帝都の一角にある宿屋一階の食事処にソウジ達が待機して数時間、微妙にやつれた様子のハジメと妙にツヤツヤしたユエが情報収集から帰ってきた。
それを見たシアと香織が瞳からハイライトを消してハジメに問い詰めたところ、単にユエがハジメの血を吸っていただけだとわかった。
そして、肝心のカム達の情報なのだが、何度も元牢番の男―――ネディルの身体の息子を磨り潰して吐かせた結果、カム達が捕らわれている可能性が高い場所を聞き出すことに成功したそうだ。
「なら、潜入はオレとアタランテ、シアの三人で行う。ハウリア達の転移はハジメが作ったアーティファクトで移動させれば問題ないし、情報収集に疲れただろうからハジメとユエは少し休んでいればいいさ。“ニフテリーザ”を使って情報はそっちにも送れるようにしとく」
「ああ、頼む」
「……ん」
かなり危ないやり取りではあるが、今はフィアが“認識阻害領域”を展開してくれているので、周りはこちらのやり取りを正しく認識できていない。フィア曰く、「恩を売っておけば、後々有利になる」からだそうだ。
本当は潜入もフィアに協力してもらえればかなり楽だが、フィアは狐人族とはいえ帝国の人間に仕える使用人だ。本人もお嬢様方に迷惑がかからない範囲でしか協力しないと言っているので、潜入自体はこちらでやるしかない。
そうして、具体的な方針が決まり始める中、内股になっている天之河が口を挟んだ。
「なぁ……今更だが、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか?今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」
本当に今更な事を言う天之河に、ソウジは溜め息と共に呆れた視線を向けた。
「対価はどうするつもりだ?」
「え?」
「確かにお前や姫さんが言えば帝国も無下には出来ない。だが、帝国は罠を張ってまで暗殺者の正体を確かめ、その正体であるカム達を捕らえたんだ。加えて、カム達は帝国兵を殺し、少なからず帝国にダメージを与えているんだ。それを、頼んだからと無償で引き渡してくれると本気で思っているのか?」
「それは……」
「確実に対価を要求するに決まっているだろ。それも思いっきり足元を見た、ドデカイ対価をな。帝国にだって面子があるし、相応の利益が欲しいんだ。最悪、姫さんの交渉に影響が出る可能性もある。それでもか?」
ソウジのその言葉に天之河は口をつぐみ、何かを考え始めていく。チラリと八重樫を見れば、八重樫は「あ、これ、ヤバイわ」という表情で天之河を見つめている。どうやら暴走の兆候が見えているようである。
このまま放置すれば、絶対に何かやらかすと察したソウジはハジメに視線を送り、ハジメも面倒臭そうに頷いたので、先手を打つことにする。
「……天之河。お前に一つ頼みたい事がある」
「っ!?!?なん……だって?空山、お前が俺に頼み?……あり得ない……」
天之河だけでなく、坂上と谷口も愕然とした表情で硬直する。その反応は予想していたのでイライラは顔に出さず、ソウジは話を続けていく。
「……そうか。なら、仕方ない。今の言葉は忘れてくれて大丈夫だ」
「い、いや、待てっ、待ってくれ!まずは話を聞かせてくれ……」
仕方ないといった感じであっさりと撤回したソウジに、天之河が見事に食いついた。
「いや、帝城の警備は凄まじく厳重だろうから、少しでも成功率を上げるために陽動役をやってもらいたかったんだが。例えば、あの犬人族の少年のような亜人を助けるという建前でひと暴れして注目を集めて帝国兵を引き付ける……とかだが、危険だと思い直してな。さっきも言ったが忘れてくれて大丈夫だ」
無論、ソウジ達なら厳重な警備を掻い潜って潜入できるだろうし、陽動も絶対必要というわけではない。だが、天之河が暴走して余計な事をしでかすくらいなら、役割を与えて、それに集中してもらった方が物凄くマシだからである。
「陽動……あの子達……やる、やるぞ!陽動は任せてくれ!空山!」
「そ、そうか引き受けてくれるのか」
「なら、これをお前達に贈呈してやろう」
ハジメがそう言って“宝物庫”からバックル付きのベルトを四つ取り出す。それぞれのバックルの色が赤、青、黄、ピンクと見事に分かれている。
「……これは?」
「わかりやすく言えば変身ベルトだ。魔法で対象の外見を変え、正体を隠せる優れものだ。起動中は詠唱の簡略化、身体と知覚能力の強化といった効果もある」
「…………なぜ?」
「あのな、勇者がいきなり暴れるとか不味いだろ。だから正体は隠すべきだ。これらな正体を隠せるからな」
「え?いや、確かにそうだが……」
天之河が困惑の表情を浮かべ、テーブルに置かれた変身ベルトを見る。
「……安心しろ勇者(笑)。変身した姿はちゃんと格好いい姿だ。そして、お前のベルトは赤いやつだ」
「……なぁ、南雲。今、勇者の後に何かつけなかったか?」
「気のせいだろ。魔方陣もしっかり刻まれているから“変身”と詠唱すれば変身できる。騙されたと思って一回試してみろ」
「…………」
天之河は渋々といった感じで渡された赤いバックルのベルトを装着し、言われた通りの呪文を呟く。
「……“変身”」
瞬間、天之河の全身が洗練された、少々芝居がかかった伊達姿の真っ赤な全身鎧に包まれた。もちろんマントも付いている。
「おお……」
「……意外と様になっているわね」
「……少し格好いいかも」
八重樫達からの称賛に、天之河は気になって鏡で自身の姿を確認し……
「…………」
フルフェイス越しに鏡で見た今の自身の姿に、天之河は若干、確かに格好いいと思ってしまった。
「どうだ?中々いいデザインだろ?」
「……何でこんなに用意がいいんだ?」
ハジメのニヒルな笑みを浮かべながらの言葉に素直に頷くのも癪なので、天之河は質問には答えずに誰もが思っている当然の疑問をぶつけた。
「元々は香織の為に用意していたものだ。変身機能は……お約束からだ」
「バックルのホイール部分を操作すれば装着度も変更できるぞ。その辺りは結構苦心したがな」
香織に使わせるつもりだったのかと思いつつ、天之河はバックルのホイール部分を回して操作すると、確かに格好良さを損なわないように装着の度合いが下がっていっている。
無駄な情熱が現れているこのベルトに、天之河が微妙な表情となっていると、ソウジが竜殺剣を天之河の前につき出す。
「空山……?」
「陽動の際はこれを使え。お前の武器で暴れたら、自分は勇者(笑)と自ら証明することになるからな」
「な、なるほど、確かに。……というか、空山。お前も勇者の後に何かつけなかったか?」
ソウジの言い分に天之河は納得しつつ、懐疑的な目で竜殺剣を受け取っていく。
その間に、ハジメは坂上に青の変身ベルト、谷口には黄色の変身ベルトを渡していく。
「ねぇ、まさかとは思うけど……」
八重樫が顔を引き攣せながら、最後にテーブルの上に残ったピンクの変身ベルトを見る。
「勿論、それがお前のベルトだ」
「嫌よ南雲君!そもそも正体を隠すなら他にも方法があるでしょう!?例えば布を巻くとか!絶対、遊んでいるでしょ!!」
八重樫が猛抗議するが、そんな八重樫に、ソウジが優しく肩を叩く。
「……空山君?」
「安心しろ八重樫。お前が可愛いものが好きだという事は、既に香織から知れ渡っている」
「!?」
優しげな眼差しを向けるソウジのその言葉に、八重樫は驚愕を露に目を見開き、信じられないといった表情で香織を見つめる。香織はテヘッ♪と可愛らしく舌を出して悪戯がバレた時のような表情となる。
「そういえば、昔から動物も好きだったよな?」
「!」
「シズシズの携帯の待ち受け画面、確かウサちゃんだったよね~?」
「!」
「ゲーセンに寄った時も、必ずUFOキャッチャーやるよな。しかも、やたらうめぇし」
「!」
次々と裏切り者が続出し、八重樫の味方が居なくなっていく。そんな八重樫に、ソウジがピンクの変身ベルトを差し出していく。
「だから、諦めて受け取れ八重樫。これを受け取っても、誰もお前を笑ったりはしない」
ソウジの優しげなその言葉に、八重樫は顔を赤めてぶつぶつと文句と否定を言いながらも、律儀に変身ベルトを受け取った。
ちなみに、変身ベルトを贈呈したのは、パル達とのやり取りで笑ったことに対する仕返しと八つ当たりも含まれている。
変身ベルトの数があったのは悪ノリに乗って幾つか作った結果であり、ちょうど良かったから天之河達に渡したのである。ちなみに、香織に用意していた変身ベルトは水色だ。
そんなハジメとソウジの意図を察して、ユエとアタランテが若干呆れたような眼差しを向けるのであった。
その後、深夜で天之河達が陽動を行った際、レッドナイト、ブルーナイト、イエローナイト、ピンクナイトで帝国兵の詰所で暴れたのだが、ピンクナイトだけが散々な扱いをされた挙げ句、後にホラーで帝国兵の間で有名となり、その事実にピンクナイトの中の人が崩れ落ちたのは別の話である。
ちなみに、レッドナイトが光属性の魔法をバンバン使っていたことで、二国のトップには正体がバレたことも別の話である。
「確かに正体を隠すにはもってこいだが……」
「それが嫌なら、仮面にするか?」(ゴトッ)
「ださっ!?」
「仮面か変身ベルト、どっちがいいか選べ」
「決めないと、アタランテから拝借した『八重樫の秘密集』の内容を暴露していくぞ」
「!?」
「くっ、わかった!変身ベルトの方にするよ!」
仮面と変身ベルトで、変身ベルトを選ぶ勇者(笑)の図。
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