入れず、結局は自暴自棄になる。
人間らしいと言えば人間らしいのだろうが、正直穏やかにその余生を終えた方が平凡で、普通な人生を送れたのだと自己満足に浸れる。
それがいいに決まってる、それが一番良い死に方だ。
「............」
結果、自分は死んだ。
老衰だ、病気で苦しむこともなく、殺人や事故にも合わずに生涯を全うした。
静かに、眠る様に死ねた。
理想の生き方をしたか?と問われたら即答で「いいや」と言うが、理想の死に方をしたか?と問われたら「はい」と言える。
もう後悔はない。
「.......ここは...」
そう、彼は生涯を終えた。
普通に結婚した妻や娘、息子に看取られながら。
そこまでは良かったのだ。
しかし、そこから彼の新たな人生はスタートする。
輪廻転成、それがこの世界での考え。
簡単に言えば、死んだ際に身体という器から出る霊魂が何回でも何度でも生まれ変わるという考えだ。
そんなのはあり得ない、いや、あり得る。
世界のルールというのは案外緩いものだ。
人の噂で常識が変わるのと同じ様に、その考えが"当たり前"になってしまえば、最初からあったルールとして作り変わる。
なんら変なことはない、それが「当たり前」なのだから。
「...真っ暗だ...どこなんだここ?」
青年は真っ暗な空間の中にただ立ち尽くしていた。
周りを見渡そうが、いくら走り回ろうが黒一色な空間。
「...............」
どんなに待とうが、どんなに大声を出そうが、山びこの要領で返ってくる自身の声が誰もいないという事実をマジマジと感じさせられた。
「......これが地獄ってや「んなわけねぇだろ」
「んおわ!??!!!!?」
今自身が置かれている状況を知り、気を抜いた瞬間、背後から聞こえた声に彼は叫びをあげる。
そして彼は瞬時に背後から聞こえた、その声の主を見た。
「ここは、ただの溜まり場、待合室みたいなもんだよ」
その視界の先には長身の女性がいた。
外見は白色の短髪に、紅の様に暗く燃える両目が特徴的で、しかしそれ以上に少し前から聞こえた男っぽい口調とその長身で美人という外見のギャップが激しく、彼はその瞬間、
『あ、これは一部の層から絶大な人気を得られる人だな。そんぐらいまでにキャラが濃すぎる』
そう思ったという。
「......溜まり場...ですか?」
「ん、ここは死人の魂が唯一、魂だけの状態でもいられる場所。よく聞く現世とあの世の境ってやつだよ」
「そこであんたには複数の選択肢から選んでもらう。いや、選ばせる」
「......いちいち表現を誇張しなくとも」
「...ん〜...いや、まぁ、"君"には普通でいっか......ここまで言わないと分からない奴が、大半でね。ついつい荒っぽい口調になるんだよね...偶に、輝いた目でこちらを見る奴もいるからウンザリしていることもあるのは...あるよね...」
いたか、やっぱ。
あちらの世界にいた時もギャップ萌えというのが流行っていた。
正直、自分はそのギャップも萌えというのも何なのか分かりはしなかったが、なるほど今ならなんとなく理解しきれる。
つまり、人から好まれやすい性格という事なのだろう、いつもはキツくあたるのに特定の状況下では甘えさせてくれる、などといういわゆる"飴と鞭"......いよいよ、人の好みも原始化してきたのだろうか......
ギャップ萌えの魅力というなんとも言えない奥深さに彼がそれとなく納得していると、彼女は何故かクスリと小さく笑った。
子を温かく見守る様な、そんな慈愛を込めた目で。
「.....そういえば君、驚かないんだね」
「は?」
「......僕の姿だよ」
「......ん?何に...」
「......ほい」
軽く、彼女は腰の後ろを見せてくる。
するとそこには、まるで意思がある様に一人勝手に動き回る黒い尻尾が生えていた。
「......え、何だそれ?」
「あ、気づいてなかったんだ。僕ね、人間じゃなく吸血鬼って奴。それもかなり特殊な、ね」
彼女はまるで子供が自分のおもちゃを見せびらかす様に楽しそうに、自分の身の上を明かした。
恐らく、そこから彼女は自身の詳しい事も話し始めるのだろう。
でも、なんとなく自分は、
「待った、一気に言われても疑問が増えていくだけだ...ゆっくりにしてくれ...」
「んあ、そういえばそっか...分かった、ごめんこっちにも配慮が足りなかった」
聞いてはいけない様な気がした。
彼女自身、無理している感じはない。
自分が数十分しか知り合ってない間柄だからなのかもしれないが、まるで自分にはその背負っている重荷を誰かに担がせようとしている様にしか思えなかった。
別にそれ自体は悪い事じゃない、いや厳密に言えばそれを悪い事と今更言う必要はない。
実際、共感できるのだ。
だが、自分の辛いことを親や、友人に話すという行為すら"誰かに重荷を背負わせる"行為と同義だ。
その行動は悪くない、でも相手を選ばずに行なうのならばそれは悪だ。
見知らぬ他人に話して、そうしてどうなる?
顔しか知らない人に話して、どうかなるか?
出会って一日も経っていない奴に話して、望む答えを出してくれるか?
答えは、否だ。
だから、自分が彼女を知るには、まだ早過ぎる。
「「...............」」
話が途切れてしまった所から何分経ったか、まだ沈黙は続く。
しかし、その沈黙を打ち破ったのは彼だった。
「.........そういえば......」
「......ん......」
「...自分は見事に死んだ訳ですけど、これからどうな「転生してもらう事になってる」......転生、ですか?」
「そ。新しい世界で新しい人生を歩むか、元の世界で別人に転生して生きるか」
「そうしたら自分は新しい人生を歩みたい...ですかね」
「......それまた、どうして?」
「......何となくです」
「.........」
実際、この時は理由がなかった。
何なら記憶を消されてまた別人として、あの世界に転生されても良かった。
思い出はある、嬉しかった出来事も記憶もある。
でも、"だからなんだ"
もう終わったのだ、息子も娘も平凡に普通に生きてくれるのだろう。
心のない奴と思われるかもしれないが、なら問わせてもらう。
ーー死んだ奴が今更生きてる奴に何が出来るーー
「......じゃあ、やりますか」
「....な、なんか展開が早いですね...」
「こういうのはパパッとやってしまった方が良いものですよ」
「...ちなみにどんなところに行くなんて分かります?」
「魔法とかなんか色々ある世界です」
「なんか凄そう」
いや、凄い、魔法とか本でしか見た事ないが。
炎出すとか、風を操ることか、そんな超常的な力。
出来るのならやってはみたいが...出来ないのならそのまま気ままに、また暮らすのもありなのだろう。
「......ちなみにその魔法って自分にも...?」
だが、使いたくないわけではないです。
「ん?全然使えるよ。正確には魔法より魔術に近いけどね」
魔術に、魔法。
似たような単語ではあるがこのように言い方で区分するという事は似ているようで大分違うのか、もしくはその代償、条件が違うのか...
「簡単に言えば、魔法は大小も無く行使することの出来る力、でも極々少数しか操れない、選ばれた力ってやつ」
「魔術は代償を払う代わりに魔法とは違ってその威力、行使するまでの時間、規模を選べる。等価交換を経て行使される力って感じかな」
「でも、魔術は誰にでも扱える。つまり"その魔術を打ち消す魔術"があるのもまた当然。魔法は前例自体が極少数だから打ち消す魔法や魔術も無いんだよ」
......つまり、魔法は安定した火力を出せるもの。魔術は等価交換によって力を調節出来るが誰でも出来るが故に対策をされやすい力...か。
バランスが良い...というのは聞こえが悪いがやはり世界っていうのは誰かが作っているのだろうなと、今更再確認した。
「......よし、行きましょう」
「...?やけにウキウキしているようだけど...?やっぱり楽しみ?魔法とか使えるかもー...とか?」
「...そりゃあ、まぁ。自分も人並みに欲を持ってますから」
「......消えちゃうのに?今までってやつが」
「.........」
消える、そうだ、消えるのだ。
新しいゲームに挑戦しても今までしていたゲームは消える事はなかった。
何か快挙を成し遂げ、後にまた他の快挙を成し遂げたとしてもその前の記録は消えることがなかった。
でも今は消える。
一歩を踏み出せば消える。
忘れてしまえば消える。
自ら、忘れるのだ。
決心した、自分が死んでも三人は普通に生きてくれると信じた。
でもどこにそんな保証があるのだろうか、やはり自分が守らなくてはいけないのでは無いか。
「.........やめるかい?」
「.........」
「.........」
「「............」」
再び長い沈黙。
けれども、周りを取り囲む空気は重く、暗く。
「......やめてもいいんじゃ「いや、行きます」......そう」
彼は後悔していた。
言い訳をして何も考えなかった自分に。
彼は恥じた。
自分の気持ちに気づけなかった自分に。
たしかに、不安だ。
付いてやりたい、あいつらがこっちに来るまでひっそりと気長に見ていたい。
でも、前にも思ったはずだ。
"死んだ奴に何が出来る"
そうだ、何ができるのだろう。
あいつらが死ぬのを待って「おう、今までお前らを見てたぞ!」というのか?
いや、意味はない。
結局はカッコ良くも無く、また誰かからも称えられることもしなかった、ただの。
ただの不甲斐ない父ちゃんなのだから。
「......じゃあ、やりますよ?」
「......はい」
彼女は大きく二回手を叩いた。
すると、二人の目の前には巨大な扉がいつの間にか、そこにあった。
「さぁ、自分で開いて。それが自身でつける今までとのけじめというやつです」
彼はその扉に向かって、一歩、また一歩と踏み出す。
その度に走馬灯のようなものが見え始める。
平凡でも幸せで、普通でも笑えて生きてこれた。
子供とは喧嘩した、女房とも喧嘩した。
でも、やっぱりどことなく、幸せだったんだと思う。
自分のワガママで消えるのだ。
自分の選択で消えるのだ。
だから、責任を持て。
振り返るなよ、振り返れば決心が揺らぐから。
「............よし!」
目の前には扉が。
彼はゆっくりとその扉に手を添えた。
その瞬間、扉は勢いよく開き、
『彼を上空へと投げ飛ばした』
ちなみにキャラの言い方がブレブレですが、実際、時間が経てば敬語なんて抜けていくものですよ