魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


再び猛威を振るうハー○マン先生

カムを救出し、ゲートを通って岩石地帯に空間転移したソウジ達は、ハウリア達の熱狂的な歓迎に出迎えられた。

だが、その直後、ソウジに向かって黒光りする鞘が風切り音と共にソウジに迫ってきたので、ソウジは自然な動作で片手白刃取りでその鞘を中指と人差し指に挟んで止める。

黒光りする鞘―――鞘に収めた四皇空雲でソウジに殴りかかった八重樫は、いくら力を込めてもビクともしないソウジに舌打ちしながら、ギリギリと力を込めていく。

 

 

「……何のつもりなんだよ?」

 

「……決まっているでしょう?ストレス発散のためよ。私は、空山君なら、マナリア海溝より深い度量で、私の甘えを受け止めてくれると信じてるわ……だから!大人しく!私に!タコ殴りに!されなさい!」

 

「……そんなに嫌だったのか?……せっかく渡してやったのに」

 

「嘘おっしゃい!あなたと南雲君の意図はわかっているのよ!絶対、あの時の仕返しでしょ!雰囲気で流されたけど!ある意味、自業自得ではあるけれど!一発、殴らずにはいられないのよ!だから、私のこの気持ち、男なら受け止めなさい!」

 

「そこまでわかっているなら大人しく引けよ……」

 

 

呆れた視線を送るソウジに、八重樫はさらに力を込めていく。だが、四皇空雲の鞘はギチギチと音を立てるだけで全く押し切れる気配がないので、八重樫はある意味、信頼を寄せて四皇空雲の能力を一つ解放した。

 

 

「こんのぉ!“奔れ、雷華”!」

 

 

八重樫の詠唱で四皇空雲はバチバチと放電するが、“雷耐性”持ちのソウジにはこの程度の電撃は効かず、平然と掴み続けていた。

 

 

「ちょっと、空山君。何で平気なのよ?」

 

「以前、魔物の肉を食べたらその魔物の固有魔法を得られる場合があると言っただろ?それで“雷耐性”を得ているから、この程度の電撃は効かないぞ」

 

「くっ、そういうことね……今回は引いてあげるけど、いつか、絶対にその顔に一撃叩き込んでやるわ」

 

 

ソウジの返答に、八重樫は渋々といった様子で引き下がった。八重樫の後ろにいる天之河達は八重樫の行動に驚愕しているようである。

 

 

「……雫ちゃんが八つ当たりするなんて……」

 

「……むしろ、甘えているのではないか?」

 

「……それだけ、心を許しているのでしょうね」

 

「……ん」

 

 

そんなソウジと八重樫の様子は、ユエと香織、アタランテとジークリンデからしたらじゃれあっているようにしか見えなかったようである。

そんな小声を聞き流し、ソウジは椅子に座っているハジメと、再生魔法で綺麗に完治したカムに近寄っていく。

 

 

「既にお前達の状況は理解している。その上で聞く……お前達は、これからどうするつもりだ?」

 

 

蝙蝠型偵察ゴーレム“ニフテリーザ”で一部始終確認していたハジメが、カムに問いかける。

“ニフテリーザ”は生成魔法で新たに生み出した“集音石”という音を収集する鉱石、分かりやすく言えば盗聴器モドキの鉱石が耳部分に組み込まれている。他にも空間魔法を付与した鉱石ですり抜けが可能であり、姿を消し、気配を遮断するステルス機能も搭載した、潜入場所における情報収集能力に特化したゴーレムとなっている。そして、牙と爪部分には毒を内蔵しているおまけもついている。

 

 

「……我々、ハウリア族と新たに家族として迎え入れた者を合わせた新生ハウリア族だけで、帝国に戦争を仕掛けます」

 

 

カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、シアは暗い表情で肩を落とす。カムが帝国に戦争を仕掛ける理由が自分達以外の兎人族の未来を守るためだと、理解できているからだ。ハジメはそんなシアの様子をチラリと見た後、再びカムに視線を向ける。

 

 

「それで?まさか、百人ちょいの数で帝国軍と真っ向からやり合うとか言うんじゃないだろうな?」

 

「もちろん、そんなことは言いませんよ。我等が仕掛けるのは“暗殺”です。それも、皇帝一族ではなく、周囲の人間を標的にしたものです」

 

「……ほぉ?」

 

「我等に牙を向けば、気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……それを実践して奴らに恐怖と危機感を植え付けます。当然、皇帝一族の守りは厳重でしょうが、流石に周囲の人間全てを厳重な守りにするのは無理でしょう。これが我等の限界ですが、十分効果的かと。最終的に、兎人族に対する不干渉の方針を取らせられれば十分です」

 

 

かなりえげつない策だが、皇帝一族暗殺よりよほど現実味がある策だ。だが、それだと必然的に時間がかかり、大規模な報復に動いて兎人族を殲滅するか、脅威に感じて交渉のテーブルに付くかの、極めてハウリア族に分が悪い賭けでもある。

それを考えれば、アークの提示した取引はかなり破格なものであっただろう。

だが……

 

 

「あの巌の交渉は……もう潰れただろうな」

 

「ええ。こうして脱獄した以上、あの皇帝は容赦しないでしょう。確実に強い兎人族を手に入れるため、大規模な狩りを行うでしょうな」

 

「……皇帝に会ったのか?」

 

「ええ。皇帝自ら“飼ってやる”と言った時は、その場でツバを吐きかけてやりましたよ」

 

 

カムのその言葉に、ハウリア族は盛り上がり、天之河達は驚愕するが、シアだけは今にも泣き出しそうな表情だ。無理もない。カム達を助けたことが逆にカム達を更に追い詰めてしまったのだから。

そんなシアに、カムは優しげな眼差しと共にシアの頭を撫でた。

 

 

「気にするな、シア。最初からあの交渉は蹴っていたのだから、どちらにせよこうなっていたさ」

 

「でも!」

 

「ただ、生存権利を勝ち取るための戦いじゃない。ハウリアとしての矜持を持って生存権利を勝ち取るための戦いなのだ。ここで引き、帝国に屈して軍門に下れば、結局、我等は以前と同じ敗者となってしまう。だからこそ、あの交渉を蹴っていたのだ」

 

「父様……」

 

「シア、お前はボスと共に外へ出て前へ進むのだと、あの時決意したはずだ。だから、これ以上、我等に振り返らず、その決意のままに真っ直ぐ進め」

 

 

カムは一人の父親として娘の背中を押し、ハジメに視線転じて目礼する。娘を頼みますというように。対するハジメは無言無表情だ。

その光景に天之河が、いかにも「俺が何とかする!」とでも言いそうな雰囲気で腰を上げるが、八重樫の四皇空雲に後頭部をおもいっきりぶん殴られて撃沈した。

 

シアが反応を示さないハジメに振り返り、何かを喋ろうとするも、カムが強い口調でシアの名前を呼び止め、それを制した。

この戦いは、自分達の自業自得であり、矜持を貫くための戦いなのだ。ここでハジメ、ひいてはソウジの力を当てにして解決を委ねれば、以前と何も変わらないからだ。

 

だから、ハジメとソウジは今回のこの件で()()()()()()()()

ハジメはシアに戦うことはないと告げると、シアは泣き笑いのような表情で再び俯く。背後の騒動を無視して、ソウジはシアの早とちりを正していく。

 

 

「早とちりするな。確かに戦わないが、()()()()()とは言ってないだろ」

 

「……え?」

 

 

ソウジのその言葉に、シアは間抜けな表情で顔を上げる。そんなシアに、ハジメは苦笑しながらシアのホッペをムニムニしていく。

 

 

「ふぇ?ふぁじみぇしゃん?」

 

「今回の件は、ハウリア族が強さを示さなきゃいけない。この世界の亜人差別が常識である以上、俺やソウジが戦って守ったら、根本的な解決になりはしない。何より、カム達の意志がある。だから、一切、戦うつもりはない。だが……お前がこんな顔しているのに、黙って引き下がると思っているのか?」

 

 

ハジメはそう言ってシアの頬を撫で、ソウジと共に、困惑するカム達に視線を向け、不敵な笑みを浮かべて宣言する。

 

 

「カム、そしてハウリア族。シアを泣かせるようなチンケな作戦なんぞ全て却下だ。お前達は直接、皇帝の首にその刃を突きつけろ」

 

「親族、友人、部下の全てを皇帝の前で組み伏せ、帝城を制圧しろ。助けなど来ないと、一夜で帝国は終わったと、ハウリア族にはそれが出来るのだと、骨の髄に刻み込んで知らしめてやれ!」

 

「ハウリア族を敵に回した瞬間、安全な場所などないのだと、首刈りの蹂躙劇が始まるのだと、帝国の歴史にその証を立ててやれ!!」

 

 

ハジメとソウジの気勢に誰もが呑まれて硬直し、辺りに静寂が満ちる。二人はそのまま周囲を睥睨しながら、スッーと息を吸い込んでいく。次の瞬間、雷でも落ちたのかと錯覚するような怒声を揃って上げた。

 

 

「「返事はどうしたぁ!!この“ピー”共がぁ!!」」

 

「「「「「「「「ッ!?サッ、Sir,Yes,Sir!!」」」」」」」」

 

「何だぁ!?その小さな叫びはぁ!?」

 

「それでよく戦争なんぞと、貴様等はほざけたなぁ!所詮は“ピー”の集まりかぁ!?」

 

「「「「「「「「Sir,Not,Sir!!!」」」」」」」」

 

「違うと言うなら証明しろ!」

 

「雑魚ではなくキングをやれ!!」

 

「「「「「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」」」」」」」」

 

「貴様等の研ぎ澄まし、鍛え抜かれた復讐と意地の刃で、邪魔する者と理不尽を尽く斬り伏せろ!!」

 

「「「「「「「「ビヘッド!ビヘッド!ビヘッド!」」」」」」」」

 

「膳立てはするが、主役は貴様等だ!半端は許さん!わかっているな!」

 

「「「「「「「「Aye,aye,Sir!!!」」」」」」」」

 

「宜しい!気合いを入れろ、諸君!」

 

「新生ハウリア族、百二十二名で……」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

「「帝城を落とすぞ!!」」

 

「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」

 

 

帝都から離れた岩石地帯に、闘志と殺意の雄叫びが響き渡る。

自分達が慕うボスと教官が、帝城落としの扉の鍵を開いてくれるというのだ!ならば、その先で待ち構えている本丸を斬り裂けなくては、新生ハウリア族の名折れであり、ボスと教官に二度と顔向け出来なくなってしまう!!

故に、ハウリア達の心は一つとなり、帝城落としへの闘志で燃え上がっていた。

 

 

「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「龍太郎くん!?何であの人達と一緒になって雄叫びを上げているの!?」

 

「しっかりしなさい龍太郎!彼らの熱気に当てられているんじゃないわよ!!」

 

「龍太郎!早く正気に戻るんだ!!」

 

 

坂上はものの見事にハー○マン式の焚き付けに当てられて雄叫びを上げ、八重樫達に必死に鎮められていた。

 

 

「う~む、すごいのぉ~。流石、ご主人様とソウジ殿じゃ。堪らんのぉ~。あんな気勢で罵られてみたいものぶじゃっ!?」

 

「……空気を読んで下さい、ティオ様」

 

「っ!?ハァハァ」

 

「うん、ジークリンデの言う通り、ティオさんはもうちょっと自重しようね?」

 

「明日から帝城落としですか……ふふっ、嵐になりそうですね♪」

 

 

冷めきった瞳の従者に頬を打たれた変態は本当に何時も通りであり、メイドは楽しんでいた。

 

その後、ハジメは帝城落としの草案と必要なアーティファクト制作に取り掛かり、ソウジはハウリアの皇帝襲撃部隊の訓練を行っていくのであった。

 

 

 




「どうしたぁ!?そんな“ピー”なやり方で皇帝に届くと思っているのかぁ!?」

「「「「「「「「No,Sir,No!!」」」」」」」」

「ならば、もっと闘志をたぎらせろ!諸君等の力と技、知恵を総動員して、オレに一撃を入れてみせろ!!わかったな!?」

「「「「「「「「「Aye,aye,Sir!!!」」」」」」」」」

「龍太郎!?何で参加しているんだ!?」

ソウジのハウリアへの特訓に、いつの間にかハウリア達に混じって参加していた坂上に驚く天之河の図。
※この後、坂上は十数秒で撃沈しました。

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