魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


一触即発?

帝国兵達の目的は人攫いだった。

フェアベルゲンは復興と死者の弔い、負傷者の看病に追われ、ハウリア族も戦後処理で集落に引っ込んでいた結果、多数の亜人族が抵抗する余裕もなく攫われてしまったのだ。カム達がそれに気づいて帝国兵の一人を攫って尋問した結果、帝国も魔物の群れに襲われ、復興の為の労働力確保と()()()()()()()の補充の必要性から、樹海を端から焼く、または亜人奴隷に拷問まがいの強制をして踏み込んだそうだ。

 

カム達は急いで他の兎人族の集落に駆けつけたが、時、既に遅く。女子供のほとんどが攫われた後であった。

流石に、同族の悲惨な末路を見過ごせなかったハウリア族は、仲間の過半数を樹海の警備ために残し、カムを含む残りの少数で帝都へ向かう輸送馬車を追ったのだが、そろそろ帝都に着いたはずという辺りで、カム達からの連絡が途絶えたのだ。

 

そこで、樹海に残った者から何人を選抜して斥候に出したところ、カム達は帝都に侵入したまま、出てこないようだとわかり、更に情報を収集しようとしていたところで、たくさんの亜人族を乗せた輸送馬車が他の町に向けて出発したという情報を掴み、パル達の班が情報収集兼ねて奪還を試みたというわけである。

 

 

「しかし、ボス、教官。もしや、魔人族は他の場所でも?」

 

「ああ、あちこちで暗躍していたぞ?」

 

「運悪く俺らがいたせいで尽く潰えているけどな」

 

 

ウル然り、ホルアド然り、アンカジ然り、王都然り、どれもハジメとソウジがいたせいで尽く失敗に終わってしまっている。それも、たまたま居合わせて、邪魔だからという軽すぎる理由で蹴散らされているのだから堪ったものではないだろう。今回の樹海襲撃など、本人達がいないにも関わらず、本人達が残した影響で目的が潰えているのだから。

八重樫達はこの時初めて、魔人族に同情してしまった。

 

 

「成程……()()ではそのような事になっているのですね」

 

 

そんな中、アリアがはっきりとそう口にした事で、アリアが帝国の人間だと知ったパル達が一斉に警戒心を露にアリアを睨み付ける。

 

 

「アリア様に手を出されるようでしたら、その瞬間から首を容赦なく落としますので悪しからず」

 

 

そんなパル達に向かって、フィアが既に展開した大鎌を構え、血の気が引く笑顔で警告を発する。

 

 

「あ、それとあなた方程度でしたらアリア様一人で簡単にあしらえますよ」

 

 

フィアのその言葉に誰もツッコマない。間違いなく事実だとパル達は肌で感じ取り、ソウジ達は既に知っていたからだ。実際、勇者(笑)の天之河を文字通り、一瞬で地面に沈めたのだから。

 

 

「それと、彼らの状況は大方の予想はできています。ほぼ間違いなく、囚われの身となっているでしょう」

 

 

フィアのその言葉に、パル達はピクリッと反応し、アリアがそれを引き継いでいく。

 

 

「聞けば、既に相当な数の帝国兵を“暗殺”してますよね?本国は間違いなくその“暗殺者”の正体を確かめようとする筈です。正体が分かれば、間違いなく生け捕りにするでしょう。今頃、皇帝陛下自ら彼らに“飼ってやる”と言っているでしょうね。もし断れば、ガハルド皇帝は大規模な兎人族狩りをするでしょう。“強い兎人族”を自分のものにする為に」

 

「……随分皇帝の事を知っているんだな?」

 

「何度も皇帝陛下に求婚されましたので。その度に皇帝陛下を地面に沈めましたが。後、皇太子様は拳一つで黙らせました♪」

 

 

アリアの口からサラリと出てきた驚愕の事実に、一同は内心は見事に一致した。

 

―――歌姫、ヤバすぎだろ。と

 

 

「アリアさん、あの皇帝さんより強いんだ……」

 

「正直、説得力がありすぎるわね……」

 

「うん……光輝くんが地面に刺さった時も一瞬だったからね……」

 

 

香織と八重樫、谷口がボソボソと声を潜めて呟いているのを尻目に、アリアとパル達の話は続いていく。

 

 

「……何故俺達にその事を教える?」

 

「交渉の為の前金ですよ。“互いに不干渉でいく”という交渉をあなた達に呑んでもらう為の」

「……へぇ」

 

「私はあなた達の行動を感知しませんし、手も出しません。そちらも私と私のご家族、フィアに手を出さない……とても魅力的な内容だと思いますが?」

 

「……いいわ。ここでは口約束でしかないけど……貴女達に干渉はしないわ。そちらが手を出したり、私達のことを帝国に話したら盛大に反撃させてもらうけど」

 

「それで構いませんよ。そちらが先に仕掛ければこちらも実力で排除しますので」

 

 

パル達は不敵な笑みで、アリアはにこやかな笑みで互いに不干渉の条約を結んでいく。

 

 

「そういえば、私達は帝国兵を多く殺しているのだけど、その辺りはどう思っているのかしら?」

 

「あなた達は相手を殴る際、殴られる覚悟をお持ちですか?それと、彼らが死んだのは、彼らがあなた達より弱かった結果です」

 

 

帝国人らしいアリアの返答に一同は苦笑しつつ、帝都から少し離れた場所でパル達とアリア、リリアーナと近衛騎士達を降ろし、ソウジ達は【ハルツィナ樹海】へと改めて向かうのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

久々に足を踏み入れた【ハルツィナ樹海】は、帝国兵が通ったであろう道が焼け焦げた木々の光景で広がっていた。

 

 

「ひどい……」

 

 

谷口が痛ましそうにその光景を眺めていると、香織が気合い十分で再生魔法を行使して樹海を()()()()()に復活させた。

 

 

「香織……なんの為にここに着陸したと思っているんだ?」

 

「ここからなら、途中までは迷わずに進めるからだったのに……」

 

「……バ香織」

 

「うぅ……」

 

 

ハジメ、ソウジ、ユエの辛辣な言葉に、銀髪を黒く染め、ハジメが用意した度がないコンタクトカラーレンズで元の身体の瞳の色と同じになっている香織は涙目となる。

結局、シアの先導で樹海を移動する羽目となり、以前と同じ方法でフェアベルゲンに向かっていると、あの時の武装した虎耳の集団がソウジ達の前に現れた。

 

 

「お前達は……今度は何の……」

 

 

その内のリーダー格―――ギルが目的を尋ねようとしたところで、ハジメの近くにいたアルテナに気がついて、その目を驚愕に開かせていく。

 

 

「アルテナ様!?ご無事だったのですか!?」

 

「はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂いたおかげで」

 

 

アルテナのその言葉に、ギルは安堵と呆れを含んだ深い溜め息を吐いた。

 

 

「それはよかったです。早くアルフレリック様に元気なお姿を見せて上げて下さい。貴女様が攫われて、大変お辛そうでしたから……お前達は、ここに来る時は亜人を助けてからというポリシーでもあるのか?」

 

「そんなポリシーあるわけ無いだろ」

 

「全部偶然だ。オレ達はコイツらを用事のついでに送り届けただけだ」

 

「傲岸不遜なお前達らしいな……だが、礼は言わせてもらう」

 

「それより、ハウリア達の連中はフェアベルゲンにいるか?コイツらをフェアベルゲンに送り届けた後はハウリア族に会いに行きたいんだが」

 

「ああ。襲撃があってから、ハウリア族の者が数名常駐するようになっているからフェアベルゲンに行けばすぐに会えるぞ」

 

「そうか」

 

「なら、さっさとフェアベルゲンに向かうぞ」

 

 

相変わらずのハジメとソウジの態度に、ギルは再び呆れた顔をしながら、武装を構えていた部下達に武器を収めさせて先導を努め始める。

ギルの先導で辿り着いたフェアベルゲンは、最初に訪れた時の幻想的な雰囲気は見事に消えており、あちこちで痛ましい光景が広がっていた。

そして、攫われていたアルテナ達を見たフェアベルゲンの人々が驚きを露に駆け寄り、次第にソウジ達の周囲がフェアベルゲンの人々で埋め尽くされていく。そして、完全に埋め尽くされた状態がしばらく続くと、アルフレリックがソウジ達の前に姿を現した。

 

 

「お祖父様!」

 

「おぉ、おお、アルテナ!よくぞ、無事で……」

 

 

互いに抱きしめ合う家族の再会に、周囲の人々が涙ぐんで見守っていく。そして、アルフレリックがアルテナの頭を優しく撫でた後、ハジメとソウジに苦笑い表情で視線を向ける。

 

 

「……とんだ再会になったな、南雲ハジメに空山ソウジ。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。……ありがとう、心から感謝する」

 

「俺達は送り届けただけだ」

 

「感謝や礼をするならハウリア族にしろよな」

 

「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さん達だろうに。お前さん達のなした事が孫娘のみならず我等をも救った。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」

 

 

アルフレリックのその言葉に、ハジメとソウジは互いに顔を見合わせて仕方なさそうに肩を竦め、肝心のハウリアの所在について聞く。

 

 

「今、フェアベルゲンに常駐しているハウリア族は何処にいる?俺達はここにハウリア族がいるというのもあって来たんだが」

 

「ハウリア族は今、フェアベルゲンの外に出てしまっておる。じゃが、すぐに戻るはずだから、私の家で待っていてくれ」

 

 

アルフレリックのその言葉に素直に頷き、ソウジ達はアルフレリックの家でハウリア達を待つことにする。

その際……

 

 

「……そなた、何処かで会ったことはないか?」

 

「いえ?初対面ですが?」

 

「……そうか」

 

 

アルフレリックの疑問に、人間状態のフィアはしれっと嘘をついて誤魔化していた。

アルテナが入れたお茶を、外の香織コールを無視しつつ飲み終わる頃に、ハウリア族の男女複数人、慌てたようにバタバタと駆け込んできた。

 

 

「ボス!!教官!!お久しぶりですっ!!」

 

「お待ちしてましたっ!ボス!!教官!!」

 

「お、お会いできて光栄ですっ!」

 

「新入り!他の野郎共にボスと教官のご帰還を三十秒で伝えてこい!」

 

「了解でありますっ!!」

 

 

その余りの剣幕に、天之河達が盛大にお茶を吹き出す。吹き出したお茶を拭きながら全員がそちらを見ると、複数人の兎人族が見事な敬礼を決めていた。ハジメとソウジにも見覚えのない者が何人もいるので、ハウリア族は他の兎人族を取り込んで勢力を拡大していたようである。

一先ず、ハジメとソウジは彼らに軽く挨拶をすませた後、パルから頼まれた伝言を彼らに伝える。カム達の情報と応援の要請を。

 

 

「なるほど。ありがとうございます、ボス。教官」

 

「………………お前も……二つ名があったりしないよな?」

 

「もちろんあります、ボス!俺は落ちる雷の如く、予測不能かつ迅雷の挙動を繰り出す!“雷速のイオルニクス”です!本当は“雷刃”が良かったのですが、それは余りにも教官に失礼過ぎるので“雷速”にしました!」

 

「……そうか。今のハウリアの戦力は?」

 

「……確か……ハウリア族と懇意にしていた一族と、訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので……実戦可能な者は総勢百二十二名になります……。教官、何故そのような質問を?」

 

 

“雷速の……イオの疑問を尻目に、ソウジはハジメに顔を向ける。

 

 

「そのくらいの人数なら、フェルニルで全員一度に運べるな」

 

「ああ。イオ……ルニクス。帝都に行く奴等をさっさと集めろ。全員まとめて送り届けてやる」

 

「は?はっ!直ちに!」

 

 

イオはハジメとソウジが帝都に同行してくれるという意味だと察し、敬礼してから仲間を引き連れ、急いで外へと出ていく。

一番驚いているシアの対応はハジメに任せ、ソウジは他のメンバー、もとい、八重樫達勇者パーティーに顔を向ける。

 

 

「つう訳で大迷宮攻略は少し延期だ。文句はあっても一切受け付けないからな」

 

 

ソウジの有無を言わさぬ物言いに八重樫達は苦笑いとなる。天之河だけは複雑な表情をしていたが。

 

 

「……やっぱり、仲間のためには動くんだな」

 

 

ボソリ、と小さく呟く天之河の言葉を、何当たり前な事を言っているんだと内心で思いつつスルーして、一気に明るくなったシアを横目で見守るのであった。

 

 

 




「香織、そのままでいいのか?」

「?イメチェンみたいで新鮮だからこのままで別にいいと思うけど?」

「良く考えろ。今のお前と同じ容姿の連中が沢山いる光景を。そして、アタランテがメイル・メルジーネに言っていた恨み節を」

「今すぐ髪を染めるよ!」

「ずっと着けていられるコンタクトカラーレンズを作ってやろうか?香織」

「それもお願い!」

黒いアレ扱いされる嫌悪感から、髪を染め、コンタクトカラーレンズを着けることを決めた香織の図。※服も元の身体で香織が着ていた服と、ノイントが着ていた服を融合させた服となりました。

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