魔王の剣   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


帝城での最初の質問は……

ヘルシャー帝国を象徴する帝城は、周囲を幅二十メートルある深い水路には水生の魔物が放たれており、帝城を囲む魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁の上には常に見張りが巡回している。

入り口は正門一つしかなく、その正門も入場許可証と、商品の一つ一つに至るまできっちり検査される、不法侵入は至難中の至難といえる帝城の一室にて。

 

 

「……それで?どんな御用で此方に来られたのですか?皆さん」

 

 

満面の笑みを浮かべてはいるが、目は一切笑っておらず声色の冷たいリリアーナの第一声を、天之河達は気まずげに受け止め、ハジメはユエと一緒にシアをモフモフ、ムニムニしてスルー、ソウジはしれっと受け流していた。

帝城にソウジ達が堂々といる理由は、勇者(笑)の立場を悪……利用して普通に入城したからである。

 

 

「急用が出来たからだが?」

 

「急用の一言で片付けようとしないで下さい、空山さん!昨晩の鎧騎士騒動は絶対、貴方と南雲さんが裏で糸を引いてますよね!?南雲さんも他人事のようにシアさんのウサミミをモフッてないで答えてください!後、アリアさん!貴女はどうして平然とお茶を飲んでいるのですか!?」

 

「あんまり騒ぐと紅茶が美味しくなくなりますよ?後、昨晩の鎧騎士騒動はピンクナイトが一番有名となりましたね。『ピンクナイトはいつでもあなたを見ている』と」

 

「でしたら、もっと脚色した方がよろしいですかね?『ピンクナイトは怪しげな暗い嗤いと共に、あなたの背後に現れる』と。そんな噂を流せば簡単に広まるでしょうね」

 

「お願いフィアさん。お願いですからそれは本当に止めてください」

 

 

アリアが明かした事実に更に傷つき、フィアの紅茶を注ぎながらの黒歴史悪化予告を受けた八重樫は本気で頭を下げて嘆願する。ピンクナイトのダメージは相当深いようだ。

ちなみに、ハジメとユエがシアをモフモフ、ムニムニしているのは、入城の際、ちょっとしたトラブルが起きたからである。

 

入城の際、勇者(笑)の身分を確認した帝国兵がシアと因縁がある人物で、そいつ―――グリッドがシアに剣呑な眼差しで部下がどうなったのかを聞き、シアは最初こそトラウマに怯えたが、ハジメとユエの呆れを前にあっさりとトラウマを克服した。

当然、トラウマを克服すれば、家族を大勢奪った相手に殺意を抱くのは必定であり、グリッドへの殺意を必死に我慢しているシアをハジメとユエで宥めているのである。

 

 

「というか、歌姫。お前は帝国側の人間だろ。どうしてここにいるんだよ?」

 

「一応、当事者ですから。後、皇帝陛下の許可は頂いていますので♪」

 

 

あれは許可ではなく恐喝です!と、皇帝が地面に突き刺さった光景を目の当たりにしていたリリアーナは、内心でアリアにツッコミを入れる。

その後も、のらりくらりと追求をかわされ続け、リリアーナは投げやり気味の心境でソウジ達と共にガハルドが待つ応接室に向かって行くこととなった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

通された応接室は、三十人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋であった。そのテーブルの上座の位置に、皇帝―――ガハルド・D・ヘルシャーがおり、背後には護衛らしき男二人と、治癒師らしき女が控えている。

そして、壁の裏に二人、天井裏に四人、扉の外に二人と気配を殺して待機している。ハジメとソウジにはバレバレではあったが。

 

 

「お前達が、南雲ハジメと空山ソウジか?」

 

 

ソウジ達が部屋に入ってくるなり、リリアーナの紹介も、天之河への挨拶もすっ飛ばして、鋭い眼光でハジメとソウジを射抜きながらプレッシャーを叩きつけた。

そのプレッシャーを前に、リリアーナは小さな呻き声を上げ、天之河と谷口は思わず後退りする。

 

だが、八重樫と坂上はそのプレッシャーを前に、若干遠い目となる。八重樫は手合わせしたソウジの剣気から、坂上はハー○マン訓練で叩きつけられたソウジの殺気から、皇帝の威圧が軽く感じられてしまっているからである。

 

当然、大迷宮攻略者のハジメ、ソウジ、ユエ、アタランテ、シア、ティオ、ジークリンデ、香織は勿論、普段から皇帝のプレッシャーに慣れているアリアとフィアも平然としている。

そんなソウジ達に面白げに口元を歪めるガハルドに、ハジメとソウジが返事をする。

 

 

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」

 

「同じく空山ソウジです。こうして御目に掛かれて光栄ですよ、皇帝陛下」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

胸に手を当てて軽くお辞儀しながら、そんな事を言うハジメとソウジに天之河達が驚愕の視線を向ける。アリアとフィアはポーカーフェイスを保っているが、内心は二人に似合っていない態度に笑いまくっている。

 

ハジメとソウジは基本、TPOを敢えて無視しているが、今は皇帝の機嫌を損ねて追い出されるわけにはいかない。王都侵攻の話でこの世界の真実と自分達の事が話の都合上、リリアーナから既に聞き及んでいるだろうから、最低限の礼を示すべきだと判断したのである。

 

 

「ククク……どちらも思ってもいないことを。普段の傍若無人な態度はどうしたんだ?何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?似合わねぇ喋り方してねぇで、普段通り話しな。俺は、素のお前達に興味があるんだ」

 

 

どうやら、リリアーナは自分達の人間性まで喋っていたようで全くの無意味であった。なので、取り繕った態度はもう止めることにする。

 

 

「……はぁ、そうかい」

 

「じゃあ、普段通りで接させてもらうぞ」

 

「くく、それでいい」

 

 

そうしてソウジ達は順に席についていく。ガハルドはアタランテ達を興味深げに観察し、シアに意味深げな視線を送る。次いで、天之河をスルーして八重樫に視線を向けてニヤリと楽しげな笑み浮かべた。

 

 

「雫、久しいな。俺の妻になる決心はついたか?」

 

「おい!雫は既に断っただろ!」

 

 

ガハルドの言葉に八重樫より早く天之河が反応する。ガハルドは天之河にチラリと見て、ハッと鼻で笑い、八重樫を真っ直ぐに見つめていく。天之河の事は完全に眼中にないようだ。

 

 

「前言を撤回する気はありません。殿下の申し出はお断りさせて頂きます」

 

「つれないな。それとも、まだ終わっていないのか?」

 

 

ニヤニヤしながらのガハルドの言葉に、八重樫と香織、谷口を除く一同は頭に疑問符を浮かべる。そんな一同にガハルドが不敵に答えていく。

 

 

「俺が口説いた際、雫は『私にはやるべき事もあります』と言ったんだよ。そのやるべき事が何なのかは教えてくれなかったがな。……もっとも、リリアーナ王女との会合で、そのやるべき事は果たせたと見ているんだがな」

 

 

ガハルドがそう言って、その視線をソウジに向ける。それだけで天之河と坂上以外はそのやるべき事を察せた。

 

 

「はぁ……確かにやるべき事は終わりましたが、陛下のものになるつもりは微塵もありません。諦めて下さい」

 

「くくっ、そうでなくては面白くない。歌姫アリア共々―――」

 

 

ドンッ!

 

その瞬間、ガハルドが轟音とともに天井へと突き刺さった。ガハルドが座っていた椅子のすぐ近くにはアッパーポーズを決めているアリアがいる。

 

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

「私、おじ様の上、弱い人には興味がないので諦めて下さい。皇帝陛下♪」

 

「「へ、陛下ぁあああああああああ―――ッ!?」」

 

 

護衛二人が大慌てで天井に突き刺さったガハルドの下半身を掴み、ズボッ!と天井から引き抜かれ、治癒師から淡々と治癒魔法をかけられていく。多分、何時もの事なのだろう。

そして、天井から引き抜かれたガハルドは多少ボロボロではあったが大した怪我は負っていなかった。中々頑丈のようである。

 

 

「ごほっ……相変わらずだな歌姫アリア。何時ものゴフゥッ!?」

 

 

アリア、ガハルドの腹に右ストレートパンチ!!

そんなナレーションが聞こえそうな程、鮮やかな右ストレートが治癒魔法をかけられているガハルドの腹に叩き込まれ、その口を強引に閉ざさせた。

 

 

「何時もの、とは何でしょうか?」

 

「……いや、何でもない」

 

「そうですか♪」

 

 

次、余計なことを言ったら、今度は地面に突き刺さると悟ったガハルドは、今はこれ以上の口を閉ざすことにした。

 

 

「とにかく、時間をかけて口説かせてもらうぞ雫。その澄まし顔を俺への慕情で赤く染めてやる」

 

 

ガハルドに再びロックオンされた八重樫は、心底嫌そうな表情でそっぽを向く。そっぽを向いた先には「相変わらず苦労しているな」と同情の眼差しをしていたソウジと視線があった。

その眼差しに八重樫は苛ついたのか、出された紅茶に付いていた角砂糖を指で弾いてソウジの顔面に飛ばす。ソウジは口でキャッチし、角砂糖の甘さを堪能していく。その光景に八重樫は悔しそうにしている。

そんな二人の様子を見ていたガハルドは、鋭い視線を改めてソウジに向ける。

 

 

「ふん、面白くない状況だな。……空山ソウジ。まず、これだけ聞かせろ」

 

「ん?なんだ……」

 

「俺の雫をもう抱いたのか?」

 

「「「「ぶふぅーー!?」」」」

 

 

ガハルドの突拍子もない真剣な表情でのその質問に、八重樫を含めた数人吹き出した。護衛も治癒師も呆れたような、頭の痛そうな表情をしている。ハジメはニヤニヤと笑みを浮かべて楽しんでいる。

 

 

「ちょっ、陛下!いきなり……」

 

「雫は黙っていろ。俺は、空山ソウジに聞いてんだよ」

 

 

八重樫がツッコミを入れようとするも、ガハルドは無視してソウジに視線を向けている。対するソウジは呆れ顔だ。

 

 

「どういう経緯でそんな発想に辿り着くんだよ」

 

「見た限り、雫はお前に心を許しているようだからな……念のためだ」

 

「まったく、あるわけないだろ」

 

「……ふむ、嘘はついていないな。では、雫のことはどう思っている?」

 

「みんなのお母さん」

 

 

ガハルドの質問に本音の一つで即答するソウジ。その答えを受けた八重樫は……

 

 

「……OK、その喧嘩買ったわ。表にでなさい、空山君」

 

 

据わった眼差しでソウジを睨みながらゆらりと席を立とうとしていた。そんな八重樫を谷口と天之河が必死に宥めている。

 

 

「……まさかの回答だが……まぁ、いい。お前は俺のものだから、うっかり惚れたりするなよ?雫」

 

「だから陛下のものではありませんし、空山君に惚れるとかありませんから!いい加減、この話題から離れて下さい!」

 

「わかったからそうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」

 

「ぬっぐぅ……」

 

 

ガハルドの物言いに、八重樫は呻きながらドカッと座り直す。

 

 

「空山ソウジ。お前も、雫に手を出すなよ?」

 

「そんな気は微塵もないから安心しろ。というか、いつまで無駄話を続けるつもりだ?」

 

「無駄話とは心外だな。新たな側室……あるいは皇后が誕生するかもしれない、帝国の未来に関わる話だぞ?」

 

「友人の恋路に然程興味もないんでな。さっさと本題を切り出せよ、皇帝」

 

 

ソウジのその物言いに、何故かガハルドとアタランテ、ジークリンデ、アリアが鋭い視線を送り、天之河は何故か睨み付ける。八重樫は「……そっちだけ言いなさいよ……」と何故か小声で呟いている。ハジメは相変わらずニヤニヤしている。

ソウジはそんな周りを無視するように紅茶を一口飲むのであった。

 

 

 




「……向こうで二人は楽しんでいるようだな」

「……私も楽しんでいいか?ソウジ」

「ああ」

「……んっ、んむ、あむ」

「……んっ、ちゅる、れるれろ」

早朝からアツ~いキスをかまし続けていくソウジとアタランテの図。※この光景は最初に八重樫に目撃されました。

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