魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


ハウリアは屈しない

天之河達が陽動を行っている頃、ソウジ、アタランテ、シアの三人はハジメから聞いたカム達が囚われているであろう地下牢へと潜入し、地下牢に囚われているハウリア族を見つけたのだが……

 

 

「おい、今日は何本逝った?」

 

「指全部とアバラが二本だな」

 

「俺は指全部とアバラ三本だから勝ったな」

 

「はっ、甘いな。俺はアバラ七本と頬骨……ウサミミを片方だぜ?」

 

「マジかよ?あいつらは俺達を抱き込もうってんでウサミミには手を出さなかったのに……」

 

「いつもの質問に言ってやったんだよ……“俺の背後にいるのはお前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ”ってな」

 

「うわぁ~、そりゃ、キレるわ……」

 

「その直後、あの野郎が現れて見事な蹴りをかましてソイツをぶっ飛ばして、首根っこを掴まれて引き摺られて行った時は傑作だったぜ?もちろん、教官の蹴りの方が鮮やかだけどな」

 

「だよな。教官の扱きは本当に地獄だったからな。連中の動きがおままごとのように感じるよな」

 

「なのに、帝国兵共の波状戦法に負けちまったんだよな。毎日鍛えていたのに、本当に屈辱だぜ」

 

「……今頃、族長も盛大に煽ってんだろうな」

 

「最近の族長、言動がますますボスと教官に似てきたからなぁ……ウサミミ全損もあるかもな」

 

「確かに……あの罵詈雑言を浴びせられたら……あり得るな……」

 

「だけど、あの野郎が相手だったらその煽りは通用しないだろうな……」

 

「そうだな。あの野郎は俺達の考えをかなり的確に当てていたからなぁ……」

 

「加えてあの野郎が出した提案は俺達の隙を的確についてやがるしな……」

 

「だけど、あの野郎の提案を呑んだら二度とボスと教官に会わせる顔がなくなっちまうから、絶対に頷かないけどな!」

 

「第一、ボスと教官だったら捕まったりもしねぇし、捕まっても内部から破壊しつくして普通に出てくるだろうな!」

 

「そうなったら帝都が地図から抹消するな!」

 

「だよな!ボスと教官は、本当に容赦しないからな!」

 

「まさに鬼、いや、悪魔だな!」

 

「いや、ボスが魔王で、教官がその剣だな!」

 

「教官がボスの剣なのは同意だけど、ボスは魔王じゃなく魔神だな!魔王だと魔人族の魔王と同列になっちまうからな!」

 

「「「「「「「「確かに!!」」」」」」」」

 

 

全身ボロボロで無惨な姿の割りには元気だった。しかも、余計なことまで喋ってくれている。右肩に全長十二センチ程の蝙蝠型のゴーレム―――新たな偵察用ゴーレム“ニフテリーザ”を乗せているソウジはこめかみに青筋を浮かべながら、ハウリア達に話しかける。

 

 

「……随分と元気だな?この“ピー”共……その上、中々言ってくれるな?あぁ?」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

 

ソウジの怒気を含んだ声に、満身創痍のハウリア達は凍りついたように黙り込んだ。

 

 

「おい。何黙っているんだ?誰が魔神の剣だって?もう一度言ってみろよ?」

 

「ハハハ、幻聴が聞こえてくるなんて……俺はもう、ここまでのようだ……」

 

「大丈夫だ。その幻聴は俺の耳にも聞こえているから、俺も一緒だ……」

 

「お前らもか……最後が教官の怒り声か……それだけ教官の訓練が心に焼きついていたんだな……」

 

「せめて、最後は可愛い女の子の声でも―――」

 

 

現実逃避を続けているハウリア達に、呆れた表情をしているアタランテが光球を出し、地下牢の闇を払拭させて、自分達の存在をハウリア達にはっきりと伝えた。

 

 

「「「「「「「「げぇ、教かぁああああああああああん―――ッ!?」」」」」」」」

 

「静かにしやがれ、阿呆共」

 

「……本当に随分と元気だな」

 

「見た目は本当に酷いんですが……心配する気が失せてきました」

 

 

素っ頓狂な声を揃って上げるハウリア族の面々に、ソウジ、アタランテ、シアはもう呆れるしかない。

 

 

「な、なぜ教官がここに……」

 

「詳しい話は後だ。取り敢えず助けに来たのに……どれだけタフになっているんだよ?」

 

「勿論、ボスと教官に鍛えられたからです」

 

「奴らの拷問なんて、ボスと教官の訓練に比べればお遊戯ですよ」

 

「正直、介護されてるかと思うくらいですよ。殺気が全然足りてなかったですし」

 

「まぁ、仕方ないけどな。ボスと教官の殺気は本当に凄まじいからな」

 

 

血を吐きながらも軽口を叩くハウリア達の言葉に、アタランテとシアから何とも言えない視線がソウジに突き刺さる。ソウジはその視線を無視し、魔眼石で魔方陣のトラップを確認してアタランテ達に伝え、魔力の直接操作で次々と解除していく。そして、全てを解除し終えると、ソウジは絶天空山で音もなく牢屋の入り口の鍵を斬っていき、アタランテの再生魔法でハウリア達全員を即座に完全回復させた。

 

 

「相変わらずとんでもないですね、教官。取り敢えず……」

 

「「「「「「「「助けて頂き有り難うございましたぁ!」」」」」」」」

 

「オレ達の仲間の為だから気にするな。それより、カムは今、どこにいる?お前達の会話から尋問されているようだが?」

 

「族長は今……」

 

 

ハウリアの一人からカムが今いる尋問部屋の場所を聞き、ソウジはこのままカムの救出に向かうとハウリア達に告げ、“宝物庫”からハジメに渡されていた鍵型プレート―――鍵型アーティファクト“ゲートキー”を取り出し、ハジメ達が現在待機している岩石地帯にある鍵穴型アーティファクト“ゲートホール”へのゲートを開く。

空間に穴が開き、その穴の向こうから見える岩石地帯の光景に唖然とするハウリア達に、ソウジが移動を促す。

 

 

「お前達はここを通れ。向こう側は帝都から少し離れた岩石地帯だ。そこでパル達とハジメ達が待機している」

 

「Yes,Sir!族長を頼みます、教官!」

 

 

ソウジの言葉にすぐに正気に戻ったハウリア達は惚れ惚れするような敬礼をした後、一切の躊躇もなくそのゲートをくぐっていった。

この“ゲートキー”と“ゲートホール”はあの大軍転移の魔方陣を参考に作った超長距離空間転移用のアーティファクトだ。

ハウリア達全員が転移し終えたのを確認したソウジは“施錠”してゲートを閉じ、カムがいるであろう尋問部屋へと向かっていく。

 

厳しい警備を持ち前のスキルと魔法で突破して、外の見張りも音もなくさくっと倒して目的の場所の扉の前に着くと、中から話し声が聞こえる。

ボロボロだったハウリア達の姿から、てっきり拷問されていると予想していたソウジ達は疑問に思い、まずは中の会話を聞いて様子を窺うことにした。

 

 

「……殴らないのか?この“ピー”するしか能のない“ピー”野郎。他の帝国兵と同じように私を殴ればいいだろう?ああ、そうか。お前は“ピー”にも劣る“ピー”だから一度も殴らないんだな?」

 

「どうせ殴ろうと蹴ろうと、お前達は()()()バックを喋らないのだろう?なら殴るだけ無駄だ。それより、あの提案、本当に検討する気はないのかね?」

 

「…………」

 

「お前達が帝国軍にくだるなら、“現在奴隷になっていない兎人族全員の帝国への移住を許し”、一大隊の暗殺、諜報隊として迎え入れる。そうすれば帝国の軍事力は上がり、“そちらは兎人族の奴隷がこれ以上増えずに済む”のだ。決して悪くない取引だと思うが?」

 

「……信用に値しないな。この“ピー”野郎」

 

「別に信用が欲しいわけではないさ。だが、このまま大規模な兎人族狩りが行われるよりよっぽどマシだと自負しているのだがね?」

 

 

扉の向こうから聞こえてくる内容に、ソウジ達はハウリア達、否、兎人族達が状況的にかなり追い詰められていることを悟る。

一先ず、カムを助ける為に踏み込もうとした瞬間、続く会話の内容で思わず止まってしまった。

 

 

「早く決めなければこの提案も白紙となる。お前達は“強者”だから、このまま消すのはもったいないんだよ。奴隷に堕としても、どうせ自害するのだろう?加えて、その目は絶対に折れない強者の目だ。なら、“対等”な取引をする方がよっぽど建設的だろう?深淵斬鬼の闇狩刃、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアよ」

 

「……なんと言われようと、お前達帝国に屈する気はないぞ、アーク・リートよ」

 

 

その会話を聞いた瞬間、シアは顔を両手で覆ってその場でしゃがみ込んでしまい、ソウジとアタランテは顔を見合わせる。

 

 

「……凄まじく面倒なことになったな」

 

「……ああ」

 

 

今、カムは尋問している相手の名前をリートと言った。もし、予想通りなら、本当に面倒なことになったからである。

そして、その予想は大当たりであった。

 

 

「それにしても“ピー”野郎。他の奴等とは随分と違うな?本当に帝国人か?」

 

「生まれも育ちも立派な帝国人だぞ?妻も娘もおるし、狐人族の使用人もおる」

 

「……狐人族の使用人だと?」

 

「ああ。彼女は中々優秀でな。狐人族でありながら魔力を持ち、そこら辺の帝国兵よりよっぽど腕が立つ。最も、帰ってきた娘の話では、今はお暇で武者修行の旅をしているそうだがね」

 

「「「…………」」」

 

 

完全にアリアの父親である。

取り敢えず、アリアの父親をのしてカムを救出しようかと、ソウジは思い直して扉を開く。

当然、突然開いた扉に巌のような中年男性―――アークとカムは顔を向けるが、ソウジは構わずにアークを殴り飛ばして部屋の奥へと吹き飛ばす。

 

 

「ゴホッ……貴様は、一体……」

 

 

多少加減したとはいえ、意識を保っているアークに、ソウジは頑丈だなと思いつつ、今度こそ完全に意識を刈り取る為に握り締めた拳をアークに向ける。だが、その前にアークが口を開いた。

 

 

「その容姿……なるほど、お前が空山ソウジか……」

 

「……歌姫から聞いたのか?」

 

「ああ。お前が娘を助けた事も聞いている。ふむ……」

 

 

アークは何かを考え込む仕草をし、すぐに口を開いた。

 

 

「なら、今回は娘の礼のために、殴り飛ばされた後のことは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということにしよう」

 

「……本気か?」

 

 

アークの帝国を裏切るような台詞に、ソウジは懐疑的な視線を向ける。

 

 

「まぁ、信用できないのは当然だろうな。疑うというなら、娘の恋路を邪魔したくない親心だとでも受け取っておいてくれ」

 

 

アークはそう言って、壁にもたれたまま頭を下げ、気絶した振りを敢行し始めた。

 

 

「教官……これはどういう状況ですか……?」

 

「……それは後にして、今はとっととずらかるぞ」

 

 

カムの質問を先伸ばしにし、ソウジは“ゲートキー”を再び使い、ゲートを開いていく。

 

 

「そういえば教官、装備を取られたままなのですが……」

 

「ハジメがもっと性能の良いもん大量に用意しているから、そっちは置いていって大丈夫だ」

 

「新装備ですか?それはテンションが上がりますな、ゴホッ」

 

 

思わぬ形で目的が達成できたことにソウジは嘆息しつつ、未だにボロボロのカムと落ち込んでいるシアをゲートへと押し込め、ソウジとアタランテもゲートをくぐって、その場を後にしていった。

 

 

 




「「「「「「「「…………」」」」」」」」

「……随分と言ってくれたな?この“ピー”共。誰が鬼や悪魔、魔王より容赦がない魔神だって?」

((((((((やっぱりボスの殺気は恐ろしい!数百もの死のパターンが幻視させられる!))))))))

合流して早々、怒り心頭のハジメの前で、正座でガクブルしているハウリア達の図。

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