魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


帝都にて

雑多。

それがヘルシャー帝国の首都を表現する一言である。

徹底的に実用性を突き詰めたような飾り気のない建物。後から継ぎ足し続けたような奇怪な建物。

雰囲気もホルアドのようにどこか張り詰めたような緊張感が漂い、露店の店主達ですら“お客様”からはほど遠い接客ぶり。

 

だが、それらは皆がそれぞれやりたい事をやりたいようにやるという自由さが溢れている賑やかさだ。

ヘルシャー帝国は傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家だ。帝都民の多くも戦いを生業としており、良くいえば豪気、悪くいえば粗野な気質だ。

そんな帝都の気質は女性陣には不評であり、特にシアは亜人の奴隷に心を痛めていた。人間モードのフィアは平然と流し見ているが。

 

 

「……同じ人なのに奴隷なんて……許せないな……」

 

 

ソウジ達の後ろを歩いている天之河が、歯噛みする。放っておけば、そのまま突撃しそうな状態だ。

本当に突撃したら全力で他人のフリをするが、ストッパー役の八重樫がいるのでその心配はないだろう。悩筋(坂上)の煽りも谷口が抑えこんでいるので大丈夫だろう。女性陣の心労がデカイが……

 

 

「そういえば、雫ちゃんは皇帝陛下に求婚されたよね?」

 

「……そういえば、そんな事もあったわね」

 

 

香織のその言葉に、八重樫は思い出したくなかったように顔をしかめる。ユエ達のニヤついた視線から逃れるように、八重樫は具体的な方針をソウジに問いかける。

 

 

「そんな事より、空山君。今何処に向かっているの?」

 

「冒険者ギルドだ。“金”を利用すれば大抵の情報が得られるからな」

 

「……やっぱり、彼等が捕まっていると考えているの?」

 

「シアには悪いが、その可能性が濃厚だろうな。帝都の警備のレベルを考えればな」

 

 

ソウジ達が帝都に入る際、入場門で一人一人身体検査をさせられた上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐して常に目を光らせていた。都内もスリーマンセルであちこち巡回して裏路地にまでしっかり目を光らせているのだ。

そんな帝都の警備態勢に、パル達は帝都へ侵入できずに隙を窺うことしかできず、運んできた増援部隊も帝都から離れた岩石地帯で潜伏中である。故に、カム達は帝国の罠にかかって捕まったと考えるのが妥当なのだ。

ソウジの言葉に不安そうな表情をするシアをハジメが、「いざとなったら、帝都を灰燼にして取り戻せばいい」と励ましつつ、一同は冒険者ギルドを目指していく。

 

 

「そういえば、フィアさんは平然としていますね」

 

「もう見慣れた光景ですので。子供に関しては何も思わない訳ではありませんが……他の者に関しては“運がなかった”と割り切っています」

 

「……そうですか」

 

 

フィアの返しにシアが神妙な気分になっていると、天之河がフィアの言葉に眉をしかめた。

 

 

「フィアさん。どうしてそんな事が言えるのですか?彼等は貴女と同じ―――」

 

 

正義スイッチがONとなりかけた天之河を、フィアはにこやかな表情のまま、その顔を鷲掴みにして強引に遮る。

 

 

「私は“捨てられた”側の人間です。そんな彼等に同情するほど、私は聖人君子ではありませんし、人間の姿なのも奴隷の方々の憎悪と羨望の視線が鬱陶しいからです」

 

「……っ」

 

 

フィアの底冷えする声色で言い放った言葉に天之河を含む八重樫達は暗い気分となり、ソウジ達は確かにという感じで肩を竦める。

自衛もままならない齢四つの時に、魔力を持っていたという理由だけで国の掟により、魔物が蔓延る外へと追放されたのだ。シアのように一族ぐるみで隠蔽もされず、見捨てられてフェアベルゲンから追い出されたのだから、情を抱けという方が困難だろう。

そんなフィアは鷲掴みにしていた手を離し、話は終わりだと言わんばかりに歩を進めていく。

 

 

「……私って本当に恵まれていたんですね。父様やパル君、ナラさん……多くの家族に守ってもらえて……フィアさんは誰にも守ってもらえず……」

 

 

フィアの言葉にウサミミを垂れ下がらせて落ち込むシアに、ハジメがホッペをムニムニする。

 

 

「あんまり気落ちするなよ。あいつはあいつ、お前はお前だ」

 

「それは、そうなんですが……」

 

「それに、あのメイドは今の自分に満足しているんだ。さっきのも単に理由を話しただけで同情して欲しいからじゃない。むしろ、同情するのが逆に侮辱になるぞ」

 

「……はい」

 

 

暗い雰囲気となりながらも、一同はメインストリートを歩いていく。

その道中で耳に入ってきた話によると、コロシアムで決闘用に保管していた魔物が、突然変異して見たこともない強力かつ巨大な魔物となって暴れ出したようだ。その気に乗じて、魔人族が一気に皇帝陛下を狙ったようだが、その魔物共々、見事に返り討ちにされたようだ。

 

その為、コロシアムを中心に建物が幾つも倒壊しており、その瓦礫の撤去に奴隷の亜人族が大勢酷使されていた。

ギルドへはその道中を通らなければ辿り着けないので、亜人族の悲惨な光景が自然と入る中、犬人族の十歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転んでしまい、手押し車に載せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまっていた。足を打って痛がる犬人族の少年に、棍棒を持った帝国兵が剣呑な眼差しで近寄っていく。何をするのかは誰が見ても明白である。

 

 

「おい!やめっ……」

 

 

案の定、天之河が大声を上げて駆け出そうとしたので、ハジメが義手の針を飛ばしてその帝国兵を躓かせて地面へと転倒させて天之河の出鼻を挫く。

躓かされて瓦礫にダイブした帝国兵は見事に気絶し、他の帝国兵に呆れなれがら運ばれていく。犬人族の少年は目の前の光景に暫し呆然としていたが、すぐに我に返って瓦礫を急いでかき集めて運搬を再開した。

見事に出鼻を挫かれて呆然としていた天之河に、下手人のハジメが声を掛ける。

 

 

「面倒事に首を突っ込むのは構わないが、俺達に迷惑がかからないようにしろよ?」

 

「っ……今のはお前が?」

 

 

天之河の確認にハジメが肩を竦めて肯定すると、天之河は眉をしかめてハジメに詰め寄っていく。

 

 

「迷惑って何だよ。助けるのが悪いというつもりか?お前だって助けただろ」

 

「どちらかというと、お前が起こす面倒事を止めたという方が正しいけどな。こんなところで騒動を起こしたらカム達の捜索に支障が出るだろ。どうしてもやりたいならバレないようにやるか、俺達から離れた場所で迷惑がかからないようにやってくれ」

 

 

手をヒラヒラさせながら、ハジメがそう返答すると、天之河はハジメに倫理やら正義の価値観を訴え出していく。

 

 

「お前は、あの亜人族の人達を見て、何とも思わないのか!シアさんのことは大切にするのに、あんなに苦しんでいる亜人達を見捨てるのか!こうしている今だって!?」

 

 

一人ヒートアップして大声を上げ始めていく天之河だが、いつの間にかすぐ近くにいたソウジに胸ぐらを掴まれて引き寄せられ、その言動を強引に止められる。ソウジはそんな天之河に構わず、鋭い眼差しで迫力を感じる低い声色ではっきりと告げ始めていく。

 

 

「……天之河。頭の中がお花畑のお前にもう一度だけはっきり言っておく。オレ達はお前等が“同行する”ことを“許した”だけで、仲間になった覚えもないし、連れ合っているわけじゃない。お前の御託や倫理観なんざ、オレ達が聞く義理も義務も一切ない。いちいち噛み付いて、余計な騒ぎを起こすようなら……手足を粉砕して王都に送り還すぞ?」

 

「っ……」

 

「ハジメも言ったが、お前等の考えに干渉する気はオレ達にはない。だが、カム達の危険を引き上げるような真似は看過はできない。ここに来ているのはシアとカム達の為であって、他の亜人族のためじゃない。だから、そういった事がしたいなら、こっそりと、バレずに、オレ達に迷惑をかけないようにやれ。余計な騒ぎを起こして本来の目的に支障をきたしたら……責任取れるのか?」

 

「っ……」

 

「それが理解できたらもっと頭を使ってから動け。……後、個人と種族を同列にするな」

 

 

ソウジはそれだけ言って胸ぐらを掴んでいた手を離し、踵を返して天之河から離れていく。ハジメも興味がないというように再び歩み始めていく。

この世界では奴隷制度が“当たり前”であり、奴隷を助けることの方が“悪”なのだ。

 

元の世界の奴隷も、かの奴隷解放の有名人が国のトップとなって国の法律を変え、それに反発した人々と戦争し、沢山の血を流してまで自身の信念を貫いたからこそ、奴隷制度が“悪”となり、撤廃の一途を辿ったのだ。もし、本気で彼等を助けたいのなら、国を敵に回して戦う覚悟と、二度と奴隷にさせない方法を確立させる程度のことはしなければならない。

その辺りのことを、今も全くわかってないであろう天之河は歯噛みして、ハジメとソウジの背中を睨み付けてその場から動こうとしない。

 

 

「光輝、今は……」

 

「……わかっているさ」

 

 

八重樫に促され、天之河は渋々といった感じでソウジ達の後を追いかけていく。

ハジメとソウジの事は、同行を許した理由も含めて気に食わないが、二人が本気となったら送り還されるのは確実であり、そうなれば神代魔法を手に入れることは著しく難しくなる。神代魔法をより確実に手に入れるには、彼らに付いて行くのがベストなのだ。

 

天之河は胸の内のモヤモヤをグッと抑え込み、黙ってソウジ達の後を付いていくのであった。

その後、酒場といった様子の冒険者ギルドでカム達の情報を得たハジメは、元牢番の男にユエと二人きりで会いに行くこととなった。

 

 

 




「ハジメさんはユエさんと二人きりで……」

「決めつけるのは早いよ!原作はハジメ×ユエルートだけど、二次創作ならハジメ×香織ルートの可能性が!」

「それ以上はアウトだ」

色々な意味でしてはいけない発言をかます香織を諌めるソウジの図。

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